Photo: Anadolu Agency / gettyimages
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  • Z世代が当たり前に使いこなす、各SNSの役割と特徴
  • 商品のバズが起きてから購買に至るまでのプロセス
  • グルメサイトは「予約」と「メニュー」のみに利用──変わるポータルサイトの利用

若年層女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」やSNSマーケティング事業を展開するFinT代表の大槻祐依氏が対談を通して、ヒットするモノの裏側にある法則をひも解いていく本連載。今回は特別編として、大槻氏によるZ世代の消費行動の変化に関する分析をお届けする。

企業がZ世代(1990年代後半から2000年代後半の間に生まれた世代)を意識したマーケティングをするのも、今や定番となりつつある。例えば、セレクトショップのBEAMS(ビームス)は「BeAMS DOT(ビームスドット)」というZ世代向けのオリジナルブランドを立ち上げた。同ブランドは、Z世代が抱える「オンラインショップでの買い物を失敗したくない」という課題に対して、商品写真の撮影では“リアルさ”を重視したほか、等身大のモデルが商品を着用するなど、オンラインにおける購買の負担を下げ、スムーズに買い物ができるといった点を大きな特徴としている。

FinTにもZ世代の集客や売上に悩む企業からの問い合わせが増えているが、それはZ世代のトレンドや興味関心の変化のスピードが凄まじいからだろう。

マーケティング業界では一般的に、年齢層が上がるほど商品の価値を慎重に吟味する傾向があるため、商品を認知してから購買するのに至るまで、意思決定に時間がかかると言われている。一方、Z世代はデジタルネイティブと言われているように、生まれた時から情報過多の世代であるため、一度に大量の情報を精査し、判断するのがこれまでの世代と比べて早いと言われている。

また、Z世代の特徴のひとつに「自己表現を大切にする」というものがある。彼らは消費活動を行う上でも商品やサービスを通じて自分らしさを発揮できることを重視しており、その情報収集の過程でコミュニティを作っていくという。

今回は、Z世代の消費行動をデジタルネイティブである彼らの情報収集の基盤にもなっているSNSをもとに解説していく。

Z世代が当たり前に使いこなす、各SNSの役割と特徴

Z世代にとっての情報収集源はテレビをはじめとするマスメディアではなく、SNSがメインとなっているのは言うまでもない。加えて彼らは用途に応じて各SNSを自由自在に使い分けているのも大きな特徴のひとつと言える。そもそもSNSを日常的に利用することが当たり前になっているため、商品・サービスの情報もSNSで収集している。

SNSで気になるものは投稿の保存機能などを使ってストック、さまざまなチャネルから情報収集を行うことで商品を検討、最終的にはレビューを活用し自らのブランディングに沿っているかを判断、購入の意思決定をする。

TikTokは興味喚起がメイン

では、それぞれのSNSの特徴と役割はどうなっているのか。「TikTok売れ」というワードと共に現在最も注目を集めているTikTokはユーザーの興味を喚起しやすい特徴がある。ユーザーは暇つぶし程度で利用しているものの、バズが生まれやすいアルゴリズム(視聴者の興味関心をもとにオススメ動画が流れる)によって興味が喚起されやすいUIになっているのだ。

ちなみに、TikTok上で購買に繋がりやすいものは低価格帯で、なおかつ実店舗で購入されるものが多い(編集部注:現状、TikTok上で商品を直接購買できる機能はない)。利用者の年齢層は年々上昇しているとは言うものの、いまだにZ世代の利用は多く、“とりあえず試してみよう”というハードルの低い商品の購買が多いようだ。

Twitterは購買直前の意思決定に使われる

Twitterは購買直前の意思決定の際に利用される。SNS上での「バズ」の元祖と言っても過言でないTwitterは、商品を認知させる力は今でも強い。またそれだけでなく、リアルタイムで口コミも見られるため、最後の意思決定の背中を押す役割を担っている。

最近では動画の切り抜きを引用し、テキストで解説する「切り抜きツイート」が毎日のようにバズを生み、話題を集めている。そうしたツイートのバズによって商品を認知してから、他のチャネルを経由して情報を精査したのち、最終的に一般ユーザーの口コミをツイートを見て収集して購買直前の意思決定をするに至るまで、Twitterは用いられることが多いようだ。

Instagramの役割は雑誌、認知後の受け皿にもなる

Instagramは、雑誌に近い役割を持っている。ユーザーが自身に合った世界観やコンセプトのアカウントをフォローするため、顕在化したニーズにマッチした情報を、まるで雑誌をパラパラとめくるように届けて認知させる力が強い。

また、Instagramには認知後の受け皿としての役割もある。バズこそ起こりにくいものの、TikTokやTwitterでバズが起こった情報を、あとからInstagramでハッシュタグ検索をしたり、ホームページとしての役割を持っているブランドの公式アカウントで商品を閲覧するというように、ユーザーが商品の情報を精査するのにも利用される。

YouTubeは情報密度が濃く、比較検討に強い

Instagramよりもさらに詳細に商品情報を伝える役割にあるのがYouTubeだ。長尺かつ情報量の多いフォーマットである動画で商品について解説しているので、得られる情報の密度が他のSNSと比べて濃い。そのため、興味のある商品に対する理解を深めたり、商品を比較検討したりしやすいというメリットがある。

このようにZ世代は、商品の認知からその購買に至る各フェーズであらゆるSNSを使いこなし、スピード感を持って消費行動をとっている。

商品のバズが起きてから購買に至るまでのプロセス

では、Z世代は具体的にどのように消費行動に至るのだろうか。実際の商品のSNSプロモーション観点で解説していく。

2022年上半期にSNSで大人気となり“バズコスメ“(SNSで人気に火がつき、品薄状態が続くコスメ商品のこと)としても注目を集めた、TIRTIRの「MASK FIT CUSHION(マスクフィットクッション)」は、マスクにファンデーションがつかないことで人気を集めた。まず2022年2月頃、美容系TikTokerの投稿を筆頭にTikTokからジワジワと認知が拡大。その後はインフルエンサーがYouTubeやInstagramなどで紹介してさらに話題となり、最後にはそんなコスメ動画の切り抜きとテキストによる解説がTwitterに拡散するという流れで、大ヒットにつながった。

@kapo_025 TIRTIR種類別紹介❗️TIRTIRクッションファンデを買う時の参考に是非🌷赤が個人的におすすめ🗣!#美容#コスメ#種類別紹介 ♬ オリジナル楽曲 _brass - MOS

また、Instagramには「おすすめコスメまとめ」のような言葉とともに、話題の商品が雑誌のようにひとまとめにした投稿がアップされることで、「人気がある」「みんなが買っている」という信頼度を集め、情報の精度が上がっていった。最終的には、実際に使用した人たちのリアルな口コミがTwitterに流れ、そこであらためて「自分に合うのか」という判断をし、購買の意思決定に繋がった──認知から購買までのそれぞれのフェーズで、それぞれの役割を担うSNSが機能した結果とも言える。

もちろんZ世代にヒットした商品のすべてがこのような消費行動をたどっているわけではない。だが、認知から購買に至るまで、日常的に触れているさまざまなSNSが行動に影響を与えているのは間違いない。

グルメサイトは「予約」と「メニュー」のみに利用──変わるポータルサイトの利用

Z世代においては認知から購買の意思決定に至るまで全てがSNSで完結することが多くなった結果、ポータルサイトの利用にも変化が起きている。具体的には、Z世代は商品購入だけでなく、食事に出かける際もSNS上で飲食店を探し、口コミを閲覧する。そのため、ポータルサイトの位置付けは「予約」という最終アクションのみとなっているようだ。

例えば、Instagramの発見タブ(虫眼鏡のマークをタップしたときに表示される画面のこと)や、友人のストーリーズ投稿で偶然気になる飲食店を見つけることが多い。お店の雰囲気や気になる食事の内容はそれらの投稿でわかるため、そのお店に行ってみたいという認知と興味喚起はSNS上で完結するのだ。

ただし、SNSに載っていないメニューや金額感、またお店を予約することはSNSでアクションするのが難しいため、ポータルサイトで詳細な最終アクションをするという。実際にZ世代に、(食べログなどの)ポータルサイトの利用について聞いてみたところ、利用するのはメニューを閲覧する時と予約する時に限るとのことだ。

飲食店向けの予約・顧客管理システムを開発するTableCheckが実施した「グルメサイトに関する意識調査」によれば、2020年と比較してグルメサイトの利用率は減少し、GoogleやSNSなどが検索ツールとして存在感を高めている。

もちろん、明日から急にポータルサイトが使われなくなるわけではない。最終アクションとしてポータルサイトが利用される機会はまだまだあるだろうが、その前段階での認知拡大や情報収集する際の受け皿としてのSNSの存在感は年々強まっている。

もはやSNSなしでは、企業がZ世代に対してアプローチをとるのは極めて難しいだろう。SNSを使って何か取り組みを始める際は、ここで紹介した各SNSの役割を認識し、取り組みの内容がそれぞれのプラットフォームにマッチしているかどうかを意識することが重要になる。