
明確なビジョンのもとチームを束ね、経営者として自社の成長を牽引する立場にある、スタートアップのCEO。設立から間もない頃は自身で多くの意思決定を下せるが、それは組織の拡大とともに難しくなっていく。では、スタートアップのCEOの役割は、自社の成長に伴いどのように変化していくのか。
今回は、米名門アクセラレーター・Y Combinatorが米国で急成長中のユニコーン企業・Faire(フェアー)のCEO、マックス・ローズ氏に実施したインタビューを、許可を得た上で翻訳し、紹介する。
Faireは2017年の創業で、セレクトショップ向けの卸売マーケットプレイス「Faire」を展開する。2021年11月にはシリーズGラウンドで4億ドル(約456億円。当時のおおよその為替レート、1ドル=114円で換算)の資金調達を実施。企業価値が12億4000万ドル(約1414億円。同上)のユニコーン企業となった。ローズ氏の役割は創業当時から現在までに、どのように変化したのか。意思決定の分散を可能にする組織や文化の育み方について、同氏が説明する。
──シードステージからシリーズGラウンドまでに、CEOとしての役割はどのように変化しましたか。
私は多くの時間を、Faireのビジョンと戦略の策定と、戦略の実行に費やしています。シードステージのスタートアップを率いる際によく表現するのが、「スピードボートの操縦」と「航空母艦の操縦」の対比です。初期の頃は6週間のプロダクト・サイクルで動いていました。そのため、意思決定を一元化し、全員が毎日スタンドアップ・ミーティングに集まり、目標に対して足並みをそろえていました。現在はプロダクト・サイクルが6カ月となり、意思決定は分散化され、従業員に責任を持たせるためのシステムを構築しています。
1000人規模の企業となった今は自分たちが構築できるプロダクトや機能の数が増えたので、6〜12カ月先までの戦略を描き、チームの足並みを揃える必要があります。全社に戦略を伝えるには、(情報発信のための)複数のチャネルの構築と、繰り返しの伝達が必要だと考えています。そこで戦略を文書として経営陣とともに書き出し、社内で共有しています。この文書は半年ごとに更新します。そして、全員が参加する会議では、私が一番気になっていることを共有します。隔週でビジネス・レビュー・ミーティングも開催しています。これは誰でも参加でき、議事録にもアクセス可能となっています。
意思決定の分散を可能にするには、優秀な人材を採用し、彼ら彼女らに適切な情報を提供する必要があります。会議以外では、OKR(目標を設定し管理する方法)のテンプレートを使ってマイルストーンの履歴を追跡し、(情報管理ツールの)「Notion」や「Google Slides」に集合知をまとめ、全員に対して向かうべき方向を示します。
私たちは、従業員との接点を常時必要とすることはなく、社員に責任を持たせることができる組織運営をしています。プロダクト開発の戦略は、重点分野ごとに分けられ、各チームに委ねられます。それぞれのチームは独立しており、技術者やマーケティング担当など必要な人材を備えています。チームはそれぞれの指標を目指して自律的に機能するようになっています。すべての指標は企業のトップレベルの目標に関連づけられ、チームが顧客の課題を解決していることを保証するものとなっています。
──成長において、全社の足並みをそろえるために、どのような変化が必要でしたか。
これまで、事業戦略や5S(全社的に最も重要とされる5つの取り組み)の文書化、全員参加の会議の実施、そしてOKRの導入など、さまざまな実験を行ってきました。OKRには長所と短所があります。そのため私たちは、OKRを単なる物差しとしてではなく、道しるべとして使い、計画の一貫性と目標の再調整を確実なものとしています。
成長に従って、いくつかのシステムは機能しなくなりました。例えば、私は以前、各チームと隔週でビジネス・レビュー・ミーティングを開いていました。3チームの頃はよかったのですが、15チーム以上になると、効率が悪くなり、うまく機能しなくなりました。最終的には、各チームを部門として組織化し、各部門が責任を持って隔週でビジネス・レビュー・ミーティングをするようにしました。私が目指しているのは、調整と実行にかかる時間のバランスを常に考えながら、チームがサイロ化しないような情報フローをデザインすることです。
──創業者に向け、幹部の採用方法についてのアドバイスをお願いします。
まず、幹部となる人が達成するべき成果を明らかにします。そして、その成果を達成できるかどうか、自社と同じ価値観を共有できているかどうかを評価するための、厳格な採用プロセスを設計します。私たちは、その人の行動特性や考え方を知るための面談とワークスタディを組み合わせて、実際の業務でどのように活躍できるかを見ます。また、レファレンス(推薦状)も徹底的にチェックします。
──Faireの企業文化について教えてください。文化をどのように育んでいますか。
私たちの企業文化は、5つのバリューで説明できます。これらは、私たちが存在する理由と、どのように運営していくかの指針となっています。私たちはまだ将来会社がどうなるかを構築していく初期段階にあります。これらの運営原則は、全社員が起業家精神を維持する上で役立っています。
- 私たちはコミュニティに貢献します
- 私たちは真実を求めます
- 私たちはオーナーです
- 私たちは冒険を受け入れます
- 私たちは親切です
企業文化を作るには、仕組みが重要です。それは採用から始まります。同じ価値観を持ち、業務に新たな視点をもたらしてくれる人を採用できたなら、企業文化の醸成は簡単です。私たちは、自分たちのバリューをフィードバックのサイクルに組み込み、それを実践している人に報いるようにしています。毎週のように感謝の言葉を述べて表彰し、さらに四半期ごとにバリューアワードを催しています。
──未来のCEOへのアドバイスをお願いします。
起業は大変です。でも、事業領域が自分の関心のあること、世界にインパクトを与えるようなことであれば、きっとやり抜くことができるでしょう。社会をより良くするためのビジョンを持っているのなら、それを大切にしてください。