• 個人が自ら買収先を探して経営に取り組む「サーチファンド」
  • スタンフォードやハーバードのMBAホルダーの間で広がる
  • 後継者難に悩む日本の中小企業の救世主となるか

「サーチファンド」とは、経営者を目指す個人(サーチャー)が自ら経営を承継する企業を探し、投資家の支援を受けながら経営者として事業成長を目指す、米国発祥の事業承継モデルだ。「買収を通じたアントレプレナーシップ」と呼ばれることもある。このサーチファンドが、中小企業の事業承継に課題を抱える日本でも注目され始めている。

サーチファンドには、サーチャー自身が資金を自己調達する自己資金型、投資家が単独の単独出資型もあるが、ここでは投資家が複数存在する伝統的なモデル、トラディショナル型サーチファンドの仕組みを中心に説明する。

個人が自ら買収先を探して経営に取り組む「サーチファンド」

サーチャーは投資家からの資金を得てサーチファンドを立ち上げ、買収先企業を探す。買収先のデューデリジェンス(企業評価)などを行い、事業承継(買収)を交渉し、株式を取得して買収を完了。その後は自ら経営者(社長)として買収した会社を経営して、事業を成長・拡大し、最終的にはイグジットを目指す。

サーチファンドの仕組み

トラディショナル型や単独出資型のサーチファンドでは、投資家にとって投資のタイミングが2回ある。1つはサーチャーが買収先を探すサーチ活動のための費用だ。この費用にはサーチャーの給与やデューデリジェンスなどの経費も含まれる。サーチ活動の期間は半年から最長で2年ほどとなる。もう1つは、サーチャーが経営を承継する買収先を見つけた時に、株式を取得するための資金だ。投資家は1段階目の出資比率に応じて、2段階目の企業買収時の出資権を獲得する。

企業買収後のサーチャーがおよそ5年から7年の間、企業価値の向上に努めた後は、新たな買収先を探すか、上場を目指すなどしてイグジットし、キャピタルゲインを投資家と分け合うこととなる。場合によってはマネジメントバイアウト(MBO)によってサーチャーが経営権を買い取るケースもある。

スタンフォードやハーバードのMBAホルダーの間で広がる

サーチファンドの起源は、1984年のこと。現・スタンフォード大学経営大学院教授のH.アービング・グルースベック氏が、当時客員講師を務めていたハーバードビジネススクールで発案したものとされる。

その後、スタンフォード大学を中心に研究が進められ、起業家としてゼロイチで事業を興す以外の選択肢として、経営学修士(MBA)を取得したビジネススクールの卒業生が注目。「資金を調達して既存の企業や事業を買収し、価値を高めてイグジットする」という新しい手段は、スタンフォード以外にもハーバードビジネススクールをはじめとする米国の主要なビジネススクールへ広がり、多くのサーチャーが誕生した。また、サーチャーのためのコミュニティとして、「Searchfunder」のようなプラットフォームも活況を呈している。

現在は米国のみならず、ヨーロッパやシンガポールをはじめとする東南アジアでも、サーチファンドが活動している。後継者不足で中小企業の事業承継が課題となっている日本でも、2000年代に入り、サーチファンドが注目されるようになった。

後継者難に悩む日本の中小企業の救世主となるか

サーチャーのサーチ活動やデューデリジェンス、資金調達などの手続きを支援する組織をサーチファンドアクセラレーターと呼ぶ。2018年5月には日本でもJapan Search Fund Accelerator(JaSFA)がサーチファンドアクセラレーターとしての活動を開始した。

2019年2月にはJaSFAと山口フィナンシャルグループが、日本初のファンド・オブ・サーチファンド(サーチファンドのためのファンド)としてYMFG Searchファンドを設立。地域企業の事業承継を支援する。2020年2月には、このファンドから第1号案件としてサーチャーによる株式取得が実現している。

また、2020年10月設立のサーチファンド・ジャパンは、日本のサーチャーの先駆けとして活動していた伊藤公健氏が日本M&Aセンター、日本政策投資銀行、キャリアインキュベーションとの合弁で立ち上げたサーチファンド投資会社だ。2020年11月にファンド・オブ・サーチファンドとして1号ファンドを組成し、サーチャーを募集。現在は200名近い応募者の中から選ばれた、約10名のサーチャーへの支援を行っている。

山口フィナンシャルグループが中心となって、2022年2月に地銀数社と設立した地域未来共創Searchファンドは8月、大和証券グループ本社と中小企業基盤整備機構の出資を受け入れ、ファンド規模を35億円から50億円に拡大している。

また、野村ホールディングス傘下の野村リサーチ・アンド・アドバイザリーがJaSFAとともに2021年12月に設立したジャパン・サーチファンド・プラットフォーム投資事業有限責任組合も、2022年8月にセカンドクローズを迎えて規模を拡大。ファーストクローズで参加した大同生命保険のほか、山陰合同銀行、中小企業基盤整備機構、ゆうちょ銀行、足利銀行、阿波銀行が参画して、総額58億円を超える規模となった。

事業承継の新しいスタイル、サーチファンド。買収される側の中小企業にとっても、一般的なM&Aやファンドによる買収と異なり、顔の見える、意思ある経営者によって事業が引き継がれ、企業・事業の存続が図れる点で、メリットは大きい。また、若手のアントレプレナーにとっても、ゼロイチでのスタートアップではないかたちで、自ら選定した買収先に対して経営手腕が発揮できる、新たな機会となっている。