New Commerce Venturesで代表取締役を務める大久保洸平氏(左)と松山馨太氏(右)
New Commerce Venturesで代表取締役を務める大久保洸平氏(左)と松山馨太氏(右)

日本の小売・流通領域のDXを加速させるべく、この領域に絞ってスタートアップの成長や事業会社のオープンイノベーションを支援する。そんな“コマース領域特化型”のベンチャーキャピタル(VC)、New Commerce Venturesが始動した。

同社を立ち上げた松山馨太氏と大久保洸平氏はともにヤフーの出身で、前職のZ Venture Capital時代から創業期のスタートアップやコマース領域のスタートアップの支援に力を入れてきた。

New Commerce Venturesでは2人の経験を掛け合わせ「シード〜アーリーステージのコマース企業」の支援に力を入れる。1社あたり1000万円から1億円程度を目安に出資をするほか、事業会社との連携支援にも取り組む計画だ。

「コロナ禍でリアル店舗においてEC対応の必要性が増していたり、少子高齢化などによって接客人員や配送人員が不足していたり。小売・流通業界はさまざまな環境変化や課題に直面しています。コロナの影響もあってEC領域は少しずつ伸びてはいるものの、米国と比べてもEC化率は7年ほどのタイムラグが存在するような状況です。裏を返せば、日本はまだまだ伸びる余地が残されていると思うんです」

松山氏は日本における小売・流通領域のデジタル活用の現状についてそのように説明する。経済産業省が8月に発表した「電子商取引に関する市場調査」によると、2021年の日本のBtoC-EC領域におけるEC化率は8.78%。2020年の8.08%からは成長しているものの、中国や英国を始めとしたEC先進国に比べるとEC化が進んでおらず、デジタル競争力についても遅れをとっている状況だ。

画像提供 : New Commerce Ventures
画像提供 : New Commerce Ventures

松山氏は日本と海外の違いの1つに「スタートアップと大企業をつなぐエコシステムの存在」をあげる。そこで重要な役割をしているのが領域特化型のVCだ。

たとえば米国のCommerce Venturesはコマースやリテール領域のスタートアップに投資をしつつ、大手小売企業やブランドとつなぐことでPoC(概念実証)や協業を推進している。こうした取り組みがうまく回っていることもあり「日本ではECの売上のシェアを見るとIT企業が上位に入ってくるが、海外ではリアルな店舗を持っているブランドがECでも高いシェアを誇っている状況」(松山氏)だという。

日本でもSaaSやWeb3、エンタメ、ドローンなど特定の領域に特化するとうたうファンドは出てきているものの、松山氏によるとコマースに特化したプレーヤーはまだ存在していない。

「業界自体を盛り上げていきたいのであれば、日本においても事業会社とスタートアップを結びつけていくことが必要だと考えました。そのためには独立をして、この領域に特化してやっていくのが一番良いのではないか。それが(独立の)決め手になりました」(松山氏)

New Commerce Venturesでは今後「VC」「コミュニティ」「コワーキング」「売上連動型融資」という4つの機能を提供していく方針だ。

VCに関しては1号ファンドとなるNew Commerce Explosion投資事業有限責任組合を組成し、ギフティや大広、いつもなどECに関連する事業会社を始めとした企業や個人から5億円を調達。2023年を目処に最大で20億円規模を目指す。

松山氏は前職時代にアクセラレータープログラムCode Republicの共同代表として、さまざまなシード期のスタートアップを支援してきた。一方の大久保氏は前職時代からコマース領域の企業への投資に力を入れており、海外のトレンドにも明るい。

投資領域は「ブランド」「マーケットプレイス」「イネーブラー」の3つ。すでに事業を展開している起業家だけでなく、事業立ち上げ前の起業家に対して「今後日本でも大きなビジネスチャンスが見込める事業アイデア」を提案しながら、一緒に事業を育てていくような挑戦にも取り組みたいという。

画像提供 : New Commerce Ventures
画像提供 : New Commerce Ventures

さらにコマース領域においてデジタルギフトのギフティやEC支援のいつもなど専門的なノウハウを持つ企業とタッグを組み、勉強会や支援プログラムを実施するほか、スタートアップと事業会社を繋ぐイベントやPoC・協業の機会を設けていく計画。倉庫や撮影スタジオなどを備えたEC事業者向けのコワーキングスペースや、売上連動型融資(レベニュー・ベースド・ファイナンス)などもパートナーとの協業によって2023年から提供する予定だ。

「(VCが軸となる機能ではあるものの)目指しているのはこの領域のスタートアップと大企業を結んでいくプラットフォーマーのような存在です。コマース領域の課題解決に取り組むスタートアップへ出資をするだけでなく、コミュニティ活動を通じて積極的に事業会社とつないでいくことによって小売・流通業界全体をアップデートしていきたいと考えています」(松山氏)