
- 「オタ活 to Earn」を加速させるWeb3時代のファンコミュニティ実現へ
- エンタメ業界を悩ませる「外部プラットフォーム依存」問題
- 34億円調達で事業加速、サンリオとは2023年前半めどにキャラクターコミュニティを立ち上げ
ファンの熱量を最大化する“Web3時代のファンプラットフォーム”を実現する──。
そんな思いのもと、ソニー・ミュージックエンタテインメントや集英社、バンダイナムコエンターテインメントなどの大手エンタメ企業とともに事業に取り組んできたスタートアップがある。2018年創業のGaudiyだ。
同社が手がける「Gaudiy Fanlink」はコンテンツホルダーであるエンタメ企業がIPごとに独自のファンコミュニティを立ち上げられるサービス。ファン同士が交流するためのオンラインコミュニティを開設できるだけでなく、NFTやDID(分散型ID)といったブロックチェーン技術を活用することでファンの活動データを蓄積し、貢献度などに応じて“価値を還元する仕組み”を有しているのが特徴だ。
すでに日本最大級のアイドルフェスティバル「TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)」の公式コミュニティや人気漫画『約束のネバーランド』の公式コミュニティなど、複数のIPやプロジェクトに関連するコミュニティがGaudiy Fanlinkを活用して運営されている。
Gaudiyでは2022年5月から8月にかけて実施したシリーズBラウンドで総額34億円の資金調達を実施。金融機関や大手エンタメ企業などを株主に迎え、さらなる事業拡大を目指すという。以下は今回のラウンドの投資家陣。
- STRIVE
- JAFCO
- SBIインベストメント
- KDDI
- バンダイナムコエンターテインメント
- ソニー・ミュージックエンタテインメント
- 三菱UFJイノベーション・パートナーズ
- サンリオ
- みずほキャピタル
「オタ活 to Earn」を加速させるWeb3時代のファンコミュニティ実現へ
「最近はPlay to Earnなどの言葉をよく耳にするようになりましたが、Gaudiy Fanlinkが実現しようとしているのは『コミュニティ活動 to Earn』や『オタ活 to Earn』のようなイメージが近いです」
Gaudiy代表取締役の石川裕也氏はWeb3時代のファンプラットフォームをうたう自社サービスの世界観についてそのように説明する。
Gaudiy Fanlinkはコンテンツホルダーがファンと共同で熱量の高いコミュニティを構築するためのサービスだ。IP独自のコミュニティ内ではコンテンツの視聴やチケットの購入、他のファンドの交流などが可能。またブロックチェーン技術の活用によってファンの活動を蓄積し、熱量の高い活動やコミュニティへの貢献度合いなどに応じて、インセンティブというかたちでファンに価値を還元できる仕組みを作っている。

約3万4000人が参加しているTIFの公式コミュニティ「TIF Community」では、購入者のみオンライン視聴が可能なNFTチケットの販売やNFTサイン企画など、NFTを活用した複数の取り組みを実施してきた。
NFTサイン企画でライブ中にアイドルがサインを書き、その様子をリアルタイムに視聴しているユーザーだけがNFTサインを受け取れる“オンラインLIVEサイン”体験を実現。2022年8月5日から7日にかけて実施されたこの企画では、3日間でのべ数千人以上がサインを受け取った。

『約束のネバーランド』のオンラインコミュニティ「みんなのネバーランド」には約1万7000人が参加している。同コミュニティでは2021年に実施した体験ミュージアムと連動し、現地に来場した人だけがもらえる限定NFTやSNSでイベントの情報をシェアするともらえる限定NFTを用意。NFTをイベントのプロモーションや来場促進に活用した。

「投票キャンペーンへの参加やイベント会場への来場、(他ユーザーの)招待などコミュニティでの活動に応じてNFTやコインを提供する仕組みを通じて、実際の行動を促進するような取り組みを実施しています。従来であれば(プロモーションのために)広告会社や代理店にお金を払っていた場合でも、インセンティブを取り入れてファンの方に協力してもらうことで、リファラルで多くの人が集まるような効果も生まれています」(石川氏)
NFTを用いたプロモーションに限らず、Gaudiy Fanlinkを活用したコミュニティ施策の幅は広い。バーチャルアイドル「22/7」の育成リズムゲーム「ナナオン」のコミュニティでは、DIDとNFTを活用することで「ゲーム内で取得したアイテムを、ゲームの提供が終了した後でも閲覧できる仕組み(デジタルバックアップ)」を作った。
「コミュニティを持つことがファンの熱量や活動を維持することにもつながっています。コンテンツ自体をファンの人たちが自ら作っていくような仕組みによって、(漫画やゲームを始めとしたコミュニティの母体となる)サービス自体がなくなったとしてもコミュニティは継続し続ける。そのような活動が生まれるのもコミュニティの良さの1つだと考えています」(石川氏)

エンタメ業界を悩ませる「外部プラットフォーム依存」問題
なぜ大手エンタメ企業がGaudiyのサービスを活用するのか。そこにはエンタメ業界が抱えている「外部プラットフォームへの依存」という課題も大きく影響している。
近年のエンタメ業界においては動画であればYouTube、音楽であればSpotifyといったようにプラットフォームが大きな影響力を持っており、これらを通じてファンへとコンテンツが提供されることも多い。
そのためファン体験がプラットフォームに依存してしまうほか、コンテンツホルダーは重要なユーザーのデータを自社内に蓄積しにくい上に、手数料の問題にも悩まされることになる。
「プラットフォームに依存していたがゆえに、一番重要なファン(やそのデータ)という資産が内部にストックされていなかったことが課題だと考えています。そうではなく、(エンタメ企業)自らが構築したコミュニティにコアなファンが集まり、その人たちが継続してサービスに親しんでくれるような状態を作りたいという思いが根幹にあります」
「そこでポイントになるのが、(ファンのコミュニティ内での活動の)価値を正しくトラッキングして還元できるスキームが備わっていること。今まではSNSなどでファン活動をしていたとしても、貢献度をトラックできる仕組みがなかったので、還元もできませんでした。(Gaudiy Fanlinkでは)そのような活動をバーティカルなコミュニティアプリや、外部のサービスとデータを連携できるDIDなどの仕組みを用いて記録し、それを基にNFTやコインを付与しながら関係性を深めていくことができる。これは自社でプラットフォームを持っているからこそできることです」(石川氏)

34億円調達で事業加速、サンリオとは2023年前半めどにキャラクターコミュニティを立ち上げ
「幼少期にテクノロジーやイノベーティブな(外の)コミュニティに触れてから自分の人生が変わった」という自身の原体験もあり、Gaudiy創業前からテクノロジーやコミュニティへの関心が強かったと話す石川氏。19歳でAI関連の会社を立ち上げるなど10代の頃から事業を運営してきたが、2017年に「ブロックチェーンのコミュニティを見て衝撃を受けた」ことが1つの転機になったという。
「トークンを保有するユーザーの人たちが、そのサービスやコミュニティを本当に良くすることだけを考えていたんです。1万人しかしないようなサービスのイベントに参加してみても、創業時を知っているメンバーでもない人が自分のことのようにそのサービスを語り、どうやったらこのサービスがもっと良くなるかを熱心に議論していました」
「さらにそれが普及していった先には(サービスへの)貢献自体が還元される仕組みも備わっている。このようにモチベーションとインセンティブを絶妙なバランスで共存させているトークンエコノミーにおけるコミュニティは、ものすごく理想的だと思いました」(石川氏)
このような仕組みはすべてのものに適用できる可能性があるため、さまざまな事業者がクリプトエコノミクスを取り入れた理想的なコミュニティを作れるサービスを実現できないか──。そんな発想が出発点になったという。
2018年5月にGaudiyを創業し、同年10月にGaudiy Fanlinkの原型とも言えるブロックチェーンを活用したコミュニティサービスのベータ版をローンチした。
最初からエンタメ領域に絞っていたわけではなかったが「コミュニティが成り立ちやすい一方で、ユーザーへの還元というスキームが最も実現されていない領域であり、外部プラットフォームへの依存度が高いといった課題も存在している」ことから、エンタメにフォーカスすることを決めた。
「エンタメは日本として誇れるカルチャーであり、世界で勝てるチャンスがあると思っています。Axie Infinityのような新興のIPがあれほど盛り上がるのであれば、日本発のIPにもっと大きな価値がつく可能性もある。またWeb3のUXは拡張経済とよく言われるのですが、日本のエンタメは二次創作やカラオケなど拡張という観点でも進んでいます。(Web3のUXとエンタメには)類似する部分も多く、なおかつ日本の強みでもあるエンタメという切り口で挑戦したいと考えました」(石川氏)
石川氏が「2018年からやってたことが今になってようやく評価されるようになってきた」と話すように、時間はかかったものの、事例が積み重なってきたことで直近では大きな取り組みに向けた協業や提携も進みつつある。
今回の投資家であるサンリオとはWeb3領域でタッグを組み、2023年前半を目処にグローバル向けのキャラクターコミュニティサービスを立ち上げる計画。メタバース事業の開発に向けて社内でも専門の組織を立ち上げ体制を強化するほか、東南アジアを軸にグローバル展開に向けた準備も進めていく方針だという。