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  • 離職要因の可視化サービス「ハイジ」で “コロナ前後”の変化を測定
  • リモート導入で執務環境に好評価の一方 「雑談」不足に悩むA社
  • コロナへの不安がスコアに反映 テレワーク導入検討を始めたB社
  • スコアの変化を参照して 勤務時間などの制度を変えたOKAN
  • 新型コロナの影響で高まる 従業員の状況把握と離職防止対応ニーズ

職場への定着阻害や離職につながる要因を、従業員サーベイで可視化できるサービス「ハイジ」。新型コロナウイルスの感染拡大で、そのスコアにある変化が現れているようだ。リモートワーク導入企業・未導入企業のそれぞれで浮かび上がった「ウィズコロナ時代」の課題とは。(編集・ライター ムコハタワカコ)

離職要因の可視化サービス「ハイジ」で
“コロナ前後”の変化を測定

 働く環境や組織の課題といった離職の原因を、従業員への10分アンケートで可視化する「ハイジ」。サービスを提供するOKANは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛やテレワーク導入による職場環境の変化が、サービス利用企業の従業員にどのように影響しているか、事例3社(うち1社はOKAN)の調査結果を公開した。

 2019年1月にベータ版、同年7月に正式版をリリースしたハイジは、職場への定着阻害や離職につながる要因として「モチベーター(やりがい)」ではなく「ハイジーンファクター(衛生要因)」に着目している。「あればあるほど意欲向上につながる」モチベーターに対して、ハイジーンファクターは、職場環境や人間関係、健康や家庭との両立など、「条件が整っていなければ従業員が働きづらくなる」要素だ。

 OKAN代表取締役CEOの沢木恵太氏は「厚生労働省の調査(雇用動向調査結果の概況)を分析すると、離職要因の7~8割がハイジーンファクターが占めていると読み解ける」と説明。

「健康や、育児・介護といった家庭環境と仕事との両立が、職場環境や制度上、難しくて離職する人は多い。本人も会社に貢献したいと思っていて、会社側も仕事を続けてほしい人材が、『望まない離職』をしている。労働人口減少が進む日本で、こうした『誰もハッピーにならない離職』を防ぐために、問題を可視化して企業が対策を打てるようにと開発したのがハイジだ」(沢木氏)

 ハイジでは、従業員サーベイを通じて分類されたハイジーンファクターのスコアを算定し、課題を可視化する。では、新型コロナ感染拡大以前と以降とで、ハイジの利用企業ではスコアにどのような変化が見られたのか。まずはリモートワークを3月中旬から導入したA社と、リモートワークを導入していないB社のケースを見ていく。

リモート導入で執務環境に好評価の一方
「雑談」不足に悩むA社

 福利厚生サービスを提供する上場企業A社は、営業部でハイジを導入している。リモートワークが始まったのは3月中旬のことだ。

A社におけるコロナ前後のハイジーンファクターの比較 提供:OKANA社におけるコロナ前後のハイジーンファクターの比較 提供:OKAN
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 A社では「執務環境」のスコアが特に向上。また「リフレッシュ環境」「働き方に関する制度の充実」のスコアも上昇している。一方「社内の雰囲気」「休暇の取りやすさ」「働き方に関する周囲の理解」「メンタルヘルス」「家庭やプライベートの充実」「生活負担の軽減」については、スコアが下がった。

 A社の人事担当者は、この結果について「通勤しなくてもよいことが従業員に評価され、執務環境や制度の充実についてスコアが向上した」と見ている。一方、リモートワークを始めたばかりの頃は、家庭での時間の切り分けが難しかったようだ。「それが周囲の理解やプライベートの充実、生活負担の軽減といったスコアの低下に表れているのかもしれない」と述べている。

 リモートワーク導入で困っていることとして、担当者が挙げるのは「コミュニケーション」。「雑談など、どうでもいい話が足りなくなり、気づきが得にくい。例えば『どこの部署が今忙しそうか』といったことが察知しにくくなっている」という。

 リモートワークが進んだことで、興味深い変化もあるそうだ。もともとA社では、育児休暇明けのスタッフは在宅勤務を行える環境・制度があったが、営業部門では今回初めて在宅勤務を取り入れることになった。そこで「必要なスキルが変わった」というのだ。

「空気を読んで現場で提案するタイプでないために営業が苦手だったメンバーが、ウェブを通じた営業ではうまくいっているというケースも現れている」(A社担当者)

 A社では、4月以降もハイジで再調査を進めており、リモートワーク開始時からのスコアの変化にも今後注目していくと担当者は話している。

コロナへの不安がスコアに反映
テレワーク導入検討を始めたB社

 続いて紹介するB社は、健康経営に関するコンサルティング事業を行う中小企業で、クライアントへの提案に役立てるため、自社でもハイジを導入した。ハイジでサーベイを実施した3月時点で、リモートワークは未導入だ。

B社におけるコロナ前後のハイジーンファクターの比較 提供:OKANB社におけるコロナ前後のハイジーンファクターの比較 提供:OKAN
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 B社では、会社を移転した直後の2019年12月に前回のサーベイを実施。約3カ月後の今年3月、対照のために再度サーベイを実施したのだが、偶然、新型コロナ感染拡大と時期が合った。結果として「チームワーク」「適正な労働時間」「フィジカルヘルス」については大きくスコアが向上。「執務環境」「社内の雰囲気」も数値が上がっているが、「働き方に関する制度の充実」「メンタルヘルス」のスコアが大きくダウンした。

 B社の代表は「オフィス移転直後からのスコア改善を期待しての調査だったが、コロナへの不安が外的要因として大きく反映されたようだ」とこの結果を分析している。B社にはパートタイマーとして働く女性が多く、「学校の休校などで家庭での負荷が高まったことが、制度やメンタル面での不満・不安につながっているのではないか」ということだった。

 また、家庭にパソコンがあっても別の家族が使っているという従業員も多く、インターネット接続も含めた全員分のリモートワーク環境を短時間で整えるのは、B社では困難だという。ただ「新型コロナには1~2年で3000万人が感染するという数字もあり、いずれ対応は必要になるだろう。すぐには難しいが、リモートワーク導入の検討を始めている」と担当者は話していた。

「今後リモートワークが増えていけば、オフィスの環境だけ良くしても環境が整ったとは言えない時代になってくる。人間関係などで知恵が要るだろう。そういう面でも、ハイジは答えを探すためのきっかけになっている」(B社代表)

スコアの変化を参照して
勤務時間などの制度を変えたOKAN

 ハイジを提供するOKANでも、従業員へのサーベイを実施しており、スコアの変化を目の当たりにしている。OKANは3月25日の小池百合子東京都知事による外出自粛要請を受け、26日から初めてリモートワークを導入した。

OKANにおけるコロナ前後のハイジーンファクターの比較 提供:OKANOKANにおけるコロナ前後のハイジーンファクターの比較 提供:OKAN
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 OKANでは、「働き方に関する制度の充実」「働き方に関する周囲の理解」「フィジカルヘルス」「生活負担の軽減」といった項目ではスコアが上昇したが、「執務環境」「リフレッシュ環境」についてはスコアが下がっている。

 OKANの人事・労務担当者は、結果について「リモートワークをオフィシャルに実施できるようになったことで、長時間の通勤や育児時間が取れないといった課題が解消。選択肢が増えたことが好評価を得た」として、「現状をポジティブに捉えている」と話している。

 働く環境については「リラックスできる」という声もある一方で、インターネット接続やパソコンなど、オフィスとリモートワークの環境の違いに満足できないという従業員もいて、執務環境に関するスコアは下がってしまったOKAN。また家庭で仕事をするにあたっては、小さな子どもの世話や介護をはじめとした家事と並行しての業務や、休憩時間の確保などで課題のあるスタッフも多いという。

 OKANではハイジのスコア変化を参考に、従業員が安心して働けるよう、さっそく4月から制度面での改善に乗り出した。まず、保育・介護をしながらの勤務をオフィシャルに推奨。保育施設、介護施設が閉鎖されたり、利用の自粛が要請されたりしている場合には、自宅で保育・介護を行いながらの在宅勤務を勧めている。

 また、フレックス勤務の標準時間帯を拡大。これまでOKANでは、勤務の標準時間帯は9時30分から18時30分と定められていたが、日中の業務時間が取りにくい従業員には、希望制で5時から22時の時間帯での勤務を認め、家庭の状況に合わせた柔軟な対応を可能とした(健康保持のため、勤務時間のインターバルを9時間以上設けることが義務付けられている)。さらに、緊急事態宣言中にフルタイムの勤務時間が確保できない社員には、臨時で時短勤務を適用できるようにした。

新型コロナの影響で高まる
従業員の状況把握と離職防止対応ニーズ

 OKAN代表取締役CEOの沢木恵太氏は、新型コロナウイルス感染拡大の離職に対する影響について「仕事の環境だけでなく、育児など家庭の環境も変わっている。これまでに育児・介護に関する制度を設けていた企業でも、そのままでは制度が使えないケースも増えている。企業がこれに対処できなければ従業員は働けなくなり、望まない離職はますます増える」と話している。

OKAN代表取締役CEOの沢木恵太氏OKAN代表取締役CEOの沢木恵太氏

「これまでは投資の優先順位が付けにくかったために(生産性向上に直接つながる)『やりがい』が重視されてきたが、人材を定着し、離職を防ぐには、やりがいだけではなく、ハイジーンファクターをカバーしなければならなくなってきている」(沢木氏)

 今回のコロナ禍のように大きな変化に見舞われた際にも、ハイジで従業員の状態を可視化することで、離職を防ぎ、パフォーマンスを向上させる有効な打ち手を見つけることができる、と沢木氏はいう。

「面白くもあり、難しくもあるのが、すべての企業に共通して有効なプラクティスはないということだ。OKANでは、各社のアンケートを分析して、それぞれの組織に適切な施策を提案し、支援しているが、このニーズはコロナ禍でより一層高まっている」(沢木氏)

 沢木氏は今後、ハイジでより適切に分析・判断を行い、企業が何に投資すべきかを見極められるように機能追加やアップデートを進めていくと述べている。その一環として4月23日、これまでのハイジーンファクター12項目を9項目に再編成し、新たに6項目を加え、抽出項目を15項目へとリニューアルした。これは、離職に因果関係のある要因を日本大学経済学部准教授の櫻井研司氏の監修のもと、共同調査した結果に基づくものだ。

ハイジで測定する15項目のハイジーンファクター 提供:OKANハイジで測定する15項目のハイジーンファクター 提供:OKAN
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 さらに分析レポートとセットで、離職防止にあたって企業がどう対策すればよいのかサポートする機能を、コンサルティングではなくサービスとして提供していきたい、と沢木氏は話している。

「企業にとって離職防止に適切で有意な施策を、ハイジ導入により優先順位を付けて提案・提供できるようにしたい。施策の優先順位付けや効果測定で困っている人事・総務の担当者は多い。最適な施策が選べて効果が測定でき、経営層も判断できる結果を示すことで、人材定着のための投資判断をサポートしたい」(沢木氏)

 ハイジはこれまで、多店舗を展開する企業の引き合いが多かったそうだ。これは普段、顔の見えない従業員の実態を把握したいとの理由からだ。リモートワークが各社に取り入れられ、従業員のコロナ禍への不安も強まっている現在、沢木氏は「一般企業でも従業員の状況を把握して、打ち手が必要となっている」という。

「働き方改革の動きはこれまでにもあったが、改めて今、仕事と生活とが近づいている。2つを融合、またはバランスさせる意識が世間でも高まり、働く人の価値観が変わっているのではないだろうか。一方、企業側は対応の判断が難しくなっている。ハイジによる課題の可視化で、そうした企業のサポートをしていきたい」(沢木氏)