Nature Innovetion Group代表取締役の丸川照司氏 提供:Nature Innovation Group
  • 日本は世界一!ビニール傘の消費量は年間で約8000万本
  • アップデートで利便性を高める
  • まずは都内全駅への展開を目指す
  • 新型コロナの感染拡大はシェアリングへの逆風

季節はそろそろ梅雨。雨がよく降るこれからの時期に心強いサービスが、傘のシェアリングサービス「アイカサ」だ。アイカサではスマートフォンのアプリを使い、駅や街に設置された傘立ての「アイカサスポット」から傘を借りることができる。2020年5月より休止していたサービスが、より利便性を増したかたちで帰ってくる。(ダイヤモンド編集部 菊池大介)

日本は世界一!ビニール傘の消費量は年間で約8000万本

 日本は世界で1番ビニール傘を消費している国であり、その量は年間で約8000万本だと推定されている。そして、その8000万本のほとんどは「使い捨てとして消費されている」と説明するのは、傘のシェアリングサービス、アイカサを提供するスタートアップ企業のNature Innovation Groupだ。

 街中では壊れた傘が捨てられているのを頻繁に見かけるし、鉄道会社が預かる忘れ物で一番多いのも傘。ビニール傘は値段が安く簡単に手に入るが、強度が低くすぐ壊れ、分解が難しいためリサイクルするのも一苦労だ。

 そこで、必要な時に必要な場所で傘を借り返却するという、所有ではないシェアという選択肢を提供することで、傘の使い捨てを防ぐ環境に優しいサービスが、アイカサだ。

 Nature Innovation Groupの代表取締役・丸川照司氏は「傘を買う必要がない社会を目指したい」と話す。

「駅に着いたら外は雨。傘は持っていないが、お店の外の傘立てにはビニール傘がずらっと並んでいる。『誰も使っていないのに、なぜこの傘を使えないんだ。新しい傘を買うのはもったいない』とは誰もが一度は思ったはず」(丸川氏)

 丸川氏は18歳のころ、認定NPO法人フローレンスの代表・駒崎弘樹氏の著書『「社会を変える」を仕事にするーー社会起業家という生き方』(英治出版)を読み、社会問題を解決するソーシャルビジネスに興味を持つ。同氏は2017年頃にメルカリやDMMがシェアリングエコノミーに参入するという報道を見て、まだ日本では展開されておらず社会的な意義の大きい傘のシェアリングを実現するため、2018年6月にNature Innovation Groupを設立した。

 社名がアイカサでないのは、他のサービスを展開する可能性があると考えていたから。そして丸川氏自身が営業に回っていたため、「アイカサというサービス名だと優しすぎると思い、よりしっかりとした印象のNature Innovation Groupという社名にした(笑)」(丸川氏)。

アップデートで利便性を高める

 アイカサは2018年12月に東京・渋谷を中心にサービス提供を開始した。当時はメッセンジャーアプリのLINEから友達追加し、傘立ての「アイカサスポット」に設置されている傘のQRコードを読み取ることで、ロックを解除するためのパスワードが表示される仕組みになっていた。

 そこからエリアを拡大しつつ1年半ほどサービスを提供してきたアイカサ。だが、ユーザーの利便性を高めるため、そしてより環境に優しいサービスにするため、Nature Innovation Groupは5月11日にサービスをアップデートすることを発表した。

「多くのスポットは駅にあるため、急がれているお客様が多かった。そのため、独自にアプリを提供しスマートフォンをかざすだけで借りられるスキームにする。我々は傘の製造者でもあるので、可能なかぎり傘を長持ちさせ、環境に対してもより良い取り組みをしたかった」(丸川氏)

 6月上旬からはiPhone・Android共に対応した専用のアプリを提供し、よりスムーズに傘を借りられる仕組みにした。傘立てのロックの解除は、アプリをダウンロードしたスマートフォンをかざしてBluetoothでペアリング、もしくはQRコードの読み取りで可能となる。

駅の近くや街中に設置されるアイカサの新しい傘立て 提供:Nature Innovation Group

 アプリの提供により、支払い方法の選択肢も増える。これまではクレジットカードかLINE PAYのみだったが、他の選択肢も利用できるようにする。雨が降りそうな際に教えてくれる通知機能の実装や、多言語対応も予定している。Nature Innovation Groupは2018年12月、ALiNKインターネットから資金を調達している。ALiNKインターネットは、一般財団法人日本気象協会と共同で、天気予報専門メディア「tenki.jp」を運営する企業だ。今後はそのデータを活用して、雨の通知を行うことも視野に入れている。

アイカサのアプリはiPhone・Android共に対応する 提供:Nature Innovation Group

 利用料金は「通常プラン」で24時間70円(同月内で最大420円)、「使い放題プラン」で月額280円となっている。

 今回のアップデートはアプリの提供開始だけではない。傘そのものの耐久性も高めた。傘やレインウェアを製造するサエラと組み、より高品質で耐久性の高い傘を開発。従来の傘は骨が1本でも折れてしまえば使えなくなってしまったが、アイカサが提供する新しい傘は「骨1本から修復が可能」になった。半永久的に使い続けることができるため、より環境に優しいサービスになるといえる。紛失や盗難にあっても、アイカサは警察と連携しているため、廃棄処分になる傘が大幅に削減される。

6月より提供されるアイカサの新しい傘 提供:Nature Innovation Group

 アイカサの登録ユーザー数は2020年5月時点で9万人を超えた。雨や雪が多く降る季節にユーザーの利用が伸びるサービスだが、環境省が推進する「熱中症予防声かけプロジェクト」と連携し「日傘仕様」のアイカサをリリースするなど、利用者との接点を増やす工夫も見られる。

まずは都内全駅への展開を目指す

 4月15日時点での設置スポット数は約850箇所。関東は東京、神奈川、埼玉、茨城。九州は福岡。中国・四国では岡山でサービスを提供しており、今後はさらに全国に拡大していく。6月には神戸、7月には奈良、8月には大阪、8~9月からは京都でも利用可能となる予定だ。

 丸川氏いわく、利用の多くは駅の近くから。昨年はJRや小田急電鉄、西武鉄道などの鉄道会社との連携を強めてきたが、「まだ多くの潜在顧客にはリーチできていない」(丸川氏)ため、今後も引き続き駅周辺へのスポットの設置を急ぐ。まずは都内のJR・私鉄全駅でアイカサが利用できることを目指す。

 だが課題も多い。新型コロナウイルスの感染拡大により、鉄道の利用者は大幅減。「展開している主要エリアでは利用の低下が見込まれる」(丸川氏)ため、プロダクトを新しくしても気づかれない可能性がある。そのため同社では、クラウドファンディングを実施。1年間サービスを利用できる定額プランや、自宅にアイカサを届ける体験プランなどを用意し、ユーザー開拓を進めている

新型コロナの感染拡大はシェアリングへの逆風

 今後の展開については、新型コロナの影響がどの程度長引くか、そしてライフスタイルの変化がどの程度定着するかに大きく左右される。丸川氏は「早稲田大学など学校にも設置させていただいており、キャンパス間の移動の際に良く使われている。このようなモデルケースを地域の商店街に移す可能性もなくはない」と述べる。同氏いわく、アイカサではもともと、駅への設置の次には、移動の始まりと終わりである住宅地、そして勤務先や学校もおさえていく方針だったという。

 そして、新型コロナの影響で「共有から所有への逆行が起きるのでは」という声も少なくない。傘の取手は多数のユーザーが触れるため、衛生的でないという旨の指摘もあった。そのため、アイカサでは現在、スポットに消毒用のアルコールを設置するなどの対策も進めている。

 Nature Innovation Groupは安全性を確保した上で、引き続きシェアリングサービスの意義を社会に訴えていく必要があるだろう。アイカサが「傘を買うのはもったいない」と思うユーザーにとって料金的に魅力的であり、また環境への配慮も行き届いたサービスであることに変わりはないからだ。

「日本のビニール傘の消費量は年間で約8000万本。アイカサは8000万回以上使われるポテンシャルが十分にあると考えている」(丸川氏)