
- ピッキングロボットの活用で小型無人店舗を実現
- 「このロボットを使いたい」スーパーの経営者の声がヒントに
- 夜間でもピッキング可能、店舗併設型の自動倉庫が支える次世代ネットスーパー
- クイックコマース向けの無人自動ピッキング店舗を開設、12億円調達で事業拡大へ
ロボティクスと小型の自動倉庫の仕組みを活用して、小売をアップデートする──。2019年創業のROMSは小売流通業界におけるサプライチェーンの自動化や、新しい購買体験の実現に取り組むITスタートアップだ。
同社の軸となるのが、従来は人に依存しがちだった商品のピッキングを自動化するテクノロジー。ピッキングロボットを中心とした自動化設備によって、人の手を介することなく注文された商品を選び取り、顧客や店舗スタッフの元へと届ける。この仕組みを小売店舗の限られたスペースなどにも導入できるシステムを作った。
ROMS代表取締役の前野洋介氏によると当初はこの技術を用いて「(無人の)ロボティクスコンビニエンスストア」を実現することを考えていたという。ただ東京・吾妻橋でテスト店舗を1年間運営する中で、「ネットスーパーの課題解決策」としてもニーズが高いことを実感。現在は超小型無人店舗(Robotics Convenience Store、RCS)と並行して、ネットスーパーなどでの利用を想定した店舗併設型自動倉庫(Nano-Fulfillment Center、NFC)のシステムを開発している。
ピッキングロボットの活用で小型無人店舗を実現

“無人コンビニ”と聞くと「Amazon Go」のような店舗を想像するかもしれないが、ROMSが吾妻橋で2020年10月から1年間運営していた無人型店舗「MOPU」は、「超大型の自動販売機のようなもの」(前野氏)だ。
一見、店舗に存在するのはATMのような機械だけだが、この裏側にはピッキングロボットが常時稼動している自動倉庫がある。利用者が店頭のキオスク端末や専用のモバイルアプリから商品を注文すると、その商品をロボットが自動でピックし、数十秒から数分程度で受取口まで届ける。
アプリから事前に注文と支払いを済ませておけば、店頭の端末にQRコードをかざすだけで商品を受け取ることも可能。米国などを中心に広がる新たな購買体験「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」にも対応したかたちだ。このような仕組みを通じて、MOPUでは弁当や惣菜、飲料、お菓子、日用品などさまざまな商品を“完全無人”で提供してきた。

「このロボットを使いたい」スーパーの経営者の声がヒントに
MOPUはRCSのシステムを検証するためのプロトタイプのような位置付けではあったものの、新しい店舗の体験として注目を集め、小売企業の関係者なども視察に訪れた。そんな中でスーパーマーケットの経営者たちの話を聞いたことが、ROMSにとって1つの転機となった。
「(ROMSの技術は)『無人店舗として使うのも面白いが、裏側のピッキングなどの仕組みはネットスーパーのフルフィルメントそのものだよね』と。ネットスーパーでは深夜に稼働できておらず、店舗スタッフが翌朝来た際に注文の入っている商品を一気に集める必要があるため、朝来れるスタッフの人数に応じてオーダー数が決まってしまうのです。この課題を解決するために『夜間帯でもピッキングをし続けられるこのロボットを使いたい』と言われました」(前野氏)
現在展開しているネットスーパー向けの店舗併設型自動倉庫であるNFCは、まさにそのようなニーズに応えるためのものだ。
ピッキングロボットなどのハードウェア自体は既存のメーカーのものだが、そのロボットでどのように商品を認識し、ピッキングをしていくかといった「コントロールシステム」は自社で手がける。
前野氏によると、ロボット単体でピッキング精度を100%に近づけるのは難しく、この精度を高めていくためには周辺機器を含めた自動化を支える設備が欠かせない。「いかにロボットが取りやすい環境を作るか」「ロボットがミスをした場合にどのようにリカバリーするか」といった点から必要になる設備も社内で設計しているという。
そのほか顧客のネットスーパーのインフラやECサイトと接続するためのゲートウェイ、在庫管理などに必要なWMS(倉庫管理システム)なども自社製だ。
また上述したような自動倉庫を支えるテクノロジーに加えて「この仕組みを凝縮して狭小スペースで実現する技術」そのものも日本では大きな差別化要因になりうると前野氏は話す。
「北米ではMFC(Micro-Fulfilment Center)と呼ばれる店舗併設型の自動化設備が広がってきていますが、広大な土地のあるアメリカなどと比べると、日本のスーパーやコンビニはスペースが限られています。結果的に場所がネックとなって(MFCなどの設備を)断念し、狭いスペースで人海戦術で対応するという事業者も多いですが、人手不足が進んでいる中でその体制で継続していくのは難しい。狭小スペースでいかに実現していけるかが小売企業の課題になっています」(前野氏)
無人コンビニのMOPUの場合は30㎡ほどのサイズで展開していた。ネットスーパー向けのNFCはそれよりも3〜4倍大きい100㎡ほどを想定しており、既存のMFCに比べて小型で日本のスーパーのニーズにあったものを提供していく計画だ。

夜間でもピッキング可能、店舗併設型の自動倉庫が支える次世代ネットスーパー
今後は小売業界でも労働人口の減少により人員の確保が難しくなるとともに、人件費の高騰も予想される。このような状況下において「自動化は避けて通れないというのが小売事業者に共通する見解」(前野氏)だ。
また内部要因だけでなく、商圏を侵食してくるネットスーパーへの対応にも迫られている。
「大型のネットスーパーが自分たちの商圏にも進出してきているという外部要因も大きいです。従来はその地域の中で優位性や信頼があれば来てくれていたはずのお客さんが、ネットスーパーに流れてしまっている。自分たちもネットスーパーをやらなければやられてしまう、と危機感を感じている事業者が増えてきている状況です」(前野氏)
実際にROMSのサービスに関心を示す小売企業の中には、“地域の雄”として特定の地域で消費者から支持を集めてきたような事業者も多いという。すでにネットスーパーを手がけているところもあるが、何らかの課題を抱えているそうだ。
たとえば人力でのピッキングによって顧客から受ける注文数の制限が生じ、配送効率も最適化が進まない。かといって自動化や効率化を進めるために大型の倉庫を構えるのは、一部の大規模な事業者以外は難しい。
そもそもネットスーパーの対象エリアは実店舗の周辺が中心になるため、距離や即時性の観点などからも店舗に近い場所に倉庫を構えられる方が望ましい。そういった観点から、既存のネットスーパーを改良する仕組みとして、限られたスペースでも利用できる店舗併設型の自動倉庫のシステムを持つROMSに期待する事業者も出てきている。
クイックコマース向けの無人自動ピッキング店舗を開設、12億円調達で事業拡大へ
直近ではKDDIの直営店・au Style SHIBUYA MODIに併設するかたちで、ROMSのシステムを導入した無人店舗「auミニッツストア 渋谷店」がオープンした。


この店舗はデリバリーとテイクアウトに対応しており、注文の入った商品のピッキングとパッキングをロボットが担い、店頭を訪れたユーザーや配送員に届ける仕組み。クイックコマースの工程の一部を自動化するような取り組みで、注文はデリバリーアプリの「menu」を用いる。
ROMSでは今後スーパーを始めとした複数の小売企業にNFCやRCSを展開していく計画。組織体制を拡充し、既存システムの改良や次世代モデルの開発に向けた投資を加速させるための資金として、既存投資家のDNX Venturesなど複数の投資家から総額12億円を調達した。