
- フライドポテトはなぜ販売休止に? コンテナ不足や運賃高騰に揺れる国際物流
- 世界ではユニコーン企業も続々登場する「デジタル物流」のスタートアップ
- 島国日本の生命線、国際物流のインフラを破綻させないために
- プラットフォーム「Any Cargo」とデジタル通関でサービス領域を拡充
コロナ禍以降、コンテナ不足で混乱した国際物流の世界は、その後も港湾の混雑や運賃の高騰により課題を抱えたままだ。混乱の中でも物流量が増加の一途をたどる一方で、労働人口は減少。貿易業界を支えてきた人手が不足していく中、日本のみならず、各国でデジタルによる貿易業務の効率化は待ったなしの状況となっている。
欧米では大手システム会社による貿易事務の管理システムに加えて、ユニコーン企業による物流サービスへのイノベーションも始まっている。こうしたデジタルの力による貿易業務の効率化を日本から手がけるのが、2016年6月創業のShippioだ。
現在の国際物流の課題とは何か。物流スタートアップの先駆者的存在として、Shippioはその課題をどのように解決しようとしているのか。Shippio代表取締役CEOの佐藤孝徳氏に聞いた。
フライドポテトはなぜ販売休止に? コンテナ不足や運賃高騰に揺れる国際物流
国際物流には、荷主から荷物を預かり、実際の運送を行うキャリア(運送事業者)や倉庫などを手配して輸送を取り次ぐ「フォワーダー」の存在が欠かせない。
英国の調査会社・Transport Intelligence(TI)が7月に発表したレポートによれば、世界のフォワーディング市場は2021年に約2700億ユーロ(約37兆円)、年成長率は11.2%と過去10年で最大の拡大を見せた。ただし、港湾の混雑、海上貨物の輸送スペース不足や空前の運賃高騰により、業界としては課題を抱えている。
新型コロナウイルスの感染拡大により米国で巣ごもり需要が高まった2020年後半から、中国から米国への輸入が急増。一方で米中貿易摩擦やコロナ禍による先行き懸念により、中国ではコンテナ製造量が2019年から低下していた。北米向けコンテナ運賃は2021年1月には前年同時期の3〜4倍に上昇。さらに運ばれたコンテナに積む荷がないため空コンテナとなって滞留し、特に北米西海岸の港湾混雑はひどい状況となった。マクドナルドをはじめとしたファストフード店でフライドポテトの販売が一時休止となったのは、この時期に北米からのポテトの輸入が遅れたことが原因の1つだ。
TIは、2022年の市場成長率は5.7%に鈍化すると予測。インフレの加速やロシアのウクライナ侵攻による運賃のさらなる高騰、個人消費の減速などにより、2021年〜26年の年平均成長率は3.7%にとどまるだろうとしている。
「2021年までの(コンテナ不足などによる)ひっ迫感は少し落ち着いてきていますが、引き続きウクライナ情勢や中国の状況など、国際物流における全体的な緊張感は続いていると考えています」(佐藤氏)
世界ではユニコーン企業も続々登場する「デジタル物流」のスタートアップ
こうした中、オンライン化により貿易業務の効率化を図る「デジタルフォワーディング」市場は大きく成長している。TIが調査を行った荷主・物流業者のうち81%が、デジタルフォワーダーや貨物予約プラットフォームを利用。2019年に比べて3倍に増加しているという。
国際物流の世界は建設業や不動産業と同様、大きな市場規模がありながら、利害関係者が多岐にわたることもあり、デジタル化が進んでこなかった。手続きや業務にはアナログな部分が多数残っている。メール、電話、Excelや紙、FAXといった情報共有手段が多用されており、担当者の業務負荷も大きかった。そこへコロナ禍や運賃の高騰による混乱が追い打ちをかけるかたちとなっている。こうした課題に対し、オンライン化で貿易業務の効率化を図るデジタルフォワーディングの利用が伸びているのだ。
「国際情勢の変化で影響を受けるのは物流です。そこへ生産的な仕組みを作ることは重要です」(佐藤氏)
海外では、デジタルフォワーディングを手がける物流スタートアップの成長も著しい。米Flexportは2022年2月にシリーズEで9億3500万ドル(当時のレートで約1075億円)を調達し、評価額80億ドル(同約9200億円)のユニコーンとなっている。またドイツのFortoも2022年3月に総額2億5000万ドル(当時のレートで約287.5億円)を調達し、評価額は前年6月の12億ドル(同1380億円)から21億ドル(同約2400億円)へと大きく増加している。
島国日本の生命線、国際物流のインフラを破綻させないために
Shippioは、日本におけるデジタルフォワーダーの先駆者的存在として、2018年12月から事業を展開する。貿易業務を効率化するクラウドサービスとフォワーディング業務をワンストップで提供し、フォワーダーとしての業務はデジタルの力で効率化。陸送・海上輸送・航空輸送や通関などの国際物流にまつわる、さまざまな業務を顧客である荷主に代わって一貫して行う。
貨物の輸送状況や貿易書類、連絡先などはクラウドサービスの「Shippio」上で一元管理。荷主は貨物の位置や状況のほか、見積もり費用や貿易書類、請求書などをクラウド上で確認でき、生産性向上や業務の負担軽減を図ることができる。




貿易業務特化型のバーティカルSaaSとしてのサービス提供ではなく、国際物流に携わってきた人員をオペレーションチームとして抱えるShippio。チームとのコミュニケーションはチャットで行うことができ、関係者への情報共有や、荷主と納品先との三者間チャットも可能だ。第一種・第二種貨物利用運送事業者をはじめとする許認可取得や国際貨物輸送の業界団体への参加も行い、単純なSaaSの提供のみならず、フォワーディング実務も手がける点を特徴としている。
佐藤氏は、国内フォワーディング市場規模を3〜4兆円、獲得可能な市場全体の規模(TAM)は「グローバルフォワーディング市場へ事業を広げていけば20兆円、国内の倉庫やトラックなどの物流へ伸ばすと25兆円」と非常に大きいものと見ている。
「島国である日本では輸出入は絶対になくなりません。貿易あるいは国際物流のインフラは生命線ともいえる産業です。EC化率が上がると取引量も右肩上がりに増えていきます。一方で物流というのは基本的に人の手によって解決されてきましたが、労働人口は右肩下がりです。今後必ずその間の差が広がっていき、開きすぎると破綻する。このスペースをソフトウェアの力で消しにいけないか、というのが僕らの考えている事業の方向性となっています」(佐藤氏)
国際物流を巡る情勢が複雑さを増す中、国際物流のDXへのニーズは高まっている。Shippioもサービスリリース以降、事業を順調に成長させ、2022年7月末時点での受注高が前年同月比の約4倍という伸びを示すまでになっている。現在は42カ国の拠点と日々やり取りを行い、約100社の顧客を抱える。クライアントには商社のほか、化学、製薬、食品や家具などのメーカーなども顔をそろえる。
先に挙げた米Flexportなどは、物流だけではなく、関税立て替えなどのファイナンス領域やカーボンニュートラルなどにも取り組み始めている。
「僕らもいずれは(貿易にまつわる)ファイナンス領域にも染み出していければと考えています」(佐藤氏)
プラットフォーム「Any Cargo」とデジタル通関でサービス領域を拡充
Shippioは9月28日、総額16.5億円の資金調達実施を発表した。シリーズBラウンドのこの調達は、第三者割当増資と融資等によるもの。出資には既存投資家のデライト・ベンチャーズ、環境エネルギー投資、ソニーベンチャーズ、アンカー・シップ・パートナーズのほか、新規投資家にDNX Ventures、Spiral Innovation Partners、東京海上日動火災保険、みずほキャピタル、あおぞら企業投資が加わった。
Shippioでは今後、これまでのデジタルフォワーディング事業に加えて、国際物流業務に利用できるプラットフォームの提供とデジタル通関事業の提供を目指し、仮説検証を進めていく。
新サービス「Any Cargo」は今まで、Shippioがデジタルフォワーディングサービスを利用する顧客に対して提供してきたクラウドサービスによる貨物のトラッキングや案件管理を、他社のフォワーディング事業者が扱う案件に対しても利用可能にするというものだ。自社サービス内のクラウドシステムをプラットフォームとして他社案件にも開放したかたちになる。
「顧客が100本のコンテナのうち、30本はShippioのフォワーディングを利用し、残りは従来の取引先を利用することはよくあるのですが、そうするとアナログなオペレーションが残ってしまいます。Shippioを物流事業者として使っていない貨物もクラウド上で効率的に管理できるようにするというのがAny Cargoの狙いです」(佐藤氏)
機能としては、貨物情報をExcelやCSVデータで取り込み、ダッシュボードでShippio以外の案件も一元管理できるというもの。混乱が続いて運航が遅れやすくなっている船舶の航海状況・スケジュール(本船動静)のトラッキングについても、自動で行える。Shippioがオペレーションを担っている貨物もそうでない貨物も一括して状況が確認できるという点がこのサービスのキモとなる。
Any CargoはShippioをフォワーダーとして使っている場合は無料で利用できる。それ以外の場合、SaaSとしてこのプロダクトを単体で利用する顧客には、有料課金での提供となる。現在はベータ版としてサービスを提供しており、正式リリースは年内を予定している。将来的には他のフォワーダー向けにAPIの実装なども考えていきたいということだ。
また、輸出入の申告や輸入に伴う関税の申告などを代理する通関事業についても、Shippioでは以前よりデジタルフォワーディング事業の隣接領域として事業拡大を検討していた。
越境ECの増加にともない、通関件数は2010年ごろと比べて10年間で2.5倍ぐらいに伸びている。一方で、ほとんどの通関事業者ではIT投資、デジタル化が進んでおらず、Shippioとしても問題意識を持っていた領域だ。
通関事業を営むためには通関業法に定められた許可を申請し、免許を取得する必要がある。免許取得について検討していく中で、すでに事業を営み、オペレーションも抱えていて実績のある企業のうち、デジタル化にも興味があった通関事業者をM&Aにより取得し、サービスメニューを拡充することとなった。
「日本の輸出入の課題をソフトウェアの力で解消したいというのは起業当初から考えていたこと。だんだんとそうした社会課題に近いところに来ている。非常にワクワクしています」(佐藤氏)