
街中でよく目にするようになった電動キックボード。ちょっとした移動の際に便利な一方で、利用の仕方について考えさせられる事件が先日、東京都内で発生した。
警視庁は9月26日、前日の夜に会社役員の男性が電動キックボードを運転中に転倒し、死亡したことを発表した。同庁によれば、男性は駐車場内で電動キックボードを運転していた際、方向転換しようとしたところ車止めに衝突。頭を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認された。なお、運転時は飲酒状態にあった可能性があるという。
電動キックボードによる事故で死亡者が出るのは初めてのことだ。報道によれば、男性が乗っていたキックボードは産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」を用いた公道での実証実験の一環で、国から認可を受けた事業者が貸し出したものと言われている。
新事業特例制度下で走行する電動キックボードにおいて、9割以上のシェアを占めるというLuupに問い合わせをしたところ、男性が乗っていたキックボードは「LUUPが貸し出していたもの」だという。また、「事業者として事故の原因究明に全面的に協力するとともに、今回の事故を重く受けとめ、安全性の向上に向けた検証を進めていくほか、飲酒運転の防止や交通ルール遵守の周知などをより一層徹底していく」と取材にコメントした。同社は27日付けで本件に関するプレスリリースも出している。
Luupはこれまでに電動キックボード乗車前の免許証登録と交通ルールテストの満点・連続合格の義務付けや、飲酒運転を含む重大な違反行為が発覚した利用者の利用停止などの安全対策を講じてきていた。Luupによれば「サービス開始以降、40回を超える安全講習会の実施や交通ルールテストの内容の見直し、アプリで表示させる注意喚起画面のアップデートなど、さまざまなかたちで安全への取り組みを実施してきた」という。
一般的に電動キックボードは道路交通法上では「原動機付自転車(原付)」の扱いになるため、ヘルメットの着用が義務づけられているが、実証実験の一環で貸し出されるものは「小型特殊自動車」に分類されるため、特例でヘルメットの着用は任意となる。
今回、男性は運転時にヘルメットを着用していなかった。Luupはヘルメットを着用しない状態でのキックボードの運転について「自転車や他のモビリティと同様、ヘルメットを着用した方が安全であるという指摘はその通りであり、マイクロモビリティ推進協議会としても、着用を推進している」とコメントした。今回の事故が実証実験に及ぼす影響については警察の検証結果を踏まえての検討になるとのことだが、「現時点では変更点について把握していない」という。
電動キックボードはちょっとした距離の移動に便利なことから、若者を中心に利用者を増やしているが、その一方で交通ルールやマナーを違反した危険な運転も目立つようになっている。筆者も東京・渋谷や原宿を歩いている際、歩道の走行や「自転車を除く」という標識がない一方通行路での逆走など、道路交通法に違反して運転している電動キックボードを何度も目撃したことがある。
2022年4月には道路交通法の改正案が可決され、電動キックボードをはじめとする電動小型モビリティは「特定小型原動機付自転車(特定小型原付)」と位置づけられた。最高速度は時速20キロメートル。年齢制限は16歳以上で、運転免許不要、ヘルメット着用は努力義務ということが定められた。施行は2024年夏ごろをめどとしており、電動キックボードの社会実装に向けて動きは着々と進みつつある。
一方で現状の電動キックボードに対して、自動車のドライバーたちから「スピードが遅すぎる」「(専用のレーンがないから)怖い」といった声も挙がっている。もちろん、電動キックボードを取り巻く現状の制度や道路の状況などが完璧なものとは言えないだろう。LUUPにおいては機体の改善なども進めているが、そもそもキックボード全体としてタイヤ径の小ささなどから段差への弱さへの指摘もある。実証実験を通して見えてきた課題をもとに、改善していくべき部分は多々あることは間違いない。
だが、電動キックボードを“新たな移動手段”として社会実装していくには利用者がルールを遵守することも必要だろう。例えば、自動車やバイクは飲酒状態での運転を禁止されている。自転車であっても飲酒運転は道路交通法違反だ。いくら気軽に乗れるからといって飲酒状態で電動キックボードに乗る人がいる限り、こうした事故は後を絶たない。利用者のルール遵守、事業者による違反防止の仕組みを構築、警察の取り締まり強化などがあってはじめてその利便性が享受できるはずだ。