Photo: Nuthawut Somsuk/gettyimages
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  • 自分を疑わないこと
  • 起業家が成功するために必要なマインドセット
  • 起業家が成功するために取得すべきスキルとは
  • 会社を設立する準備が整ったことを確認する方法

2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大により、観光、飲食、小売といった業界を中心に、多くの企業が打撃を受けた。米国のスタートアップデータベース「Crunchbase」によると、パンデミックの影響はスタートアップを率いる女性起業家たちにも及んでいるという。

そのデータでは、2020年(1月〜12月中旬)の女性起業家による資金調達の総額は49億ドル(約5096億円。2020年12月当時のレートで換算)。これは前年同期比で27%も減少した計算となる。

このように女性起業家が資金調達に苦しんでいる現状を、米名門アクセラレーター・Y Combinator(YC)はどう見ているのか。既存投資先への支援を行うYC Continuityのパートナー、アヌ・ハリハラン氏が2021年開催のカンファレンス「Future Founders Conference」で共有した女性起業家へのアドバイスを、許可を得た上で翻訳してお届けする。

前編ではハリハラン氏が、女性起業家が成功するために必要なマインドセットやスキルなどについて解説する。共同創業者の探し方や資金調達の重要性などについて語る後編は10月14日に公開する。

自分を疑わないこと

男性の起業家に起業のきっかけについて聞くと、常に「起業家になりたいとずっと思っていたので、スタートアップを創業しました」という答えが返ってきます。一方、女性起業家は「『あなたならできる』と言われたから」と答えます。これはとても大きな違いです。自分のキャリアを振り返ってみても、女性は常に次の役割を得るために準備をしています。私たちは「仕事を完璧にこなすために必要な10のスキルは何か」をいつも考えているのです。

起業家ではないのですが、私もAndreessen Horowitz(a16z)での役割にとても満足していました(編集部注:ハリハラン氏はa16zの元パートナー)。そこへ思いがけず、5年ほど前にContinuity Fundを立ち上げたYCが私に声をかけてくれたのです。しかしオファーを受けてから1カ月が経っても、私はサインをしていませんでした。このことは、今でも鮮明に覚えています。YCの社長であるジェフ・ラルストンから電話があり、「なぜ、オファーにサインしないんだ」と言われました。

彼は「報酬の問題か、役割の問題か、もっとはっきりさせる必要がある」と考えたのでしょう。しかし私はといえば、オファーを受けてから4週間、「この仕事を引き受ける準備ができていない」ことに気づき、自分自身に(まだ引き受けてはいけないと)言い聞かせていたのです。それを伝えた時、彼はショックを受けたようです。彼が覚えているかどうかわかりませんが、ラルストンは「YCのパートナー全員が、君がこの仕事で成功すると確信している。このことを頭に叩き込んでおくんだ」と言い、電話を切りました。そして翌日、私はオファーにサインをしました。

(このようなためらいは)女性起業家に共通して見られます。しかし、ひとつ聞いてほしいことがあるとすれば、このカンファレンスを受講しているということは、皆さんの中には「起業家になりたい」という野心があるということにほかならないということです。だから、やってみなさい。私たちはあなたを応援しています。

起業家が成功するために必要なマインドセット

スタートアップを成長させていくことは信じられないほどハードです。まずは喜んで挑戦し、多少の失敗を許容し、挑戦し続ける必要があります。それはレジリエンス(回復力)とも言います。また、起業家であることは、将来について楽観的であり、他の誰もが信じていなくても、自分のビジョンを信じ続けることであると私は考えています。さらに、機知に富むことも必要です。 起業家は非常に多くの障害に遭遇するでしょう。 起業家としてだけでなく、実生活でも。 キャリアを拡大するにつれて、自分の道を切り開き、会社の問題を解決する上で、どれだけ機知に富み、創造的であるかが重要となります。

起業家が成功するために取得すべきスキルとは

強くお勧めしたいのが、コードの書き方を学ぶことです。テックスタートアップを構築しようとしているかどうかに関係なく、今日のほとんどのスタートアップや企業は何らかのテクノロジーを利用しています。少なくともeコマースにはウェブサイトがあります。

コーディングを学ぶことはそれほど難しくありません。私はプログラミングを学んで育ちましたが、現在の学習方法は劇的に改善されています。ローコード、ノーコードのツールはたくさんあるので、コーディングを学ぶことを強くお勧めします。少なくとも、共同創業者を見つけようとしている時や、エンジニアを雇っている時には、彼らにいい加減なことはさせてはいけません。コーディングを学び、プロトタイプの作成方法を知っていれば、会社を立ち上げる際に大きな力を発揮できるでしょう。

2番目に強くお勧めしたいことは、スタートアップに勤務することです。スタートアップで学ぶことに勝るものはありません。私はQualcommで働き、ソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。でも、もし私が20代の自分にアドバイスできるとしたら、スタートアップへの参加を促すでしょう。

特に急成長しているスタートアップなら、老舗企業で10年〜15年かけて学ぶことを、3年〜4年に圧縮して学べます。スタートアップで働くと、さまざまな障害に遭遇することでしょう。そこで、臨機応変に対応することも学べます。自分だけの役割だけでなく、複数の役割をこなすからです。

3番目は営業力です。営業といっても、従来のフィールドセールスやインサイドセールスのような役割ではありません。顧客や投資家、従業員候補に自分の考えを売り込む能力です。スタートアップで働くなら、いずれにしても身に付けるべき能力です。なぜなら、他の人をスタートアップに参加させるため、あるいは自分のチームに参加させるために、説得しなければならないからです。スタートアップで働き、営業スキルを身につけることは、起業する上で本当に役に立つでしょう。

会社を設立する準備が整ったことを確認する方法

多くの女性創業者が、「いつ会社を始めるか」を考えるのに時間を浪費しすぎたと語っています。最も重要なことはアイデアや問題意識を持つことです。市場調査に何カ月も費やす必要はありません。 10人強と話してから、サイドプロジェクトを始めましょう。 コーディングを学べば、MVP (Minimum Viable Product:実用最小限の製品)をリリースするのにそれほど時間はかかりません。

そこで、サイドプロジェクトを立ち上げてテストします。それは本当にあなたの問題を解決しますか? 他の組織のユーザーが利用してくれそうですか? もしあなたが、あるペインを解消できる魅力的なアイデアを持っていて、多くの人がそのアイデアに共感すると本当に思うのなら、それは「スタートアップを立ち上げるべき」というサインです。

もうひとつの重要な瞬間は、共同創業者を得たときです。これは、アイデアやMVPではなく、時間がかかるものでもあります。

アヌ・ハリハラン氏 YC Continuity パートナー

Y Combinatorが運営し、既存投資先への支援を行うファンド・YC Continuityのパートナー。モバイル通信技術関連企業・Qualcommのソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートし、その後はコンサルティング会社のBoston Consulting Groupでプリンシパル、シリコンバレーのベンチャーキャピタル・Andreessen Horowitz(a16z)ではパートナーを務めた。

(後編に続く)