
- 厚生労働省は徒歩や自転車利用を推奨
- 緊急事態宣言の解除でシェアサイクルが伸びる福岡市
- 大手シェアサイクルではデリバリー・通勤利用が伸びる
- シェアサイクルは飲食店の救世主になり得るか
- 電動キックボードのシェアリングを目指して
新型コロナウイルスの感染拡大により、人と人との接し方は大きく変化した。緊急事態宣言は全面解除となったが、今後も密閉・密集・密接の3密を避けることが求められる状況だ。公共交通機関についても、徒歩や自転車利用の併用が推奨されている。そんな状況に価値を見いだすスタートアップが、Luup(ループ)だ。これまで電動キックボードの導入に向けて事業を進めてきた同社は、5月25日よりシェアサイクルサービスを展開する。すでにNTTドコモやソフトバンクグループが参入する中で勝算はあるのか。その狙いを聞いた。(ダイヤモンド編集部 菊池大介)
厚生労働省は徒歩や自転車利用を推奨
「(緊急事態宣言が)解除されたからといって、すぐに会社に戻らないでほしい」――5月21日の会見で、西村康稔経済再生担当相はこう話し、可能な範囲でテレワークを継続するよう企業に訴えかけた。新型コロナウイルスの再度の感染拡大を防ぐためだ。
緊急事態宣言の解除後も、国民は当面、ソーシャルディスタンスを意識し続ける必要がある。それは移動においても例外ではない。厚生労働省は5月4日に公表した「新しい生活様式」において、「公共交通機関の利用」について「徒歩や自転車利用も併用する」ことを推奨している。
だが、全ての企業がテレワークを継続できるわけではない。そして、全ての外出が不要不急なわけではない。そこで、モビリティ領域のスタートアップ・Luupは5月25日、シェアサイクルサービス「LUUP」の提供を開始する。
「新型コロナウイルス感染症の影響の中でも、通勤やフードデリバリーなどで外出が不可欠な方々がいる。Luupでは街のために尽力する方々の“必要不可欠”な移動を支援する」(Luup代表取締役社長・岡井大輝氏)
LUUPでは自社開発した小型の電動アシスト付き自転車を50台用意し、都内の57箇所に設置されたポートに配置した。利用者はアプリをダウンロードし、自転車のQRコードを読み込むことでロックを解除し、利用する。利用料金は初乗りで100円。10分以上の利用は1分ごとに15円が加算される。アプリはiOSでのみ提供中だが、Android版も提供予定だという。3カ月後までには現エリアのポート数を2倍以上に増やす予定だ。

緊急事態宣言の解除でシェアサイクルが伸びる福岡市
緊急事態宣言が解除された地域において、シェアサイクルの利用が急増している。5月14日に緊急事態宣言が解除された福岡市では、同市で展開されるシェアサイクルサービス「Charichari(チャリチャリ)」の月間利用数が過去最高に達する見込みだ。
2018年2月に「Merchari(メルチャリ)」として福岡市で提供を開始した同サービスでは、もともと利用が多かったため、不足していた自転車を1月から増やし始めていた。1〜3月にかけて利用は伸び続けたが、4月は外出自粛を受けて微減となった。
運営元のneuet(ニュート)代表取締役社長・家本賢太郎氏は、4月は利用回数こそ減ったものの、「3密を避けるための利用が相当多いという実感をしていた」と話す。5月に入って、サービス開始からの累計200万回の利用を突破。「かなりのハイペースで利用が進んでおり、5月は1カ月あたりの過去最高を完全に超えると思う」(家本氏)と語る。
Charichariは福岡市とneuetの共同事業。福岡市では「公共交通の混雑を避けるため」シェアサイクルの利用を推奨している。
大手シェアサイクルではデリバリー・通勤利用が伸びる
新型コロナウイルス感染拡大により、多くの飲食店が店内での営業を自粛し、フードデリバリーの利用が伸びた。政府が5月14日に公開した資料によると、2月から3月にかけての1カ月間に、Uber Eatsは31万人、出前館は9.8万人、楽天デリバリーは14.3万人、ユーザー数が増加した。
NTTドコモグループでシェアサイクル事業を展開するドコモ・バイクシェアは、75万人の会員を抱える、シェアサイクル大手だ。同社は以前からUber Eats専用のプランを提供してきた。これが契機となり、同社のシェアサイクルはフードデリバリーの配達員に積極的に活用されてきた。だが、デリバリー需要の拡大により、配達員による利用が増加。加えて、3密を避けた通勤手段としても新規利用が伸びている状況だ。
同社広報によると、4月の利用回数は減少したものの、4月1日~20日の期間で1日あたりの新規加入者数は3月に比べて2割増加。今まで使ってこなかった人たちが、デリバリーの需要拡大に応えたり、コロナを期に通勤で電車の代わりに使ったりしたことが想定されるという。
この流れは他社でも同様だ。ソフトバンクグループの新規事業提案制度から生まれたシェアサイクル事業を通じて設立された「HELLO CYCLING」を展開するOpenStreet。同社の執行役員を務める工藤智彰氏も、外出自粛要請の前後を比較すると、シェアサイクルの利用回数は減少したが、利用時間・距離が伸びたことから、デリバリーや通勤目的での利用が増加したのではないかと分析する。
シェアサイクルは飲食店の救世主になり得るか
ドコモ・バイクシェア、HELLO CYCLING、Charichariなど既存のプレイヤーたちを追う後発のLUUPは、デリバリーや通勤を目的とした利用を想定しつつも、飲食店向けサポートを充実させることで差別化を図ろうとしている。
具体的には、アプリから飲食店のメニューを確認し連絡ができるようにすることで、利用者が徒歩圏内より遠くの店まで足を運ぶよう促している。LUUPでは利用する際に降りるポートを指定する必要があるが、ポートの半数以上は飲食店の空きスペースに配置されている。岡井氏いわく、「飲食店を救いたい」という思いから、コロナ禍の今、意図的に飲食店へのポート導入を増やしたという。
「フードデリバリーにはどの飲食店でもすぐに参入できるわけではない。そのため、テイクアウトでも顧客が取りに来られる仕組みが求められていると考えた」(岡井氏)
LUUPでは「展開エリア内の既存のシェアサイクル事業者と比較して最も高密度にポートが設置されている」ことをウリにしているが、これは「利用したいが自転車がない」といった事態を避けるためだ。自転車とポートのサイズを小さくすることで、より多様な場所に展開することを可能にした。そして自転車・ポートの小ささの背景には、将来的には機体を電動キックボードに置き換える計画がある。

電動キックボードのシェアリングを目指して
2018年7月に設立されたLuupは、短距離移動に特化した交通インフラの構築を目指すスタートアップだ。岡井氏はマイクロモビリティの社会実装を促進する「マイクロモビリティ推進協議会」の会長でもある。電動キックボードの事業者が中心となり設立された同協議会には、米大手Limeの日本法人も参加している。
Luupはこれまで、電動キックボードのシェアリングサービスの国内展開を目指し実証実験を重ねてきた。昨年は、事業者が規制官庁の認定を受けた実証を行い、得られた情報やデータをもとに規制の見直しに繋げていく「規制のサンドボックス制度」に認定された実証を、横浜国立大学の常盤台キャンパス内の一部区域で行った。
日本の現行規制上では、電動キックボードは原付自転車として扱われる。そのため、公道で走行するには国土交通省が定める保安部品を取り付け、原動付自転車登録をし、免許証を携帯する必要がある。より安心・安全、そして気軽に使えるシェアリングサービスを展開するには、規制の緩和が不可欠だ。
Luupにとって、シェアサイクルの提供は目標に向けての第一歩。シェアサイクルを安全に運営できることを証明でき、かつ、規制が緩和された後には、電動キックボードもポートに設置していく。長期的には、高齢者を含むより多くの人が利用できる機体の提供を目指すが、まずはLUUPを運営しつつ、並行して電動キックボードの検証を続けていく予定だ。
「マイクロモビリティのシェアリング事業を展開すると宣言してからは、いつか自転車も扱う必要があるという自覚があった。電動キックボードが第2フェーズだとすると、自転車は第1フェーズ。(電動キックボードの提供に向け)まずは自転車を使い、Luupがいかに安心・安全にサービスを提供できるか、社会に示していく必要がある」(岡井氏)