写真中央は、NOT A HOTEL代表取締役CEOの濱渦伸次氏。完成した「NOT A HOTEL AOSHIMA MASTERPIECE」にて
写真中央は、NOT A HOTEL代表取締役CEOの濱渦伸次氏。完成した「NOT A HOTEL AOSHIMA MASTERPIECE」にて
  • 日常感を徹底排除──ラグジュアリーさとテクノロジーが同居するヴィラ
  • 「ホテルとして貸せる物件」と「毎年同じ日に旅ができるNFT」との相性の良さ
  • パートナー事業により全国への拠点展開を加速、5年で売上累計1000億円を目指す

アプリひとつで住まいとホテルを切り替えることが可能な「ホテルにもできる別荘」を開発・販売するNOT A HOTELが、宮崎県青島の拠点「NOT A HOTEL AOSHIMA」を完成させた。11月から本格的な利用が始まるのに先駆け、DIAMOND SIGNALでは現地を取材。現地では、同社代表取締役CEOの濱渦伸次氏に、NOT A HOTELの今後の展開などについても話を聞いた。

日常感を徹底排除──ラグジュアリーさとテクノロジーが同居するヴィラ

NOT A HOTELはアプリ上で自宅とホテルの切り替えや、室内のコントロールができる「ホテルとしても運用可能な住宅」だ。購入したオーナーが住宅や別荘として部屋を利用するだけでなく、家を空ける際には専用アプリですぐにホテルとして運用できる。ホテルのオペレーションはNOT A HOTELが代行。1棟単位での購入のほか、1年のうち30日間分を最大12人で共同購入できるシェア購入が可能で、使わない日はホテルとして貸し出し、収入を得ることができる。

2021年9月に実施したフラッグシップモデルの第1弾販売では、NOT A HOTEL AOSHIMAと栃木県那須の「NOT A HOTEL NASU」の2拠点の物件を、完成予想図のCGパースと間取り図面のみでオンライン販売した。1棟3億960万円〜8億3760万円、シェア購入でも1単位あたり2580万円〜6980万円という価格帯にもかかわらず、2カ月ほどでほとんどが完売したという。

NOT A HOTELの特徴・拠点

10月上旬、ついにリアルな姿を現したNOT A HOTEL AOSHIMAは、国定公園内のオーシャンフロントに位置している。

NOT A HOTELへ通じる「AOSHIMA BEACH VILLAGE」入口
NOT A HOTELへ通じる「AOSHIMA BEACH VILLAGE」入口
「鬼の洗濯岩」で知られる青島にもほど近い
「鬼の洗濯岩」で知られる青島にもほど近い

NOT A HOTEL AOSHIMAでは宮崎市が所有する土地を期限付きで借り上げ、土地の権利形態は準共有持分となっている。NOT A HOTELでクローズドに利用する物件部分以外の土地は宮崎市との協定により、レストランやバーベキュー場などがパブリックスペースとして公開されており、プールやサウナなどの建設も進んでいた。

NOT A HOTEL宿泊者のダイニングも兼ねる併設のカフェ「LDK」は、観光客や地元客でもにぎわっていた
NOT A HOTEL宿泊者のダイニングも兼ねる併設のカフェ「LDK」は、観光客や地元客でもにぎわっていた
LDKの海側に面したテラスからの景色は南国情緒が漂う
LDKの海側に面したテラスからの景色は南国情緒が漂う

完成したNOT A HOTEL AOSHIMAの各室は、今月いっぱいは関係者などによる試泊を行い、11月よりオーナーが利用。2023年以降にホテルとしての貸し出しを開始する予定だという。今回は1棟独立で屋内面積200平方メートル、テラスが560平方メートルと最大規模の物件「MASTERPIECE」と、2階に位置する総面積450平方メートル超の「CHILL」の内部を見た。

販売時のCGパースそのままのヴィラタイプ「MASTERPIECE」。庭では最後の仕上げが行われていた
販売時のCGパースそのままのヴィラタイプ「MASTERPIECE」。庭では最後の仕上げが行われていた
各戸の入り口にはサービス開始後にタブレットを格納する予定のケースが備え付けられている
各戸の入り口にはサービス開始後にタブレットを格納する予定のケースが備え付けられている
リビングルームからプールの先の海を望む
リビングルームからプールの先の海を望む
テラスからはビーチへ出ることもできる
テラスからはビーチへ出ることもできる
「パースでは伝わりにくかった、この天井の高さを伝えたい」と濱渦氏
「パースでは伝わりにくかった、この天井の高さを伝えたい」と濱渦氏
ベッドルームから窓を開ければすぐプールに飛び込めるというリゾート感。MASTERPIECEのプールは97.5平方メートルを占める
ベッドルームから窓を開ければすぐプールに飛び込めるというリゾート感。MASTERPIECEのプールは97.5平方メートルを占める
半露天の檜風呂。NOT A HOTEL AOSHIMAでは2室を除いた各戸にサウナも設置されている
半露天の檜風呂。NOT A HOTEL AOSHIMAでは2室を除いた各戸にサウナも設置されている
こちらは2階にしつらえられた部屋「CHILL」。1階に位置するMASTERPIECEと比べ、水平線が開けて見晴らしがよい
こちらは2階にしつらえられた部屋「CHILL」。1階に位置するMASTERPIECEと比べ、水平線が開けて見晴らしがよい
CHILLのリビングからの眺め。天井の高さはMASTERPIECEほどではないが、開放感あふれる造りだ
CHILLのリビングからの眺め。天井の高さはMASTERPIECEほどではないが、開放感あふれる造りだ
テラスにはファイアプレースがしつらえてある
テラスにはファイアプレースがしつらえてある

NOT A HOTELは「スイッチのないホテル」だと濱渦氏はいう。照明や空調だけでなく、カーテンの開閉や風呂の温度調節に至るまで、すべてタブレットにインストールされた自社開発のアプリで操作する。また、冷蔵庫を自社製作するなど、徹底して空間から「日常感」を排除するような工夫が施されている。

「一般の家庭用冷蔵庫があると気分が上がらないから」と自社で作った冷蔵庫はワインセラーのような見た目
「一般の家庭用冷蔵庫があると気分が上がらないから」と自社で作った冷蔵庫はワインセラーのような見た目
ちょっとしたスナックやアメニティ、替えの衣類など、一般のホテルなら売店で販売するようなグッズは各戸のミニショップで、タブレットを使って入手できる。「人件費の節減にもなる」と濱渦氏
ちょっとしたスナックやアメニティ、替えの衣類など、一般のホテルなら売店で販売するようなグッズは各戸のミニショップで、タブレットを使って入手できる。「人件費の節減にもなる」と濱渦氏
どの部屋にもスイッチがなく、代わりにタブレットで室温や照明、カーテンの開閉などをまとめて操作できる。いずれも自社開発アプリ
どの部屋にもスイッチがなく、代わりにタブレットで室温や照明、カーテンの開閉などをまとめて操作できる。いずれも自社開発アプリ
テレビもタブレットで操作。リモコンは部屋のどこにも見当たらない
テレビもタブレットで操作。リモコンは部屋のどこにも見当たらない
風呂の湯温やサウナの温度もタブレットで設定
風呂の湯温やサウナの温度もタブレットで設定
部屋のカギはスマートフォンで管理。チェックインもスタッフ不要で完了する
部屋のカギはスマートフォンで管理。チェックインもスタッフ不要で完了する

「ホテルとして貸せる物件」と「毎年同じ日に旅ができるNFT」との相性の良さ

実際の物件を見ると、パースで想像していた以上のラグジュアリー感に圧倒される。ただ、やはり「シェア購入でも1単位2000万円以上」という価格は、なかなか手が出せるものではない。それを「自分でも現実に使えるかもしれない」と思わせてくれた仕組みが、NFTを使った利用権の分割販売だ。

NOT A HOTELでは、物件の所有権(NOT A HOTEL AOSHIMAは厳密には不動産信託受益権の準共有持分)だけでなく、NFT化したホテルの利用権(メンバーシップ)を販売している。2022年8月に販売したメンバーシップは、2023年から2070年までの47年間、NOT A HOTELに年に1泊できるというもの。メンバーシップの保有者には年間のある1日が割り当てられ、毎年決まった日にいずれかの拠点の部屋がランダムに割り振られて利用できるようになる。

2070年までのメンバーシップ、および1泊分の権利はそれぞれ、NFTとして「OpenSea」などのNFTのマーケットプレイスで売買することもできる。

1単位150万円のNFTは販売開始からわずか20分で3億円分が売れ、その後は毎日約1000万円分ずつほど追加販売を行い、現在累計約5億円分が売れているという。10月には、メンバーシップ保有者に割り当てる日付を公開する、第1回目の「リビール」イベントが開催された。

濱渦氏は「日付がランダムに割り当てられるんですが、我々としては“偶然が旅する日になる”というコンセプトでいます。皆さん『ガチャ』的に捉えるというよりは『自分の旅する日が決まった!』と喜んでもらえたので、それはやはりうれしかったですね」と語る。

NFTによる利用権の販売が事業として面白い点として、濱渦氏は「稼働率」を挙げる。

「普通のホテルのスイートルームの稼働率は10%ぐらいなんです。残りの9割の未稼働の日のコストを宿泊者の方が払っていて、1泊30万円ですが1日当たりの売上って3万円なんです。僕らのNFTのモデルが成り立てば、日付と宿泊場所がランダムなので、1泊あたり3万円×稼働率100%になります。不在時にはホテルとして貸し出せる所有権の販売とホテルとしての利用権の販売の相性はとてもよく、NFTによるランダムなゲーム性もあるところもうまくはまって、今の完成形のNOT A HOTELがある、というかたちになっています」(濱渦氏)

もともとNOT A HOTELを「利用しない日にホテルとして稼働させる」ために手段をいろいろと検討していた濱渦氏だが、結果としてホテル利用に近い稼働がNFTで実現できているということのようだ。

所有権ではなく利用権を、47年間分、結構な金額で購入することには不安もある。何十年か後にNOT A HOTELのサービス内容が変わったり、会社が倒産したりする可能性もないわけではない。濱渦氏も「僕らは手段としてはNFTを選んでいるんですが、基本的には47年の前払い方式なんです」と認めた上で、このように説明する。

「枠組みとしてはちゃんと消費者保護を行っていて、メルカリのポイントなどと同様、前払式決済手段方式を採用しているので、売上の半分は金融庁に供託します。もし僕らが倒れても半額は返ってくることになります。僕らは建物も建てているので、そんなにすぐに潰れることはありません。事業性がなければ融資も下りませんし、出資もしてもらえないので、僕らの信頼プラス供託金によって、徐々に信頼してもらえたらいいなと思っています」(濱渦氏)

所有権を購入した人たちは企業の経営者や役員といった層が大半だというが、NFTの購入者はサラリーマンを含め幅広いという。金額が物件と比較すれば手頃だったことに加え、流動性の高さが魅力となったようである。8月の販売開始から2カ月で、すでに2000万円ほどの二次流通があったという。

「要らなくなったらすぐに手放せるのが取引履歴が残るブロックチェーンのいいところで、僕らがNFTを採用した理由もセカンダリーマーケットがある点でした。それで実際、一般の方も手を出しやすいような価格と仕組みになったのが大きかったのではないかと思います。ただこんなに売れるとは思っていませんでした」

「それでもこれから実際に宿泊されるようになれば、『これで3万円(150万円で47年分の権利を購入した場合の1泊あたりのおよその宿泊費)で泊まれるんだ』というメリットは多分感じていただけると思います」(濱渦氏)

パートナー事業により全国への拠点展開を加速、5年で売上累計1000億円を目指す

AOSHIMAに続いて12月には、NASUが完成を迎えるNOT A HOTEL。その後も福岡県福岡市の都市型コンドミニアム「FUKUOKA」、長野県の軽井沢駅から30分のロケーションに位置する「KITAKARUIZAWA」、沖縄県石垣島の「ISHIGAKI」、群馬県水上町で天然温泉付きヴィラとして展開する「MINAKAMI」など、全国に拠点を増やしていくもくろみだ。このうち水上町のプロジェクトはオープンハウスとの共同開発によるもの。土地購入や建築はオープンハウスが担い、NOT A HOTELはAOSHIMAなどの自社展開物件にも導入したソフトウェアとブランドを提供して販売を担当する。

NOT A HOTEL代表取締役CEOの濱渦伸次氏

「今はフラッグシップモデルとして土地を仕入れるところから僕らがやっていますが、今後はパートナーとの事業展開を増やしていきます」(濱渦氏)

10月7日にスタートしたパートナー事業「PARTNER HOTELS」で、NOT A HOTELと同様の販売・運営が可能なプラットフォームを提供。第1弾として、スモールラグジュアリーホテルブランド「UMITO」シリーズの「UMITO PLAGE The Atta Okinawa」の販売も始まっている。NOT A HOTELとPARTNER HOTELSは相互利用が可能。今後もパートナーとの協業で全国に拠点を増やす考えだ。

10月14日には、ANRI、オープンハウスグループ、SMBCベンチャーキャピタル、And Do ホールディングスと個人投資家を引受先とした第三者割当増資により、シリーズAラウンドのファーストクローズとして約20億円の資金調達を実施した。シードラウンドからの累計調達額は総額約41億円となる。

「黒字化してきたので、調達金額も(不動産・ホテル業としては)コンパクトに実施する」と濱渦氏。

「僕らは建築や金融、テクノロジーなど、とても変数の多い事業をやっています。この変数を全部コントロールするのは結構ハードルが高い。2021年時点で7名だったメンバーも今月80名に増え、10倍ぐらいに組織も拡大しましたが、極めて変数が多い事業なので、それ自体がモート(障壁)になっているのではないでしょうか」(濱渦氏)

濱渦氏は、NOT A HOTELのこれまでの成長には、偶然の幸運も大きかったと語る。

「コロナ禍の下でこの領域にチャレンジするところはスタートアップも含めて少なかったですし、大手ではテクノロジーへの投資が難しい部分もあります。また、コロナ後の一時期のバブルがはじけた今、資金調達がこの半年ほどは難しくなっているということも、モートになっている。タイミングよく、国定公園の土地が使えることになるなど本当に偶然が重なっていて、僕自身、もう一度再現しろと言われても、再現できないです」(濱渦氏)

一方で「ここからもう一段階、桁を変えて販売していく必要がある」と決意も表している。「(着工より前に)販売がされているので、着地点は比較的見えやすいモデル」として、事業開始初年度の売上は50億円、利益は数億円を見込む(※)。目標としては5年で累計1000億円を売り上げ、利益100億円を目指すと濱渦氏は語っていた。

※訂正:初出時から「初年度」を「事業開始初年度」に、利益額を「数億円」に訂正しました。