米国発のニュースレターサービス「Substack」
米国発のニュースレターサービス「Substack」 Substackの公式ニュースレターより

登録ユーザーにコンテンツをメールで届ける、メディアの新しいかたちであるニュースレター。メディアや企業がコンテンツをまとめて配信するメールマガジンとは異なり、ニュースレターでは個人が独自コンテンツを直接、読者に届けることが多い。米国では大手メディアのジャーナリストが有料のニュースレターを個人で配信することも珍しくない。

例えば、テックメディア・The Vergeの名物ライター、ケイシー・ニュートン氏は「テックと民主主義」をテーマとしたニュースレター「Platformer」を2020年に配信開始。Bloombergのテック・ジャーナリストだったエリック・ニューカマー氏も同年に「Newcomer」の配信を始め、スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)に属する読者から支持を集めている。

このニュースレターの盛り上がりの立役者が、2017年にローンチした「Substack」だ。Substackは、個人がニュースレターをメールで簡単に配信できるプラットフォームで、有料版の配信も可能だ。Substack以前にも「TinyLetter」や「Revue」といったメール配信ツールは存在していた。だが、Substackは月額課金や購読者管理のためのシステムを整え、年間で数百万円を稼ぐライターを数多く輩出したことで、大きな注目を浴びることとなった。

そのSubstackの共同創業者兼CWO(Chief Writing Officer)であるハミッシュ・マッケンジー氏が、同社の公式ニュースレターに「Please stop calling it the ‘newsletter economy’(ニュースレターエコノミーと呼ぶのはもうやめて)」と題する記事を載せたのは10月14日(現地時間)のことだ。

マッケンジー氏はその中で「Substackはニュースレターやクリエイターエコノミーといった、単なるトレンドに乗っかったサービスではありません。我々は、ライターやクリエイターのオーナーシップと独立性を重視するメディア経済の激変の一翼を担っているのです」とつづっている。

最近、ニュースレターのプラットフォームの分野では、あまりパッとしないニュースが続いている。1年前の2021年にはTwitterがRevueを買収し、Meta(当時の社名はFacebook)がニュースレター配信サービス「Bulletin」を開始するなど、米テック大手もニュースレターに可能性を見いだしていた。だが、Twitterは2022年7月、Revueがアクセスできない状態にあるのにも関わらず丸1日以上放置。Metaはこの10月、Bulletinを2023年初頭に閉鎖すると発表している。両社にとってニュースレターが今や注力サービスではないことは明確だ。

こうした状況を受けて、米ウェブメディアのVoxは「The newsletter boom is over. What’s next?(ニュースレターブームは終わった。では次は?)」というタイトルの記事を掲載。マッケンジー氏は同記事への共感を示した上で、Substackが今なお拡大し続けている理由について、FacebookやTwitterとは「最初から違う挑戦をしてきたからです」と説明した。

「Substackの挑戦は、ライターやクリエイターに力を与えるというものです。ライターがメディア運営に伴う煩雑な作業をほとんどすることなく、また、ゲートキーパー(プラットフォーマー)に支配権を譲ることなく、独立性を維持できるようにするための挑戦なのです。私たちは、ライターやクリエイターにインターネットの力をフルに発揮してもらうためのツールを構築し、彼らのコンテンツが最大限の影響力、リーチ、収益を得られるようにしています」(マッケンジー氏)

マッケンジー氏によると、Substack上の有料購読者数は現在約150万人で、2年前の約30万人から5倍にも拡大。この2年間で、年間100万ドル(約1億4900万円)以上の収益をSubstackを通じて得るメディアの数は2つから10以上に増え、トップ10位のメディアの年間収益の合計額は2年前の800万ドル(約12億円)から2500万ドル(約37億円)規模にまで拡大したという。

日本ではニュースレターの配信プラットフォームではないが、メディアプラットフォームの「note」などを利用して、文章やイラスト、動画といったコンテンツを、有料または月額課金の「定期購読マガジン」として配信する人は増えているようだ。ただしnoteは、読者リストをコンテンツの送り手が確保し、その独立性を担保できるSubstackのような仕組みとは異なる。

2021年以降、日本でも「theLetter」、「Medy」、「WISS」といったニュースレターの配信サービスが続々と立ち上がっているが、残念ながらWISSは2022年7月に終了している。日本の場合は、「ネット上のコンテンツは無料」という考えが根強い傾向にあり、米国のようにニュースレターという単語がバズワードになるような状況ではないが、個人による有料コンテンツの配信が、徐々にだが世の中に浸透してきている段階だ。