
- ハラスメント報道は事実、「本当に反省している」
- STEPNは持続不可能、持続可能なブロックチェーンゲームを作る
- ゲームタイトルの開発だけでなく、ゲームプラットフォームの提供も視野に
- 米国や中国ではなく、アジアのプレーヤーにこそ勝機
創業期のディー・エヌ・エー(DeNA)にエンジニアとして参画し、2011年に代表取締役に就任した守安功氏。ネットオークションの「モバオク」やSNSの「モバゲータウン(現・Mobage)」などその後の主力事業を次々と立ち上げてきた。
だが2016年、新たな事業の柱として立ち上げたキュレーションメディア群において、薬機法違反などで記事の信頼性が問われる、いわゆる「WELQ騒動」が起こる。結果として関連するキュレーションメディアはすべて閉鎖。事業キーマンの退任や自身の減給も含めて大きな傷跡を残した。
2021年には代表を退任。次のチャレンジとして複数社の社外取締役のほか、急成長スタートアップ・タイミーの取締役に就任するも、わずか半年で「コンプライアンス規程違反の事実が認められた」として退任した。週刊文春は7月14日号において、守安氏のタイミー退任の背景に「送別会でのセクハラがあった」と報じた。
タイミー退任から約半年たった9月1日、守安氏はgumi創業者の國光宏尚氏が代表取締役CEOを務めるゲーム開発会社・Thirdverseの事業部長に就任した。すでにブロックチェーンを活用したゲームの開発に着手しており、10月18日にはKLab子会社のBLOCKSMITHとともに人気IPを活用したブロックチェーンゲーム「キャプテン翼 -RIVALS-」の年内ローンチを発表している。
タイミー退任劇の真相、コンプライアンスへの向き合い方、そしてこれから手がけるブロックチェーンゲームの可能性まで、守安氏が自ら語った。

ハラスメント報道は事実、「本当に反省している」
──2021年11月、タイミー取締役COO就任時の取材では、WELQ騒動も踏まえたガバナンスのあり方にも言及されていました。ですが半年後にタイミーを退任しています。(週刊文春で)報じられたとおり社員へのハラスメント行為があったという認識でいいのでしょうか。
はい。そうです。
──「自身の経験を若いスタートアップに伝えていく」とおっしゃっていました。今、ご自身をどう顧みていますか。
前回はタイミー、以前はWELQ騒動の際にも「コンプライアンスは大丈夫ですよね」といったことを言われました(編集部注:筆者はタイミー役員就任時に加えて、WELQ騒動の際に別媒体で守安氏を取材しており、その際のことを指している)。
僕もWELQ騒動では相当痛い目にあっているので、タイミーでも事業でのコンプライアンスについては徹底していました。ですがいかんせんお酒が大好きでして……。タイミーは若い会社です。事業も伸びていて、楽しくて──という気持ちの中で問題を起こしてしまいました。
お酒の飲み方については以前から問題もあり、欠点でもあります。これについてはもう本当に反省もしており、次は絶対にしないと思っています。飲み方で大きな失敗をしてしまった。そこに尽きます。
──Thirdverseはシリアルアントレプレナーである國光氏のスタートアップです。スタートアップや新産業への興味を引き続きお持ちでしょうか。
それはもちろんです。サービスを成長させていくことが何より楽しいので、スタートアップで事業を伸ばすことを頑張りたい。タイミーに関しては話せないこともあるのですが、(事業は)かなり成長しており、今後も伸びるはずなんです。そこに携われなくなったことには残念な思いもあります。
そんなときに國光さんに誘われて、Web3について知りました。仮想通貨取引所の口座も持っていなかったくらいで、最初は自分でも「怪しいな」とも思ったんですが、一気にトレンドが変わってきました。世界にチャレンジできるチャンスはなかなかないので、全力でバットを振っていきたいと思っています。
──ちなみにもうお酒はやめましたか。
飲んでます。
──制限はしていますか。
「記憶が飛んで訳が分からなくなる」という飲み方はやめました。あとはお酒を飲んだ量と同じだけ水を飲むなどを徹底しています。やはり好きなものは好きなので。
──お酒は適度に飲みつつ、コンプライアンス面はしっかりやっていく、ということですか。
事業でのコンプライアンスも、プライベートでのコンプライアンスも両方しっかりしていきます。
──被害を受けたタイミー社員への対応は。
道義的な責任および会社(タイミー)との約束ごとがあるので、本件の内容および対応についてはお話しできません。会社と相談の上、事後については適切に対応いたしました。
STEPNは持続不可能、持続可能なブロックチェーンゲームを作る
──Thirdverseで取り組むブロックチェーンゲーム事業について教えてください。先ほど語っていたWeb3について「怪しい」という考え方から「事業をやる」と変わったきっかけは何なのでしょうか。
明確に2点です。1点目はある種のブームを感じたからです。「Web3の定義が何なのか」ということ自体については、僕は結構あいまいだと思っていて、何か神学論争のような主張をしたいわけではありません。
ですがWeb2の時の経験も踏まえて言うと、一定以上のブームになってくるとそこにお金が集まってきます。メディアも取り上げようとなるし、人材も入ってきて、ある種成功しやすくなるというか。そんなムーブメントが2021年の暮れごろから起きていると感じています。
またWeb3と言っても、その事業のすべてが成功するわけではなく、かなりのものは死んでいくと思います。ですが中にはビッグになり、世の中に影響力を与えられるものも出てくるんだろうなと思っています。
僕も以前はビットコインも持っていなかったし、取引所へのユーザー登録すらしていませんでしたが、まずは「STEPN」(NFTスニーカーを入手し、歩いて移動することで仮想通貨を入手できるゲームアプリ)で靴を買ったんですよ。当時はトークンの価格が一番高かった時期なんですが、ゲーム性を絡めながら稼ぐ(Play to Earnの)体験は初めてで、これは「来る」だろうとなりました。
この2点から(ブロックチェーンゲームは)料理のしがいがあると思えたのが、Thirdverseにジョインしたきっかけです。
──「●● to Earn(「Play to Earn」がゲームをしながら稼ぐことを意味するように、何かしらの行動、作業をしてトークンを稼ぐタイプのサービスのこと)」というところに興味を持ったのでしょうか。
STEPNも少しやれば分かるんですけれども、これは明らかに持続可能(なサービス)ではないんです。「みんなが稼ぐ」なんて成り立つわけがないので。
ではそうならば、どうやって持続可能なサービスにしていくべきでしょうか。ゲーム性もあればトークンのエコノミクス的な設計も必要です。いろんな分析をしながらポイントを消費させることを考えたり、持続可能なサービスにするために必要なものがあります。
そこはソシャゲ(ソーシャルゲーム)に似ており、これまでの経験も生きます。そしてサービスはいきなりグローバル。僕も世界をとれるサービスにチャレンジしたいと思っています。
──Mobageでの経験で、「持続可能なブロックチェーンゲーム」が作れると。
もちろん「こうやったら絶対成功する」という答えはありません。ですが、すでにいろんなアイデアがあって、かなりの数のゲームを出していく予定です。
その中にはうまくいくものもあれば、うまくいかないものもあると思います。ですが試行錯誤、トライアンドエラーを繰り返すことで、どうすれば「トークノミクス(トークンによる経済圏)」が持続可能なのかを見つけていくことができると思います。
──STEPNのような今リリースされているブロックチェーンゲームと、Thirdverseで手がけるゲームの明確な差はあるのでしょうか。
今出ているモノ(ブロックチェーンを活用したゲーム)のすべてがどうとは言えませんが、少なくとも「みんながもうかる」というのはないんです。当たり前なんですけど。それは持続可能じゃない。
であれば、最初はもうかるけれどもそのうち消費する人が増えてくるのか、最初からゼロサムゲームになるのか──成功のパターンは1つではないと思うのですが、その辺りの経済バランスをどう取るかがカギになると思います。そこはいくつか試していきたいと思っています。
──ブロックチェーンゲームにおいて「to Earn(稼ぐ)」という要素はどの程度重要なんでしょうか。
これは現在と5年後で大きく変わります。少なくとも今スマホゲームではなくブロックチェーンゲームをやる理由は、「稼げる、稼げそう」という人が大半だと思います。その層に対してどう向き合うのかは非常に重要です。「面白いからみんなが遊んでくれる」というような簡単なものではなくて、「どう稼げるのか」というところが大事になります。
ですがユーザーは何も1つのモチベーションだけでゲームをやるわけじゃないんです。最初は「稼げそう」とゲームに入りながら、「あれ、これ面白いじゃん。もっとプレイしていこう」となる。あるいは「稼げないけれどもコミュニティで賞賛されるからプレイしよう」ということにもなると思います。どうやって「稼ぐ」以外のモチベーションを設計して、全体として持続可能なサービスにしていくのかが重要だと思ってます。
ゲームタイトルの開発だけでなく、ゲームプラットフォームの提供も視野に
──開発中のゲームについて教えてください。ターゲットや言語圏などをどう考えていますか。
すでに10本くらいのゲームを開発しています。「石橋を叩いて渡る」というよりは、「行くぞ!」という思いで一気にやっていきます。具体的にはまだ企画中のものもありますが、2023年末くらいまでには、10本超のタイトルを世の中に出していきたいなと思ってます。
その中には当然英語だけでやるものもあれば、日本語だけのものも出てくるでしょう。ゲームごとに最適なもの(ターゲット)を選んでいく方針です。
もちろん「一発必中」という開発会社もあると思いますが、Mobageでもモバゲータウンの最初に5本のタイトルを出して、(後にヒット作となる)『怪盗ロワイヤル』が出ました。その成功体験をふまえても、「数」がないといろんなチャレンジができません。その中から成功するものが生まれると思います。
──開発環境で見た、ソシャゲとの違いは。
なるだけソシャゲ的なイメージで作っていきたいとは考えています。とは言えソシャゲって最初のうちは「エンジニアと企画1人が3カ月で作る」みたいにやっていたのが、今では「開発期間3年、費用10億円以上」というところまで大きくなっています。
それでいうとThirdverseでは(1本の開発費用を)1〜2億円程度で考えています。世界に出ていくということで、バーンレート(消費するコスト)は高めに引いています。社員はすでに100人体制。シンガポールと北米にも開発拠点があります。
この体制は僕からしても魅力的です。やはり世界をとるためにやっているので、勝負するときには勝負をして、資金調達についてもその都度考えています。世界にチャレンジして、大きくバットを振る。そこについては國光さんと合意してやっています。
──守安さんの役割はブロックチェーンゲーム開発の責任者ということでいいんでしょうか。
ゲームのパブリッシングというのが1つの大きな柱なんですが、もう1つ──これは自分のこだわりでもあるのですが──いわゆるプラットフォーム的な事業もやっていきたいと考えています。
チェーンがどうだ、デバイスがどうだというところには正直そこまでの興味はありません。ですが、その上に乗ってくるアプリ、サービスのレイヤーでのプラットフォーム、まさにMobageのようなものが成り立つのではないかと思っています。
Web2で言うと、AppleとGoogleが強すぎて、ハードそのものからストアまで完全に押さえられてしまい、悔しい思いをしました。
(DeNA時代に)ngmoco(米国発のソーシャルゲームプラットフォーム)を300億円で買収して、500億円の赤字を出してしまいました(編集注:DeNAの2020年3月期第3四半期決算で493億円の減損損失を計上した。そのうちngmocoののれん償却は約400億円)。日本ではモバゲータウンの成功体験があったので、世界でもゲームプラットフォームを取るのがねらいいでした。「ゲーム(開発)会社」になりたいわけではなくて、「ゲームプラットフォーム」になりたかったのです。
ですが「時すでに遅し」でした。特にAppleとはいろいろと戦ったのですが、レギュレーションがどんどん厳しくなってきて、プラットフォームとしてゲーム事業ができる見込みがなくなってきて諦めました。
今のブロックチェーンゲーム事業ではまだそこまで強い、ユーザーの面を取ったプラットフォームになりそうなものがないと思っています。ではそこにウォレット勢がやって来るのか、チェーンを押さえている人たちが来るのかというのはありますが、まだ決まったかたちではないので、そこに非常に可能性を感じています。
──現状、ウォレット1つ使いこなすのも難しい人は多そうです。
そうですね。僕もこの春から使い始めたところですが、チェーンもウォレットも今は面倒なんです。
ですが逆に言うとすごいチャンスでもあると思っています。こんなに面倒な状況でもたくさんのユーザーが使っている。法律や技術面は整ってくるはずなので、利便性が上がれば「どこのチェーンか」なんて気にしなくなってくると思います。その上でユーザーが普通に使うサービスとして一番というか、そういうサービスを提供していこうかと。
──ブロックチェーンゲームのマネタイズ手段について教えてください。
1つはアイテムを売るとか(トークンの)プレセール的なものです。そしてもう1つはゲーム内にマーケットプレイスを用意して、ユーザー間取引の手数料を持っていくことです。この2つを併存させることになるのではないでしょうか。これまでのゲーム(ソシャゲ)に比べると、マネタイズポイント自体はかなり多く、そこに苦労するとは考えていません。
逆に言うと、ユーザー側のマネタイズも、我々のマネタイズも含めた消費と稼ぎの全体バランスの設計、これが非常に重要になります。
──ソシャゲでは過度な課金への批判もありました。ブロックチェーンゲームではその点をどう考えていますか。
複数の視点があると思います。まず、ユーザー自身が理解をしてお金を払ってる分には、そこまで非難されるべきものはないと思ってます。例えば、ゲームに100万円つぎ込んだという事象があったとして、ゲームをしていない人からすれば批判はあるかも知れませんが、ユーザー自身が理解した上でお金を払うことは、何ら悪いこととも思いません。
ところがブロックチェーンゲームであれば、トークンが下落するとみんなが思ったのと違う動きになってしまいます。これがどこまで制御可能なのか、またユーザーの理解がどうなるかも含めて考えないといけません。トークンの価値が動かないと思っていたり、そういう約束のもとで買ったのであればそれは詐欺に近い話です。
もちろん運営側としてはそうならないようにしますが、保証をするのは難しいですし、色々と失敗しながらノウハウをためていくことになると思っています。我々が意図しないかたちでトークンの価格が下がることはあり得ます。そこでのユーザーコミュニケーションをどう取るかは考えないといけません。
またソシャゲでは、未成年が親のクレジットカードを使って課金をしたことなども大きな社会問題になりました。ブロックチェーンゲームでは近い将来それが起こるのはないのではないかと思っています。(未成年の利用に関しては)規約もしっかり決めていきます。
──ソシャゲであれば事業者が横並びで業界団体を作って自主規制をしていました。そういった取り組みもまだ難しそうに見えます。
JASGA(一般社団法人ソーシャルゲーム協会。2014年にCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)と合併)ですね。日本国内だけを見た場合には作りやすいですし、業界団体もあります。ですが、その日本だけを見てると明らかに(市場、ユーザーは)小さいし、世界標準とは違うんです。
ソシャゲやスマホゲームのときに何が起こったのかというと、国内の事業者は自らのガイドラインを守っていたのですが、海外の事業者はそれを守らないということでした。確かに日本でどうやっていくのかという話もありますが、どちらかと言えばグローバルでどういうプレーヤーがいて、そこでどう振る舞うかの方が重要だと思います。
──Web2の時代には、日本の事業者がガイドラインにのっとりゲームを作っていたら、海外勢にプラットフォームまでを握られてしまったということでしょうか。Web3ではどんな戦い方が求められますか。
日本には「法律はあるんだけれども、テクノロジーを意識していない時代に作られたものなので、今その当てはめ方が分からない」ということが散見されていると思います。そういうものすべてが「“白”ではないとやってはいけない」となると難しい。
海外でも国によって違うんですが、例えば「ルールが決まっていないところはみんながやってみて、問題が起きて線引きをする」というケースもあります。それが日本だと縮こまってしまうところはあります。法整備や世の中の慣習が整備されていない中で戦うのは非常に難しいところがあると思っています(編集部注:Thirdverseは海外法人を持っているが、税務上の観点などからシンガポールにある開発子会社・SWORD PTE. LTD.からゲームを提供することも計画する。冒頭で紹介したキャプテン翼のゲームもSWORDから提供する予定)。
米国や中国ではなく、アジアのプレーヤーにこそ勝機
──グローバル展開で注目する地域などはあるんでしょうか。
世界におけるブロックチェーンゲームのパワーバランスで注目している点はいくつかあります。
今中国は完全に動けません。人口もマーケットもあるんですが、(規制で)Web3の事業自体ができません。海外に出てやっている会社はありますが、表立っては動きづらい状況です。
また欧米では「Play to Earn」の概念が“ザ・ゲーマー”とも言えるコアなゲームファン層から批判されているので、大手ゲーム会社は二の足を踏んでいます。
(DeNAで)ガラケーから始めて、ブラウザゲームをやっていて、(スマートフォンの)アプリをやるとなった時、ブラウザの資産があるんでアプリの世界に行きづらかったんです。(ファンを抱えるゲーム会社も)同じようにブロックチェーンゲームをやるサンクコストがある。つまり守るべきものがある中での戦いになります。
自分たちのお客さんが「(ブロックチェーンゲームを)やってくれるな」と言っているうちは、挑戦できないところがあるんじゃないかと思っています。
「地政学的」とまで言えるかは分かりませんが、中国と米国がやりづらい中だからこそ、我々アジアのプレーヤーにはチャンスがあると思っています。
──グローバルに出るほどにコンプライアンスを守ることも求められると思います。そのあたりは大丈夫でしょうか。
それはもう、はい。
取材後、Thirdverseのコンプライアンス遵守に向けた取り組みについて確認したところ、代表取締役CEOの國光宏尚氏が以下のように回答した
「VR/Web3事業でグローバル展開を強化していく中で、グローバルでのコンプライアンス意識の向上は今まで以上に重要であり、僕を含めて管理職以上は研修を受講しています。
例えば事業視点でいうと、ゲーム内のアバターの人種や見た目の選定にも気をつけないといけないと思っています。また社員が100人を超え、より多国籍になり、かつ若者も増えてきたということもあり、個の意識も改めていく必要があると感じています」(國光氏)
