• ビジネスと社会課題の解決、なぜ二者択一になるのか
  • 社会課題の解決、長くかかるからこそ多様な資金調達手段が必要

「社会課題の解決」と「企業としての持続可能な成長」の両立を目指すスタートアップを指す「インパクトスタートアップ」。グローバルでは2022年第1四半期時点で179社のユニコーン企業が誕生している領域だ。

そのうち40%は2021年以降にユニコーン企業となっており、その成長は今まさに加速している状況。最近になって日本展開を本格化したばかりのフランス発スタートアップ・BackMarketなどもその1社だ。

そんなインパクトスタートアップを日本でも一層盛り上げ、エコシステムの強化を目指すべく、業界団体「インパクトスタートアップ協会(ISA)」が設立された。発起人・幹事社となるのは五常・アンド・カンパニー、ユニファ、ライフイズテック、READYFOR、ヘラルボニーのスタートアップ5社。そのほか正会員として18社のスタートアップが参画する。

今後は知見の共有やエコシステム形成に向けた勉強会の実施のほか、政策提言や議員・行政組織との連携、メディアでの発信強化などを予定する。

ビジネスと社会課題の解決、なぜ二者択一になるのか

10月14日に開催した設立発表会には、自民党デジタル社会推進本部長・スタートアップ議連会長の平井卓也衆院議員が登壇したほか、平将明氏、今枝宗一郎氏らスタートアップ・デジタル施策を推す自民党の衆議院議員らも参加。さらには岸田文雄・内閣総理大臣がビデオメッセージを寄せるなどした。

ISAでは今後、B-Corp(B Corporation。米国のNPO団体「B-Lab」が考案した、社会性・公益性の高い企業を評価する民間認証制度。国内スタートアップではライフイズテックやファーメンステーションなどが取得している)の日本版となる認証制度の立ち上げなども進める。

発表会に参加した関係者によると、ISA立ち上げの旗振り役となったのはREADYFOR代表取締役CEOの米良はるか氏だという。米良氏は岸田内閣の「新しい資本主義実現会議」にも有識者として参画している。発表会の冒頭、米良氏は次のように語った。

私がREADYFORを立ち上げたのは2011年。この事業をスタートする前に「クラウドファンディングで社会課題を解決したい」と言って投資家を回ったんですけれども、その際にこう言われたんです。「ビジネスというのはもうけのためにあるんだ」「社会課題を解決したいのであれば、それはビジネスじゃなくてボランティアや NPOでやればいいのではないか」と。

私はその言葉を聞いて、世の中の課題を解決するということこそがビジネスになり得るんじゃないかと思ったんです。なんで二者択一なんだろうかということをすごく不思議に思って、この10年間やってきました。

でもそこから10年経った今、あの時の私のように社会課題の解決とビジネスを両立してやっていきたいという起業家や若者が本当に増えてきていると思っています。

投資家サイドもESG投資だったり、インパクト投資だったり、新たな潮流が生まれてきていると思います。儲けだけじゃなくて、社会的なインパクトも含めて会社の価値を評価する時代に変わってきてるんじゃないかなと思います。

今はその過渡期。過渡期だからこそ、投資をする側の皆さんも「投資したいんだけど、そういう企業がどこにあるのかわからない」ということもあります。起業家サイドも「何をすればインパクトが評価されるのか」というのがまだ分からないという状況なんじゃないかなと。

ISAでは、社会課題をビジネスの力で解決するスタートアップが集まっていて、事業成長と社会性を両立するための工夫の共有であったり、具体的なインパクトの可視化のやり方だったり、 B Corpなど社会的企業としての認証の取得のノウハウの共有、インパクト投資家との出会いの場を作ることでエコシステムに貢献していきたいと思っています。

日本は高齢化など、「社会課題の先進国」と言われています。この日本だからこそ、世界と比べてインパクトスタートアップが成長する土壌があるのではないか。民間の力で社会課題を解決して社会コストを下げることと、経済的な貢献を果たすことで、国を豊かにすることができるのではないかと私は信じています。

社会課題の解決、長くかかるからこそ多様な資金調達手段が必要

気になったのは、質疑応答で筆者が投げた質問への回答だ。登壇した幹事社4社(五常・アンド・カンパニーは会見不参加)に「インパクトスタートアップにとっての喫緊の課題を教えて欲しい」と質問したところ、表現こそ違えど4社とも「課題は『VC』」という内容を含んでいたのだ。一体どういうことか。

インパクトスタートアップは社会課題の解決と会社としての成長、つまりは利益という“二兎”を追わなければいけない。結果として短期的に急激な成長や大きな売り上げを目指す事業ではなく、時間をかけて少しずつ価値を築く事業を選ぶことになる。READYFORはサービス開始からすでに11年。ライフイズテックも創業から12年かけて、社会にその価値を届けてきた。

一方で、VCが手がけるファンドの運営期間は長くても10年程度が一般的だ。多くは最初の数年で投資を行い、その後は投資先スタートアップの成長を支援しつつ、ファンド運営期間が終了するまでに投資した資金を回収する必要がある。そのため早ければ3〜5年でのイグジット(IPOやM&Aなどの出口戦略)を目指さざるを得ない。ファンドの運営期間が終了する際には、投資資金を回収するため、イグジットしていないスタートアップの株式の売却なども求められる。

もちろん4社はVCを非難して「課題」として挙げたわけではない。だが少なくともインパクトスタートアップと、既存のVC投資では求められるスピードや必要な時間に差があることが浮き彫りになったかたちだ。

ではインパクトスタートアップにはどんな投資家が求められるのか。米良氏は「アメリカだと財団などが、長期間で投資をしていくこともある。インパクトスタートアップは(イグジットまで)長くかかるからこそ、多様な資金調達の手段というものをもっともっと与えていかなければ、本当の課題解決ができない。多様な資金調達のためにいろんな金融セクターの皆さんに入っていただいて、エコシステムを作る必要があると考えています」と語る。

ライフイズテック代表取締役の水野雄介氏は自らの株主である、化粧品大手・ファンケル創業者の池森賢二氏の投資を例に挙げる。池森氏は2018年に池森ベンチャーサポート合同会社を立ち上げてスタートアップなどに投資をしているが、同ファンドの運用期間は40年なのだという。池森氏は現在85歳。「ちゃんと返せ、リターンを出せというメッセージはありますが、『自分(池森氏自身)に返せ』ということではない」(水野氏)

またユニファ取締役CFOの星直人氏はインパクトファンド(インパクトスタートアップへの投資に特化したファンド)の増加も重要だと説いた。会見後追加で話を聞いたところ、日本でスタートアップ株式のセカンダリーマーケットが活性化することもインパクトスタートアップ成長の鍵になるとも語った。あるVCファンドが終了しても、成長可能性のあるスタートアップであれば別のファンドが株式を買い取って支援を続け、長期間のスタートアップ育成が実現するのではないかということだ。

こういった声に対してVCはどう考えるのか。あるキャピタリストは「最近は少しずつではあるが運用期間の長いファンドも増えてきている」と説明。また同時にインパクト投資特化のファンドをはじめとして、VC投資に限らず、より幅広い資金調達手段が必要だとも語った。多様なスタートアップが生まれ、育ちつつある今、投資家にも多様性が求められはじめている。