
- キックボードのような立ち乗り電動バイク クラウドファンディング通じて5000万円以上の購入
- 「次世代を代表するモビリティづくり」 その第一歩としての電動バイク
- クラウドファンディングは 「ファンに思いを届けられる場所」
- 「日常の中の非日常」な製品が注目される アフターコロナの世界
クラウドファンディングサービス「Makuake」で“応援販売”を開始した和歌山発電動バイクベンチャー・glafitの立ち乗り電動バイクが話題だ。プロジェクト開始から5日で、5000万円以上の売り上げを記録した。既存のモビリティとは一線を画す乗車体験やファンの共感を生んだ広報施策について、代表に聞いた。(ライター・編集 野口直希、ダイヤモンド編集部 岩本有平)
キックボードのような立ち乗り電動バイク
クラウドファンディング通じて5000万円以上の購入
クラウドファンディングサービスで自社開発の電動バイクを発表し、1億2800万円の資金を集めたことで話題を集めた和歌山県発のベンチャー企業、glafit。同社が新たなモデルの電動バイク「X-Scooter LOM」(クロススクーターロム、以下LOM)のクラウドファンディングを「Makuake」にて開始した。プロジェクト公開から3日で、すでに5000万円以上の資金を調達している。
LOMは、立ち乗りタイプの電動バイクだ。 キックボードやスクーターを思わせる形状のLOMだが、そのスペック、そして乗り心地はいずれのモビリティとも異なる。バッテリーを使用した電動式で、1回の充電で約40キロメートルの運転が可能だ(大容量バッテリーもオプションとして用意する)。時速は25キロメートル以上、約25キロメートル、約10キロメートルの3段階に変更できる。Panasonic製のバッテリーマネジメントシステムを採用し、ユーザーの乗り方や体重、用途を学習することで、バッテリー残量や航続可能距離をスマートフォンアプリで確認できるようになる予定だ。
前輪12インチ、後輪10インチと大径のタイヤを採用しており、デコボコ道を走ることができる。また、車体は自転車のように180度近く旋回する。本体重量は14キログラムで、ハンドル部分は折りたたみ可能なので、車に積んだり、職場のロッカーに収納したりもできる。100キログラムまでの荷物を牽引できるので、サーフボードの持ち運びなどにも便利だ。価格は13万6000円(税別)だが、現在は台数を限定して割引販売を行っている。
法律上は第⼀種原動機付⾃転⾞(原付)にあたるため歩道での走行はできないが、毎日の通勤やキャンプ場内の移動、旅行先に持ち運んで現地でのツーリングを楽しむなど、多様なシーンで活躍してくれるだろう。筆者も発表前に試乗する機会を得たのでその感想を伝えると、低速モードでは徒歩か早足で歩くのとあまり変わりない印象であるものの、高速モード(試乗機では時速25キロに設定されていた)では、立ったまま、つまり日常生活と同じ目線の高さのままで風を切って走ることが、今までにない爽快な体験だった。全身で風を受けるため、実際の速度よりも速いように感じるくらいだった。
こうした乗り心地を実現するために、LOMの開発には2年以上の構想期間を費やしている。既存モビリティの研究を重ね、10台近くの開発案が検討された結果、実現したのが現在の形状だという。
「開発時には、『キックボードのような体の軸を使った旋回』『マウンテンバイクのようなオフロードで対応』『スケートボードのような安定したステップの乗り心地』など、あらゆるモビリティの乗車体験を抽出しました。LOMは、それら全てを実現できるように目指したプロダクトです」(glafit代表取締役社長の鳴海禎造氏)
「次世代を代表するモビリティづくり」
その第一歩としての電動バイク
glafitの創業は2017年。ペダルを漕いで走行する「自転車モード」と電動バッテリーで走行する「バイクモード」を搭載した電動ハイブリッドバイク「GFR-01(以下、GFR)」がクラウドファンディングサービスでヒットして話題になった和歌山県発のベンチャーだ。
だが、彼らは初めから電動バイクを開発していたわけではない。鳴海氏が最初に立ち上げた企業は、和歌山県でカー用品を販売するFINE TRADING JAPAN。同社のオリジナル製品ブランドの名前がglafitだった。ブランド設立にあたり、鳴海氏は「次の世代を代表するモビリティをつくる存在になること」というビジョンを打ち出した。
「もちろん、私たちのような小さな組織がすぐにこのビジョンを実現するのは不可能でしょう。ですが、これからは電気自動車の普及などでモビリティのあり方が大きく変わり、業界構造も再編されるはず。いまから未来を見据えたモビリティを開発していけば、長期的には壮大なビジョンも実現できると考えています」(鳴海氏)
その足がかりとして開発されたのが、GFRだ。冒頭にもあるとおり、2017年に開始したクラウドファンディングでは1億2800万円を集め、当時の支援販売額日本一を記録。その後はオートバックスなどでの一般販売も開始し、すでに5000台以上を売り上げている。
鳴海氏はGFRのヒットを機にglafitを分社化し、2019年にはヤマハ発動機などから資金調達も実施し、現在に至る。LOMは、そんなglafitが展開する2台目のモビリティだ。今後はGFRとの併売を行う。
「LOMはGFRの後継機種ではなく、モビリティのバリエーションを広げる製品です。1つ1つの製品が、私たちのビジョンを実現するための歩みだと思っています」(鳴海氏)
筆者はLOMとあわせて製品版のGFRも試乗している。GFRが自転車の延長線上にある“普段使い”のモビリティであるのに対して、LOMはその爽快感や体感スピードから “レジャー”用という印象が強い。こういったさまざまな性質のモビリティを提供することで、ビジョンの実現を目指すのだという。
クラウドファンディングは
「ファンに思いを届けられる場所」
鳴海氏は、カー用品企業のオリジナル製品であるGFRがここまで話題を集めた理由を、クラウドファンディングサービスを利用したことにあったと振り返る。資金集めの側面が注目されがちなクラウドファンディングだが、glafitでは当初から広報を目的として活用していたそうだ。
「楽天での先行販売なども想定しましたが、クラウドファンディングサービスにはglafitの想定ユーザーである『モビリティに感動を求めている人々』が多くいらっしゃいました。こうした人々に対して着実に周知できたことは、大きな成果です」(鳴海氏)
また、クラウドファンディングの利用者は、プロダクトの紹介ページをしっかり読み込んでくれる傾向にあるという。開発背景や商品への思いに共感したファンを多く生んだことも、GFRの人気につながっている。LOMの先行販売先も、GFRでも利用したクラウドファンディングサービスMakuakeを選んだ。
ただし、 LOMのクラウドファンディングはこれが初めてではない。日本に先駆けて、2月からアメリカの「Kickstarter」でもプロジェクトを開始していたのだ。こちらは新型コロナウィルスの感染拡大による情勢の変化で中止になってしまったが、LOMを海外にも発信していこうという意志の表明でもある。
「LOMの乗車体験は、世界中でも唯一無二になるはず。ものづくり系のプロジェクトが盛んなクラウドファンディングとして、Kickstarterを選びました。また、日本では原付に区分されるため免許やヘルメットが必須ですが、海外ではこうした制約もありません。体制が整い次第、アメリカとフランスでの展開を進めるつもりです」(鳴海氏)
一方で、日本でのより自由なモビリティの利用を目指した取り組みも推進中だ。2019年11月、glafitはモビリティ分野で初となる「新技術等実証制度」(いわゆる「規制のサンドボックス制度」)の認定を取得。和歌山市と共同で車道以外での走行を視野に入れた公道実証や、シェアモビリティの実証実験を行っている。
「現状でも十分活用できるが、原付としての制限がなくなればより幅広いシーンで利用してもらえるはず」と話すように、より多くの人にモビリティを楽しんでもらうことがその目的だ。
「日常の中の非日常」な製品が注目される
アフターコロナの世界
glafitにとっても、新型コロナウィルスの流行による損失は決して少なくない。GFRの主な販売先である東京の実店舗の売り上げは大きく減少している。しかし、「電動バイクへの注目はむしろ高まっている」と鳴海氏は考える。
最近は公共交通機関に頼らない移動手段として電動バイクに興味を持つ人も多く、Uber eatsの配達にGFRを利用しているユーザーもいるという。前述のとおり実店舗の売り上げは減少したが、オンラインストアでの販売だけを見れば、4月の売り上げは前月比200%を達成している。
ポジティブな知らせばかりではないが、コロナ禍でのLOMの予約販売開始を「時期が悪いとは捉えていない」と鳴海氏。やがて国内の感染が鎮静化して国内旅行が盛んになれば、旅先での貸し出しが盛んになる上に、長期的にもマイクロモビリティへの注目度は高まると予想するからだ。
「リモートワークが増え、人が集まるイベントが開催されづらくなったアフターコロナの世界では、人々は日常の中で味わえる『ちょっとした非日常』を求めるのではないでしょうか。そんなとき、LOMが提供する特別な移動体験はきっとかけがえのないものになるはず。
LOMに続く新たなモビリティの準備も進めています。少しでも早くglafitワールドを拡大して、より多くの人々に移動を楽しんでもらいたいです」(鳴海氏)