Photo by Luis Villasmil on Unsplash
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  • 今すぐ声をかけよう
  • CxO採用を成功へ導く4つの考え
  • たとえば新しい役割を用意してみる
  • 持てるリソースは最大限活用すること
  • フェアな候補者アサインを

本連載は元メルカリ・現LayerXでHRを担い、スタートアップにおける人事採用経験が豊富な石黒卓弥氏が自身の“採用論”について語っていきます。第5回目は、CxOの採用についてです。

組織の基盤を整えるため、組織の拡大を図るため──会社によって目的はさまざまですが、組織において重要な役割を担う「CxO」(編集部注:CxOはChief x Officer、CEOやCFOなど、何かしらの業務の責任者を指す言葉)を採用したいと考えているスタートアップは多いのではないでしょうか。実際、私のもとにも「どうしたらCxOポジションの人材を採用できるのでしょうか?」といった相談がよく来ます。

一口にCxOと言っても期待されている役割や権限については、会社のフェーズや規模によってさまざまです。では、どうすれば自社と共に成長していけるCxOを採用できるのでしょうか。今回はスタートアップにおけるCxOの採用について考えていきます。

なお、「CxOやVP of XX」などのタイトル呼称の違いなどについても相談をお受けすることがありますが、今回はあくまで「CxOのような採用が難しいポジションにどう対応するか」を中心にお話させていただきます。

今すぐ声をかけよう

CxOを採用するにあたって、「●●さんのようなCxO」にこだわりすぎて視野が狭くなってしまうのは厳しいパターンです。

よく「サイバーエージェント曽山さん(常務執行役員CHOの曽山哲人氏)のようなCHROが欲しい」「メルカリ(現:鹿島アントラーズFC)小泉さん(メルカリ取締役会長兼鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長の小泉文明氏)のようなCFOを採用したい」といった声を聞くことがあります。

はっきり言って、同じような人はほぼいません。「●●さんのような人」という考えを持つことは否定しませんが、まずは視野を広げることから始めましょう。

現実を知った上で取り組むべきは、とにかく「早いタイミングで声をかけること」です。どんなに優秀な人でも、どんなに可能性が低い人でも、声をかけなければ何も始まりません。声をかけたからといってすぐに採用できるわけではありませんが、まずCxOとして迎えたい人たちのキャリアの選択肢、もっと言えば自分たちの社名を覚えてもらうためにも声はかけておきたいです。

また声をかける上で大事なのが、大まかでもいいので役割を整理しておくことです。ここ最近で役割の整理や周知の仕方が見事だと感じたのは、delyのCTO・大竹雅登さんのnote「『クラシル』のCTO、譲ります。」ですね。

大竹さんは2017年にCTOをたたえるアワードである「CTO of the year」を受賞していることもあり、業界内では「dely=大竹CTOがいる会社」というイメージが定着しており一般的には「自分が入社しても出番はなさそう」と思われることもあるでしょう。例えば、経験豊富なリードエンジニアで「次のキャリアではCTOを目指したい」と思っている人のキャリアの選択肢からdelyが外れていた可能性もあるでしょう。

そこで大竹さんが「私は新規事業にコミットしたいので、CTOのポジションを誰かに渡したい」と発信したのです。そうすることで「delyのCTOポジションが空きます」という周知ができました。同時に、キャリアアップを考える社内メンバーに対しても良いメッセージになったという点でも、本件はグッドアクションだったように見えました。

CxO採用を成功へ導く4つの考え

もう少し噛み砕いて説明していきます。CxOを採用する上で大切な考え方は4つあります。

1つ目は、役員陣たちが「次のキーパーソンを採用し続ける」というマインドを強く持つことです。そのために人事担当者は「経営会議で採用の話をしていますか?」「トップハイヤリングのリストアップをしていますか?」と役員陣に声をかけていくことが求められます。

LayerXではCTOの松本(松本勇気氏)を中心に「18カ月後の組織を考える」とよく口にしています。直近の数カ月ではなく、1年半先を見据えて「この事業が売上◯◯円の規模に成長したら、こういうポジションの人が必要だよね」と、組織の成長に合わせて必要となるポジションをを検討していくのです。戦略上、社外にオープンにできないポジションであれば、エグゼクティブ層に強いエージェントに相談したり、ある程度具体的な候補者に目星がついているのであればSNS等で直接アプローチしたりしてもいいと思います。

2つ目は、「創業期と同じ熱量で採用する」ことです。例えば、創業のタイミングにCTOが採用したかったら、血眼になって探すと思います。組織が少し成長した今でも、その熱量で採用活動できているでしょうか? 当時と同じくらいの熱量がなければCxO候補の採用は難しいでしょう。

3つ目は、「あの人は来ないよね」という先入観で判断しないことです。実はこれが非常に大きいと思っています。特に人事担当は変に天井を設けず、いい意味で空気を読まずにどんどん採用したい人の名前を出していくべきです。また、社内のメンバーからそうした名前が出るように空気感を醸成することも必要でしょう。そうすることで、私はメルカリ時代に「あの人がまさか」という場面を何度も目の当たりにしてきました。

例えば、メルペイを立ち上げ、CEOを務められた青柳直樹さん(現在はメルカリグループ日本事業責任者)もそうです。2017年のタイミングで青柳さんがメルカリグループ(メルペイ)へ行くと思った人はどのくらいいたでしょうか(編集部注:青柳氏は2016年までグリーの取締役CFOなどを務めた)。どれだけ経験豊富な人であっても、声をかけられて嫌な気持ちになる人はいません。ですから、究極的には「え? なんで当社に来ないの?」というくらいの気持ちを持つことが大切です。熱心なアプローチはいつか届くという信念を持ちましょう。

4つ目は、3つ目と重複する部分もあるかもしれませんが、しつこさです。例えば時間はかかっても、何人もの役員に会ってもらう。よく人事担当者は「役員に動いてもらうなんて申し訳ない」と言いますが、遠慮する必要は一切ありません。当たり前ですが、事業の解像度が高く、事業の未来を語ることができる役員陣は採用する上で大きな武器になります。

長い時間をかけてでも惜しみなく社内の武器を出し続けることは効果的ですし、かなりの差別化につながると思います。経営陣の中で採用のプライオリティを上げることにもつながります。

また、選考に進んだ末に辞退されたとしても「これで終わりではないので数年後にまた連絡します」や「次はぜひ当社でお願いします」と声をかけておくのも良いでしょう。実際、数年後に「あのときの約束です」とメッセージすると、再度検討していただけることがあります。

たとえば新しい役割を用意してみる

経験豊富な人たちを迎え入れる上で有効な方法のひとつが、新しい役割を定義していくことです。スタートアップの人事担当者から「◯◯さんを採用したいんですが、うちより何倍ものサイズの会社でCTOをやっていて。『ぜひCTOとして!』と口説いても物足りないと思われませんか?」と相談を受けることがあります。

単純に「CTOが必要だから他の会社のCTOを迎え入れる」のではなく、COOやCMOといった新しいポストを用意する事を考えたいです。人間は新しい役割にはワクワクするものなので、テクノロジーに強いCOOやCMOがいても面白いと思います。

私自身、前職では明確に人事の役割だったので、LayerXへ入社するにあたって「広報の役割も担ってほしい」と言われたときは純粋にワクワクしました。新しい役割を定義・提案することで、採用したい人のチャレンジ精神を引き出すのは非常に面白いと思います。

ただ、人には当然ですが向き、不向きがあります。いくら採用できたとしても会社とのマッチングは別物。お互いのフィット感を確認するために「一定期間を一緒に働く」か「リファレンスチェックを活用する」など、双方が確認できるような機会を選択肢として持っておきたいです。

リファラルであれば「あの人はよく知っているから大丈夫」と安易に捉えてしまいがちですが、重い役割を任せるからこそ「2人ほど過去に一緒に働いた方で個別インタビューさせてもらえませんか?」と提案するのです。

快諾してもらえたら信用度が上がるし、逆に「え? 私だよ!? 大丈夫だよ」と言ってきたら考え直したほうがいいかもしれません。入社したら、それ以上に耳の痛いフィードバックをし合うわけですから、腹の底を探り合うのではなく本音でぶつかり合える関係を築けることが、今の時代にあっていると思います。

冒頭の話に戻りますが、この業界には肩書きだけが立派な人もいます。やけに肩書きにこだわる人もいるかも知れませんが、大前提である「一緒に働きたいと思えるか」「少しでも違和感があれば率直に話し合える関係か」などを大切にすることで本来の目的を見失わないようにしたいですね。

持てるリソースは最大限活用すること

また、「CTOを迎えたいけど、誰を採用すればいいかわからない」というケースの悩みもよく耳にします。シードやアーリーステージのスタートアップであればネットワークもないので、人の探しようもないと思います。

その際、自分がよくお伝えしているのは「とにかく株主に甘えること」です。「●●さん、知ってる人いないですか?」「いいエンジニアいないですか?」と、しつこく何百回でも聞いたほうがいい。頼れる株主であれば誰か紹介してくれますし、目星がつかなければ「うちの投資先がCTOを探しています」とSNSで拡散してくれるはずです。株主のSNSに具体的に記載できるように、役割を整理しておくと世間の関心も惹きつけやすくなります。持てるリソースはすべて駆使すること。あらゆる面で「可能性を閉じない」というのがCxO採用のキモかもしれませんね。

フェアな候補者アサインを

最後に、忘れがちですが大切な話をしたいと思います。「外部からの採用」に熱くなりがちな組織で抜け落ちてしまう視点が「社内からのアサイン」です。

前回の連載で触れたHRBPの大切な役割は、「事業成長に資する」ことです。そのポジションに誰がアサインされると事業成長の可能性が高まるのか。社外人材がまぶしく見えてしまうあまり、社内人材の可能性を限定的に見てしまうバイアスがかかりがちになってしまう話を耳にします。社外ばかりに目を向けるのではなく、複数の視点を持ち、社内外を含めてフェアな目線で重要な役割を担う「CxO」のアサインを決めていきたいですね。