『ベヨネッタ3』公式サイトのスクリーンショット
『ベヨネッタ3』公式サイトのスクリーンショット
  • 『ベヨネッタ』には658億円の商業規模がある?
  • 制作会社は莫大な利益を上げているのか?
  • 初心者でも遊べる「プレーヤーが参加できる映像作品」
  • 続編から発売元が変わった珍しいソフト『ベヨネッタ』シリーズ

10月28日発売のNintendo Switch向け新タイトル『ベヨネッタ3』。老舗ゲームレビューサイト・metacriticが発表する「メタスコア(評価指標)」は88点だった。3作目ということもあって新鮮さを感じられなくなったのか、前作『ベヨネッタ2』の92点には及ばなかったが、かなりの“高評価”と言える。

しかし発売を前に、ある人物のツイートが物議を醸すことになった。その人物とは、主役であるベヨネッタの英語版声優を務めていたヘレナ・テイラー(Hellena Taylor)氏。『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズや『マックス アナーキー』など、他ゲームへゲスト出演したベヨネッタも彼女が演じている。

彼女はツイートで、「新作に出演する報酬として、わずか4000ドル(約60万円)しか提示されなかった」と説明。そのために最新作ではベヨネッタの声優を辞退したとし、「このゲームを買うお金で、ボランティアをしましょう」と、ファンに不買運動の働きかけもした。

このツイートから2時間後、ベヨネッタシリーズの開発を行っているプラチナゲームズの取締役であり、ベヨネッタ3のエグゼクティブディレクターでもある神谷英樹氏が「虚偽の意見に触れ、悲しく嘆かわしい」とツイート。具体的な提示額が明かされぬまま、発売日を迎えることになってしまった。

しかし米・Bloomberg.comによると、4000ドルの報酬は1回の収録分であり、トータルで4~5回の収録となるため、総額では約1万5000ドル(約225万円)を提示したが断られたとのこと。テイラー氏は6桁ドル(1ドル147円換算で10万ドルで約1470万円。以後すべて1ドル147円での換算)の報酬に加えて、売上本数に応じた追加報酬を条件にしたという。テイラー氏はこの報道を否定したが、具体的な金額は明かさなかった。

『ベヨネッタ』には658億円の商業規模がある?

テイラー氏のコメントは、ベヨネッタシリーズは4億5000万ドル(658億円)規模のビジネスなので、それを考慮すると自身の演技にはもっと価値があるという主張だ。テイラー氏が何を根拠に658億円という数字を出したのかは不明だが、ここであらためて過去シリーズの販売本数をもとに、ベヨネッタの市場規模を計算してみることにしよう。

初代の『ベヨネッタ』はXbox 360用ソフトとして開発され、発売元のセガがPlayStation 3へ移植した。両ハード用のベヨネッタが発売されたのが2009年のこと。両ハード用ソフトの合計販売数は、 セガサミーホールディングスの2010年3月期決算によると135万本。日本語版の希望小売価格は7980円なので、単純に掛け算すると約107億円になる。

続編の『ベヨネッタ2』は、発売元がセガから任天堂へ変わり、Wii U専用ソフトとして2014年に発売された。任天堂は販売本数を発表していないが、家庭用ゲーム機用ソフトの販売予想で定評のあるVG Chartzのデータによると、売上本数は84万本(うち日本国内では10万本)。また、後日発売されたNintendo Switch版は「2022CESAゲーム白書」によると104万本という数字が掲載されていたため、合計すると188万本。希望小売価格の5980円を掛け算すると、約112億円。

この2作の売上を足しても219億円。テイラー氏の言う658億円には到底及ばないことから、氏の見積もりに根拠はないというのが私の推察だ。

なお、ベヨネッタ関連のコンテンツとしては、劇場版アニメ『BAYONETTA Bloody Fate』も制作されている。こちらの興行収入については加算していないものの、大勢に影響のない範囲だろう。

制作会社は莫大な利益を上げているのか?

テイラー氏がギャランティの交渉を行った相手は、ベヨネッタシリーズを制作するプラチナゲームズだ。プラチナゲームズは本当に莫大な利益を得ているのだろうか。

ベヨネッタ3の希望小売価格は7678円(税込)。このうち約30%は小売店の利益であり、小売店は問屋から5000円程度で仕入れてくる。ショップは、この30%の利益を使って値引き販売やポイント付与などの販売促進活動を行う。

次に問屋の利益は約10%なので、問屋の仕入れ値は4000円強。発売元である任天堂はゲームカードやパッケージを生産するために1000円ほどの経費がかかるため、製造原価を引いた利益は1本3000円程度。この中から宣伝広告費はもちろん、営業など任天堂関係者の人件費も支払われる。

任天堂はこの利益の中から、制作費をプラチナゲームズへ支払っている。制作費の金額や出荷本数次第では採算分岐点を下回り、赤字になってしまうリスクを抱えているのは任天堂側だ。

なおコピーライト表記は「© Nintendo © SEGA Published by Nintendo」なので、『ベヨネッタ』商標は初代『ベヨネッタ』発売元のセガが保有しており、任天堂はその商標を「使用して」新作を発売しているというかたちだ。

これらの要因を含めて考えると、プラチナゲームズは任天堂から正当な制作報酬は得ているだろうが、莫大な利益を上げているとはとても考えづらい。

初心者でも遊べる「プレーヤーが参加できる映像作品」

ここで、ベヨネッタシリーズのゲーム内容についても説明しておこう。プレーヤーが動かすのは(主に)タイトルにもなっている魔女・ベヨネッタ。彼女はタイトな衣装に身を包み、場面によっては肌の露出も増えるが、徹底して「強く、格好いい女性」として描かれているために女性ファンも多い。なお本作のCERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)レーティングはD。対象年齢17歳以上となっている。

シリーズを通してプレーヤーを「気持ち良く戦わせる」ことに主眼を置いたアクションゲームで、低難易度のモードであれば「ガチャプレー(コントローラーを適当に操作すること)」でも遊ぶことができ、“プレーヤーが関与できる3DCG映画”とも言える。もちろん操作技術が上達すれば、「より美しく」戦えるようになるという懐の深さも持っている。

この作品を開発したプラチナゲームズは、かつてカプコンで『バイオハザード』の企画を経て『バイオハザード2』『デビルメイクライ』『大神』のディレクターも務めた神谷英樹氏と、『逆転裁判』シリーズのプロデューサーを務めた稲葉敦志氏が所属する開発会社。スクウェア・エニックスから発売された『NieR:Automata』の開発も担当し、その技術力は高く評価されている。

彼らが手掛けるゲームの品質は、折り紙付きだということがご理解いただけただろうか。だがベヨネッタシリーズは最新作の発売に至るまで、ある意味での数奇な運命をたどってきている。

続編から発売元が変わった珍しいソフト『ベヨネッタ』シリーズ

ゲームの続編が発売される際に、前作と発売元が変わったゲームはなかったわけではない。しかし、ベヨネッタのように初代の発売元(セガ)が健在のまま、続編が別メーカー(任天堂)になるというケースは珍しい。

もともとプラチナゲームズはセガからの依頼で『ベヨネッタ2』を開発していたものの、セガが開発中止の判断を下したという。これは著者の想像の域を出ないが、当時はセガも、親会社から構造改革を迫られていた時期のはず。ベヨネッタ2発売から間もない2015年には、100人超の希望退職を募集していたほど経営が悪化していたタイミングだ。そのため、高額な開発費を必要とするタイトルにゴーサインを出すことに二の足を踏んでしまったのだろう。

なおベヨネッタ2の発売ハード変更に関する経緯は、プラチナゲームズの神谷英樹氏が発売直後に心情をTwitterで明かしている(以下は連続ツイートをまとめたもの)。

ベヨに関しても、セガと契約を結んで開発、それからしばらく経って続編も作ろうということになって、ベヨ2開発がスタートした。


それが、ある程度開発が進んだところで、セガの事情で「やっぱりこの計画は無しに」ということになり、一時開発が中止になって。


資金がないことには我々開発会社は開発を続けられないので、この途中まで進んだベヨ2をなんとか世に出したいと思い、いろんなパブリッシャーに話を持ち掛けるも、大きいタイトルなので中々協力会社が見つからず、ついにベヨ2は完全消滅に。


…なりかけたところで、任天堂が「それならば」と手を差し伸べてくれ、我々は念願かなって開発を再開することができ、そしてついに先週発売日を迎え、5年越しでベヨ2を世に送り出すことができた、と…


※筆者注:「大きいタイトル」=開発規模が大きく、制作費が高額

これは、ベヨネッタ2がPlayaStationやXboxシリーズでは発売されないと知ったファンによる「任天堂が金の力でベヨネッタ2を独占した」というSNS上での誤解を鎮めるためにした状況説明だ。

こうしてベヨネッタ2は任天堂が開発費を負担してWii Uで発売。後日、ベヨネッタおよびベヨネッタ2のNintendo Switch版、そして最新作であるベヨネッタ3も、任天堂が開発費を負担して作られたのだ。こんな背景を知れば、ベヨネッタシリーズが順風満帆にシリーズを重ねてきた訳ではないことが分かるだろう。

もちろん、テイラー氏が「声優という職業の、地位と報酬を向上させるため」として今回のツイートをしたという目的も理解はできる。しかし発売元変更の経緯や、10月27日発売の『週刊ファミ通』(KADOKAWA刊)に掲載されたベヨネッタ3開発陣インタビュー・神谷英樹氏の言葉を聞けば、彼女も納得してくれるのではないだろうか。

任天堂さんに救われたのがベヨネッタシリーズ。(中略)任天堂さんは作りたいもの、表現したいものを全力でサポートしてくれた。

(週刊ファミ通2022年11月10日号 No.1769より引用)

ベヨネッタ3発売日の翌日である10月29日は、奇しくも初代ベヨネッタの発売日だった。初代の発売から13年。紆余(うよ)曲折を経ながらも着実に話題や人気は大きく育ちつつある。

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