「リモートHQ」を運営するHQ代表取締役の坂本祥二氏
「リモートHQ」を運営するHQ代表取締役の坂本祥二氏

新型コロナウイルス感染症の拡大を1つのきっかけとして、日本でも急速に広がったリモートワーク。フルリモートワークや、オフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークは決して珍しいものではなくなりつつある。

働き方が変わったことで企業にとって急務となったのが「在宅勤務環境の整備」だ。オフィス家具やデスク周りの備品、インターネット環境──。社員一人ひとりの“自宅オフィス”の環境を整えることが、業務の生産性にも直結する。

こうした状況において、“在宅勤務手当の代替”を目指すリモートワーク支援プラットフォームの「リモートHQ」が注目を集めている。社員が最適な自宅オフィス環境を構築できるように支援するこのサービスは2021年11月のローンチ。現在までにスタートアップから大手上場企業まで40〜50社が導入しており、すでに数百人規模で活用している企業も複数社出てきている。

リモートHQのイメージ画像。導入企業の従業員は1000点以上のアイテムの中から、自分の状況に合わせてオフィス家具や備品を選べる
リモートHQのイメージ画像。導入企業の従業員は1000点以上のアイテムの中から、自分にあったオフィス家具や備品を選べる

もともとリモートHQは企業が「各社員にあったオフィス家具や備品を提供できる福利厚生サービス」として始まった。

サイト内ではハイエンドなオフィスチェアやデスク、モニター、ウェブ会議用のカメラ、観葉植物などリモートワークに関連した1000点以上のアイテムを掲載。導入企業の社員はあらかじめ割り当てられたポイントの範囲内で、自分にあったものを好きなように選べる仕組みだ。

通常のオフィスであれば総務担当者などが必要な備品を取り揃え、社内の勤務環境を整えていたが、リモートワークの時代には社員各自が“自宅オフィスの総務”として自ら働きやすい環境を作っていく必要がある。リモートHQでは単に豊富なアイテムを扱っているだけではなく、必要に応じて専門のコンシェルジュが個別で相談に応じることで、社員のオフィス環境整備をサポートしている。

実際の利用イメージ(リモートHQを利用する前後の様子)
実際の利用イメージ(リモートHQを利用する前後の様子)

11月からはオフィス家具や備品の提供に加えて、新たに「在宅勤務時のインターネット代金や電気代を非課税で会社負担にできる」機能が追加された。これによってリモートHQとしては本格的に「在宅勤務手当の代替」を目指していく計画だ。

運営元のHQで代表取締役を務める坂本祥二氏は、これまで多くの企業では報酬として社員に一定金額を支給する在宅勤務手当を採用することによって社員のサポートをしてきたと説明する。

たとえば一律で備品を支給する方法だと、自費で備品を購入して自宅の環境を整えていた社員が損をしてしまう状態が発生しうる。そのため公平性の観点からも、在宅勤務手当を選ぶような企業が少なくないという。

ただ、この在宅勤務手当にも課題がある。金銭支給形式だと用途が自由であるため、必ずしも企業側が本来意図していた用途で使用されるとは限らない。実際にHQが調査したところ「手当の有無と在宅環境レベルとの相関はなく、結論としては手当を支給してもしなくても(在宅環境を)整備する人はするし、しない人はしない」(坂本氏)ことがわかった。

社員に対する給与報酬扱いのため課税対象になり、社員にとっては所得税などの負担が発生し、企業にとっても社会保険料の負担につながることも大きい。在宅勤務関連費用は課税対象外になる用件が複雑なため、これが担当者にとって悩みの種にもなっているという。

リモートHQのポイントは、上述したようなオフィス家具や備品、インターネット代金、電気代などを非課税で会社負担できることにある。家具や備品についてはHQと導入企業間でレンタルするスキームを活用。インターネット代や電気代は社員が簡単な情報を入力するだけで非課税の要件を満たして経費精算ができるシステムを構築した。

リモートHQとしては今回の新機能追加を経て、在宅手当の課題の解消を目指していく
リモートHQとしては今回の新機能追加を経て、在宅手当の課題の解消を目指していく

坂本氏によると、社員が在宅勤務において必要としている会社からの支援内容としては「インターネット環境」「電気代などの光熱費」「オフィス家具」が上位にくることが多いという。

従来のリモートHQはこのうちのオフィス家具だけに対応していたものだったが、今回から他の2つにも対応できるようになったことで「ようやく在宅勤務手当を代替するソリューションに生まれ変わったと言えるようになります」と坂本氏は話す。

実際にこれまでもサービスの内容については理解してもらえるものの、インターネット代金や電気代の支払いには対応していなかったことで「在宅勤務手当を無くしてほしくない」「リモートHQよりも在宅勤務手当の方が良い」といった声があがり、導入に至らないケースもあった。

すでにそういった企業の中でも今回の新機能をきっかけに「過去に売れなかったところでも売れるようになった」(坂本氏)事例が出てきており、手応えも感じているという。

今後はパーソナライズ機能の強化など、機能面をさらに充実させながらさらなる事業拡大を目指していく方針。そのための資金として、HQではCoral Capital、Spiral Capital、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタルより総額約7億円を調達している。