Photo: Constantine Johnny / gettyimages
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画像生成AI「Stable Diffusion」や対話型チャットAI「ChatGPT」が登場し、多くの人がAIの可能性を感じた一方で、世界2位の仮想通貨取引所「FTX」の経営破綻もあった2022年。今年1年を起業家たちはどう振り返り、そして2023年はどのような年になると考えているのか。DIAMOND SIGNAL編集部は過去に取り上げたことのある起業家たちにアンケートを実施。その結果を前後編にわけて紹介する。掲載は氏名の五十音順。(前編はこちら)

濱渦伸次 / NOT A HOTEL CEO

──2022年に盛り上がったキーワードは何でしょうか?

NFT。

──そのキーワードを選んだ理由を教えてください。

NFTの取引高が大きく乱高下した1年でした。NOT A HOTELでもホテルに年1泊できる権利をNFT化し販売したところ、約5億円の売り上げがありました。これだけ大きな反響があったことに僕たち自身も驚いていますし、NFTの大きな可能性を感じました。

さまざまな事件をきっかけに年末にかけてNFT取引高が減少したものの、ユーティリティ系のNFTはリアルな体験も含めて、今後伸びるマーケットだと考えています。

──2022年の動きを踏まえて、2023年に個人的に期待している領域、またどういった領域がトレンドになると思いますか?

コロナ禍以降、観光需要が大きく落ち込みましたが、いよいよ来年から復活してくると思います。特にインバウンドは円安で日本経済が恩恵をうける分野ですので大きな期待をしています。それに伴う人材採用や、DX領域に参入するスタートアップも増えてくるはずです。

──市場環境にも大きな変化があり、上場承認を受けた企業が上場を延期したり資金調達がシビアになったりと、スタートアップも大きく影響を受けた1年だったと思います。起業家として事業を運営する中で大変だったことなどあれば教えてください。

資金調達の環境は大きく変わりました。極端に言うと圧倒的に伸びているか、もしくは黒字化してないと調達できない時代になってきたように思います。NOT A HOTEL としても創業のタイミングがあと1年遅かったら、今の事業はできていなかったなと思います。

福島弦 / Sanu代表取締役CEO

──2022年に盛り上がったキーワードは何でしょうか?

新しい資本主義。

──そのキーワードを選んだ理由を教えてください。

まだ、あらゆる意味で、その具体的な定義が明確化されていない中ではあります。一方で、従来の新自由主義的な資本主義に対する歪みに、日本だけではなく、世界が気がつき始めているかと思います。金融経済が実態経済を振り回すほど肥大化してしまう状況により、さまざまな問題が露出しているかと思います。ブロックチェーンという新しいテクノロジーに、金融経済に伴う暗号通貨の投機が乗っかり、暴落が起きるなどがひとつの具体例かと思います。一方で、パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナード氏が4300億円を環境NPOに寄付するなど、今の資本市場から一定の距離を置こうとする新たなチャレンジも見え始めているかと思います。

──2022年の動きを踏まえて、2023年に個人的に期待している領域、またどういった領域がトレンドになると思いますか?

気候危機とその対策です。「何がトレンドになると思うか?」という予想というより、トレンド・議論の中心になるべきという意思を込めてです。

──市場環境にも大きな変化があり、上場承認を受けた企業が上場を延期したり資金調達がシビアになったりと、スタートアップも大きく影響を受けた1年だったと思います。起業家として事業を運営する中で大変だったことなどあれば教えてください。

セカンドホームのサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」という建築とリアルに向き合うスタートアップとしては、「ウッドショック」に伴う木材の原材料価格の高騰には一定の影響を受けました。

福島良典 / LayerX代表取締役CEO

──2022年に盛り上がったキーワードは何でしょうか?

SaaS+Fintech、Generative AI、Web3。

──そのキーワードを選んだ理由を教えてください。

SaaS+Fintechは、2022年に堅調さが証明されたビジネスモデルです。株式市場の落ち込みからSaaS企業、Fintech企業には逆風の1年になった一方で、この環境下でもSaaS+Fintechの複層構造でビジネスを展開している会社は株価を堅調に維持しています。未上場企業でも(米スタートアップの)RampやDeelがARR(年間経常収益)100億円を当時の史上最速で達成しました。日本でも間違いなく、このトレンドは巨大なものとして認識しておくべきです。

Generative AIに関してはStable Diffusion、ChatGPTといった画像生成や言語生成などの生成型AIが一気に盛り上がりました。圧倒的なメガトレンドであり、AIの応用例といえば推薦や異常探知、画像認識というパラダイムが一気に置き換わったと思います。今後AIがあらゆる産業に与える影響の質が大きく変わった転換点と捉えられる1年になるのではないでしょうか。

Web3に関しては、オープンソース2.0の要素を兼ね備えた公共財的ソフトウェアのインセンティブ革命だと思っています。バズワードとして今後も手を替え品を替え、言及されると思いますが、本質は公共財的ソフトウェアをどう作るかであり、そこに集中している会社が確実に伸長した1年だったのではないでしょうか。

──2022年の動きを踏まえて、2023年に個人的に期待している領域、またどういった領域がトレンドになると思いますか?

株式市場などの外部環境は引き続き逆風が続きますが、現在進行形の長期での価値変遷のトレンドは変わらないと見ています。個人的に期待・注目している領域は、「オンプレミスソフトウェアからクラウドSaaSへの転換」、「巨大産業(製造業、建築、物流、小売、教育など)のDX」、「業務ソフトウェアとFintechの体験融合(SaaS+Fintech)」、「金融機能のアンバンドリングとその組み込み(Embedded Finance)」、「ML(機械学習)/AIのソフトウェアプロダクトへのシームレスな組み込み」です。

起業家にとっては、引き続き逆風の1年になると思いますが、そういう時こそブレずに長期トレンドの中でしっかりと顧客価値を積み上げる会社が本物になっていくはずです。そういう意味では、ベンチャー企業の淘汰が進む1年になるでしょう。同業種同士のM&A、再投資を加速するための非上場化などによりダイナミックな資本を使った動きも活発化するのではないかと思っています。

──市場環境にも大きな変化があり、上場承認を受けた企業が上場を延期したり資金調達がシビアになったりと、スタートアップも大きく影響を受けた1年だったと思います。起業家として事業を運営する中で大変だったことなどあれば教えてください。

株式市場の変動はスタートアップにも当然影響を与えるので逆風を感じる1年でした。一方で、バリュエーションの調整はあったものの、スタートアップへの投資金額という意味ではそこまで縮小はしていないと思っています。まだまだ市場にドライマネーは残されており、クレバーな会社はそこの資本をしっかり取りに行き、今後訪れるであろう冬の時代に対する備えをしました。今年の影響は、むしろ2〜3年後により顕著に現れるのではないでしょうか。個人的には経営力が試される1年だったと思います。

スタートアップは明確に調整局面ではあるものの、長期のトレンドは変わっていません。より強烈な淘汰が2023年以降に始まりますが、その中で本物の会社が生まれていく。私としては経営の当事者として、本物の会社になれるよう経営努力をしていきたいです。どんな時でも、「長期のトレンドを信じ、顧客価値を高める」ことに集中することが大事ですが、外部の環境による迷いから集中がどうしても阻害されるのが一番大変でした。

古川健介 / アル代表取締役

──2022年に盛り上がったキーワードは何でしょうか?

NFT。

──そのキーワードを選んだ理由を教えてください。

いよいよ、本格的にNFTが事業化するタイミングが来たと思います。CryptoNinja Partners(CNP)やAopanda Partyなど日本発の人気NFTが生まれたことに加え、大手企業などがNFT事業に参入するなど、かなり盛り上がってきました。

NFTが「一点モノのアートを買う」や「人気IPをNFT化して売る」みたいな初期のよくわからず売っている状態から、きちんとNFTを活用した、NFTならではの便利さを考え始める人が増えているのがとてもいいなと思ってます。「意味がある」しかなかったNFTがおそらく「役に立つ」のフェーズに向かいつつあったのが2022年だったと思います。

──2022年の動きを踏まえて、2023年に個人的に期待している領域、またどういった領域がトレンドになると思いますか?

引き続き、クリプト、AI、メタバースが順調に伸びて来ると思います。AIの進化は恐ろしいことになっていますが、コンシューマー向けのさまざまなプロダクトに実装がはじまっていくので、ユーザーが体感できる便利さをより感じることができるでしょう。

メタバースは、メガITベンチャーが本格的に仕掛けるものはまだ来ず、ホロアースなどのVtuber勢、NEIGHBORなどのフォートナイト勢などが台頭してきて、「より現実的にコンシューマーが使いたくなる、無理のないメタバース」が増えてくると予想しています。

──市場環境にも大きな変化があり、上場承認を受けた企業が上場を延期したり資金調達がシビアになったりと、スタートアップも大きく影響を受けた1年だったと思います。起業家として事業を運営する中で大変だったことなどあれば教えてください。

Web3時代では、世界情勢が金融に影響を与えた場合に、それがクリプト市場全体に影響を与えるので、NFTや暗号資産の価格が落ち、事業に直接的な影響があるというのが一番大変だなと思いました。端的にいうと、NFTを出す時の市況感、暗号資産を日本円に換える時の価格などによる影響が大きいので、予想しづらいというのを感じています。

堀井翔太 / スマートバンク代表取締役

──2022年に盛り上がったキーワードは何でしょうか?

ダウンラウンド。

──そのキーワードを選んだ理由を教えてください。

この10年続いた好調な資金調達環境の潮目が変わった象徴的な年でもあり、エクイティファイナンスを繰り返すことで成長していくスタートアップとして、事業計画の変更を余儀なくさせられた年でもありました。

冬の時代の始まりでもあり、この10年の起業家が経験してこなかった局面ではあると思うので、より限界利益やLTV(ライフタイムバリュー)やCAC(顧客獲得単価)のような資本市場から評価されやすい事業モデルにキャッチアップできるか、CF(キャッシュフロー)マネジメントも含めて、BS(バランスシート)手当てを戦略的に実行できるかなど、真の意味で起業家の地力が問われる年になったなと思います。

一方でそういった中でも調達マーケットがすぐに干上がってしまったというわけではなく、より勝ち筋の強いスタートアップ投資は継続すると思うので、限られたスタートアップの中からしっかり資金調達を実施し、大胆な投資で大きく成長ができるかどうか。ある意味、飛躍するチャンスでもあるのかなと思っています。

──2022年の動きを踏まえて、2023年に個人的に期待している領域、またどういった領域がトレンドになると思いますか?

市井の人に対する影響としては、コロナ禍による非正規従業員の雇用の喪失や円安の余波による物価の上昇など、生活資金に関する悩みは事欠かないと思います。

そういった点ではお金の短期的な工面といった点で、課題を解決するサービスには注目が集まると考えています。具体的にはタイミーのような即金で給与が受け取れる短期求人サービスや、LINEポケットマネーやメルペイスマートマネーのような従来の消費者金融やカードローンなどの伝統的な与信に頼らない、独自の与信によって今までお金を貸すことができなかった人にお金を貸せるビジネスは躍進が続くのではないかと考えています。

スマートバンクはFintech領域の事業に張っているということもあり、デジタル給与払いの解禁による、資金移動口座での給与受取によるバンキングの進化や、AI与信による与信ビジネスの進化など、2023年は往年の金融プレイヤーと新興の金融プレイヤーの世代交代の試金石になる年ではないかと思います。

──市場環境にも大きな変化があり、上場承認を受けた企業が上場を延期したり資金調達がシビアになったりと、スタートアップも大きく影響を受けた1年だったと思います。起業家として事業を運営する中で大変だったことなどあれば教えてください。

アメリカのテック株下落の影響から、未上場市場の投資ラウンドの大型化やバリュエーションの高騰を牽引していた海外クロスオーバーファンドの撤退が余儀なくされており、ここ10年続いた調達環境のブルマーケットが終焉に向かっています。

日本にも時差的に影響が現れる前提で、明確に既存事業・顧客のユニットエコノミクスなどの一定の枠の中でコントロールできたキャッシュフローが必要なフェーズとなり、事業計画をデフォルトアライブ(支出が一定で収益が伸び続けている状況)に大幅変更すること、具体的には24カ月ランウェイの確保、コスト計画(広告宣伝費、人員計画)の大幅な見直し、合わせて資本市場からの評価ポイントの変更に伴う、事業目標の再設定(限界利益、LTV/CACなど)をしました。「激しい変化にいち早く対応できたものだけが生き残れる」ことをしっかり認識したいと思います。

吉兼周優 / Azit代表取締役CEO

──2022年に盛り上がったキーワードは何でしょうか?

市場が冷えている。

──そのキーワードを選んだ理由を教えてください。

大型の資金調達を実行できたスタートアップと、資金調達に苦戦するスタートアップで命運が分かれているからです。

──2022年の動きを踏まえて、2023年に個人的に期待している領域、またどういった領域がトレンドになると思いますか?

「Beyond SaaS」は盛り上がるのではないかと思います。SMB(Small and Medium Business、中小企業)向けにLTVを試算しながら拡大するのではなく、大手のエンタープライズ企業からDX予算を取り、ソフトウェアによるアセットを積み上げていける会社は生き残れるのではないかと思っています。

──市場環境にも大きな変化があり、上場承認を受けた企業が上場を延期したり資金調達がシビアになったりと、スタートアップも大きく影響を受けた1年だったと思います。起業家として事業を運営する中で大変だったことなどあれば教えてください。

弊社は投資家の人たちとの縁に恵まれ、事業アセットの構築に集中できた1年でした。来年が楽しみです。