年始からの米国テック企業の株価暴落を契機に、「スタートアップの冬の時代」という言葉もおどった2022年。米国の動きはそのまま日本市場のテック銘柄の低迷にもつながった。またロシアのウクライナ侵攻をはじめとした地政学リスクなども含めて、激動の1年だったといっても過言ではない。2023年、日本のスタートアップエコシステムはどう変化するのか。

DIAMOND SIGNAL編集部では、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。2022年の振り返り、そして2023年の展望や注目スタートアップなどについて聞いた。今回は、DIMENSION代表取締役社長・ジェネラルパートナーの宮宗孝光氏による回答を紹介する。なおその他の投資家の回答については連載「STARTUP TREND 2023」に掲載している。

DIMENSION 代表取締役社長・ジェネラルパートナー 宮宗孝光

2022年のスタートアップシーン・投資環境について教えてください。

2022年を振り返って、大きく3つのことを感じています。

1. 2021年12月からの上場市況の悪化や2月のロシアによるウクライナ侵攻などマクロ環境不安により、上場時のオファリングに応答する投資家が現れず上場承認後に上場延期をするスタートアップや、上場後の株価低迷が散見されるなど、スタートアップ業界にとっては厳しい1年になりました。また、PSR(株価売上高倍率)ベースでの将来の成長期待による時価総額評価からPER(株価収益率)による利益成長・黒字化ベースでの評価に戻ることで、資金調達とそこで得たキャッシュを投下する前提での事業成長が難しくなり、コストカット・キャッシュ引き締めを強いられるスタートアップも格段に増えた「冬の時代」に入った認識です。

2. 一方、今年初めて、運用資産額が150兆円を超える年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国内VCへのLP出資をしました。この流れは将来的に、国内VCからスタートアップに従前以上のキャッシュが投下される環境の整備につながります。スタートアップに更なる経営資源が集まり、売り上げ・利益規模が大きいスタートアップが生まれやすくなるキッカケがつくられる1年にもなりました。

3. 岸田内閣が「スタートアップ創出元年」を宣言したことで、省庁や自治体、大企業も本格的に「スタートアップ」に意識を向ける年になったと感じています。

2019年からまん延したコロナも同様ですが、環境変化に伴うゲームチェンジの重要性を認識し、必要であれば自社の取り組みを大きく変えることは事業成長を遂げるうえで本当に大切です。キャッシュ・コストコントロールに優れた起業家は、取り組みを大きく変えることで「冬の時代」を耐え、現在芽生えつつある将来に向けた「プラスの萌芽」を獲得し成長していく。将来振り返って、「スタートアップのタイプが変わった1年」だと感じるような気がしています。

2022年に注目した・盛り上がったと感じる領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。

注目したキーワードは「VTuber」です。

6月、VTuberグループ「にじさんじ」の運営をおこなうANYCOLORが、創業5年ほどで東証グロース市場に上場しました。2022年4月期の通期売上高約142億円、当期利益約28億円と業績の急成長はもちろんすごいのですが、私がいちばん着目しているのは、海外でも熱狂的な支持を得ながら、新たなグローバルビジネスを手がけていることです。

田角CEO(代表取締役社長CEOの田角陸氏)は、学生起業して現在20代。こうした従来の枠を超えた次世代の起業家や、新しい大型・グローバルビジネスが日本から次々に生まれてくることを期待しています。

2023年のスタートアップシーンや投資環境はどのように変化すると予想しますか。

スタートアップの資金調達は、二極化が進むと見ています。

また数十億円以上の大型資金調達に成功した企業の一部が、未上場の段階から海外への商品・サービス提供を始めることも期待しています。海外で業績をつくれる=海外でも支持を得た商品・サービスは国内でも大きく着目され、それが当該スタートアップに良い循環をもたらすとも考えています。

2回目の起業となるシリアルアントレプレナーや、大企業・上場会社からカーブアウトした起業家が、こうした大型資金調達・海外展開をけん引していくようになるとも予想しています。

2023年に注目する・盛り上がると考える領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。

ヘルスケア、社会インフラ、エンタメ領域が盛り上がりを見せると予想しています。

ヘルスケアは医療費の高騰や健康意識の高まりを引き金に、従来の人・紙・対面ベースのアナログ的やりとりでは充足できない部分にキャッシュ・人などの経営資源が集まり、新しいやり方、つまり新しいビジネスが発現するように感じています。

社会インフラは、昭和に整備された道路や橋、都市インフラの経年劣化にともなう修繕や入れ替え、新たなサービス・検査方法の導入がメイン。大きな市場でもあり、これまでにない枠組みでビジネスをとらえられる企業が躍進していくと思っています。

エンタメは前の設問でANYCOLORに関して伝えましたが、若手の次世代起業家が全く新しいビジネスを国内外の熱狂的な支持を得ながら手がけられる可能性があると考えています。

2023年に注目すべきスタートアップについて教えてください。投資先の場合は、その点を明示してください。

いずれも私どもDIMENSIONファンドの出資先になります。

・LegalOn Technologies(旧LegalForce)
2022年、SoftBank Vision Fund、Sequoia China、Goldman Sachsから総額約137億円の大型調達を実現。創業6年目で有償導入社数2500社を越えAI契約審査サービスの国内トップ企業に成長しました。素人でも凄いことがわかるプロダクトを提供されています。今後のアメリカ展開を通じて、日本を代表するスタートアップの1社への飛躍を期待しています。

・カバー
VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営。今年上場したANYCOLORと同様、海外でも熱狂的な支持を得ながら、新たなエンタメ・グローバルBizを手がける1社。谷郷社長(代表取締役社長CEOの谷郷元昭氏)に我々のオウンドメディア・DIMENSIONチャンネルに登壇いただいた際、そこでアップしたYouTube動画には海外を中心に100を超える多数のコメントがあっという間に書き込まれました。あらためてVTuberの人気・熱狂を感じる機会になりました。従来の枠を超えたBiz展開が楽しみです。

・TURING
「We Overtake Tesla」をミッションに、完全自動運転EVを世界に届けることを目標にしているスタートアップ。人工知能による自動運転システムと車両の開発に着手中。直近、AI自動運転走行による国内初の北海道一周=総走行距離1480kmのうち約95%の道のりを自動運転モードでの走破にも成功。完全自動運転EVの製造という『世の中にとって意義がある難易度が高いチャレンジ』ですが、優秀な技術者も集まっており、立ちはだかる高い壁を乗り越えてほしいと思っています。