
- いい意味での割り切り、自分にも他人にも期待しすぎない
- 10年のアナウンサー、キャリアで意識し続けた言葉は「信頼」
- 「自分はフリーには向かない」、弘中さんが目指すこととは?
性別を問わず今、もっとも愛されるアナウンサー、と言って過言ではないのがテレビ朝日の弘中綾香さんだ。オリコンが毎年実施する「好きな女性アナウンサーランキング」では、今年4連覇を達成した。なぜ、彼女は多くの人の心を掴むのか。
先日、女性向けキャリアスクールを手がけるSHE主催のイベント「INNOVATIVE WOMEN’S SUMMIT」に登壇した弘中さん。講演や取材を通して、彼女の口から語られたのは、自分に期待しない“ストレスフリー”な生き方だった。
いい意味での割り切り、自分にも他人にも期待しすぎない
「30代に入ると周りに転職組が増えるじゃないですか。キャリアアップ、意識高い、みたいな。転職組が『あー、テレ朝で働いてるんだ。私は今2社目』なんて話をすると『すいません、私ぬるま湯につかってます』ってなるんですけど(笑)。別に私は今の会社が気に入ってますし、転職をするのも良いですし、転職しないのもそれはそれでいいと思う」
弘中さんは、ちょっぴり毒づきながらテレビでよく見る笑顔を浮かべた。

事前に先日出版されたエッセイ『アンクールな人生』を読み、この日の講演を聞いたが、自分の思いをはっきり言う人、という印象を受けた。近年よく使われる「自己肯定感」という言葉には「言葉が一人歩きしている印象」と語り、次のように話した。
「明石家さんまさんの『生きてるだけで丸儲け』は良い言葉だなと思っていて。私は自己肯定感が高いと見られがちなんですけど、全然高いわけじゃなくて、実は低いんです。だから『朝起きられて偉いじゃん』といった感じで生きていて、『ここまでしかできない。もっと自分はできるのに......』とならない。だって、できると思ってないから。できたときは『よっしゃー』となりますけど、できなかったときも『まあまあ、私はこんな人間ですよ』となる。くよくよし続けてたら馬鹿らしいと思いません?」
いい意味での割り切り。講演後に、弘中さんを直接取材すると、時折笑顔を見せるも、目がどこか笑っていない。そんなヒヤッとする感じがあった。
さらに弘中さんは自分に対してだけでなく、他人に対しても割り切っている。
「『今と自分は変えられるが、過去と他人は変えられない』という言葉があるじゃないですか。まさにその通りで他人は変えられない。職場の人間関係で悩んでいる人は多いですけど、上司や先輩たちがどう思うか、どう考えるかは変えられるわけがない。私は自分がコントロールできない部分に関して、ストレスを抱えるのはやめようと思っているんです。余計なエネルギーを使わなくていいし、自分の心を守れる。みなさん他人に惑わされすぎです。他人は変えられないので」
背伸びしない、期待しないからこそ自分を守れる。テレビ番組での印象とは違い、かなり諦観しているとわかる。そして、そうした考えだからこそ「自分としてはすごくストレスフリーで楽しく生きていけている実感がある」という。
さらに弘中さんが面白いのは、仕事での目標が特にないということだ。メディアの取材、さらにこの日の講演など、人から今後やりたいことや目標を聞かれる機会は多いが「全然目標がないんです。本当に申し訳ないんですけど」と笑う。
よりよい仕事、よりよい場所へという上昇志向、自己啓発とはつくづく真逆の考え方。でも、よく考えれば私たちは仕事での自己実現、やりたいことがないと生きられないという考えに縛られすぎているのかもしれない。
10年のアナウンサー、キャリアで意識し続けた言葉は「信頼」
アナウンサーという仕事を始めて10年。「やり尽くした」とも感じている。
「ミュージック・ステーションのサブMCもやらせていただきましたし、今やっているバラエティ番組も含めて大きい仕事はやりきったのかな、という思いはあります。もし、スポーツや情報番組を任せてもらえるのであれば、それは今までやったことがないことなので、新しい挑戦になります。ただ、『すごくやりたい』という感じではないです。『やってほしい』と言われたら、そのときは頑張ります(笑)」
この日、取材に同席したテレビ朝日の関係者は弘中さんについて「弘中綾香は使われたい人なんです。『私をどう使ってくれるの、みなさん』みたいな感じで、自分からでなく誰かにもらったお題に対して考えるのが好きなんです」と話した。これを聞いた弘中さんは「自分からってないんですよね。やれって言われたらなんでもできるんです」と答えた。

テレビ番組は個人競技ではなく、チーム競技とも呼ばれる。その中で自分が何を求められているのかを理解し、その最良のパーツに徹する。「激レアさんを連れてきた。」での毒舌など、番組での強烈なキャラから自由奔放にも思えるが、実はすごく組織人なのだ。
仕事において大事にしていることも、組織で働くことを意識したものだ。
「信頼される社会人になる、当たり前のことを当たり前にやる。これを自分のモットーにして働いています。遅刻しない、期限を守る、言われたことをちゃんとやるって意外とできないんですよね。目の前に仕事がたくさんあっても、一つずつちゃんとクリアしていく。当たり前のことだから褒められはしないんですよ。でも、目はつけられないし、ずっと続けるとちゃんとした人間と認められる」
「本当に仕事が忙しくて回らなくても、だらしないのではなく『弘中は仕事が立て込んでいるからできないんだな』と思ってもらえる。今、テレビ朝日に入って10年目ですけど、すごく生きやすくて。本当にやってよかったと思いますし、今はその“信頼貯金”だけで生きています」

「自分はフリーには向かない」、弘中さんが目指すこととは?
この10月、弘中さんは結婚を発表した。結婚したことで、新たな目線の変化も楽しんでいる。
「『あざとくて何が悪いの?』でも、結婚して恋愛に対してのリアリティーがなくなった分、逆に恋愛の話に入り込める。最近は恋愛ドラマにすごく感情移入しちゃうんですよ。このあいだもテレビドラマ『silent』で泣きました。結婚して、『恋愛はもう自分にはあり得ない世界』と遠くに感じるものになったからこそ、すごくキラキラと輝いて見える。自分にはもうこの世界は戻ってこないんだ、尊い……みたいな(笑)」
「好きな女性アナウンサーランキング」も今年で4連覇。その人気から、メディアは「フリーアナウンサー転向」とさんざん書いてきたが、弘中さんはやんわり否定する。
「フリーアナウンサーも素敵な仕事ではあると思うんですけど、私は人を信用するのにちょっと時間がかかるタイプ。今はテレビ朝日での10年間で培ってきた信頼できる仲間たちがいるので、じゃあフリーになってゼロからもう一度、その信用を作るかとなっちゃうと足踏みしちゃう。すごく信頼できる人がいたらいいんですけど、あまりいないので」
ただずっとアナウンサーかというと「今はそうですけれど、5年後はシンガポールに住むとか言うかもしれないですし、それはわからない」と先は決めず、流れに身を任せるという。
具体的にやりたいことはないと話す弘中さんだが、目指す女性像はある。
「何か自分でやりたいことがあるというより、外から見て『あの人、仕事もプライベートも両立してキラキラして輝いていて、すごく憧れる』という女性になりたいという思いは非常に強いです。テレビ朝日でいうとドラマを何度もヒットさせているプロデューサーの先輩であったり、子どもを育てながら女性で管理職をやられている人だったり。そういう人たちをかっこいいと思う。30代、40代、50代でもそういうふうに働きたい。だからやることは正直なんでもいいと言えばなんでもいいんです(笑)」
