メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎氏
メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎氏
  • 達成感はあるが、これで満足したというわけでもない
  • いろんな経験が偶然「Connecting The Dots」してここに至る
  • やっぱりスタートアップだからダメ元で大胆なことをやろう
  • 最終的には数字、実績がつけば誰も文句を言わない
  • 新しいことをよりたくさんの人に提供するにはすごくいい組織
  • 「最後に行き着くのは人の可能性」と考えてつくった新ミッション

2001年にソーシャルゲーム会社・ウノウを創業し、2010年に米Zynga(ジンガ)に売却。その後、世界一周を経験した山田進太郎氏。世界各国を旅する中で見いだした課題をもとに、彼が2013年2月1日に立ち上げた会社がメルカリだ。同社が展開するフリマアプリ「メルカリ」は大きく成長を遂げ、月間利用者数は2075万人、累計出品数は30億品を突破。多くの人々の生活に欠かせないサービスとなり、2022年6月期の売上高は過去最高の1470億円を記録するなど、今もなお成長を続けている。

今日で立ち上げから10年が経ったメルカリ。このタイミングで会社のミッションを「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」から「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」に変更し、さらなる成長を図っていくという。

華々しい成功譚の裏では、現金出品問題や数々の新規事業の失敗なども経験してきた。スタートアップの創業10年後の生存率は6.3%と言われるが、メルカリ創業者であり、代表取締役CEOの山田氏は「創業からの10年」を振り返って何を思うのか、そして「今後の10年」をどう考えているのか。山田氏に話を聞いた。

達成感はあるが、これで満足したというわけでもない

──創業から10年がたちました。昨年の取材で「山の何合目にあたりますか」と尋ねたときには「まだまだ」とのことでしたが、どう振り返りますか。

その時にも同じようなことを言いましたが、ミッションで「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」と言ってきているので、そういう意味では全然できてないという感じはあります。

とはいえ、日本とアメリカで合計2500万人ぐらいの人たち(編集部注:2023年6月期第1四半期決算においてはマーケットプレイス(メルカリ)で2075万人、FinTech(メルペイなど)で1394万人)が使ってくれているし、達成できたことに対しては誇りを持つべきであるとは思っています。

今回、10周年を迎えるにあたって、ミッションを変えます。

「テクノロジーを使ったら、もっと人の可能性が広がるんじゃないか」ということが言語化できて、すごくこれからが楽しみです。やれることは増えているし、これからものすごいオポチュニティ(機会)がある。そういう意味で、大きな「何十年か先に達成すればいい」というミッションを掲げて、そこに向かって着実に前進していっている感じはあります。

だから達成感がないわけでもないし、かといって、これで満足したというわけでもなく、これからまた、やっていこうとあらためて思っています。

──この10年でメルカリのサービスが何か世の中を変えられたという手応えはありますか。

そうですね。世の中で、と考えると「循環型社会」という話になっていきますが……。

メルカリ設立前、僕は世界一周の旅行をしました。そして日本に帰ってきたらスマートフォンが普及していて、フリマアプリの「Fril(フリル。現・楽天ラクマ)」や「ヤフオク!」などがいろいろ出てきていました。これまでPCの時代はどうしてもパソコンを所有する人が限られていましたが、スマートフォンは1人1台持つので、その時代に向けて、個人が簡単に物を売ったり買ったりできるようにしようという思いがそのときにありました。

売るということの喜びや楽しさ、人の役に立っているという感覚や、買う人の「安く買えた」という満足だけでなく、使えるものを大切にしようとか「こうあるべき」というところまで含めて、1人1人の人間の感情や根源的な欲求のようなものを刺激するようなサービスができるんじゃないかと思いました。

それを利用するのがデイワン(編集注:サービス開始時期の意味)のときには10人、20人だったのが、気づけばすごくたくさん、何千万人となって拡大した、といった感じです。

そういう場を作れたことに関しては、すごくよかったと思います。循環型社会とかマーケットプレイスとかテックの会社だとか、メルカリに対していろいろな見方があるかもしれませんが、結果として、そういう1人1人の体験を大きな基軸と考えて、それをたくさん広げられたのがよかったのではと思っています。

──逆に「考えていたけれども(10年で)できなかった」ということはありますか。

グローバルで出資はしていますが、日米にしか(サービスを)展開できていませんし、米国はまだ小さい。ポテンシャルと比べて「もっとグローバルでできていたはず」というのはあります。

でも大企業、例えばリクルートは「HR(Human Resources)」とずっと言ってきて、インターネットができた今は(テックという言葉がついて)「HRテック」といっています。これは江副さん(リクルート創業者の故・江副浩正氏)が始めに考えた時には想像もしなかったことでしょう。けれども「人」を基軸にして何かしようとやってきた結果、HRテックの会社になりました。ソニーも「エンジニアがもっと愉快に働ける」といったことが脈々と引き継がれた結果、今のかたちになっています。ですがいずれにしても、創業者は別にそこまでたどり着くとは予想していなかったと思います。

この10年、最初はスタートアップとしてワーッと走り抜けてきました。ですがその後半は、だんだん「会社がこれから何をどうやっていくのか」を考えるようになったということは、あるかもしれません。

──山田さんはウノウ(編注:メルカリ以前に創業したソーシャルゲーム開発会社。2010年に米Zyngaへ売却)のキャリアもあるので、いわゆる“ゼロイチ”のスタートアップの方とは考え方も違うとは思いますが、前回と今回の起業に違いはありますか。

メルカリでは、とにかく世界で使われるサービスを作りたいという思いがすごく強かった。(ウノウでは)ちょっと難しいなと思ったからこそ、やめて売却もしたし、(メルカリを)作るときも「特大ホームランになるか、三振になるか」みたいなことを何回も言っていました。成功は難しいかもしれないけれども、可能性がすごくあることをやろうと考えていました。

最初は本当に必死に人を採って、なんとかチームを作ってやってきましたが、会社にミッションやバリューが明文化されてくると、ある程度、自分と会社という存在が別々のものになっていきます。僕に共感しているというよりは、会社が目指すものがあって、それにみんなが共感して入ってきてくれる。僕が「これをやって」「あれをやって」というのではなく、自然に目指す方に向かってくれている感じになっています。

もう1つ、会社が大きくなってきて「現金出品」の問題が出てきたときのことです(編集注:2017年、メルカリ上に現金が出品された騒動があった)。自分ではスタートアップのつもりだったんですが、世の中から見ると「巨大プラットフォームなのに何をやってるんだ」と見られているんだなと実感しました。そこで会社としてどうあるべきなのかをよく考えて、世の中に受け入れられ、社会の公器としてその一部にならないと、これ以上大きくならないなと思いました。

もしかしたら、そこからもう大きくしないで「僕の会社」にするという道もあったのかもしれません。ですが、この会社はもっともっとポテンシャルがある。社会の中であつれきを生むのではなく、循環型社会の一部になれる。それを実現するために自分も努力しよう。外国人も含めていろいろな人が集まって、優秀な人がたくさんいる中で、会社としてもやれることを追求していく、そういう組織にしたいと思いました。

上場するに当たっての金融庁などとの話し合いも含め、この会社を永続的に成長させたいと思うようになりました。もちろん最初から志向はしてたんですが、自分ではあまり思考が追いついていなくて、だんだん変わっていったという感覚ですね。

いろんな経験が偶然「Connecting The Dots」してここに至る

──先ほどフリル、ヤフオク!の名前が出ましたが、競合やベンチマークしているサービスも変わってきているのではないでしょうか。

きれいごとを言いたいわけではないんですが、どこが「競合」というよりは、僕はサービスもサービスじゃないものも、いろいろ見たり使ったりするのが好きなんです。おなじ領域のサービスだけでなく、ゲームでもコミュニティでも動画のサービスでも、みんなが面白く便利だと思って使い続けている理由を、どうやったらサービスに取り入れられるかを考えます。

また、今は(メルカリが)2000人ぐらいに成長しました。なので、組織やガバナンスについて考えます。数千人や数万人の会社でどうやって経営されているのか、どうやったら自分たちの組織に取り入れられるかと。「あの会社のこういうところはいいよね、でもそれはうちの会社に合ってるんだっけ」ということも当然あります。例えばシリコンバレーのビッグテックはすごいけど、そのやり方を日本にそのまま導入できるかというと、そういうわけじゃない。

全世界からタレントを採れるようにしよう、いいところはちゃんと取り入れようと思って動いていますが、どこかを意識してコピーしようとか、やっつけてやろうと思ったことはないです。

マーケットを考えれば当然、ネットワーク効果もあるので「Winner Takes All(勝者総取り)」みたいなところもあるかもしれません。ですが、「フリルは女性向け」、「ヤフオク!」はガジェットやコレクタブルなものといったように、当時から強い領域も全然違っていました。だからそれぞれのサービスを分解して見て、いいところは取り入れようと思ってやっていたら、いつの間にか今のメルカリになったという感じです。競合の機能の大部分をまねしようとか、何とかして圧倒しようとかいう考えはなかったです。

──そのほかにも、黎明期にはサイバーエージェントやLINE、スタートアップなどがフリマサービスを手がけてサービスをクローズしました。あらためて何が生き残りの理由でしょうか。

先ほども世界一周の話をしましたが、例えば新興国で資源が限られているのを見てきたといったような体験は、1つのきっかけにすぎないのではないかと思っています。

その前に(米ソーシャルゲーム会社の)Zyngaにウノウを売却していますが、Zyngaの中では、彼らのデータの扱いのうまさを見ました。A/Bテストやユーザビリティテストなど、今でいうAIにつながるようなやり方、会社の仕組みではストックオプションや買収のやり方などもそこで学べました。もっとさかのぼると、1999年に楽天のオークション事業をやらせてもらいました。その後ヤフオク!にこてんぱんにされましたが、CtoC事業の面白さはその時に知りました。

そうしたCtoCの面白さと、ゲームやアプリを作った経験、エンジニアリングの経験などが組み合わさって、何かをやるときに「こうしたらうまく行くんじゃないか」という仮説にたまたまかみ合っていたというか。

それで「Connecting The Dots」(点と点をつなぐ:スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチに出てくるフレーズ)した世界で、いいチームが作れたことそして資金調達ができたこともあります。そういったことをやった積み重ねがあるからできたということもあるかもしれません。ですが、それも含めての結果です。

後から見たら必然のように見えるんだけど、その当時でいえば道を踏み外す機会はいくらでもあったでしょう。そういう意味での運みたいなものも、すごく強かったと思います。たまたま、いろんな経験がConnecting The Dotsしてここに至る、みたいな。

プロダクトがあったから調達もできて人も集まったということはありますから、そういう意味ではプロダクトが起点だと思います。ただ、全然違うシナリオで違う歴史もあり得たんじゃないかと思います。

やっぱりスタートアップだからダメ元で大胆なことをやろう

──例えばヤマト運輸とのパートナーシップ(ヤマト運輸との連携により「らくらくメルカリ便」が実現した)などは、当時のスタートアップでは考えてもできないことだったと思います。そういった「やり切る組織」、あるいは意思決定の仕方をどう作っていきましたか。

今でも覚えていますが、初めてヤマト運輸に行ったのは、2014年の冬で、とても雪が降った日でした。詳しくは小泉さん(メルカリ取締役President(会長)の小泉文明氏)に聞いてほしいんですが、僕も「ヤマト運輸がそんなスタートアップとは組まないでしょう」と言っていて、それでも小泉さんが「とりあえず会いに行きましょう」といって設定した面会だったんです。実際、そのあと1年ぐらい動かなかったんですが。

ヤマト運輸とのパートナーシップはうまくいった例ですが、うまくいかなかったことも山ほどやっているんです。テレビCMも(日本では)結構大胆にやってうまくいったからと、米国でもやったんですが、何億円か使ったんですが、まったく効果がなかったんです。

(左)メルカリ取締役 President(会長)の小泉文明氏
(左)メルカリ取締役 President(会長)の小泉文明氏

ですが「やっぱりスタートアップなんだから、ダメ元でいいからとにかく大胆なことをやろう」と言ってやってみて、その中のごく一部が後の成果につながっていて──そういうことをやっていったことが、中から見ても外から見ても「大きかったよね」とその後に言われました。

だから「Go Bold(大胆にやろう)」というバリューは、自分たちにとってものすごく重要だという話は、社内でもよくしています。他の会社がやっていないことをやって、特別な成果を得る。結局、普通の会社と同じことをやっていたら普通の成長しかしません。

ジャンプする仕掛けを作るために大胆なチャレンジをして、ほとんどうまくいかないけど、それを称賛するというか「いいチャレンジだった」という話をする。そのことによって「これはうまくいかなかったけど、また次はやろう」となることが大事です。

「メルカリ アッテ」というサービス(地域ユーザー同士で情報交換できるアプリ。2018年にサービス終了)でも、(主要プロダクトの)メルカリや当時作ろうとしていたメルペイに集中した方がいいということで、「どっちがやりたいか」「どっちが可能性あると思うか」という話を松本くん(アッテを運営していたソウゾウ元代表・メルペイ元CPOの松本龍祐氏)としました。それで「メルペイやります」となりました。

(サービスが)終わった時には「こういう結果が出て閉じることになったけど、すごいグッドチャレンジだったと思う」とそれを全社でたたえました。その後、(アッテをやっていた)メンバーはメルペイやいろいろな事業に所属が分かれていきましたが、その先での仕事を続けてくれている人も多くいます。

メルカリはそういう新陳代謝というか、「ワーッと始めてワーッと引く」といったところがあります。UK(英国)もそうです(英国事業は2018年12月に撤退を発表)。

新型コロナウイルス感染拡大のときには「配送が止まったらうちのビジネスは終わる」ということで「一気に筋肉質にするぞ」と言っていたんですが、結局6月(決算)ではすごく(業績が)伸びて黒字になり、逆にちょっと絞りすぎたという感じでした。ウクライナ侵攻の2022年2月にも同じように「何が起こるかわからないから、一度、取捨選択しよう」と絞って、また6月には黒字になっているんですけれども。

そういう「ワーッとやってダメだった」というのは、ある種メルカリの文化になっています。それが嫌いな人もたくさんいるんですよ。特にエンジニアは、ちゃんと長期計画を立てて開発をすべきだと。それはそれでちゃんとやっていて、去年はアプリを全部書き換えたりしています。だから中長期的なテクノロジーに投資はするけど、そうじゃないところはもう何か、ワーッと行ってワーッと違う方向に向かっていくみたいな、そういう感じの会社です。

──取材にあたって過去をさかのぼりましたが、実はM&Aや新規事業での失敗は少なくありませんでした。

外の人は「やるぞ」というときには(メディアやSNSで)取り上げますが、ひっそりとやめますっていうときに、それをあえて取り上げないじゃないですか。やっぱりうまくいったことの方が目立つから、USがこれだけ伸びました、メルペイがこれだけ黒字になりました、といったことの方がニュースとしてはバリューがある。そういう意味では、本当にすごくいろんなことをやって、ほとんどが失敗しているんですけど、一部がうまくいっているという会社です。

────海外の話では、スマートニュースも人員を削減しました。メルカリはコマースアプリでいえばApp Storeの20位台くらい。それなりに成長しつつあるものの、まだ上に競合がいるような状況です。海外戦略は拡大していきますか。

日本でこれだけ(市場サイズが)あるなら、当然海外の方がGDPも大きいわけだから、基本的にポテンシャルは絶対にあります。ただ、そこにやみくもに集中していたら何とかなるだろうというわけでもありません。特に今、インフレや景気後退の影響をすごく受けているので、短期的には正しいバランスは何かという議論はあります。

ですが中長期で見たら、この分野はポテンシャルがすごく大きい。そのために今、何をやるべきかということを逆算して考えた方がいいかなと思ってはいます。

グローバルをやっていくという意味では、USについても「これってうまくいくんですか」と言われ続けてきました。スマートニュースも一時的には縮小しましたが、ミッションに関わる部分って、何というか諦めようがない。それはリクルートやソニーもそうだったと思うんですが、やはりそういう目標を掲げて進むときもあれば、三歩進んで五歩下がるみたいなときもある。だけど、それでも諦めない。むやみに投資して突っ込むという話ではなくて、こうやったらいいんじゃないか、ああやったらいいんじゃないかと続けていく感じです。

メルカリもそういう意味では今、どれくらいの投資をするべきで、ここをこう変えた方がいいんじゃないかとか、M&Aも含めて、当然あらゆるオプションがビジネスではあります。何とかしてグローバルなマーケットプレイスをやっていきたい。だから一時的にどうなっても、何とかして違う方法でマーケットフィットする方法を見つけたいと思います。

最終的には数字、実績がつけば誰も文句を言わない

──2018年に上場しました。上場前後では何か変わりましたか。

上場というより、最初の人数が少ないうちは自分たち経営陣が率先してやって率先して失敗するのでよかったんですけど、それをカルチャーにするというのは意識してましたね。

「とにかくGo Boldでやろう」とか。OKRや目標設定で「どんなGo Boldなことをやるのか」「やったのか」を聞くと、「何かGo Boldなことををやらないと評価されない会社なんじゃないか」となるんですよね。失敗しても「それがよかったよね、何が学べましたか」と。

そういうカルチャーにしていかないと、結局、上の方が何か新しいことをやっていても、みんなコンサバティブだったら意味ないじゃん、という話なんです。

そういうカルチャーを作るようにしていったことによって、小さい失敗が山積みになっているというのはあり、たまにそういうのが大きな失敗につながって大炎上するようなことも多いですが。

──スタートアップの目線とマーケットを意識せざるを得ない上場企業の目線は全然違います。上場すると(短期的な成長のためには)新規事業はやりづらくなりがちですが、今の話を聞くとそんな状況にはなっていないようです。そのあたりのカルチャーの作り方、そしてマーケットとの対話のノウハウはあるんでしょうか。

僕らは上場したときと今で株価が変わらないので、株式市場的に見れば「5年間、進歩がない」とも言えます。でも別に株価での評価だけが評価というわけじゃないと考えています。自分たちとしてどうケイパビリティが上がっているのか。マーケットと関係ないところであっても、プロダクトがより良くなり、より競争力がついて、より良い人がいて、少しずつでも前進しているという感覚があれば、僕はいいかなと思っています。

そのためには「着実に」というのはなかなか難しくて、やっぱり何かチャレンジして、それでちょっとジャンプするということを常に目指して大きくなっていく必要があると思います。

今メルカリ、メルペイ、USの3本柱の事業をやってきて、それなりには結果が出てきているとは思います。しかし、それがマーケットではそこまで評価されていないということはあります。ですが自分たちの中では前進しているという感覚がすごくあるし、それを繰り返していくことで、どこかで評価も変わる。うちも(株価が)高いときもあったし低いときもありましたが、そこを繰り返していくことで、だんだん信頼が高まっていくんじゃないかと僕は思っています。

最終的には数字です。ちゃんと売上や利益が伸びてますと伝えることによってマーケットバリューはついてきます。IRは重要なんだけれども、自分たちとしてはIRでどうこうなるものでもない、実績がつけば誰も文句を言わないというところもあります。

でも株価が上がればさらにハードルが高くなるので、やっぱり常に出し続けるということかなと思っています。チャレンジし続ける組織にしていく、それがうちの言うGo Boldという話で、手堅くやろうとするとものすごく縮小均衡なサービスになってしまう。だから、失敗をめちゃめちゃして、でもちょっと成功するようなことをやっています。その成功がもっとでかければ、たぶん「このやり方いいよね」となり、次の段階に行けるんですが、まだそこまでは行けていないということですね。

新しいことをよりたくさんの人に提供するにはすごくいい組織

──一時期は、スタートアップで名の知れた起業家やエンジニアなどを次々に採用してきたことから、メルカリは「人材のブラックホール」とも言われていました。人の採用について、山田さんとしてはどう考えていますか。

今は当時の採用とは少し違ってきている部分もあります。まず、外国人がとにかく増えたということと、そこから昇格する人たちがすごく多くなっているということ。だから、「スタートアップの誰々が入社した」とかいうことは、今はあまりないです。

そういう意味では、スタートアップの人がワッと来てワッと新しいものをつくるというフェーズではなくなってきています。どちらがいい、悪いという話ではなく、「違う」ということです。だから、うちを辞めてスタートアップをやる人もすごく増えているんですよね。新しいことが好きな人はたくさんいるので、それはそれでいいと思います。

僕は財団(理系高校生を支援する、山田進太郎D&I財団)もスタートアップだと思っているのですが、今、僕も富島くん(メルカリ共同創業者で山田進太郎D&I財団理事の富島寛氏)たちと一緒に、新しいこととして財団をやっています。またインパクトのあるサービスの上で暗号資産をやりたいという人もいます。

「証券会社で株を買うような人が暗号資産を買う」というのが今の状況ですが、メルカリで(暗号資産サービスを)やればたぶん、一度も暗号資産を持ったことがないような人がビットコインを持つような時代を作れると思うんです。資産運用、あるいはひとつの資産の持ち方として、そういうことが普通の人にもできるサービスを提示しようとしていますが、そういう新しいことをよりたくさんの人に提供しようと思うと、うちみたいなところはすごくいい組織だと思います。

ダイバーシティという面でも、外国人だけじゃなくて多様な人たちがいるので、そういう環境で切磋琢磨しながら、技術的にも高いことがプロジェクトとしてハイレベルでやれます。そういうことが好きな人と、スタートアップで「PRがいないから俺がやります」「私がコード書きます」と何でもやってそれで結果を出す人とは、ちょっと違うところがあると思うんですよね。そういう意味ではだいぶ変わってきています。

──確かにコーポレートサイトを見ても、社外人材を役員登用する割合は減ったように見えます。人材が社内で育ってきているということでしょうか。

そこはすごくいいところです。新卒もすごく活躍していますし。これぐらいの組織でプロジェクトマネジメントするのはやはり、いろいろなスキルセットが必要で、日本だとあまりいないんですよね。ずっとスタートアップにいても身に付けられない。だからGoogleだとか、グローバルなところにいるような人が来たり、そういう人が別の人を育てたり、結構いいサイクルになっているかなと思っています。

──新卒はどれくらいの規模で採用されていますか。また、どういう会社から来られる方が多いですか。

あまり長期的な目線で新卒採用ができていなくて、全体から見れば、数十人いるかどうかというぐらいです。

コロナ前、5年ぐらい前にはインターンなどから採用をしていました。あの頃、外国人採用でインド工科大学(IIT)から新卒で入ってきた人たちは今、マネジャーやディレクター、VPまでいっている人もいます。でもその後は、エンジニアではインターンで入ってくる人がたくさんいるんですが、あまり計画的にできていません。そこはちょっと、ちゃんとやろうと今動いている感じです。

どこから来ているかという話でいうと、ビッグテック系が多い気がします。直近でなくても何社か前はGoogleだったとか、そういう人は多いように思います。プロジェクトマネジメントやテクニカルPMができる人はなかなかいないので、どこかで経験している人が多い感覚はあります。

──ミッション・ビジョン・バリューでうたうスタートアップマインドをキープしながら、いわゆる大企業に近い規模でスキルセットを得たキャリアの人たちが入ってきて組織を回すのは、カルチャーとスキルセットがマッチしないという印象があります。ですが、(決算などを見ても)組織は成長しています。

テクニカルな手法はいろいろありますが、やっぱり、どれだけ大胆なことをやるのか、人のやらないことをやっているのか、そういうことが評価される組織ではあります。そういうところは採用時にも見ますし、評価時にも見る。となると、あんまりコンサバティブな人はやりづらい会社ではあると思います。

部署によっては「ちゃんとやらなければいけない」というところもありますが、少なくともエンジニアリング、プロダクト、あるいはPRとかもそうかもしれませんが、チャレンジによって伸びる可能性があるところでは、やはり大胆さが要求される傾向があります。

「最後に行き着くのは人の可能性」と考えてつくった新ミッション

──あらためて、10周年以降のメルカリはどういう会社になっていくんでしょうか。

新しいミッションを決めるにあたっては、かなり長いディスカッションをして、いろいろな意見があって、もうまとまらないんじゃないか、という感じでしたが、最後に「やっぱり人だよね」と。

「循環型社会」とかはあるんですが「社会を作る」というより、その先にある「自分が誰かの役に立っている」とか自分が社会に対して価値を提供できているということは、自分の可能性が広がることだと思うんです。そういうところまで考えたいよねというのが、今回決めたミッションです。

循環型社会というだけだとどうしても、モノの循環とか、そういうところに閉じてしまう部分もある。でもそうじゃなくて、今はメタバースもあれば、ブロックチェーン、NFTのような目に見えないものもあります。そういうところまで踏み込んで考えていくと、人の可能性みたいなところに最後に行き着くんじゃないかと。

それでどうなるかはわからないところもありますが、みんながビットコインを持つサービスを作ったら、何かその先で面白いことがあるんじゃないかとか、そういうレベルで実装していこうと。

メタバースも何かを具体的に目指してやっているわけではないですが、すごく可能性があると思っているから注視はしています。バーチャルワールドの中で自分の可能性が開くこともあると思うので、そういう意味での拡張というのはまずミッションとしてあって。

「もうわけわからないじゃん」という感じですが、5年たって「こういうことはやっていかなきゃいけないことだった。やっててよかった」というのが見えてくるといいなと考えています。

──「メタバース」という言葉も出ました。そのあたりも事業として視野に入れているのでしょうか。

単純に、今はもう仕事も物理的な世界だけじゃなくてバーチャルワールドの中でやるなど、まだまだ進化があるだろうと思ってはいます。そうするとどんどん、リアルではない世界で生きている時間の方が長くなっていくじゃないですか。

今でもFortniteの中でスキンに命をかけている、というような人も出てきている。そういうリアルじゃないものに価値が出る世の中で、その価値を交換する、売買するというところに、やはりメルカリも絡んでいきたいんです。

それにはメルカリはすごくいいところにいると思っています。AIとブロックチェーンとメタバースが全部ど真ん中で、そこにいること自体ラッキーだなと思っています。その中でできることをもっと積極的にやっていこうよ、世の中すごく変わるはずだと。

今、本当にAIもすごいじゃないですか。そこにメルカリとしてのバリューをどう出していくのか。個人と個人というところで考えたらこういうこともできるんじゃないかと、いろいろチャレンジしていきたい。それによって今のミッションにつながるところが出てくるんじゃないかなと期待しています。

そういう意味で、さっきも言ったようにできることがすごく増えて、ポテンシャルがめちゃくちゃあるからすごくワクワクしているというか、次は何ができるんだろうと僕は思っているし、会社でもみんな、そう思ってくれているんじゃないでしょうか。