ゼロボードが展開する温室効果ガス排出量算定サービス「zeroboard」
ゼロボードが展開する温室効果ガス排出量算定サービス「zeroboard」

企業のCO2排出量を可視化するシステムや再生可能エネルギービジネスなど、気候変動に関連する課題をテクノロジーで解決する「クライメートテック(Climate Tech)」は近年グローバルで注目を集める領域だ。

世界的にカーボンニュートラルへ向けた動きが加速している中で、日本でも上場企業を筆頭に「脱炭素経営」に本腰を入れて取り組む流れが生まれている。この変化はスタートアップにとって新たなビジネスチャンスになりうる。

2021年創業のゼロボードは温室効果ガス排出量の算定や削減を支援するサービス「zeroboard」を軸に、顧客企業の脱炭素経営を後押しするかたちで事業を急速に広げてきた。2022年1月に正式版の提供を開始した同サービスの導入社数は2200社を超える。

ゼロボードではベンチャーキャピタルや事業会社などから新たに約24億円を集め、さらなる事業拡大を目指す計画だ。今回のシリーズAラウンドではすでにKeyrock Capital ManagementやDNX Ventures、インクルージョン・ジャパンなど6社を引受先として19.8億円の調達を完了。セカンドクローズ(追加投資)で長瀬産業や関西電力など12社から4.6億円を調達し、合計約24.4億円の調達を見込む。

ゼロボード代表取締役社長の渡慶次道隆氏
ゼロボード代表取締役社長の渡慶次道隆氏

ゼロボード代表取締役社長の渡慶次道隆氏は三井物産やA.L.I. Technologiesで長年エネルギーとITに関連する事業に携わってきた。

zeroboardのベータ版も前職のA.L.I. Technologies時代に立ち上げたものだ。企業からの引き合いが増える中で事業の柔軟性やスピードを重視し、2021年9月にMBOを実施。新たな体制で再スタートを切った。

「プライム市場では気候関連財務情報の開示が求められる流れにおいて市場が急拡大することに加え、2020年代半ばを過ぎると中小企業も含めて少なくともScope1、2(自社による直接排出、または他社から供給されたエネルギー使用による排出)に関しては開示しなければいけない、もしくは把握しないと自社の(温室効果ガス)排出量を抑制できない時代になると見込んでいました。財務諸表と同じように全ての企業が算定をしていくようになれば大きなマーケットになりますし、既存のソリューションがないことからほぼ全てをクラウドサービスが占めるだろうと考えていたんです」(渡慶次氏)

GHGプロトコル(温室効果ガスの排出量の算定と報告に関する国際的な基準)の区分では、自社の事業活動における直接的なCO2排出(Scope1)と間接的なCO2排出(Scope2)に加えて、物流や廃棄など自社の商品に関連した“他社”のCO2排出(Scope3)が存在する
GHGプロトコル(温室効果ガスの排出量の算定と報告に関する国際的な基準)の区分では、自社の事業活動における直接的な排出(Scope1)と間接的な排出(Scope2)に加えて、物流や廃棄など自社の商品に関連した“他社”の排出(Scope3)が存在する

渡慶次氏によるとサプライチェーン排出量の算定が難しい産業は課題が大きく、その代表格が製造業だ。

自社製品に関わる会社が増えるほどScope3(調達原材料や資本財などを含む上流や製品輸送・使用・廃棄を含む下流での排出)の算定のために収集しなければならないデータも増える。ゼロボードでは従来、メールを使って各社と進めていたデータ収集に関するやり取りがクラウド上で完結する仕組みをソフトウェアに実装。脱炭素領域の専門人材によるサポートと組み合わせ、顧客の脱炭素経営にまつわる課題解決を進めてきた。

直近では「製品やサービス単位で排出量を可視化したい(カーボンフットプリント)」といったように「可視化のニーズが高度化」してきており、関連する機能開発やルールメイキングにも取り組んでいるという。

またScope3までの可視化という観点では、業界構造が複雑な物流や建設なども難易度が高く新たな解決策が求められている。ゼロボードとしては業界のリーディングカンパニーとタッグを組みながら、業界特化型のプロダクト開発も始めた。建設向けの「zeroboard construction」は2月より竹中工務店の現場で導入をスタート。物流向けの「zeroboard logistics」も2023年中のリリースを見込む。

zeroboardではScope3も含めて細かく排出量を算定することが可能だ
zeroboardではScope3も含めて細かく排出量を算定することが可能だ

冒頭でも触れた通り、CO2排出量の算定や削減を入り口として企業の脱炭素経営を支援するサービスはニーズが高まっており、国内外でプレーヤーが増えている領域だ。

日本でもゼロボードのほか、アスエネやbooost technologiesなど複数のスタートアップが参入。「Sustana」を運営する三井住友銀行や、100%子会社のe-dashを立ち上げた三井物産など大手企業が関連するサービスを手がける例もある。

急速に広がる市場で一早く事業をスタートできたことはゼロボードの成長の要因の1つだが、それに加えて初期から「パートナーと一緒に面を取る戦略を進めてきたこと」が事業拡大につながったと渡慶次氏は話す。

「単なる販売代理店ではなくて、排出量可視化のソリューションを自分たちの顧客に提供し、その上で脱炭素のビジネスを大きくできるような会社を探していました。zeroboardのユーザーに対して我々が全てのソリューションを提供することは難しい。自分たちはあくまで(排出量の)算定とそのデータを活用する中立なプラットフォーマーになることに徹して、さまざまなパートナー企業に脱炭素のソリューションを提供してもらうという方針を掲げていました」(渡慶次氏)

電力・ガス、総合商社、自治体、金融の4つを注力領域としてパートナーのネットワークを構築し、現在のパートナー数は100社を超える。今回の資金調達でも複数の事業会社が投資家として参画した(以下は投資家の一覧)。

  • Keyrock Capital Management
  • DNX Ventures
  • インクルージョン・ジャパン
  • ジャフコ グループ
  • DBJキャピタル
  • Coral Capital
  • 長瀬産業
  • 関西電力
  • 三菱UFJ銀行
  • 岩谷産業
  • 豊田通商
  • 住友商事
  • FFGベンチャービジネスパートナーズ
  • オリックス
  • みずほキャピタル
  • SMBCベンチャーキャピタル
  • デライト・ベンチャーズ
  • U3イノベーションズ

「顧客になりうる企業に関しては上場企業だけで数千社存在しますが、この領域におけるパートナーは数が限られている。だからこそパートナーといち早く、どれだけ深い関係性を築けるかを重視しながら取り組んできました」

「主要な機能などソフトウェアの部分はどこかで(同業他社から)キャッチアップされると思います。今後自分たちにとって重要になるのが、いかにネットワークを作れるか。データの連携先が増えるほど顧客の利便性も高まりますし、他社へ乗り換えにくくなる。これが1つのMoat(モート : 競合優位性)になると考えています」(渡慶次氏)

ゼロボードでは今回調達した資金を活用しながら組織体制を強化するほか、パートナーとの連携も広げながら国内での事業を拡大する方針。すでに言語対応を開始しているタイを始め、日系企業が多く進出する地域を皮切りに海外展開にも力を入れていくという。