
身近にあるさまざまなモノがインターネットにつながることを指す「IoT」。この“IoT化するモノの数”が着実に増え、IoTシフトが加速しつつある。
総務省の情報通信白書(令和4年版)で紹介されているデータによると2022年時点で世界のIoTデバイス数は300億台を超えた。今後もデバイス数はさらに増加し、家庭向けの家電製品からオフィス機器、自動車、住宅、工場など幅広いシーンでIoT化が進むことが予想されている。
2019年創業で、2月15日にベンチャーキャピタルなどから2.3億円の資金調達を発表したCollaboGate JapanはIoT関連の事業を展開するスタートアップだが、同社が開発しているのはIoTデバイスそのものではなく「メーカーが抱えるIoT特有のセキュリティ課題を解決するテクノロジー」だ。
「IoTデバイスの数は2018年にモバイルの数を超えており、2035年には2750億台まで拡大するという予想もされている。デバイスの数は今後も指数関数的に増え続け、かつてのモバイルシフトよりも大きな『IoTシフト』の波が訪れると考えています。(自社製品をIoT化することで)メーカーとしてはさまざまなデータを収集したり、新たなビジネスモデルを確立したりといった取り組みが実現できるようになる。一方でインターネットにつながることで新たに生まれるセキュリティリスクも存在し、インシデントが発生すると大規模な経済損失や事業上の機会損失が発生する可能性もあります」
CollaboGate Japanで代表取締役社長を務める三井正義氏はIoT×セキュリティ領域についてそのように説明する。
メーカーとしては1台の端末が不正な操作の対象になるだけで「膨大な数の製品の回収」や「サービスの停止」を迫られることもありうる。だからこそデータを保護するためのインフラ整備に力を入れているものの、IoT事業においては「デバイスからネットワーク、クラウドまで幅広いセキュリティ要件を満たした複雑なインフラ構築が必要になる」ことが課題になっている。

「複雑であるがゆえに(インフラの構築が)IoT事業の推進を阻害する要因になってしまっていたりするなど、各メーカーに共通する悩みも多いです。そもそもこの分野に精通した専門的な人材が少ない上に、そんな人材はGAFAなどのテック企業に行ってしまう。またインフラは一度作れば終わりではなく、数年から10数年に渡って維持していく必要があります。その間もセキュリティの脅威は変化していくので、それに対応し続けなければいけません」(三井氏)
CollaboGate Japanが取り組んでいるのは、次世代デジタルID技術として期待されている「分散型ID(DID)」などを用いることで、IoTデバイスとクラウド間のデータ流通を安全かつ効率的に進めるための基盤作りだ。
たとえばデータインフラを構成する1つの要素として、デバイスを認証するための準備のことを指す「プロビジョニング」と呼ばれるものがある。従来はこの準備を手作業でしていたため「1台あたり1000円程度のコストが発生する可能性があり、100万台の端末を製造すればこれだけで10億円必要になる」ような状況だった。
CollaboGate Japanが開発する「NodeX(ノード・クロス)」の場合は分散型ID技術を活用し、準備のための作業を自動化している。暗号鍵の管理やデバイスの認可・認証など各要素においても同様に自動化や効率化をすることにより、データインフラの整備に必要な時間とコストを削減した上で、IoTメーカーの「安全な事業成長を支援したい」(三井氏)という。

現在は東芝テックやPFUといったメーカーと共同で実証実験を進めている。東芝テックとはデジタル複合機でスキャンした電子化文書を安全に流通させるためのシステム開発に取り組んでおり、同プロジェクトはデジタル庁が公募した「Trusted Webの実現に向けたユースケース実証事業」にも採択された。
ビジネスとしては1ID(デバイス1台)ごとに月額のライセンス料が発生するモデルを予定しており、現時点では月額50円程度を想定している。
三井氏にとっては今回が2社目の起業だ。1社目は「失敗に終わった」(三井氏)が、再挑戦するべく2019年にCollaboGate Japanを立ち上げた。2021年にベータ版をローンチした当初は「IoTはユースケースの1つ」程度に考えてものの、特にメーカーからの引き合いが多く、この領域の課題や新たな解決策へのニーズを感じ、分散型ID技術を軸としたIoT×セキュリティ分野で事業を展開してきた。
グローバルで見てもデータインフラやサイバーセキュリティはSnowflake、Datadog、Zscaler、CrowdStrikeなど急成長を遂げた企業がいくつも生まれている領域だ。マーケットのポテンシャルは大きい。
「(今後IoTデバイス数がさらに拡大することから)巨大な市場がある一方で、IoTに特化したソリューションというのはまだまだ珍しい。日本はものづくり大国であり、アジアには主要な製造メーカーの拠点がいくつもあるため、日本からグローバルで挑戦する事業としても相性が良いと考えています」(三井氏)
現在は4名の少数精鋭のチームだが、今後は組織体制を強化しながら事業を加速させていく計画。そのための資金としてCollaboGate Japanでは伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、DNX Ventures、ラックを引受先としたJ-KISS型新株予約権の発行により総額で2.3億円を調達した。