
- 「シナジー前提でなくても投資検討可」は約8割、リード投資も前向きに検討
- ファンド規模は30億〜100億円程度、検討期間は3カ月以内が多数派
- 結果を出すCVCは「財務リターン」と「シナジー」の“二兎”を追う
国内スタートアップの資金調達額はまもなく1兆円──INITIALが1月に発表したレポート「Japan Startup Finance」2022年版によれば、2022年における国内スタートアップの資金調達額は8774億円(前年比266億円増)、社数は2224社(同497社減)。レイターステージなどは調達に苦戦するなど、マクロ経済の影響による「スタートアップ冬の時代」の足音は近づいているが、全体の金額で見れば、2021年よりも多くの額がスタートアップに提供されていたことになる。
資金調達の原動力の1つでありながら、いまいち実態を捉えるのが難しいのが、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC、事業会社が立ち上げるベンチャーキャピタルのこと)の存在だ。2013年には52億円だったCVCによる投資額は2022年には317億円に拡大した。本業での「冬」の影響も今後は顕在化する可能性はあるが、国内VC投資の10%近く(前述の資金調達額のうち、CVCを含んだVC全体の投資額は3733億円)を担い、その存在感を増している(いずれの金額もJapan Startup Financeより)。
だがひと言でCVCと言っても、その目的や規模、体制、課題感などはそれぞれに異なる。純粋なキャピタルリターンを求める独立系VCと比較すると、その全体像をつかむことは難しい状況だ。そこでDIAMOND SIGNALでは今回、CVC向けコミュニティ・FIRST CVCに協力。FIRST CVCの主導で「Japan CVC Survey 2022」と題したCVCの実態調査を実施した。
FIRST CVCは国内150社・250人超のCVC担当者が参加するCVC向けコミュニティ。レポートは同コミュニティに参加するCVCを含めて、国内110社CVCから回答を得ている。調査は2022年8月〜10月に実施。回答の対象期間は 2018年1月〜2022年6月までの活動に関するもの。対象は国内CVC110社(スタートアップ投資およびVCへのLP出資を行っている事業会社、CVC子会社(準備中含む)、金融機関系VC、LP出資を受け入れた事業会社系CVCを含む)に対するオンラインアンケートをまとめたもの。なお調査では、CVCを(1)単体での財務リターン追求型CVC、(2)(本業との)戦略シナジー追求型CVC、(3)そのハイブリッド型──の3つに分類している。なお、レポート全文はFIRST CVCの特設ページからダウンロード可能だ。
「シナジー前提でなくても投資検討可」は約8割、リード投資も前向きに検討
起業家とCVCに関して話すときに頻出する話題の1つに「本業とのシナジー前提でないと投資をしないのではないか」という話がある。これについては意外なデータが明らかになった。CVCの約3割は、「財務リターン(のみ)で投資検討可能」と回答した。加えて5割近くが「短期的なシナジーが見えずとも投資可能」と回答。実に8割のCVCが、本業との明確なシナジーがなくとも投資を検討できるというスタンスを示した。

加えて、当該の投資ラウンドでリード投資家になることが可能と回答したのは全体の6割。中でも財務リターンと戦略シナジー両方を求めるハイブリッド型CVCに関しては、82%が可能と回答した。実態としてはCVCがリード投資家となっているケースはまだまだ聞かないが、戦略としてよりスタートアップ投資に積極的な姿勢のCVCは多いようだ。また創業期のエンジェル投資から出資可能という回答が3割あったほか、45%は実際にシードステージでの投資を実行しているという。

ファンド規模は30億〜100億円程度、検討期間は3カ月以内が多数派
ファンドの規模で見ると、企業規模にもよるが平均で35億円(本体の売上高1000億円〜5000億円)〜108億円(同5000億円以上)。投資社数も増加傾向にあるという。
起業家にとっては気になる投資検討期間も3カ月以内と回答したのが多数(財務リターン追求型で94%、シナジー追求型で63%、ハイブリッド型で90%)となったほか、財務リターン追求型CVCでは、24%が「30日以内の検討」と回答した。4割のCVCに関しては、専用のフォローオン出資予算も準備しているという。

なお、全体の77%は「運営が好調(非常に好調11%、好調66%)」としており、投資数の見込みに関しても39%が「増加する」、47%が「変わらない」と高い継続意思を示している。
結果を出すCVCは「財務リターン」と「シナジー」の“二兎”を追う
今回の調査では、活動状況や社内でのCVCの評価、投資実績や今後の活動計画といった回答内容から、22社のCVCを「リーディングCVC」と定義した。それでは優れた結果を出すCVCは他のCVCと何が異なるのか。
運営目的で見ると、リーディングCVCではハイブリッド型が52%となり過半数を占めた。また、CVCの設立経緯においては、「スタートアップ投資自体を一つの事業として立ち上げた」「社員からのボトムアップの提案や自主的な動きがあった」という回答が他のCVCよりも高い割合となった。FIRST CVCでは「戦略シナジーは成果が曖昧になりがちな分、財務リターンも同様に追いかけていく事で、結果CVC活動全体としての成果が高まっていく可能性が示唆された」と分析している。

また具体的なシナジーに関しては、「自社商品の価値向上」「営業力・販売力などの拡大」「将来の顧客候補の育成」といった回答が他のCVCより高い。FIRST CVCでは「破壊的イノベーションへの対応や事業ドメイン拡大といった、長期的で抽象的な成果を期待しない傾向が強い」と分析する。

財務リターンと戦略シナジーの二兎をバランス良く追いかける一方、シナジーに関しては夢を見ず、現実的かつ短期的な価値を模索する──そんなCVCが今、その投資に手応えを感じているようだ。