ROXX代表取締役の中嶋汰朗氏
ROXX代表取締役の中嶋汰朗氏

コロナ禍をきっかけに普及したリモートワーク。仕事の生産性や効率化といった側面で個人は働きやすくなった一方、企業にとっては社員が「どのように働いているか」が見えづらくなった。その結果、知らず知らずのうちに企業における不正リスクが高まっている。デロイト トーマツが公表している「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2022-2024」によれば、過去3年間で何かしらの不正を経験した企業の割合は約半数の54%にのぼる。

新興企業でいえば昨年、ニュース配信アプリを手がけるグノシーの執行役員が以前の勤務先で、取引先企業に水増し請求をさせ、勤務先に損害を与えたとして逮捕されたほか、クラウドファンディングを手がけるCAMPFIREの元従業員が支援金の水増しによる横領で逮捕されたニュースは記憶に新しい。

こうした不正によって、企業に“億単位”の損害が生まれることもある。持続的な成長を目指す上では、いかに不正リスクを抑えるかも大事なポイントになってくる。

企業の「コンプライアンス強化」のニーズをくみ取る形で規模を拡大しているのが、オンライン完結型のリファレンスチェックサービス「back check」だ。back checkは採用予定の職種やポジションに合わせて数十問の質問を自動生成し、オンライン上で簡単にリファレンスチェックを実施できるというサービス。採用候補者の経歴や実績に関する情報を一緒に働いたことのある“第三者”から取得できるサービスとして展開し、2019年10月の正式リリースから3年間でリファレンスチェックの実施人数は3万人を突破している。

従来のリファレンスチェック機能に加えて、現在は調査会社と連携し、公的公開情報やWeb情報、個別調査をもとに反社会的勢力との関与や犯罪歴の有無、クレジットチェックやSNS行動歴などのコンプライアンスチェックができる機能も提供している。

リリース当初、ベンチャー・スタートアップ企業を中心にサービスを展開し、順調に導入企業数を増やしていたが、コロナ禍で採用が止まったことから’伸び悩む時期が続いた。運営元のROXX代表取締役の中嶋汰朗氏によれば「初速は良かったけれども、コロナ禍で資金にも限りがあるベンチャー・スタートアップの多くが採用を止めてしまい、その影響を受けました。それがきっかけとなり、サービスのターゲットを見直すことにしたんです」と語る。

採用人数の母数が少ないベンチャー・スタートアップ企業よりも、採用人数の母数が大きい大企業を中心にサービスを展開する──この方針に切り替えたところ、再びback checkは成長曲線に乗り始めたという。例えば、多くの人が知る大手IT企業のほか、外資系のラグジュアリーブランドにも導入が決まっており、直近はARR(年間経常収益)は2倍ペースで成長中だという。

大企業へのサービス展開に注力していく中で、リファレンスチェックだけでなく「コンプライアンスチェック」に対するニーズが高くなっていたことから、オプションではなく“単独プラン”としての提供も開始している。

「例えば、アルバイトを採用する際にリファレンスチェックは必要ないけれど、最低限のコンプライアンスチェックはしておきたいというニーズは増えています。SNSなどによって不正が可視化されやすくなった時代だからこそ、企業は不正リスク減らすためにコンプライアンスを強化する流れはより顕著になってきているなと感じます」(中嶋氏)

“問題のある人”を入社させないようにする目的でもニーズが高まっているback checkだが、最近は入社後の「定着率」を意識して活用されるケースも増えてきているという。その背景にあるのが「人的資本経営」への関心の高まりだ。従業員の定着率といった人的資本に関する非財務情報の開示を求められていることから、企業はより“適した人材”を採用したいと考えるようになり、ミスマッチを減らすためにback checkが使われるようになっている。

「3年前は『そもそもリファレンスチェックって何?』『価値ある情報は取得できるの?』という声が多かったのですが、リファレンスチェックを実施する企業が増えてきたことで、リファレンスチェックという言葉もだいぶ普及したように思います」(中嶋氏)

さらなる事業投資を目的に、2022年11月にOne Capitalやグローバル・ブレイン、マイナビなどから10億円、そして先日Skyland Ventures、SMBCベンチャーキャピタルから数億円規模(金額は非公表)の資金調達を実施したROXX。今後、back checkは“ミスマッチを減らすこと”を軸にした新機能の開発に取り組んでいくという。中嶋氏は「さらにサービスを成長させ、まずは黒字化を実現していけたら」と語った。