Spirが展開する日程調整サービス「Spir」
Spirが展開する日程調整サービス「Spir」
  • 面接や商談の調整などで法人利用が加速、150社以上が導入
  • 海外ではCalendlyが存在感、国内でも日程調整ツールが複数登場

面接や商談、打ち合わせなど社外との日程調整の負担を減らす“日程調整ツール”が日本でも広がり始めている。

グローバルでは2021年に約3000億円(30億ドル)の評価額で大型の資金調達を実施したと報じられた米Calendlyがビジネスカレンダーの代表格として存在感を放っているが、日本国内でもこの数年で複数社が新たに参入。一般化したとまでは言えないが、筆者の周りでも日程調整ツールのユーザーが少しずつ増えてきた感覚がある。

2021年5月にローンチした「Spir(スピア)」も日本発の日程調整ツールの1つだ。無料で使える個人プランに加え、2022年8月からはチームメンバーと連携した日程調整をスムーズにする法人プランの提供も始まった。

運営元のSpirで代表取締役を務める大山晋輔氏によるとHR(採用)部門やセールス、マーケティング部門を中心に利用が広がっており、導入社数は150社を突破。個人版を含めた登録ユーザー数は1年で約4.3倍に増加し、10万人を超えたという。

面接や商談の調整などで法人利用が加速、150社以上が導入

Spirの日程調整画面のイメージ
Spirの日程調整画面のイメージ

SpirはGoogleカレンダーやOutlookといった既存のカレンダーツールと連携し、日々の日程調整を簡潔に進められるサービスだ。

従来の調整ツールでは候補日時として「連携しているカレンダーの空き時間」が自動で抽出されるタイプのものも多かったが、Spirは手動でも選択できる点が特徴。空き時間のまま残しておきたい日程を候補から外したり、反対に作業時間としてカレンダー上に登録していた時間帯も候補に含めたりなど、微調整もしやすい。

候補日の選定が済んだら、生成された調整用のURLを相手に送るだけ。URLを受け取ったユーザーが日時を確定すると、連携しているカレンダーに自動でスケジュールが反映される。

調整相手もSpirユーザーだった場合には、Spir上で自身のスケジュールと送られてきた候補日時が同時に表示されるため、URLを受け取ったユーザー側もわざわざカレンダーを開いて予定を確認する手間がない。事前にアカウントをひも付けておけば、日程確定時にZoomやGoogle MeetなどWeb会議用のURLが自動で発行される機能も搭載している。

Spirはフリーミアム型のサービスで、上記のような機能は基本的に無料で使える。月額6600円からのチームプランではそこに複数の機能が加わるかたちだ。

たとえば本業用と副業用など複数のカレンダーアカウントを連携する機能自体は無料プランにも存在するが、チームプランではチーム間で予定を共有することが可能。たとえば「副業先の予定の詳細は公開しないが、その時間帯に予定が入っていることだけは共有する」といったように、細かな閲覧権限の設定もできる。

複数の担当者が同席する面接や、チームの誰か1人のみが参加する打ち合わせなど、複数人が絡んだ日程調整にも対応。他のメンバーが代理で日程を調整する機能も実装した。

大山氏によると、特にこの1年ほどで強化してきたのが同社の収益源ともなる有料版の開発と検証だ。現在はIT系のスタートアップやメガベンチャーを中心に150社以上が有料でSpirを活用。現時点では割合は少ないものの、非IT系の大手上場企業で活用される例も出てきた。

「ニーズの確かさについては手応えも掴めてきている一方で、まだまだ十分に認知されておらず、(幅広い層に対して)広がっていないとも感じています。特に大企業でも当たり前に使われるようなサービスになるかどうかが、1つの分岐点になると考えています」(大山氏)

活用シーンとして多いのは、HR部門における面接日時の調整やセールス・マーケティング部門における商談の日程調整など。Spirとしてもこの用途に合わせた追加の機能開発を進めており、直近では「Webサイトへの埋め込み機能」や日程確定時に調整相手に質問ができる「フォーム機能」などの提供を始めた。

フォーム機能のイメージ
フォーム機能のイメージ

海外ではCalendlyが存在感、国内でも日程調整ツールが複数登場

サービスの正式ローンチから2年近くが経つが、その間にマーケット自体も大きく変化していると大山氏は話す。日本においてはまだまだ黎明期と言えそうだが、「調整アポ」や「TimeRex」、「eeasy」、「Jicoo」、「Tocaly」など日程調整における課題の解決を目指すサービスが増えてきた。

グローバルでは2022年9月にCalendlyが面接スケジュールの最適化を支援するPreludeを買収。同年6月にはNotionがビジネスカレンダーを展開するCronを買収するなど、関連するプレーヤーのM&Aも進み始めている状況だ。

「ビジネスカレンダーの領域はすでに飽和していると思われるかもしれませんが、実はそんなこともないんです。実際にMicrosoft 365やGoogle Workspaceは今だに年率で10%程度の成長を続けている。もちろんこの数値自体はカレンダーのみではなくグループウェア全体の話ではあるのですが、(GoogleカレンダーやOutlookといった)代表的なサービスでもそのような状況です」

「日程調整に限っても、これまでカレンダーでアナログに調整していたところから、ようやくツールを活用して日程調整をするという流れが少しずつ広がってきました。まだまだ黎明期ではありますが、(日程調整ツールの活用自体は)不可逆なトレンドであり、ポテンシャルも大きいのではないかと考えています」(大山氏)

Spir代表取締役の大山晋輔氏
Spir代表取締役の大山晋輔氏

Spirではチームプランを中心としたさらなる機能強化や海外展開に向けて、2月22日にプレシリーズAラウンドにてジャフコ グループとOne Capitalから5.5億円の資金調達を実施した。

日程調整ツールは「ものすごくディープテックなツールかと言えば、正直なところ、そうではないと思っています」と大山氏が話すように、単純な機能比較表ではツール同士で大きな差を作りにくい。だからこそ「細かいユーザー体験の磨き込みが重要で、自分も相手もストレスなくスムーズに日程調整ができる体験を実現していきたい」という。

Spirとしてはカレンダー自体の機能を発展させるような仕組みに加えて、営業管理ツールや採用管理システムなど「他社ツールとのインテグレーション(連携)」にも取り組む方針だ。

先日、筆者がSNSを眺めていると「日程調整ツールのURLをいきなり相手に送りつけるのはマナー違反か」といった議論を目にすることがあった。Spirも含めた日程調整ツールの運営企業にとって、「ツールの利便性や適切な使い方をどこまで周知していけるか」は今後のチャレンジになりそうだ。