Memoriaはメタバース空間上で恋人を探したり、データができるサービス。アバターを介してコミュニケーションを取るため、相手の外見がわからないのが特徴だ。
Memoriaはメタバース空間上で恋人を探したり、データができるサービス。アバターを介して相手とコミュニケーションを取る
  • アバターで会話、顔を見せない“内面重視”のマッチングサービス
  • 原体験は「VRChatで彼女ができた」こと
  • 婚約事例も誕生、1億円調達で恋愛特化型メタバースの拡大へ

バーチャル空間上で恋人を探したり、デートしたりできる“恋愛特化”のメタバースが本格始動する。2019年設立のFlamersが4月19日に正式ローンチした「Memoria」は、メタバース内で理想の相手を探せる新たな切り口のマッチングサービスだ。

アバターの姿で会話をするからこそ、容姿だけにとらわれず、性格や価値観の合う相手を見つけやすいのが特徴。Flamers代表取締役の佐藤航智氏は自身がソーシャルVRアプリ「VRChat」を通じて恋人と出会っており、その経験がMemoriaを開発するきっかけにもなったという。

2022年9月にアルファ版の提供を始めたばかりのサービスではあるものの、既存のマッチングアプリを利用しない層を中心に、じわじわと利用者が広がってきている。半年ほどの間に20組程度のカップルが誕生し、婚約に至ったカップルも出てきた。

アバターで会話、顔を見せない“内面重視”のマッチングサービス

Memoriaの仕組みは次の通りだ。

登録フォームから自分のプロフィールと相手に求める条件を入力すると、運営側が独自のアルゴリズムなどを駆使して条件に合致した相手を探す。Webアプリ上でおすすめの相手が紹介されるので、同アプリで初回の顔合わせの日程調整を進める。顔合わせはMemoriaのメタバース上で実施し、アバターを介して“外見がわからない状態”で30分間の会話をするかたちだ。

終了後に双方が「また話したい」と回答すればマッチングが成立。個別にコミュニケーションが取れるようになる。マッチング後は電話やチャットツールで話してみるのもいいし、リアルで会ってみるのもありだ。Memoriaの中でバーチャルデートを楽しむこともできる。

メタバース上での初回の顔合わせの様子
メタバース上での顔合わせのイメージ

「内面からの恋愛がしやすいというのがメタバースのメリットだと思っています」──。佐藤氏はMemoriaの特徴をそのように説明する。

「実際にMemoriaのユーザーの中には、(経歴や年収などの)スペックや外見が重視されすぎていることから既存のマッチングアプリに抵抗があるという方や、ギラギラした雰囲気が合わなかったとおっしゃる方が多いです。移動や化粧などもなく手軽に参加できることから、特に女性の方からは『お風呂上がりにパジャマ姿でも利用できるのがいい』と言っていただくこともあります」(佐藤氏)

現在は男性が月額3900円、女性は無料で使える。Memoriaの場合は運営側が最初のマッチング(顔合わせ)をサポートするので、ユーザー間でメッセージや『いいね』を送り合う必要もない。プロフィールカードに加えて、話題サイコロや心理テストといったコンテンツなど、初対面のユーザーが話しやすくなる工夫もした。

心理テストなど、会話を盛り上げるきっかけとなるコンテンツなども用意している
心理テストなど、会話が盛り上げるきっかけとなるコンテンツなども用意している

顔合わせの時間を30分にしているのも「相手のことがある程度わかった上で、もう少し話してみたいと思ってもらいやすい」(佐藤氏)から。8分や1時間など、複数のパターンを試した結果、30分に落ち着いたのだという。

これまで提供していたベータ版では利用する際にMeta QuestのようなVRヘッドセットが必要だったが、正式版ではPCのみでも使えるように改良した。「マッチング後のデートの場所」としても使いやすいように、電車内や庭園などMemoria内の“ワールド”の数も少しずつ拡充している。

原体験は「VRChatで彼女ができた」こと

Flamersの代表取締役を務める佐藤航智氏
Flamersの代表取締役を務める佐藤航智氏

Flamersは佐藤氏が東京大学在学中に創業したスタートアップだ。もともとは長期インターンのマッチングサービスからスタートしているが、友人から借りたVRハードウェアを使ったことを機にVRの可能性を感じ、新規事業を立ち上げることを決めた。

その中でも“恋愛”に着目したのは、佐藤氏自身の原体験の影響が大きい。

「自分自身がVRChat上のイベントで出会った人と仲良くなり、お付き合いするようになったんです。相手の外見がわからない状態の中で、メタバース内の水族館に行ったり、ジェットコースターに乗ったり。彼女が地方に住んでいたこともあり、実は付き合ってから2カ月後に初めてリアルで会いました」

「メタバースって本当にそこにいる感じがするんです。(仕草などから)相手の外見が見えなくても本当に会っている気になりますし、VRの遊園地に行ってはしゃいでいると本当にデートをしているような感覚になる。今はゲームやライブなど、いろいろなかたちでメタバースが使われ始めていますが、メタバース×恋愛もありだなと思ったんです」(佐藤氏)

アイデアを検証するべく、佐藤氏は試しにVRChatを活用した「VRCお見合い会」というイベントを開催してみることにした。イベントの内容はバーチャル版の“街コン”のようなもの。10人弱と8分ずつ会話し、マッチングが成立した場合には個別に連絡を取れる仕組みだ。

募集を始めると初回で100人以上から応募があり「顔が見えない恋愛に興味がある人がこんなにもいるんだ」と可能性を感じた。VRCお見合い会にはトータルで1000人ほどから応募があり、累計では約300人が参加をした。

参加者は既存のマッチングアプリを使っていない人がほとんどで、「そもそも使ったことがない人」と「挫折をした人」がだいたい半分ずつ。ヒアリングをしてみると「既存のマッチングアプリが苦手」という声も多く、課題が存在することがわかったという。

「既存のマッチングアプリはハイクラスの人同士が輝きやすい構造になっていると思っています。外見が良い人やスペックが高い人に人気が集まり、そうではない人はなかなか出会えず、疲弊してしまう。みんなが自分に自信があって、積極的に『いいね』やメッセージができるわけではないと思うんです」(佐藤氏)

イベントの回数を重ねていくと、お見合い会でマッチングした参加者同士が付き合うような事例が少しずつでてきた。バーチャル空間での恋愛には一定のニーズがあり、可能性も秘めている──。手応えを掴んだ佐藤氏たちは、自社アプリの開発をスタートし、2022年9月にMemoriaのアルファ版の提供を始めた。

婚約事例も誕生、1億円調達で恋愛特化型メタバースの拡大へ

2022年5月にVRCお見合い会をスタートしてから1年弱。お見合い会とMemoriaを合わせると、2月までに1600人以上から応募があり、438人が顔合わせに参加した。実際にマッチングが成立したのは139組(278人)。つまり顔合わせを実施したユーザーの約6割は、相手に興味を持って「もっと話したい」と思ったことになる。

その中から佐藤氏たちが把握しているだけでも20組程度のカップルが誕生しており、2組が婚約まで至っているという。

ビジネスの観点では“マッチング以降”の段階でも、ユーザーとの接点や収益化のタイミングを作り出せる点が、メタバースを活用したマッチングサービスの特徴だ。

「基本的にマッチングアプリが関与できるのは、マッチングするまでのところで、マッチング以降はマネタイズポイントはありません。でもメタバースの場合は、それ以降で収益化のチャンスがあります。たとえばアバター用の服やアクセサリーといった商品の販売もそうです。リアルな外見は自分でコントールできない部分もありますが、メタバース内での外見は自分でなりたい姿になれます」(佐藤氏)

これまではマッチングアルゴリズムの開発などに力を入れてきたが、今後はアバターやメタバース空間上のコンテンツの拡充にも力を入れていく計画。2022年10月にはANRIやミクシィ創業者の笠原健治氏などから1億円の資金調達も実施した。

マッチング後のデートの場所としても活用できるように、メタバース空間上のコンテンツの拡充も進めている
マッチング後のデートの場所としても活用できるように、メタバース空間上のコンテンツの拡充も進めている

「メタバースには(トレンドに)乗っているだけのメタバースと本質的なメタバースの2種類があると思うんです。前者は、本来メタバースにしなくてもいいようなもの。一方で音楽などのライブや恋愛は本当にメタバースにする価値があると考えています。リアルなデートも楽しいけれど、メタバースでのデートも楽しい。そんな世界観を広げていきたいです」(佐藤氏)

メタバースでの恋愛を広げていく上では、もちろん課題もある。それを望むユーザーがどれくらい増えるのかという問題だけでなく「ハードウェア」の進化と普及も必要だ。

実際にMemoriaの場合もベータ版まではVRヘッドセットが必要だったことから、「使ってみたいけど、ヘッドセットを持っていないので使えない」という声が複数人から届いた。PCで利用する場合は「(VRと比べて)身振り手振りが伝わらない、『そこにいる感』が薄まってしまう側面はある」(佐藤氏)が、まずは少しでも多くのユーザーが体験できるように、PCしか保有していなくても楽しめるようにしていきたいという。

これまでもテクノロジーやデバイスの進化に合わせて、“マッチングサービス”のかたちが変わってきた。まさにVRやメタバースの台頭とともに、国内外でバーチャルマッチングアプリが少しずつ生まれ始めている状況だ。

従来のマッチングアプリとはアプローチが異なるものの、ゲームアプリの「恋庭」なども領域は近しい。四半期の売上が3億円を超える同サービスにおいては、今後「マッチング×メタバース」という切り口で収益拡大を狙う方針が明かされている。

メタバース上で恋人を探し、デートをする。そんな選択肢がこれから広がっていくかもしれない。