• 『モンスターハンター』シリーズと世界市場
  • 「買い切り」と「基本無料」、ゲーム作りの差
  • 位置ゲームの“マンネリ感”を払拭するアクション要素
  • 『ポケGO』ジム戦よりも高いアクション要素
  • 最大4人のマルチプレイに対応
  • 4月下旬にクローズドベータ、正式リリースは9月を予定

『ポケモンGO』や『ピクミン ブルーム』など、人気位置情報ゲームを生み出したNianticが新作タイトルを発表した。次にタッグを組んだのは、世界的人気タイトル『モンスターハンター(モンハン)』シリーズでおなじみのカプコンだ。新作タイトルの名称は『Monster Hunter Now』。

Nianticがこれまで培ったスマートフォン用GPS情報を利用したゲーム作りのノウハウと、カプコンのIPであるモンハンを組み合わせたゲームであることは、説明する必要もないだろう。9月にサービス開始の予定で、 4月25日より招待制のクローズドベータテストを開始する。なおベータテストの参加は、公式サイトにて受け付ける。

しかし、NianticはなぜモンハンIPを求めたのか。そしてカプコンはなぜNianticの打診を受け入れたのか。その理由について推察してみたい。

『モンスターハンター』シリーズと世界市場

Googleの社内ベンチャーだった「Niantic Labs」を、Googleから独立しNiantic, Inc.として創業したジョン・ハンケ氏。彼が自らカプコンへ赴き、モンハンシリーズのプロデューサーである専務執行役員の辻本良三氏に話を持ちかけたのが2019年。2019年といえば、『モンスターハンター:ワールド(MHW)』発売から1年強が経過し、有料DLC『モンスターハンターワールド:アイスボーン(MHW:I)』の発売を秋に控えていた頃の話だ。

モンハンシリーズは初代の発売から19年が経過しており、最新作『モンスターハンターライズ(MHRise)』の累計売り上げは1170万本。前作のMHWは世界1860万本を販売し、カプコンが販売している全ゲームソフト中で1位に輝いている。

しかし、MHRiseよりも前に発売されたモンハンシリーズは、PSP版『モンスターハンターポータブル 3rd』が490万本、ニンテンドー3DS版『モンスターハンターダブルクロス』が450万本というように、500万本の壁を超えられずにいた。

これは、家庭用ゲーム機やゲームソフトの売上データを予想・発表しているVGChartzの発表を見ると、その答えが見えてくる。モンスターハンターポータブル 3rdの売上本数は日本国内の販売数と、世界合計の数値がほぼ同じ。つまり、販売数のほぼすべてが日本国内での販売数であり、海外市場ではほとんど受け入れられなかったことを示している。

その後にニンテンドー3DSで発売された『モンスターハンター4』も、世界410万本のうち日本国内向けは359万1334本(『週刊ファミ通』2018年2月8日増刊号調べ)と、9割近くが日本国内での販売本数だ。

このようにモンハンシリーズは、日本国内では大成功しながらも、海外でのセールスが伸び悩んでいるという状況が続いていた。カプコンはこの状況を打破するために海外ゲーマーの趣向を徹底調査。遊べるハードウェアも国ごとの状況に合わせ、PlayStation 4のほかXbox OneやPC(Steam)でも発売。言語設定も日本語と英語はもちろん、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語という6カ国語ぶんの音声を収録するなど、世界をターゲットにしたMHWを世に送り出し、カプコンソフトの過去最多販売数を達成したのである。

「買い切り」と「基本無料」、ゲーム作りの差

しかしゲームソフトの市場は、家庭用ゲーム機やPC向けのほかに、モバイル機器向けのアプリという大きな市場がある。

「グローバルマーケットリポート2022」(角川アスキー総合研究所)によると、すでにゲーム収益の50%はモバイルゲームが占めている。残りの50%を家庭用ゲーム28%、PCゲーム22%で分け合っている状態だ。

当然、カプコンも自社の強力なIPであるモンハンでスマートフォン用アプリへ挑戦したことは何度もある。2011年6月1日にスマホアプリ『モンスターハンター Dynamic Hunting』を800円の買い切りで発売したことを皮切りに、2012年には基本無料の課金型アプリ『みんなと モンハン カードマスター』をリリース。次いで2013年には『モンスターハンター マッシヴハンティング』と『モンハン商店 アイルーでバザール』、『モンハン大狩猟クエスト』という3タイトル。2014年にも『モンスターハンター ロア オブ カード』と『モンスターハンター メゼポルタ開拓記』、2015年には『モンスターハンター エクスプロア』といった、基本無料の課金型モンハンタイトルを次々とリリースした。

これに加え、2014年には1900円の買い切り型で、PSP専用ソフトだった『モンスターハンターポータブル 2nd G』のiOS版もリリースするなど、さまざまなアプローチでスマートフォン用アプリを配信してきた。

ただしモンハンは、同じモンスターを何度も討伐して素材を集め、その素材を使って強力な武器や防具を作り、より強いモンスターへ挑むという、「ハックアンドスラッシュ(ハクスラ)」こそが醍醐味のゲームだ。課金することで強力な武器や防具が手に入ってしまうと、「素材を手に入れるためにモンスターを討伐する」という本来の目的が薄れてしまい、ユーザーからの反発を受ける可能性が高い。そう考えると、モンハンに課金やガチャといったシステムは組み込みづらく、「何に課金させるか」が非常に難しかったというのが筆者の推論だ。

そして2023年4月22日時点でカプコンのスマートフォンアプリ一覧ページを見てみると、カプコンがiOSまたはAndroid OS向けに配信中のアプリは、全部で20タイトル。しかも基本無料のアプリはなく、すべて買い切り型のアプリだ。

過去のアプリ商品群を見ると、カプコンにとってモンハンIPによるスマートフォンアプリへの挑戦は念願だったに違いない。そんな状況下でNianticからの打診があったと考えれば、カプコン・辻本専務の「当日のうちに返事をした」というスピード感もうなずける。なにせ、NianticはすでにポケモンGOを世界的にヒットさせており、スマートフォンアプリ業界における世界的なヒットメーカーである。これまで悩んでいた課金部分のシステムも、Nianticならば解決してくれるという判断を下したのではないだろうか。

また、Nianticのこれまでの展開を考えれば、グローバルでの展開も難しくないだろう。無料アプリならばダウンロード数も膨大となり、『モンスターハンター』というIPの知名度は全世界に轟く。MHWから始まったモンハンIPの世界展開はさらに拡大し、カプコンが作る次回作のセールスにも大きく貢献してくれるだろう。

位置ゲームの“マンネリ感”を払拭するアクション要素

ところでMonster Hunter Nowの話は、Nianticからカプコンに打診されたものだという。つまり、NianticにとってもモンハンというIPが必要だったと考えるべきだ。

Nianticはもともと『Ingress』で、スマートフォン用のGPSを利用した陣取りゲームを提供していた。Googleからの独立後は、このノウハウを利用してポケモンGOを制作。次いで『ハリー・ポッター:魔法同盟』(現在はサービス終了)の配信を経て、ピクミン ブルームを配信するなど、いわゆる「位置ゲーム」を中心に制作・配信してきた企業だ。2023年1月には『NBA All-World』というバスケットボールの位置ゲームを配信。来たる5月9日には、位置情報を利用するARデジタルペットアプリ『ペリドット』の配信も予定されている。

ポケモンGOをリリースした2016年頃は、位置ゲーム自体を新鮮に感じるユーザーも多かった。移動する(歩く)ことでゲームを有利に進められるため、ゲームをするために歩き、結果として健康にもなるという要素が人気を後押しした。これにより同タイトルは、配信開始から5年間で10億ダウンロードという驚異的な数字を叩き出したのである。

しかし現在、位置情報を利用するゲームはすでに市場にあふれている。日本だけでも『駅メモ! ステーションメモリーズ!』や『ドラゴンクエストウォーク』などが先行し、コーエーテクモゲームスも人気IPを用いた『信長の野望 出陣』を発表するなど、競合アプリが存在する。それらとの差別化を図るためMonster Hunter Nowでは「戦闘をアクションゲーム寄りにする」という決断をしている。

画面をタップすると攻撃を行う。画面を長押しすると片手剣ならガード、大剣なら溜め斬りなどの固有アクションを行う

『ポケGO』ジム戦よりも高いアクション要素

ポケモンGOでは、ポケモン捕獲時にモンスターボールを投げる動作や、ジム戦での攻撃回避などにアクション要素が求められる。一方でピクミン ブルームでは歩いた「歩数」を評価するのみで、アクション性はほとんどない。ではMonster Hunter Nowではどうなったかと言えば、「モンスターとの戦闘」要素がある。

筆者は4月19日に開催された発表会で試遊したが、プレイヤーは画面を連続タップしてモンスターを攻撃。モンスターが赤く光ると攻撃してくる前兆なので、左右へのフリック操作で回避する。間合いが離れたら前転して間合いを詰めて……というように、Nianticが過去に制作してきた位置ゲームの中では最もタップ頻度が高い上に、モンスターの攻撃を回避するための左右フリック操作を行う、アクションゲーム的な操作を盛り込んでいる。

もちろん、本家モンハンほどのシビアなタイミングや操作を要求されるわけではなく、「実はモンハンをやってみたかった」という程度のライトユーザーでもストレスなく遊べるアクション要素だ。しかも戦闘の制限時間は75秒で、これを超えるとクエスト失敗となるというアレンジも好印象だった。それでいて、筆者のように最新作のMHRiseを1000時間以上遊んでいるようないわゆる“ガチ勢”がプレイしても「(カジュアルな)モンハンをやっている」感覚を味わえるという、絶妙なバランスを実現していることに驚かされた。グラフィックやモーションだけではなく、ゲーム性についてもカプコン側からの確認やアドバイスが多数入っているという話を聞き、この絶妙な調整にも納得させられた。

モンスターが赤く光ると攻撃の前兆。こちらの攻撃を中止し、左右にフリックしてモンスターの側面へ回り込もう
スマートフォンを横持ちすると、シームレスに横長画面になる。45度など、中途半端な角度に傾けてもゲームが続行するため、迫力のあるスクリーンショットを撮影できそうだ

最大4人のマルチプレイに対応

ポケモンGOでは、最大20人で協力しながらボスを倒す「レイドバトル」という仕様があった。しかしMonster Hunter Nowではマルチプレイの最大人数をモンハンシリーズと同じく4人に限定している。その代わり、自分1人では強力なモンスターを討伐できず、仲間の助けを必要としているハンターが募集をかけると、周囲にいるプレイヤーの画面にマルチプレイの誘いが届く仕様を採用した。技術的にはもっと大勢のプレイヤーとマルチプレイを楽しめるのだろうが、モンハン「らしさ」を重視したのだろう。

この動きを見ていると、スマートフォン用の、しかも位置ゲームだとは思えない

4月下旬にクローズドベータ、正式リリースは9月を予定

ポケモンGOなど、これまでNianticがリリースしたタイトルとは異なる味付けが加えられたMonster Hunter Now。既存タイトルのシェアを奪わず、新たな客層を開拓するNianticの最新位置ゲームになることは、まず間違いない。そして、カプコンの悲願だったモンハンIPのスマートフォンアプリも実現している。両社のどちらが欠けても成立しなかった、双方の希望と未来を背負ったビッグタイトルは、9月にリリースを予定している。

なお冒頭にもあるように、4月25日から開始されるクローズドベータテストの希望者を公式サイトで募集している。テスト参加者は、グローバルで1万人に体験してもらう予定だそうなので、興味がある人は応募してみてはどうだろうか。

鉱石などを採取できるポイントは、『Pokémon GO』のスポット情報などを流用する予定だという。ハンターの周りにある光の円の範囲内にあるものはタップして採取可能