Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏
Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏
  • Luup成長のワケ、カギは「日本独自のビジネスモデル」
  • 求められる安全性の向上、ソフトウェア、ハードウェアの両面で対応

約2カ月後に迫った、改正道路交通法の施行。2023年7月1日以降、電動キックボードは「特定小型原動機付自転車(特定小型原付)」という新設の車両区分に分類される。最高速度は時速20キロメートルで、運転免許は不要。年齢制限は16歳以上で、ヘルメット着用は努力義務というかたちに切り替わる。

そんな法改正のタイミングをきっかけに、成長のアクセルを踏んでいこうとしているのが、電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」を展開するLuupだ。

同社は、Spiral Capitalをリード投資家とし、ANRIやSMBCベンチャーキャピタルといった既存投資家に加え、三井不動産のCVCである31ventures、三菱UFJ信託銀行などの新規投資家を引受先とした約38億円の第三者割当増資および約7億円の銀行借入・リースを合わせて、総額約45億円の資金調達を実施した。今回の調達により、Luupの累計調達額は約91億円となる。調達した資金は安全対策の強化や新しい交通ルールの啓発、ポートの拡大や車両・アプリの改善などに充てる計画だ。

Luup成長のワケ、カギは「日本独自のビジネスモデル」

「ようやくスタートラインに立つことができたと思っています」

Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏は、こう語る。もともと、シェアサイクルサービスを展開していたLuupが、電動キックボードのシェアリングサービスを開始したのは2021年4月のこと。産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」を用いた公道での実証実験という名目のもと、まずは東京都の渋谷区、新宿区、品川区、世田谷区、港区、目黒区に設置されていた約300カ所のポートのうち、約200​​カ所で電動キックボードの提供を開始した。

それから2年が経った現在、ポート数は約3000カ所を突破。また地方自治体とも連携することで、提供エリアも東京・大阪・京都・横浜・宇都宮・神戸の6都市へと拡大している。岡井氏によれば、「新事業特例制度下での電動キックボード走行実績のうち、Luupが9割以上のシェアを占めている」という。

電動キックボードに対する関心が高まり始めたのは2018年ごろ。海外でLimeやBirdといったプレーヤーが電動キックボードのシェアリングサービスを開始したことがきっかけとなっている。海外での盛り上がりから数年遅れるかたちで、Luupは日本で同様のサービスを開始したが、こだわったのは「日本ならではのビジネスモデルの追求」だったという。

「海外プレーヤーは“乗り捨て”を軸にしたサービスを展開しています。そのため、とにかく提供台数を増やすことを指標にし、各社がしのぎを削っている。このモデルは終わりがなく、ひたすら競争し続けなければならない。また、ギグワーカーに報酬を支払うかたちで街中で乗り捨てられている機体を回収するため、コストがかかってしまいます。この報酬に関しても“他社より多めに支払う”というような競争になるので、各社はコストばかりがかかってしまい、結果的に全然収益が生み出せないモデルになっているんです」

「電動キックボードの台数を増やし続けたら、利益が出にくくなることは誰しも分かると思います。1機体のコストを何カ月で回収できるかが事業上は重要になるわけですから。でも海外は競争に勝たないといけないので、台数を増やし続けるしかない。このビジネスモデルは継続性がないことから、海外プレーヤーの評価額も軒並み落ちています」(岡井氏)

また、とにかく機体を増やし続けたことで、路上への放置や不法投棄が目立つようになった。海外では市が主導するかたちでポートを設置したものの、そこにおさまりきらず、電動キックボードの路上への放置や不法投棄は“社会問題”と化している。

こうした問題や安全性への不安から、先日パリで市が主導する電動キックボードのプログラムの継続に関する住民投票が行われ、否決されたことは記憶に新しい。パリ市と契約を結んでいる米Lime、蘭dott、独tierは運営が打ち切りとなる。一方で、個人所有の電動キックボードに関しては禁止の対象外となっている。

海外勢に遅れるかたちで電動キックボード市場に参入したからこそ、「海外勢のビジネスモデルの問題点はわかっていた」(岡井氏)と主張する。そのため、Luupは海外のような“乗り捨てモデル”ではなく、不動産とコミュニケーションをとり建物の一部をポートにするかたちでサービスを展開してきた。「サービスの立ち上がりは大変なのですが、一定以上のポート数を設置できれば、ネットワーク効果が働きやすいモデルになっています」(岡井氏)。

例えば、アジア諸国を中心に電動キックボードシェアのサービス「Beam」を展開するBeam、韓国で「SWING」を展開するSWINGが日本市場に参入しており、「営業先が被ることもある」(岡井氏)そうだが、国内ではLuupのポート数が多いため、不動産としては「Luupにスペースを貸し出した方がいい」ということになる。そのため、今はポート数も拡大しやすく、シェアをどんどん広げていける状態にあるという。「国内では“競合”と言えるようなプレーヤーはいないと言えるほど、シェアを拡大できた」と岡井氏は語る。

また、海外のような“乗り捨てモデル”ではなく、乗った機体はポートに戻すモデルのため機体の充電などのオペレーションも組みやすく、利益が生み出しやすいモデルになっているとのこと。「この2年間で利益が出そうなフェーズまで持ってこれた」と岡井氏は言う。

求められる安全性の向上、ソフトウェア、ハードウェアの両面で対応

地方自治体や不動産と連携し、この2年でポート数を3000カ所まで拡大してきたLuup。改正道路交通法が施行された後は、さらなる需要の増加が見込まれる。今後、サービスを提供していくにあたって、重要となるのが「安全性の向上」だ。

利用者を増やしつつあるLuupだが、2022年9月には会社役員の男性が電動キックボードを運転中に転倒し、死亡する事件が発生した。

Luupとしては、サービスを利用する前に安全講習会や交通ルールテストの実施、アプリで表示させる注意喚起画面のアップデートなど、さまざまなかたちで安全への取り組みを実施しているが、「改正道路交通法の施行後は今まで以上に安全性の向上が求められるようになっていく」と岡井氏は語る。

「安全性向上の対策として、これまでにも利用者に対して免許証の事前登録、交通ルールテストの合格を求めてきましたが、今後はこの内容をアップデートし、より利用者が分かりやすいものにしていきます。また、機体に関しては最高速度表示灯を搭載しました。20キロで走っている状態のときは緑色に光ったままですが、低速モードに切り替わった際は灯が点滅するようになっています。この最高速度表示灯を搭載することで、機体が歩道に入った際に低速モードに切り替わっているかどうかが分かりやすくなります。これに限らず、ソフトウェア、ハードウェアの両面で安全性の向上は引き続き注力していきます」(岡井氏)

最高速度表示灯はハンドルの横に搭載される
最高速度表示灯はハンドルの横に搭載される

また、利用者だけでなくLuupの利用者ではない人への“啓蒙活動”にも力を入れていくという。道路交通法が改正されるタイミングでもあるため、Luupは各地域の自治体や警察と連携し、電動キックボードの安全性などに関した啓蒙活動を積極的に行っていく。

コロナ禍も落ち着きを見せ、インバウンド観光客も増加しつつある今、外国人からの電動キックボードのニーズも増えているという。そうしたニーズに応えるために、「アプリを英語で使えるようにするなど多言語対応も急ピッチで進めていく」と岡井氏は語る。

現在、国内6都市でサービスを展開しているLuupだが、さまざまな観光地でインバウンド観光客から「電動キックボードは使えないのか?」という声が増えているそうで、ホテルや観光地などからのLuupへの問い合わせも相次いでいるという。「法改正やインバウンド観光客の増加をきっかけに、サービスとしては追い風が増えている状態。安全性には十分考慮した上で、さらに成長を図っていければ」と岡井氏は語る。今後、Luupは2025年までにポート数を1万カ所にまで拡大していくという。