TOWINGが開発する高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」
TOWINGが開発する高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」

農業における脱炭素化や減化学肥料を実現しながら、収量の増加も見込める──。2020年創業の名古屋大発スタートアップ・TOWINGが開発しているのは、サステナブルかつ高効率な農業を実現するための新たな食料生産システムだ。

同社では独自のスマート人工土壌開発技術を活用した、高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を手がける。この宙炭を堆肥や土壌改良材などの代わりに農地へ撒くことで、良質な土壌へと改良し、CO2の削減や収量の増加などの効果を期待できるのが特徴だ。

近年、農業において「化学肥料に依存した生産手法からの転換」や「温室効果ガスの排出量削減」が大きな課題となっている。

背景にあるのが化学肥料の資源の枯渇と価格の高騰だ。事業者にとってもコストの面で無視できない状況になってきているほか、温室効果ガスの問題もある。世界で排出される温室効果ガスの約4分の1を農業や林業などが占めていると言われており、が策定した「みどりの食料システム戦略」の中でも、脱炭素化に向けた施策の一環として化石燃料や化学肥料の使用低減について言及されている。

とはいえ農家がすぐに化学肥料を有機肥料に変えられるかというと、そんなに簡単な話ではない。化学肥料を使っていた農地で有機肥料に切り替えると収量が大きく減ってしまうケースがあるほか、同等の収量に戻すための土づくりには5年程度の期間が必要になるという。

「サステナブルな方法に変えたいという思いはあるものの、収量が減ってしまうことが課題となって、(化学肥料からの転換に)なかなか踏み切れないという農家の方々も多いんです」

TOWING代表取締役の西田宏平氏は農家の現状についてそのように話す。まさにこの課題の解決策として期待されているのが、同社が開発する高機能バイオ炭の宙炭だ。

宙炭を活用することで、良質な土壌を短期間に作れる

宙炭はもみ殻や畜糞を始めとした未利用バイオマスを原料としたバイオ炭に、独自にスクリーニングした土壌微生物叢を添加し、地域で利用される有機肥料に微生物を培養したものだ。

軸となっているのが日本酒の発酵技法を応用した、「微生物を培養する技術」。硝化菌とアンモニア化成菌という2つの菌を活性化させることで、有機肥料の分解効率を高めるといった機能を実現できるが、その際の“微生物のデザイン”の難易度が高く、なかなか実現できなかった技術なのだという。

実はこのコア技術はもともと農研機構で生まれたもの。西田氏は名古屋大学在籍時に所属していた研究室でこの技術と出会い、現在TOWINGを通じて社会実装を進めているかたちだ。

TOWING代表取締役の西田宏平氏
TOWING代表取締役の西田宏平氏

宙炭のウリは「サステナブルでありながら、地域の農業をアップデートできること」(西田氏)。従来であれば5年ほどを要していた有機肥料に適した土づくりの期間を約1カ月に短縮できるほか、収量の向上も後押しする。あくまで試験導入段階での成果にはなるものの、実際に20〜70%程度の増収に繋がった事例も出てきた。

脱炭素の観点では炭素の固定や吸収効果が期待でき、10アール(1000平方メートル)あたり、CO2換算で1〜4トンほどの炭素固定量を見込めるという。

農家が宙炭を使う際には、堆肥や土壌改良材の代替品として用いることになるため「既存のフローをほとんど変えることなく導入できる」のもポイントだ。

またバイオ炭の原料として“地域の未利用バイオマス”を活用している点も、ユニークなところだろう。米農家におけるもみ殻や畜産農家における畜ふんなどは、堆肥として販売できなければ有償で処分する必要があった。それらの未利用バイオマスを価値ある資源に変えて販売することができれば、事業者にとってのメリットは大きい。

ビジネスモデルに関しては、一連の商流に沿って複数のキャッシュポイントを作っていく構想だ。

バイオマスの廃棄事業者や農家などと連携し、各地でプラントを開設して宙炭の製造を委託する。そこで作られた宙炭は農家に販売。有機転換に成功して脱炭素の効果が生まれれば、農家が“カーボンクレジット”として企業向けに販売できるようにサポートもする。

「私は滋賀県の出身なのですが、滋賀県には『三方よし』という言葉があります。TOWINGの事業を通じて実現したいこともまさにそうなんです。農家さんが良いものを作るサポートもできますし、残渣(ざんさ)の処理に困っている事業者さんの課題解決にも貢献できる。持続可能な食料生産の仕組みを作ることができれば、消費者の人たちにずっと美味しい食材を届けていける。未来の社会にとって必要な仕組みだと思っていますし、そこに大きなやりがいと可能性を感じています」(西田氏)

現在は24都道府県で宙炭の試験導入に取り組んでいる状況で、2023年度中には47都道府県での展開を進める計画だ。

TOWINGでは宙炭の研究開発や量産化を加速させるための資金として、以下の投資家を引受先とした第三者割当増資により8億円を調達した。同社は合わせて融資により4000万円を調達しており、創業からの累計調達額は10億円を超えたという。

  • Beyond Next Ventures
  • epiST Ventures
  • NOBUNAGAキャピタルビレッジ
  • 三菱UFJキャピタル
  • U3イノベーションズ
  • kemuri ventures
  • 愛知キャピタル
  • 東海東京インベストメント
  • 京銀リース・キャピタル
  • 静岡キャピタル
  • 東邦ガス
  • SBプレイヤーズ
  • 名古屋中小企業投資育成