
- 2号ファンドからは39社に投資、生成AI系の海外スタートアップも
- AIの適用領域が拡大し、あらゆる産業で社会実装が加速
AI特化型のベンチャーキャピタルとして、さまざまなAI関連スタートアップに投資をしてきたディープコア。同社が国内外で注目を集めるGenerative AI(生成AI)を含むAI関連領域への投資を加速する。
5月31日にファイナルクローズを発表した2号ファンドの規模は総額117億円。代表取締役の仁木勝雅氏によると、当初予定していた「80〜100億円程度」を超える規模となり、2018年に組成した1号ファンドから約2倍に拡大した。
ファンドへの出資者はソフトバンクグループのほか、SMBC日興証券やみずほ銀行など金融系の企業が中心だ。
2号ファンドではAIに関連するシード・アーリー期のスタートアップを中心に、1社あたり8000万円から5億円程度を投資する。1号ファンドでは投資対象になりづらかったシリーズAやシリーズB段階の企業の資金調達ニーズにも応えていく方針だ。
2号ファンドからは39社に投資、生成AI系の海外スタートアップも
1号ファンドでは62社、2号ファンドからもすでに国内外の39社に投資をした。AIを活用したアプリ開発プラットフォームを運営する英Builder.aiは急成長中の投資先の1社。同社は今月マイクロソフトとの資本業務提携を発表したほか、カタール投資庁などから2.5億ドルの資金調達を実施したことが報じられたばかりだ。
ソフトウェアだけでなくロボティクス領域の投資先も多い。ファミリーマートへの導入で話題を集めた“AIロボット”を開発するTelexistenceのように、大企業と大きな取り組みを進める例も増えてきた。
1号ファンドでも投資をしていたという生成AIは、今後の重点投資分野の1つだ。例えば2号ファンドの投資先であるOmnekyは日本人起業家が米国で創業したスタートアップ。生成AIを用いた広告プラットフォームを手がけており、過去のSNS広告のデータを分析し、高い効果が見込めるクリエイティブを半自動で生成する仕組みを提供する。
同じく投資先のJiteraが展開しているのは、ノーコード型のソフトウェア開発サービスだ。生成AIの活用によって自動生成したコードを書き出せる機能が特徴で、エンジニアの負担を減らす。
ディープコアとしては2号ファンドを通じてAIの社会実装に取り組むスタートアップに加え、生成AIやロボティクスなど先進技術分野にも積極的に投資を進めていく計画。AI技術者や起業家向けのインキュベーション拠点、海外進出を視野に入れたスタートアップ向けのアクセラレータープログラムの運営などにも力を入れる。
AIの適用領域が拡大し、あらゆる産業で社会実装が加速
「AIの適用領域が拡大してきている」──。仁木氏はここ数年のAIを取り巻く環境の変化をそのように話す。
「(ファンドの活動を)始めた頃は、言葉が一人歩きをしていて、『AIを使えばなんでも解決できるだろう』と思われているような印象がありました。でも実際にさまざまな企業と話をしてみると、そもそも社内のデータが整備されていなかったり、使えるデータが蓄積されていないというケースも多かったんです。それがこの数年でデジタル化が進み、我々が見ているあらゆる産業においてAIが適用できる土台が整ってきているように感じています」(仁木氏)
実際にAIという共通点はあれど、ディープコアの投資先の事業領域は多角化してきており、製造業から農業、エネルギー、金融などまで幅が広い。上述したロボティクスのほか、量子コンピューティングやIoT、ブロックチェーンなど「AIと親和性が高い」先端分野にも投資をしていきたいという。
また、もはやさまざまなスタートアップが“自社サービスにAIを組み込む”ことが珍しくない時代になりつつある。だからこそ「2号ファンドに関しては、現時点でAIを適用していなくても、例えば社内にデータが集まってきており、今後AIを活用したらもっとレバレッジが効く可能性があるような会社には投資をしたいと考えている」と仁木氏は話す。
日本でも昨年から大きな注目を集めている生成AIについては「ChatGPTなどがこんなに早いタイミングで広がるとは予想していなかった」というが、投資のスタンスとしては1号ファンドから変わらず継続していく方針。もともとAIに特化して投資活動やスタートアップへの支援をしてきたことから、これまでの知見が活きる分野でもある。
「生成AI自体はChatGPTなどが注目を集める前から、投資をしてきた領域です。2号ファンドで特化するといったことはありませんが、今まで通り積極的に投資をしていきたいという考えです」(仁木氏)
一方で生成AIの進化に危機感もあるという。
「少し逆説的な話になりますが、生成AI自体がものすごく使いやすいかたちに進化してきている状況で、今後さらに使いやすくなると思うんです。そうなると、スタートアップの出る幕がどれくらいあるのか。ビジネスプロセスなどがきっちりしているエンタープライズの方が、先行して生成AIのAPIなどを活用してレバレッジを効かせられる部分も多いのではないかという危惧もあるので、スタートアップにはもっと頑張ってもらいたいです」(仁木氏)
特にLLM(大規模言語モデル)の領域ではグローバルIT企業や多額の資金を集める一部のスタートアップなど海外企業が先行するが、日本発のスタートアップにもビジネスチャンスはあるという。
例えばベクターデータベースや、さまざまな課題の解決手段にLLMを使用するためのアプリケーションなど「LLMの周辺領域とも言うビジネスは今後間違いなく発展してくる」(仁木氏)分野だ。実際に海外では開発者支援や営業支援、カスタマーサポートなどの分野で生成AIを用いたサービスが増えてきている。
ChatGPTや画像生成AIツールなどの登場を1つのきっかけに、急速に広がりつつある生成AI。国内でも日立製作所やANOBAKAなどが生成AIに特化したファンドを組成しており、関連するスタートアップへの投資もさらに増えていきそうだ。