池田泉州銀行とマクアケの連携で誕生した「語らいの酒」プロジェクト(画像提供:マクアケ)
  • 全国の金融機関の4分の1以上がすでに連携
  • 企業に寄り添うスタイルで思わぬ光明
  • 事業性を“お試し”できるマーケティングが魅力
  • 地方自治体や新聞を巻き込み“共感”を生む密着プロジェクトも
  • 背景にある金融機関の「強い危機意識」

地方の金融機関が、クラウドファンディング会社と連携するケースが増えている。クラウドファンディングは、ネットを使って不特定多数の支援を募る“新しい資金調達の手段”であり、企業への融資を生業とする金融機関とはビジネスとして“競合”している部分も多い。競合していたはずの2つの業界が、手を組み始めた背景には何があるのか。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

全国の金融機関の4分の1以上がすでに連携

 金融機関とクラウドファンディング会社──。どちらも企業や個人の資金需要に応えるのが役目で、その意味においては“競合”といえるが、そんな両者の連携が右肩上がりで増えている。

マクアケ・実施プロジェクト数の推移(提供:マクアケ)

 主要クラウドファンディング会社のひとつである「マクアケ」は7月9日、連携する金融機関の数が100社を超えたと発表した。この数は、全国の金融機関のおよそ4分の1にあたり、プロジェクト数でいうと、500件以上にのぼる。2015年から始まった協働の取り組みは、わずか4年で大きく成長した。

 金融機関とクラウドファンディング会社の連携の仕組みは、金融機関が地方企業にクラウドファンディングを紹介するというもの。地方企業はクラウドファンディング会社からPRやマーケティング面での支援を受けながら、サイトに事業や製品を掲載して、資金を集めることができる。

企業に寄り添うスタイルで思わぬ光明

 2018年11月、「幕末・維新150年キャンペーン」の一環で大阪城天守閣が酒蔵メーカーの大関とコラボレートし、クラウドファンディングを活用して日本酒の開発・販売を行った。

 プロジェクト誕生のきっかけになったのが、池田泉州銀行とマクアケの連携だ。大阪城と大関、それぞれの事業支援を担当していた池田泉州銀行が、マクアケを紹介した。

 新しいお土産を開発したい大阪城天守閣と、販路開拓の仕掛けを作りたい大関。まったく別の課題をもつ両者をコラボレーションさせようと考えた。

「構想1年の大型プロジェクトでした。『大阪城天守閣のもつ歴史的知見と、大関のもつ商品開発のノウハウをかけ合わせたら、まったく新しい製品が生まれるのではないか』という発想が始まりでした。それから4社が頻繁に集まり、それぞれの知見を出し合って実現した、“知恵の結晶”がこの企画です」(池田泉州銀行の吉田敏リレーション推進部長)

マクアケで限定販売された「語らいの酒 夢人(ゆめびと)」

 内容は、「同じ時代を生き、共に語り合った二つの個性」をコンセプトに、大阪城天守閣所蔵の大久保利通自筆の漢詩から「夢」の字を、西郷隆盛自筆の漢詩から「人」の字を選び、「夢人」という2本セットの日本酒を、マクアケで限定販売するというものだった。

 結果、286名の支援者が集まり、目標を上回る350万円の資金調達を達成。地域と密接にかかわる金融機関と、優れたPRのノウハウをもつクラウドファンディング会社が手を組んだからこそ実現した企画だった。

事業性を“お試し”できるマーケティングが魅力

 池田泉州銀行は、3年前にマクアケとの連携を開始し、数々のプロジェクトに取り組んできた。

「(池田泉州銀行では)20年以上前から、産学連携でのベンチャー支援を含めた様々な企業の支援を行ってきました。しかし、企業がせっかく新製品を作っても、プロモーションの方法がクローズドな展示会などに限られており、思うように広がりませんでした」(吉田部長)

 資金面の支援だけでは顧客企業が抱えるニーズに応えられないことを痛感した池田泉州銀行は、クラウドファンディング会社のノウハウに着目した。中でも、マクアケが持つデジタル領域に特化したPRの知見と、キュレーターと呼ばれる担当者の行動力と企画力に魅力を感じ、連携を開始した。すると、すぐに企業から反応があった。

「『新製品をテストマーケティングしてみたい』という需要が、想像以上に高かったんです」(吉田部長)

「この新製品は量産すべきなのか」「アイデアの方向性は合っているのか」「どんな人に買ってもらえるのか」。消費者の行動は、実際に市場で試してみないとわからない。クラウドファンディングは、新製品の“お試しの場”に最適だったのだ。最近では、この“お試し”にハマって、新製品が出るたびにクラウドファンディングで試すリピーター企業も多い。

 金融機関とクラウドファンディング会社は、資金調達という業務では競合する側面はあるが、「それ以上に彼らのもつPRのノウハウを地方企業に還元してもらえることが、今回の取り組みで得られた大きなメリットです。大阪はものづくり企業が多いのですが、ものづくりの技術力はあっても、消費者向けのPRに不慣れなので」と吉田部長は話す。

地方自治体や新聞を巻き込み“共感”を生む密着プロジェクトも

 一方、社会貢献や地方支援系の案件を得意とするレディーフォーも、連携企業数71社、案件数100件以上と、実績を伸ばしている。金融機関だけでなく、地方自治体や地元新聞社も巻き込み、より地域に密着したプロジェクトを行っているのが特徴だ。

「山形サポート」の仕組み(提供:レディーフォー)
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 そのひとつが2016年12月にスタートした「山形サポート」。山形新聞社と地方銀行の荘内銀行が中心となり、県などの協力も得て進めている、地域に根差した山形県専用のクラウドファンディングサイトだ。県内でプロジェクト実行者を募り、山形サポートとレディーフォー双方のサイトで全国から広く支援を集める仕組みだ。目標額に達成したら、実行者から資金提供者へ返礼品を送り、感謝の気持ちを伝える。ネットを通じた気持ちのやり取りが反響を呼び、このサイト内だけで55件のプロジェクトが成立している。

「山形サポートのような地域密着型のプロジェクトは平均の目標額達成率が75%と、かなり高いのが特徴です。内容が、“山形名物の「芋煮会」をやるための大きな鍋を作る”など、地域や人に密着して“共感”を集めたからこその達成率だと思います」(レディーフォー)

背景にある金融機関の「強い危機意識」

 金融機関がクラウドファンディング起業との連携を促進させる背景について、マクアケの坊垣佳奈取締役は「地方金融機関の強い危機意識がある」という。安倍内閣の「地方創生」政策の一環で、地方金融機関には地域に密接した金融サービスが求められているが、必要なノウハウが揃っているわけではない。

マクアケの坊垣取締役 Photo by Karin Hanawa

「私の元に大手地銀の役員の方から、直接相談がくることもあるくらいです。中には、融資判断のための『事業の将来性がわかる客観的材料が欲しい』という需要も多いです」(坊垣取締役)

 クラウドファンディングは、金融機関からの融資に比べると審査基準は厳しくなく、資金需要側にすると利用のハードルは低い。返済の必要がないケースもあり、新規で事業をおこす際のリスクも軽減される。一方、金融機関にとっては、取引先の事業の将来性について、まずクラウドファンディングの動きをみて判断することができる。

 そもそもクラウドファンディングが普及した背景には、消費者の購買行動の変化も大きい。

「今の消費者が重視するのは、背景にあるストーリー。“誰が、どのように作ったものなのか”という部分に、こだわりをもってお金を出すのだと思います。地方にある事業には面白いものが多いのに、知られてないのはすごくもったいない。担当者(キュレーター)が地方企業と一緒になってPR支援をしていき、“地方の良さを掘り起こす仕組み”を作っていきたい」と坊垣取締役。

 地方に隠れていた人や技術にスポットライトを当てていく役目は、金融機関とクラウドファンディングのコンビが担っていくのかもしれない。