
- 高度なスキル不要、月額4980円でネットショップをアプリ化
- コーディングをなくす「ノーコード」型サービスの波
- プラットフォーム化を進めるBASE
新型コロナウイルスの影響でデジタルシフトを進める事業者が増え、ECサイト作成サービス「BASE」の利用者が増加している。5月には100万ショップを突破。これまでは積極的にインターネット上で商売をしてこなかった企業や個人がECサイトにチャレンジし始めている状況だ。そのBASEにショップの公式モバイルアプリを簡単に作れる拡張機能「Appify」が加わった。同サービスを使うことでコーディングの専門スキルがなくても最短2週間、月額4980円でショップ専用のiOSアプリを開発できるようになる。(ライター 大崎真澄)
高度なスキル不要、月額4980円でネットショップをアプリ化
「Appify」はBASEを使ってECサイトを運営しているショップオーナーが簡単にショップ独自のiOSアプリを作れるサービスだ。
オーナー向けに用意されているBASEの拡張機能「BASE Apps」からAppifyをインストールした後、アプリ名の登録やApple IDの連携といった初期設定をすれば準備は完了。最短2週間でiOSアプリが完成する。
自前でモバイルアプリを作ろうと思った場合、ネックになるのがコストと時間だ。場合によっては数百万円規模の制作コスト、数カ月の期間がかかってしまい個人や小規模事業者が簡単に手を出せるものではない。
Appifyはそれを「民主化」する仕組みだと捉えられるだろう。アプリを作る際に専門的なコーディングスキルなどは一切不要で、必要な期間も2週間前後。料金は月額制のサブスクリプション型を採用しており、月々4980円でアプリを制作・運用できる(アプリをAppStoreに公開するために年額1万1800円のApple Developer Accountに別途登録する必要があるが、それ以外の初期費用などは不要)。
ショップオーナーにとっては他店の商品と一緒に並べられてしまうモール型のアプリとは異なり、自分の商品だけを扱う独自アプリを作れるのが1つのメリットだ。またアプリにすることでプッシュ通知やクーポンを用いた販促施策を実施できるようにもなる。
プッシュ通知はメールと比べて開封率が約10倍高いとも言われており、コアなファンに対してお得な情報や新着情報を届ける手段としては効果的だ。ECサイトで集客をしつつ、既存顧客とはアプリを通じて関係性を深めていくといった使い分けもできる。アプリの購入情報や配送情報はすべてBASEに統合され、BASEの管理画面上から同じように運営できるため業務負荷が増える心配もない。
近年BASEではAPIを使って他社サービスとの連携を進めていて、Appifyもその中の1つ。スタートアップのD Technologiesが開発したものだ。同社代表取締役の福田涼介氏はコロナの影響からBASEを活用してオンライン上に販路を構える個人・企業が増えている状況に触れた上で、アプリを持つことがリピーター経由の売上拡大にも繋がると話す。
「ウェブのネットショップは接点のない顧客を集客するのに向いている一方で、必ずしも定着には向いていないと考えています。それを証明するように大企業は(ECサイトとは別に)独自のモバイルアプリを開発していますし、AmazonやZOZO、メルカリなどのサービスもアプリ化した上でユーザー向けにコミュニケーションを行なっています。新規顧客を獲得し続けることだけで売り上げを伸ばすには限界があるからこそ、関係性ができた顧客にアプリをインストールしてもらってプッシュ通知やクーポンを有効活用しながらロイヤルカスタマーになってもらうことが重要です。
この10年でウェブサイトやネットショップは誰でも簡単に作れるレベルになりましたが、アプリは個人や小規模なブランドが気軽に開発できる状態にはなっていない。自分たちがその状況を変えることで、ショップオーナーの人たちを少しでもサポートできればと考えています」(福田氏)
現時点では新着情報やクーポン情報を一斉にプッシュ通知で知らせることのできるシンプルな仕様だが、今後は「特定の商品にいいねをしている人」など行動データを基にセグメントを分けて通知を送れる機能も実装する計画だ。そのようなマーケティング施策を毎回ショップオーナーが自身でデータ分析して実行せずとも、Appify側から提案し半自動化に近い形で実現できるような仕組みを作ることで顧客の定着や関係性構築を後押ししたいという。

コーディングをなくす「ノーコード」型サービスの波
Appifyはいわゆる「ノーコード」型のプロダクトだ。ノーコードとはその名の通り、今までコーディングスキルがなけれできなかったものを「コーディングなし」で実現するプロダクトのこと。たとえばWordPressやWixのようなサービスによって簡単なウェブサイトであれば誰でも作れるようになり、BASEやShopifyは同じようにネットショップを身近なものにした。
ノーコードに分類されるプロダクトは以前から存在していたが、最近あらためて特定の分野においてコーディングを不要にするスタートアップが注目を集めるようになっている。2020年に入ってからもスプレッドシートを使ってコードを書かずにアプリを作れるAppSheetがGoogleに買収され、注目を集めた。
D Technologiesでは当初からノーコードに注目していたわけではなく、2018年6月に会社を設立してから1年半ほどは個人向けのアプリをいくつも立ち上げては潰しながら方向性を模索してきた。そんな中で技術トレンドの変化に直面し、モバイルアプリ×ノーコードの可能性を感じてAppifyの開発を始めたという。
「ここ1年でモバイルアプリ開発においてバラダイムシフトが起きており、開発環境が大きく変わりつつあります。Appifyを立ち上げるきっかけになったのも、昨年『Appleが発表したSwiftUIと、Facebookが開発したGraphQLを組み合わせればモバイルアプリの開発が一気に効率化できる』ということを発見したことから。自然な流れとしてウェブサイトやネットショップの次は、アプリを誰でも作れるようになるんじゃないかと考えこの領域に関心を持ちました」(福田氏)
D Technologiesは学生時代からメルカリやDMM.comで経験を積んできた福田氏を中心に3人のエンジニアで構成される技術者チームだ。個人向けのアプリを作っていた頃から「どうすれば少しでも効率的に、スピーディーに開発できるか」を常に考えながらソフトウェア開発の基盤づくりをしてきた。そんな自分たちの経験とアプリを取り巻く技術革新が重なって、Appifyのアイデアに行き着いたわけだ。
当初はアルファ版という形でさまざまなアプリ開発に対応しようとしていたが、次第にこの領域で事業を拡大していく上では「特定のユースケースに絞ること」が重要だと考えるように。それが今回BASEのショップをアプリ化することにフォーカスした理由だ。
「最近でもノーコードサービスはどんどん出ていますが、Wixだったら自分のウェブサイトが簡単に作れます、BASEやShopifyだったらネットショップを簡単に立ち上げられますといったようにユースケースがわかりやすいものだけが使われ続けていると感じました。いろんなアプリを作れますよだとインパクトは大きく感じるかもしれないけれど、使う側がどんなアプリを作りたいかを明確に思い描けていなければ使ってもらえないのではないかと」
「そこでモバイルアプリ×ノーコードでユースケースを検討した時、既存のWebベースのノーコードサービスが浸透している領域をアプリ化するのが1番良いのではと考えました。結果として候補になったのがウェブサイトとネットショップの2つ。個人のウェブサイトをアプリ化するニーズは現時点で強くないと感じ、ネットショップに絞ることを決めたんです」(福田氏)
プラットフォーム化を進めるBASE
日本発のECサイト作成サービスはいくつか存在するが、もともと福田氏自身がBASE代表取締役CEOの鶴岡裕太氏らと親交があったこともありBASEと連携するに至ったとのこと。BASE側としてはAPIを活用して複数のサービス事業者と連携を進めていたことに加え、ショップをアプリ化する仕組みを取り入れることがショップオーナーの要望に応えることにも繋がると考えAppifyと手を組むことを決めたという。
「ショップオーナーさんは独自のブランドにこだわりを持っているため、他のショップの商品と一律に並ぶのを避けたいという価値観の方も一定数います。実際BASEでもショップをフォローする機能を持ったショッピングアプリ『BASE』を提供していますが、いわゆるショッピングモールのような形で1つのアプリとして用意しているのでこの機能自体をオフにしている方もいるんですね。自分だけのホームページを持つような感覚で、自分の商品だけが並ぶ独自アプリを作りたいというニーズは大きいと考えています」
「(マーケティングの観点でも)今まではSNSでフォローしてもらうぐらいでしかお客さんと継続的に関係値を作っていく手段がありませんでした。その一歩先の仕組みとしてアプリをインストールしてもらった人にクーポンや新着情報を積極的に届けていけるようになると、ショップオーナーさんにとってはロイヤルカスタマーを増やしていく有効な手段になると思います。BASEにとっても今回のサービス連携によってショップオーナーさんから選んでもらえる理由が1つ増えたと思っています」(BASE執行役員の神宮司誠仁氏)
D TechnologiesではまずはBASEのショップをアプリ化することに注力してAppifyの機能拡充などを進めていく計画だが、中長期的には「ソフトウェアの開発を効率化する」ことをテーマに新しいプロダクト作りにもチャレンジしていく方針だという。
「モバイル×ノーコードに限らず、今後も新しい技術が登場することによって様々なシーンでソフトウェアの開発工程が効率化されていくはずです。自分たちが目指しているのはそれをいち早く見つけてプロダクトに落とし込み、今まで複雑だったものを簡単にしていくこと。その1つが今回のノーコードアプリであり、今後もそれに続くようなプロダクトを開発していきたいと考えています」(福田氏)