
- 「現代版・物々交換」誕生のきっかけ
- マス向けのサービスを生み出す「奇跡」を起こしたい
- 「普通の人ではない」ことを受け入れる
- 狙い目は「既存のトッププレーヤー」がいる業界
- アート業界の構造はビジネスに応用できる
目の前のアイテムが一瞬で現金に変わるアプリ「CASH」や後払いできる旅行アプリ「TRAVEL Now」など、世間を驚かせるサービスを次々と生み出す起業家・光本勇介氏――。「CASH」リリース時には、24時間で3.6億円もの現金をばら撒き、あまりの反響にわずか16時間でサービスを停止した。また、5月に発売した著書『実験思考』は、書籍を原価(電子書籍は0円)で販売し、自由な金額を課金してもらう売り方で話題を呼び、課金の総額が1億円を突破。度肝を抜くサービスを生み出し続ける光本氏が描く、次のビジネスとはどんなものなのか。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
「現代版・物々交換」誕生のきっかけ
――手持ちのアイテムをスマホで撮影するだけで現金化できる「CASH」をリリースして話題をさらったのは2017年6月でした。最近はどんなことを手がけましたか。

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不要なアイテムをオンラインストアでの決済に使える“物々交換”の新サービス「モノ払い」を6月にリリースしました。2年前に話題になった「CASH」は、売りたいアイテムの写真を撮るとすぐに査定が行われ、アイテム発送前に現金化できる買い取りアプリです。この仕組みを、オンラインストアなどで商品を購入する際の決済手段として利用できるようにしたのが「モノ払い」です。不要となったアイテムを売って得たお金で、新しいアイテムを買うこれまでの売買から、「モノでモノを買う」ことができるようになります。
――サービス誕生の背景を教えてください。
実は「モノ払い」の仕組み自体は、「CASH」と同じなんです。切り口を変えて、全く違うサービスに見せています。「CASH」のビジネスモデルはシンプルで、全国の消費者から即時にモノを買い取り、手数料を乗せて二次流通(中古品市場)業界に渡すというものです。
二次流通業界が買い取れば買い取るほど、手数料で僕らももうかる仕組みなので、できる限り買い取ってもらいたいのが本音なのですが、出品者側よりも二次流通業界側の需要が大きく、もっと買い取りたいのにアイテムが不足している状態でした。
そこで、決済手段の選択肢のひとつとして「CASH」の仕組みが使えたら、もっとモノが買い取れるようになるのでは、と思いついたのが始まりです。
――今の時代に物々交換をするメリットは何ですか。
二次流通業界では、「モノ=お金」になります。例えば、お金がなくて新しい夏服を買えない人がいるとします。でも、去年の夏服は持ってますよね。物々交換ができれば、去年の夏服で今年の夏服が買えるんです。「お金を使わずにモノが買える」というのは、消費者にとっても便利なのではないでしょうか。
――「モノ払い」のサービスは拡大していきますか。
すでに、エボラブルアジアが運営する旅行予約サイト「エアトリ」や、セレクトショップの「ナノ・ユニバース」が導入しており、今後も広まると思います。古代からある売買の手段“物々交換”を現代版に生まれ変わらせることで、一周回ったブームがつくれたら面白いですね。
マス向けのサービスを生み出す「奇跡」を起こしたい
――奇抜なサービスをどんどん生み出していますが、行動の原動力は何ですか。
誰もが知っていて誰でも使える、マス向けのサービスをつくってみたい。これが一番のモチベーションです。
マス向けのサービスを生み出すことは、 “奇跡に近い”と思っています。例えば、「日本のマスのサービスを10個挙げてください」と言われて、すぐに浮かびますか?ヤフオク、メルカリ、食べログ、ぐるなび、クックパッド…多くの人が、これくらいで止まってしまいます。毎日たくさんのサービスが生まれているのに、たった10個も挙げられない。それだけ誰もが知っているサービスを生み出すのは、難しいことなんです。
――難しいけれど、挑戦したいのですか。
広告業界に「アレオレ詐欺」という言葉があります。大勢の人が携わったプロジェクトについて、「あれは俺がつくった」と自慢する男性を皮肉して例えたものなのですが、僕は胸を張って、「アレ、オレだぞ」と言いたいのかもしれません。インターネットを使えば、誰もが知っているサービスを本当に自分自身の手でつくれるかもしれない。
――「STORES.jp」をZOZOに、「CASH」をDMM.comに、それぞれ売却後MBO (マネジメント・バイアウト:経営陣による買収)しています。自身が生み出したサービスを育てていくことと新しいサービスをつくること、どちらに価値を見いだしますか。
マス向けのサービスをつくることがゴールですから、そのための近道となる選択をしているだけです。資金力のある企業の力を借りた方がマスに広がると思ったら売却しますし、独立した方がスピード感のある経営判断ができると思ったら独立します。
今、インスタグラムやユーチューブは皆が使うマス向けサービスですが、「インスタグラムが広まったのは7年前にフェイスブックが買収したからだ」とか「ユーチューブは13年前にグーグルが買収したから今の規模になったんだ」とか言う人は、誰もいませんよね。大事なのは広まった過程ではなく、サービスを生み出すことです。マス向けのサービス自体が一番偉いんです。
「普通の人ではない」ことを受け入れる
――サービスのアイデアはどのように生まれるのですか。
僕は、自分自身を普通の人だとは思っていません。普通とは違う感覚を持っていると受け入れた上で、マスの人たちにできるだけ近いところで物事を見るために、意識的に「普通の生活者」として過ごすようにしています。興味がなくても、はやっている曲を聴いたり、近所のスーパーマーケットに行ったり。逆に、そうしないとマス向けのサービスはつくれないと思っています。
――著書『実験思考』にある「誰もやったことがないことを試してみたい」という考え方は、いつから持っているんですか。

昔からあった気がしますが、だんだん強まってきました。これまでいろいろな実験をしてきましたが、自分が考えて立てた仮説通りになったことがほぼないからです。それなら、まず試してみて世の中がどうなるか見た方が、手っ取り早いことに気付きました。リスクを恐れてやらない人の方が多いけれど、実はすぐにやってみてしまうことで生まれるメリットの方が大きいと、起業して10年間、失敗を重ねて学びました。
――常に何か実験しているんですか。
常にたくさんの実験をしています。思いついたことをすぐに形にしてみて、実際にサービス化できるか考えます。その結果、今回のモノ払いのようにサービス化することもありますが、世の中に出さないものもたくさんあります。まずつくってみる“スピード感”が大事なんです。
狙い目は「既存のトッププレーヤー」がいる業界
――事業を成功させる秘訣は何だと思いますか。
今が成功しているとは思っていませんが、以前よりも多くの人に知ってもらえるサービスをつくれるようになってきました。失敗を繰り返した結果、ビジネスは「市場選択」と「タイミング」がすべてだと学んだからだと思います。極論、この2つだけカバーしていれば、うまくいきます。
――市場の選択は、どのように見極めるのですか。

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後払いで旅行ができるサービス「TRAVEL Now(トラベルナウ)」を例に挙げて説明します。「トラベルナウ」は、旅行に行きたいタイミングでお金がなく、これまでだと諦めざるを得ない場合に、代金は旅行から帰った後の支払いでOKにするという、お金の流れを少し変えただけの仕組みです。サービス内容的に、旅行者全員が使うようなマスの売り方には向いていないかもしれませんが、100人に1人の需要はあります。
とはいえ、旅行市場は約25兆円もある超大型マーケットです。100人中1人が使うレベルでも、2500億円の大きなビジネスになります。「市場規模=パワー」なのです。大きな市場で勝負すればするほど、ビッグビジネスへのチャンスになります。
――市場はどのように探していますか。

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新たなマーケットをゼロから見つけるよりは、市場規模のチャートを使って探しています。大きめの市場に狙いをつけて、その市場のトッププレーヤーが行っている現状のビジネスを観察し、改善点や非効率な点を見つけていきます。ユーザーに対して、今よりも良い価値を届けるにはどうしたらいいかを考えます。
――参入する業界にこだわりはありますか。
全くないです。どの業界にも興味があり、常にウオッチしている状態です。だいたい各業界に1~2個は「こんなビジネスができるのでは?」という自分なりのネタを持っています。実際にやるかどうかは、タイミング次第ですが。
――ビジネスは「市場選択」と「タイミング」がすべてだとすると、タイミングはどのようにつかんでいますか。
どんなに市場の選択が正しくても、タイミングが合わないとうまくいきません。僕の場合は、毎年テーマを定めています。2017年は「お金」、2018年は「旅」、2019年は「不動産」、2020年は「医療」というように、タイミングが重要だからこそ、あらかじめ1年間注目する市場を決めるんです。
テーマの決め方は感覚的な部分も大きいのですが、すでにトッププレーヤーのいる業界を狙うことが多いです。トッププレーヤーがいる業界は、数年間メインとなるビジネスモデルが変わっていないことが多い。そこで、今の消費者の価値観に合わせたサービスを出せば、構造がガラリと変わる可能性があるんです。トッププレーヤーが現状提供しているサービスを今風につくり変えるだけでも、もしかしたら変革が起こるかもしれません。どの業界も必ず、このような変革期は定期的にやってくるので、タイミングをじっと見定めるんです。
アート業界の構造はビジネスに応用できる
――今、注目している業界はありますか。
アート業界です。もちろんアート自体も好きなのですが、アート業界特有の仕組みや構造はとても面白いです。
数億円で絵画を購入してみたんです。「よくわからない絵に数億も払ったの?」と周りからは言われましたし、買う前は僕自身も同じように思っていたんですが、実際に買ってみて、価値の概念が180度変わりました。アートを買うことは“消費”ではないんですよね。数億円のモノを数億円の現金と交換しているだけで、僕の手元にはまだモノとして数億円の価値が残っている。しかも、絵の価値は今のところ日々上がっています。数億円を失わないどころか、むしろ値上がりしているモノを所有し、家に飾って楽しむこともできる。得しかしていないですよ。
アート業界の構造は、他の業界でも応用できると思っています。世の中の価値の主軸が、お金からお金以外のものに移り始めているんです。僕は、いずれお金自体には価値がなくなると思っています。
――今後計画しているビジネスがあれば教えてください。
当分は、既存事業に注力します。本当は、今年「不動産」のサービスをつくりたかったのですが、タイミングが重要なので。あれもこれも手を出して中途半端にならないよう、選択と集中をしています。
――バンクが目指す今後の展開を教えてください。
「CASH」には、20~50代まで幅広い年齢層で、約100万人のユーザーがいます。また、メルカリは現在8000万ダウンロードを超えているそうです。簡単に言えば、高齢者と子ども以外の大多数がダウンロードしていると言っても過言ではないほどのダウンロード数です。「モノを現金化したい」という需要がマスにあるからこそ、起きた結果だと思っています。「お金が欲しい」という需要は、世代や属性関係なく根源的にあるものなんです。
バンクは文字通り“お金”をテーマにしている会社です。世の中には、お金がなくて一歩踏み出せない、断念せざるを得ない状況が、多々起きていると思っています。それをできるだけ素早く簡単に解決するサービスをつくっていきたいです。
既存のサービスだけだとこの需要は埋められないので、新しいサービスをこれからもつくっていくことになると思います。