estieのメンバーら。写真中央が代表取締役CEOの平井瑛氏 すべての画像提供:estie
estieのメンバーら。写真中央が代表取締役CEOの平井瑛氏 すべての画像提供:estie
  • ウェブ上のオフィス賃貸物件情報を一箇所に集約
  • テクノロジーで“推定賃料”など「ウェブ上にない情報」を可視化
  • 三菱地所出身の創業者、目指すのは「不動産会社の業務効率化を支えるインフラ」

引越しの際などに賃貸物件を探す場合、最初に「SUUMO」や「LIFULL HOME’S」といった物件検索サービスを活用してウェブ上で気になる物件を調べる人が多いのではないだろうか。

主要なサイトであれば、首都圏はおろか地方都市までもそれなりの物件数を網羅しており、各部屋の間取りや賃料など必要な情報のほとんどが手に入る。

そんな個人向けの賃貸住宅市場に比べると、法人向けのオフィス賃貸市場はまだまだ不透明で課題が多い。様々な物件情報を集約したプラットフォームがないだけでなく、そもそも賃料などの情報がほとんどウェブ上で公開されていない。基本的に借主は不動産仲介会社のサイトを確認した上で、各社に条件を問い合わせる必要があった。

そのオフィス賃貸市場をテクノロジーとデータの活用によって変革しようとしているスタートアップがある。2018年創業のestie(エスティ)だ。

同社は7月14日にグロービス・キャピタル・パートナーズおよび既存投資家の東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)より約2.5億円の資金調達を実施したことを発表した。この資金を活用してオフィス賃貸市場のDXを加速させる計画だ。

ウェブ上のオフィス賃貸物件情報を一箇所に集約

不動産オフィス賃貸市場には大きく3つのプレイヤーがいる。物件を保有している「貸主(オーナー)」、オフィス物件を探している「借主(テナント)」、そして両者を結ぶ「仲介会社」だ。

estieではこのうち仲介会社とテナントの間における“オフィス探し”の課題を「estie」で、そして仲介会社とオーナーの間における“オフィス賃貸業務”にまつわる課題を「estie pro」で解決しようとしている。

estieのサービスイメージ 提供:estie
estieのサービスイメージ

前者のestieはSUUMOやLIFULL HOME’Sのオフィス版だと捉えるとイメージしやすい。これまで各不動産会社のサイトに散らばっていた物件情報を一箇所に集約。estieを見れば多様な物件情報を把握できる仕組みを作った。

テナント側のユーザーは希望の条件を登録しておくだけで、estieのレコメンドAIを通じて好みの物件が複数提案される。気になる物件を内覧候補に追加すると仲介会社のエージェントから詳細のオファーが届き、マッチングすれば個別のチャットで具体的なコミュケーションを進めていく。

オフィスは個人向けの住宅と比べて「何が自分にとっていい物件なのか」を判断しにくい側面もあるため、借主にとってはエージェントに相談しながら物件を選びたいというニーズがある。一方で従来のように個別で複数の不動産会社に問い合わせをすると、その後も興味のない営業電話やメッセージが届き、対応に悩まされるといった課題もあった。

そこでestieではマッチングしたエージェントとだけ会話ができる仕様を採用。テナント側のコミュニケーションについても負担を減らしつつ、精度の高い提案を受けられるように工夫した。

今年2月には借主が能動的に物件を検索できる機能も加えた。estie代表取締役CEOの平井瑛氏によると「それ以前はプロダクトの構造上、どうしてもエージェントから提案が届くまでに1日以上かかる場合もあった」そうで、スピードを優先する借主に新しい選択肢を提供したかたちだ。

現在、ITスタートアップを中心に約300社が借主としてユーザー登録をしている。エージェント側のユーザー数は非公開だが、すでに「大手オフィス仲介会社の過半数が利用している」(平井氏)という。

この業界はオーナーとの関係性や交渉力が募集条件にも影響を与えるため、大手の仲介会社が参画していることが1つのポイントになる。estieでは立ち上げ時からそこに力を入れてきたといい、借主は「ウェブには出ない物件」を教えてもらえたり、同じ物件でもより良い条件でオファーをもらえたりといったメリットを享受できる。

仲介会社にしてみれば、中小規模の企業にまで担当者が付きっきりでサポートするというのはコスト的にも難しい。ネット上でオフィスを探すという動きが少しずつ普及する中で、顧客接点を効果的に広げるツールとしてestieの利用が加速しているそうだ。

導入企業の増加や機能拡張もあって、estieへの流入数も昨年9月のサービスローンチから20年6月までの期間では平均すると月次で40%の成長を継続中。新型コロナウイルスの影響から一時的にユーザーの伸びが止まったタイミングはあったが、5月以降は縮小移転の問い合わせが増加したこともあり、estieだけでなくマーケット全体としても再び需要が増え始めている状況だという。

テクノロジーで“推定賃料”など「ウェブ上にない情報」を可視化

もう1つのプロダクトであるestie proは仲介会社とオーナーの業務効率化を支援するデータベースだ。

estie proでできること
「estie pro」でできること

最大の特徴はオフィス賃貸に必要となる様々なデータがまとまっていること。具体的には全国約7万棟・40万フロアの物件情報、日次で更新される約500万坪の募集情報、約24万件分の賃料情報、都心20万件の入居事業者などを掲載。導入企業は条件に該当する企業を抽出して一覧で確認できるほか、マップ上に表示することもできる。

マップでオフィスに関するさまざまな情報を閲覧できる「estie pro」
マップでオフィスに関するさまざまな情報を閲覧できる「estie pro」

estie proのポイントは「公知ではあるものの自分で網羅的に調べるのは膨大なリソースが必要な情報」に加えて「ウェブ上には一切出ていない情報」をカバーしている点だ。

たとえば不動産の所有者情報などは登記を見ればわかるが、手作業で逐一調べていくには時間がかかる。また「現在どのオフィスビルの、どの床が、いくらで募集に出されているか」といった生の情報は、検索エンジンで調べても分からないことが多い。

「仲介会社やデベロッパーの担当者は、従来このような情報を自身のネットワークを頼りにオフラインのコミュニケーションを通じて収集していました。定例会や食事の席を通じて『隣のビルに空室があるのか』『いくらで募集しているのか』といったことを地道にヒアリングしているんです。このやり方では時間と手間がかかるだけでなく、個人の関係性に依存するので、経験の浅い若手の営業マンなどはどんなに頑張っても集められない情報がありました」(平井氏)

こうした業界の構造を変えるためにestieがとったアプローチは、テクノロジーの活用と業界関係者とのパイプライン作りだ。同社では不動産デベロッパー、管理会社、仲介会社を始め50以上のパイプラインを構築し、データ連携などによって独自情報を集約。情報の提供元を伏せた状態でestie proの導入企業がそれらの情報にアクセスできるようにした。

またゼンリングループと連携して都心20万件のオフィス入居テナント情報を収集。不透明だった賃料については、パイプラインから収集したデータを提供するほか、過去データしかない物件に関しては独自アルゴリズムで“推定賃料”を割り出している。

estie proではオフィスの推定賃料なども割り出して表示する
estie proでは過去データなどをもとに推定賃料などを割り出して表示する

estie proを使うことで仲介会社の担当者は空室情報や貸主情報、入居テナントの情報を調べるための工数が圧倒的に減り、顧客への提案やコミュニケーションにより多くの時間を使えるようになる。不動産デベロッパーのセールス担当者は競合企業が展開するオフィスビルの情報を素早くリサーチすることで、自社ビルに合いそうな見込み客を見つけたり、募集条件を改善したりもできるだろう。

同サービスには業務を効率化する仕組みとして、複数の物件をグルーピングして社内で共有する機能や、抽出した物件リストに自社のロゴと連絡先を入れてPDF出力できる機能なども搭載。これらを月額制の基本料金とアカウント数ベースの従量課金モデルを組み合わせる形で提供している。

平井氏の話では大手不動産デベロッパー数社のほか、不動産ファンドや仲介会社などに導入が進んでいるとのこと。コロナの影響でオフラインでの情報交換が難しくなりデジタル化が加速したこともあって、7月のサブスクリプション収益は3月と比べて約9倍に増加したという。

三菱地所出身の創業者、目指すのは「不動産会社の業務効率化を支えるインフラ」

estie創業者の平井氏は東京大学から大手デベロッパーの三菱地所に入社したのちに起業をした。デジタル化が進んでおらず課題も多いオフィス賃貸市場の現状を変えることを目指し、大学時代の友人と立ち上げたのがこの会社だ。

同社には平井氏をはじめ不動産業界で働いた経験のあるメンバーだけでなく、NTTドコモ出身の機械学習エンジニア・宮野恵太氏(取締役CTO)などテクノロジーに精通したメンバーも複数人在籍。業界の知見とテクノロジーのバックグラウンドを掛け合わせ、事業を作ってきた。東京大学協創プラットフォームが運営する起業支援プログラムを経て、2019年3月には東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)から1.5億円の資金を調達している。

「これまでは基盤となるデータを集めるフェーズでしたが、ようやくほぼ全てのデータを取得できる体制が整いました。今後はそれを駆使してどうやって不動産会社における業務のDXをサポートしていけるかを追求していきます」(平井氏)

今回新たに調達した資金はそのための軍資金だ。7月中にはestie pro内で物件ごとの詳細レポートを閲覧できるアナリティクス機能を追加する計画。過去の成約水準や将来予測、オフィスビルの将来供給データなど新たな情報も提供していく予定だ。

「目指しているのは、事業者にとっての共通インフラとなるようなデータベースを作ること。estieを導入した方が成果が出る、業務が効率化されると思われるようなプロダクトを作りたいと考えていますし、全不動産会社がestieを導入して当たり前のようにデジタルで情報のやり取りをするような世界を実現したいです。まずは2021年中を目処に、パイプラインのさらなる拡充と都内の不動産事業者への導入に力を入れていきます」(平井氏)