
- “カーナビ”のようにユーザーの操作を正しい方向へ導く
- エンタープライズ中心に30社以上、9万人近くが活用
- システム担当者への問合せ件数“半減の”の事例も
- DX推進に向けての導入事例も増加中
- あらゆる人々がシステムを自在に使える仕組みへ
デジタルトランスフォーメーション(DX)というキーワードが急速に使われるようになってきたように、従来アナログな要素の多かった業界や企業においても業務のデジタル化が加速しようとしている。
ただ、どんなに“イケてる”システムを用意しても、現場のスタッフがそれを使いこなせなければ効果は薄い。特に従業員数の多い大企業では「どれだけのスタッフが導入したシステムを有効活用できるか」がDXを推進する上でのカギとなりそうだ。
2018年創業のテックタッチは、そんな“企業内におけるウェブシステムの利用定着・高度活用”をサポートするためのプロダクト「テックタッチ」を提供する。
2019年5月のベータ版ローンチ以降、大企業を中心に1年で35社へ導入(2020年4月時点)。中にはあいおいニッセイ同和損保のように全社導入が決まったような事例も出てきている。
7月10日にはDBJキャピタル、DNX Ventures、Archetype Venturesから新たに5億円を調達したことを発表し、さらなる機能拡充や事業拡大を見据えるテックタッチ。今回は代表取締役の井無田仲氏に事業の状況や今後の展望について聞いた。
“カーナビ”のようにユーザーの操作を正しい方向へ導く

テックタッチはウェブシステムの画面上にリアルタイムで操作ガイドを表示できるサービスだ。
たとえば経費精算システムの使い方で迷った場合、ガイドを開けば「どのボタンをどういった順番でクリックし、どの項目を埋めていけばいいのか」といったフローを実際の画面上で一つひとつ丁寧に教えてくれる。
従来こうした役割はマニュアルや研修が担うことが多かった。典型的なマニュアルはワードやエクセルに画面キャプチャとテキストによる解説を載せて作られたものだが、ユーザーはシステムとマニュアルを行ったり来たりしながら操作を進めることになるので使い勝手が良くない。
社内向けの研修については「いざシステムを使うとなった際に研修で聞いた内容を忘れてしまった」なんてこともありえる。
一方でテックタッチはそういった煩わしさや心配事とは無縁だ。マニュアルがユーザーの状況に合わせて「リアルタイム」で「画面上」に表示されるような仕組みなので、ユーザーは操作画面だけを見ながら表示されたガイドに沿って行動するだけでいい。
イメージとしては、初心者ドライバーにとってのカーナビのような存在だと捉えるとわかりやすいかもしれない。カーナビが道に迷わないようにドライバーを案内するかのごとく、テックタッチは慣れないシステムでもスムーズに使いこなせるようにユーザーを手助けする。
同サービスはSFAやCRM、ワークフロー系など幅広いシステムに対応。市販のサービスにガイドを加えることもできるし、自社で開発したシステムにも使える。クラウド型でもオンプレ型のものでも問題ない。

操作ガイドは資料を作る感覚で、画面上に直接吹き出しやポップアップを追加しながら作成していく。画面キャプチャを取ったり、貼り付けたりする作業もいらないのでマニュアルを作るよりも簡単だ。コーディングスキルなども不要なため担当者の負担も少なくて済む。
また単純なガイドだけでなく、入力項目によって次に表示される内容を変えたり、該当箇所にカーソルやマウスを重ねると注釈を表示したり、細かい設定も可能。「半角英数字のみ」など入力欄に制限を設けたい時に、間違った内容に対してアラートを出して入力エラーを防ぐ機能もある。
エンタープライズ中心に30社以上、9万人近くが活用
ベータ版ローンチから約1年、あいおいニッセイ同和損保のほか鹿島建設、三井不動産、セガ エンタテインメント、損保ジャパン、富士通、ブックオフ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、代々木ゼミナール、WOWOWなど幅広い業界で導入が進んでいる。
そのほとんどがエンタープライズ企業という特性もあり、利用ユーザー数も9万人近くまで増えた。
社員数の多いエンタープライズ企業では必然的にウェブシステムに接する人数も多い。当然ながらシステムに対する理解度や知識度も人によってバラバラだ。また様々な機能が盛り込まれている反面、慣れるまでは複雑でやっかいな「フルスクラッチで開発した自社システム」を使っている企業も少なくない。
有効活用できれば大きな価値を生み出すシステムを、いかに社内で使いこなしていくか——。それをサポートするのがテックタッチというわけだ。
「システムの利用定着やそのために必要な社内教育のプロセス全体に課題感を抱えている企業は少なくありません。マニュアルを一生懸命作っても、大変な割に読まれない。研修の機会を設けてもなかなか参加してもらえなかったり、いざシステムを使う際に忘れてしまっていたりもする。こういった問題をワンストップで解決できるのがテックタッチの特徴です」(井無田氏)
システム担当者への問合せ件数“半減の”の事例も
テックタッチを取り入れればマニュアル作成コストや研修などの教育コストの削減に加え、社員が自律的にシステムを使いこなせるようになるためシステム担当者への問い合わせ削減も見込める。
井無田氏によると、ある顧客が以前から稼働していたシステムにテックタッチを導入したところ「(システム担当者への)問い合わせの数が半分ほどに減った」という話もあるそうだ。
システムを使っているユーザー側の視点でも、画面上に操作ガイドが表示されるようになることでいちいちマニュアルを開かなくて良くなるほか、操作ミスや入力ミスの削減にも繋がる。
このような効果が顕著に現れるのが、企業で新たにシステムを導入する際に合わせてテックタッチを導入するパターンだ。新システム導入直後は社内向けのわかりやすいマニュアルが必要になるのはもちろんのこと、使い方がわからない社員から問い合わせが発生しやすいタイミングでもある。
「マニュアルを作るよりも簡単で、研修をやったりヘルプデスクを増やしたりといった負担も少なくて済みます。社員の利便性も上がるので会社としてもROIが最もわかりやすい。当初予想していた以上に企業からの反響が大きく、案件の半数近くがこのタイミングで導入に至っています」(井無田氏)
DX推進に向けての導入事例も増加中
その他の主要なユースケースとしては「DX推進の文脈」で導入される事例も少しずつ増えているという。
このパターンでは最先端のシステムや技術を活用しながら組織のデジタル化を進めようと思った際に、そのためのインフラとしてテックタッチが選ばれているとのこと。特に金融機関などが多く、全社ないし広範囲で一気に導入される例も出てきた。冒頭で触れたあいおいニッセイ同和損保のケースはまさにその一例だ。
テックタッチのビジネスモデルは社内で利用するユーザー数と、対象となるシステム数を軸にした月額定額制。大企業内でさまざまなシステムに活用されれば、同社の事業に与える影響も大きい。このユースケースは井無田氏が以前から狙っていたものだ。
また具体的な領域としてはコールセンターとも相性がいいと感じているそう。オペレーターが頻繁に入れ替わるため教育コストがネックになることに加え、「データ入力業務が多く、その際の入力ミスや後工程でのデータ整形作業の負担が大きい」(井無田氏)ことも課題になっている。
テックタッチであれば操作ガイドを通じて新人スタッフを手助けしつつ、入力フォームに入力制限を設けることで、入力ミス自体を防止することもできる。その機能に対する反応が良いこともあり、コールセンターは今後顧客を広げていきたい業界の1つだという。
あらゆる人々がシステムを自在に使える仕組みへ
テックタッチのアイデアは、井無田氏が以前コンシューマー向けのアプリを開発していた時の経験が影響している。
井無田氏はドイツ証券や新生銀行を経てユナイテッドに入社。スマートフォンのホーム画面をカスタマイズできる着せ替えアプリ「CocoPPa」を運営する米国子会社の代表なども務めた。当時を振り返った時に「もっとユーザーをプロダクト開発に活かせればよかった」という思いがあり、事業を立ち上げるにあたっては企業とユーザーの関係性構築を支援するようなサービスを模索した。
アイデアを検討する中で行き着いたのがテックタッチの原型だ。2018年にユニコーン企業となったWalkMeを始め、世界ではすでに複数社がウェブシステムの「利用定着支援」に取り組んでいることを知り強い関心を持った。
決定的だったのは、構想段階で大企業を中心に50社ほどの担当者にヒアリングをした際の反応だ。最初の10社にヒアリングをした時点で、システムの利用定着には大きなペイン(業務における課題)があることを実感。同時に、テックタッチのプロダクトに対する熱狂を感じた。また、単なるコスト削減や生産性向上だけでなく、これまでITを十分に使いこなせなかった企業や個人をエンパワーする事業にもなりえると手応えも得られたという。
「システムの作り手の考えや理想をすべてのユーザーに伝えることは難しい。時にはシステムとユーザーとの間にギャップができてしまうということを、過去の実体験からも感じました。テックタッチで実現したいのは、そのギャップを埋めて作り手の思いとユーザーを繋いでいくこと。それを通じて、あらゆる人々が思いのままにシステムを使いこなせる世界を作っていきたいと考えています」(井無田氏)
当面は大企業をメインターゲットに据えてプロダクトの機能拡充と顧客獲得に注力するが、ゆくゆくは顧客の幅や対象を広げる方針。たとえばシステム開発企業がチュートリアルのような位置付けでテックタッチを活用して顧客向けの操作ガイドを作成する事例もある。システムのユーザーとなる企業だけでなく、作り手側のグロースを支援する方向でも事業を拡大できるだろう。
また今回調達した資金も活用しながら別の取り組みに向けた準備も進める。井無田氏が次のステップとして掲げるのが「DXの定量化」だ。
社内で稼働しているシステムが「実際にどれくらい使われているのか」「あまり使われていないのであればどこに原因があるのか」といったデータを、導入企業の同意を得ながら解析する機能を開発する予定だという。
「利用状況がわかれば企業はROIを評価しやすくなるし、PDCAも回しやすくなる。たとえば上手く使いこなせていないシステムについてはテックタッチを活用した運用のサポートなども提案できます」
「事例やデータが蓄積されてくれば、どのツールが1番生産性向上に効いているのか、どんなガイドを作っておくと社内の利用率が上がるのかといった踏み込んだアドバイスも可能になるでしょう。将来的には業務プロセスを可視化する機能を入れた上で、人の判断や入力が必要ない工程を一部自動化できるような仕組みも実現したいと考えています」(井無田氏)