Graciaの経営陣。右から代表取締役/COOの中内 怜氏、代表取締役/CEOの斎藤拓泰氏、取締役/CTOの林 拓海氏
Graciaの経営陣。左から代表取締役/COOの中内 怜氏、代表取締役/CEOの斎藤拓泰氏、取締役/CTOの林 拓海氏 すべての画像提供:Gracia
  • 140種類のオプションに対応、ギフト特化のECスタートアップ
  • テレビCMも地方限定で開始、前年同月比で400%成長を達成
  • 強みは地道に開発を続けるギフトロジ
  • IoTデバイスや自動化で更なるロジの効率化目指す

誕生日や結婚記念日、クリスマス、お歳暮ーー。誰かにギフトを送りたいと思った時、どうやって商品を探すだろうか?

たとえば日用品ならAmazonや楽天などの総合モール、服ならZOZOTOWNといったようにインターネット上で多様な商品を購入できる仕組みが整いつつあるが、ギフト領域についてはこれといったサービスがまだ存在していない。少なくとも「TANP」を運営するGracia(グラシア)代表取締役CEOの斎藤拓泰氏はそのように考えて、2017年に同サービスを立ち上げた。

「ギフト市場での第一想起の獲得」を目標に、ギフト特化型ECとして展開されているTANPは年々規模を拡大。昨年のクリスマスには1日で2300件を超える商品を発送した。

そのGraciaが今後のTANPの鍵を握る「ギフトロジ(物流)」の強化に向けて投資を加速する。

同社は7月29日に複数の投資家から約11億円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回のラウンドでは既存投資家のグロービス・キャピタル・パートナーズやSMBCベンチャーキャピタル、ユナイテッド、エンジェル投資家の有安伸宏氏に加えて、新たにYJキャピタルから出資を受けた。Graciaにとっては昨年8月に発表した5億円の調達、約1年ぶりの資金調達となる。同社の累計調達額は約17億円。

集めた資金は物流体制の構築に用いる計画だ。以前から外部サービスなどを利用せず、物流関連のオペレーションや管理システムを内製して磨き上げてきたGracia。プロダクトの現状と今後の展望について斎藤氏に話を聞いた。

140種類のオプションに対応、ギフト特化のECスタートアップ

TANPの特徴は豊富な商品の選択肢と、ギフトに特化することで実現した加工(オプション)にある。取り扱う商品数はSKU(品番)基準で約1万2000点、ブランドの数も約800社まで増えた。

これらの商品を「誕生日」「結婚記念日」のようなシチュエーション、「彼女」「父親」などギフトを渡す相手、「THE BODY SHOP」「kailijumei」といったブランドといった軸で絞り込みながら、気に入ったものをオンライン上で選んでいく。

その際に欠かせないのがラッピングやメッセージカードなどの“ギフト加工”だ。

TANPではラッピング1つとっても、ギフト用の紙袋からオリジナルの限定ボックス、誕生日用のバルーン、ダンボール内の装飾など豊富なオプションが用意されている。ブーケやドライフラワーを同梱して華やかさをプラスすることもできるし、大事な相手の記念日には写真付きのメッセージカードを入れてもいい。

「TANP」ではラッピングやギフトカードもさまざまなオプションから選択できる
「TANP」ではラッピングやギフトカードもさまざまなオプションから選択できる

商品によって選べるオプションは変わるが、現在は全部で140種類ほど。クリスマスリースや父の日向けのオリジナルデザインメッセージカードなど季節ごとのオプションも拡充している。面白い取り組みとしては、ダンボールではなく「宝箱」に商品を入れて送れるオプションもある。

斎藤氏は取材の中で「ギフトECにおいてはコンテキストが大事になる」と強調する。もちろんギフトECでは最適なものを選べる仕組みも重要であり、TANPでもブランドと手を組み商品数を増やしているが、その一方でギフトならではの文脈に沿ったサポートがユーザーから選ばれる理由にもなりうる。

「世の中には『大事なギフトをECサイトで買うなんて』と思う人もまだまだいます。そんな時に『TANPなら名入れをしたり、写真付きのメッセージカードを作ったりできるから良い』と思ってもらえるような価値を実現したい。渡す相手やシーンを考えて花を添える、プレゼントに名前を掘るといったことができれば、お互いの話も広がるし思い出にもなります」(斎藤氏)

ギフトを段ボールではなく、「宝箱」で送れるオプションもある
ギフトを段ボールではなく、「宝箱」で送れるオプションもある

テレビCMも地方限定で開始、前年同月比で400%成長を達成

オプションは基本的に有料になるが、約8割のユーザーが何らかのオプションを追加しているそうだ。

「ギフト加工は間違いなくニーズがある一方で、総合ECサービスなどだとラッピングやメッセージ加工の選択肢が限られていることも多いです。またブランドも『ギフトとして商品を販売したい』という考えがあり、ギフトに特化して扱っていることや、オプションが多いことが選んでもらえる理由にもなっています。どちらの視点でもニーズと現状に歪みがある状態で、TANPではその歪みを解消してきました」(斎藤氏)

商品数やオプション数の拡大と並行して、今年1月にはiOSアプリをローンチ。地方でテレビCMを放映するなど、プロモーション施策も進めた。売り上げは非公開であるものの、2020年6月時点において前年同月対比で売上成長率約310%を達成。7月時点で1回あたりの平均決済単価は約7000円となっていて、こちらも昨年同月の約6000円から上がっている。

直近では新型コロナウイルスの感染対策として百貨店が営業を休止したことなども影響して、オンライン上でギフト販売を手がけたいブランドからの問い合わせも増えたという。

強みは地道に開発を続けるギフトロジ

表からは見えづらいものの、TANPの成長を根幹で支えているのが、地道に開発を続けてきたギフトロジだ。

近年は倉庫管理システム(WMS)やオペレーションを効率化する物流システムなどが充実してきているので、それら外部開発のシステムを活用してサービスを運営するEC事業者も多い。

一方でGraciaでは倉庫を自社で設け、在庫管理や発送管理、顧客管理などに関する各システムもフルスクラッチで開発している。一見遠回りにも思えるが、複雑なオペレーションを社内で管理できる仕組みを持っているからこそ細かいニーズにも応えられる。

「既存サービスの利用や3PL(サードパーティーロジスティクス:第三者のロジ会社)に委託することなども考えましたが、『ギフトECにおいて1番良い顧客体験を実現すること』を考えた結果、自社で作った方が長期的に質を担保しながらスケールできるという結論になりました。在庫登録から仕入れ、入庫、梱包、発送という一連のオペレーションの中で一部だけ他のツールを取り入れても、その工程が結局浮いてしまいます。上流から下流までサプライチェーン全体を一気通貫でコントロールすることができれば、それが大きな強みにもなります」

「実際にこれまでサービスを運営してきた中で物流こそがサービス価値の向上に繋がると同時に、成長のネックにもなると感じました。過去には繁忙期で需要が高まっているものの、物流面が追いついていないことで機会損失が発生したこともありました。(スタートアップにおいて)『自分たちでやらなくても良いことはやらない』という判断は大事ですが、僕たちにとって物流は自社の競合優位性の源泉でもあり、それを自らやらないと結果的に誰でも作れるサービスに落ち着いてしまうのではと考えています」(斎藤氏)

昨年8月の資金調達以降も物流部門の体制整備やシステムのアップデートを継続的に実施してきた。その成果もあり、1日あたりの最大発送可能件数は2300件を超えるほどに拡大。昨年8月時点では1200件という話だったので、約2倍まで広がった計算だ。

これらの商品に何らかのギフト加工が施された瞬間、たとえばギフトを送る相手の名前が入れらたタイミングで、その商品はSKUという概念を外れて固有のものになり管理の難易度も上がる。オプションを担保しながら発送のキャパシティを拡大することができたのも、物流周りのシステムやオペレーションを自社で作りこんでいるからこそだ。

とはいえ、今後1日に数万件、数十万件の商品を発送していくことを目指すのであれば「まだまだ改善できる余地は大きい」と斎藤氏は言う。今回調達した約11億円は物流システムを一層強くするための軍資金だ。

IoTデバイスや自動化で更なるロジの効率化目指す

斎藤氏によると、今後Graciaでは大きく3つの段階に分けてギフトロジのさらなる効率化・高度化を進めていく構想だ。

最初のステップは「基本的な物流管理の仕組みを自社で整えていく」こと。これは同社の今までの取り組みもまさにそうだが、在庫管理や倉庫管理、受発注などのオペレーションを一元管理できるシステムを整備することで、フレキシブルな顧客対応ができる土台を作る。

その次の段階では「倉庫IoTデバイス」などを取り入れながら在庫管理の効率化を目指す。一例をあげるとセンサーやタグを活用して梱包された商品を早く、正確に確認できる仕組みなどを考えているという。

「(名入れなどのオプションを選ぶユーザーも多いため)サービスをスケールさせていく上では誤発送を効率良く防ぐ仕組みがポイントになります。梱包して中身を見れない中で、その商品で間違いないのか。確認作業はかなり大変です。あらかじめ梱包前にタグを発行して伝票データと紐づけておき、後からそれをセンサーで読み取って確認できるような仕組みが作れれば、かなりの効率化に繋がると考えています」(斎藤氏)

3つ目のステップではさらに一歩進んで「物流の自動化」に着手する。もちろん全行程を自動化するのは難しいが、梱包作業の一部などを部分的に自動化することはできる。たたまれた状態の段ボール箱を開いて組み立ててくれる「ダンボール製函機」がすでに商品化されていることからも、技術的には決して不可能な話ではないだろう。斎藤氏は「ラッピングの自動化」を例に出しながら「人手を増やさずにより多くの商品を発送できるようになれば、物流コストを抑えてその分を顧客に還元することもできる」と話していた。

「『ギフト加工をいかにデジタル化できるか』がこれからの重要なテーマです。特に自分たちはギフト加工の中でも流通加工の部分に力を入れていきます。この領域はあまりデジタル化が進んでおらず、まだまだやれることも多い。自分たちが新しいやり方を発明して現状を変えていくことで、今まで実現できなかった価値を提供していきたいと考えています」