YOUTRUST代表取締役の岩崎由夏氏
YOUTRUST代表取締役の岩崎由夏氏
  • DeNA時代に気づいた人材業界の「歪な構造」
  • 3カ月悩んだ末、起業を決意
  • オンライン学習サービスを使い、独学でプログラミングを学ぶ
  • キャリアSNSヘ転換。アクティブ率は30%超に
  • 令和の女性のロールモデルになりたい

ヤフーやユニリーバ・ジャパン、そしてライオン──名だたる日本の大企業が「副業人材」の公募を開始するなど、副業の流れが加速している。コロナ禍による、リモートワークの普及も相まって、いよいよ本格的な“副業時代”が到来した、と言えそうだ。

そんな時代の流れを受け、右肩上がりで登録者を増やしているサービスが「YOUTRUST(ユートラスト)」だ。

同サービスは副業・転職意欲がリアルタイムで確認でき、副業・転職をしたい人と企業がつながれるキャリアSNS。

ユーザーは日々の出来事に加えて、副業・転職の意向を投稿できる。「友人の友人」までの副業・転職意向を知ることができるので、気軽な仕事の打診が可能だ。企業の採用担当者らは、その転職意向をもとに、仕事のオファーを出すこともできる。YOUTRUSTが実施した調査によれば、新型コロナウイルスの感染拡大前と比べ、4割以上の人が「副業意欲が向上した」と回答している。

また企業アカウントの売り上げも増加している。実数は非公開ながら、MRR(月額経常収益)は4月以降急増している。

YOUTRUSTのページビューとMRR(月額経常収益)の推移 提供:YOUTRUST
YOUTRUSTのページビューとMRR(月額経常収益)の推移。実数は非公開 提供:YOUTRUST

今から約2年前。“副業”が今ほど一般的ではなかった時代に、YOUTRUSTを立ち上げたのが創業者で代表取締役の岩崎由夏氏だ。2018年4月にサービスをリリースし、これまでに累計1億円以上の資金調達を実施するなど、着々と歩みを進めてきている岩崎氏だが、起業当時は「まさか自分が起業するとは思わなかった」と振り返る。

「私は人生において絶対に起業するタイプの人間ではないと思っていましたし、どっちかと言えば一生会社員で生きていくタイプの人間だと思ってたんですよね」(岩崎氏)

なぜ、岩崎氏は“起業家”としての人生を歩むことになったのだろうか。そして、どのようにして副業・転職のキャリアSNSという事業へ行き着いたのか。岩崎氏に話を聞いた。

DeNA時代に気づいた人材業界の「歪な構造」

遡ること8年前。ソーシャルゲーム全盛の2012年に、岩崎氏は新卒でディー・エヌ・エー(以下、DeNA)に入社した。大阪大学理学部卒業ながら、配属された部署は「人事部」だった。最初は新卒採用を担当していたものの、途中で中途採用に担当を変更。岩崎氏は「入社して1〜2年くらいはあまりにも仕事ができない人でした」と当時を振り返る。

入社当時、DeNAは“ソーシャルゲームの会社”というイメージが強かったが、2014年に同社は大きな動きに出る。住まいに特化したキュレーションメディア「iemo」を手がけるiemoと、女性向けファッションのキュレーションメディア「MERY」を運営するペロリの2社を計約50億円で買収。「DeNA Palette」の構想を発表するなど、キュレーションメディアのプラットフォームを次なる事業の柱として育てていく方針を打ち出していた。

そんな折、岩崎氏に子会社への出向の話が舞い込んでくる。当時の上司から「ペロリに出向して、採用を見てもらえないか?」と言われ、出向を決意。ペロリに出向した後は主に採用、経営企画を担当することになった。

だが出向して間もない2016年12月、医療・ヘルスケア情報のキュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」の制作体制や情報の信憑性が問題視されたことを契機に、DeNAが運営するすべてのキュレーションメディアを非公開化する、いわゆる「WELQ騒動」が起こる。この一連の騒動によって、岩崎氏は出向先から帰任することになるが、帰任後の仕事の内容が自分が想像していたものとは違っていたため、そのタイミングで転職を考え始めたという。

「それでお世話になっていた転職エージェントに登録し、いくつか転職先の候補を紹介してもらったのですが、エージェントフィー(紹介手数料)が高い企業しか紹介してもらえないんですよね。私は人事の経験があったから(転職エージェントが、紹介料の高い企業を紹介する傾向にあるということについて)気づけたのですが、普通の人たちは絶対に気づけません。この仕組みでハッピーなのは転職エージェントだけなので、もっと求職者の人生に寄り添う転職の仕組みを作らなければならない、と思ったんです」

3カ月悩んだ末、起業を決意

そんな考えが頭に浮かんだ岩崎氏は、中川綾太郎氏(ペロリ創業者、現newn代表)に相談を持ちかける。実際に話をしてみると、中川氏から「エージェントの仕組みを壊すか、エージェントより強いチャネルを作るか。選択肢はそのどちらかしかないよね」と言われ、結果的に自らエージェントより強いチャネルを作る選択をする。

「ただ、起業するかどうかは本当に悩みました。当時は株式会社が何かも知らないですし、資金調達の方法も知らない。当時、スタートアップが1億円の資金を調達するニュースを目にしていましたが、会社が失敗したら人生終わりだと思っていたくらいです。それで3カ月ほど悶々としている間にもう1度、(中川)綾太郎さんに相談に乗ってもらったら『僕が起業できたくらいだから、岩崎さんなら絶対できるよ』と言ってくれて。その言葉で起業を決めました。そのとき、綾太郎さんには『私が起業したら絶対に投資してくださいね』と言いましたけど(笑)」(岩崎氏)

とはいえ、岩崎氏は起業に必要な知識は一切身に付けていなかったため、中川氏から“起業とは何か”をゼロから教えてもらい、一通りの知識を身に付けた。また、独立系ベンチャーキャピタル(VC)「TLM General Partners」のジェネラルパートナー・木暮圭佑氏から資金調達の相談にも乗ってもらったという。

「もともと彼とは飲み友達だったのですが、VCだったことを思い出し、資金調達の相談に行ったんです。そうしたら彼はエクイティファイナンスを促さず、『まずは日本政策金融公庫に行って資金を調達した方がいい』と言うんです。その意見に素直に従い、最初は両親と日本政策金融公庫からお金を借りて、会社を立ち上げました」(岩崎氏)

オンライン学習サービスを使い、独学でプログラミングを学ぶ

転職系のサービスを開発したい──その思いは持っていたものの、開発を手伝ってくれるエンジニアは周りにいない。そこで岩崎氏はオンラインプログラミング学習サービス「Progate(プロゲート)」を使い、プログラミングを学ぶことにした。

「起業して、すぐに綾太郎さんから『エンジニアを採用する前に自分でコードを書けるようになった方がいい。僕だって書いてたから』と言われ、Progateを使ってプログラミングの基礎を学び、実際にサービスを開発したら、『それっぽいもの』はできました」

「それを過去に採用を手伝っていた会社に試してもらったら、ダメな部分が明確に分かりました。ただ、これ以上は私だけでは無理だと思い、Facebookの友達一覧ページを見て、『サービス開発を手伝ってほしい』と声をかけられるエンジニアに片っ端から声をかけて、最終的に即諾してくれたのが山田昌弘(取締役)だったんです」(岩崎氏)

岩崎氏が3カ月間かけて開発したサービスを山田氏に見せたところ、その1週間後には山田氏がコードを全て書き換えたものを見せてくれたという。それを見て、岩崎氏は「この人と一緒に事業をやりたいと思いました」と言い、山田氏を口説き始め、3カ月ほど副業で携わってくれた後、正式に取締役としてYOUTRUSTにジョインすることが決まった。

当初は「転職市場」を狙い、信頼している人だけに転職意欲を伝えられるようなサービスを開発しており、現在のように“副業”の要素は一切なかった。

「ただ、色んな人にサービスの話をしていると『副業でもいいからいい人いないですか?』や『副業したいのですが、いい会社ないですか?』と相談されることが多くあり、そこで『副業のニーズがあるんだ』と感じ、転職・副業のマッチングプラットフォームへとサービスをプチピボットすることにしたんです」

そして2018年4月に、副業・転職をしたい人と企業がつながるリファラル採用プラットフォーム「YOUTRUST」をリリースしたところ、1日で700人の登録者が殺到した。

しかし、採用する企業側を全く用意していなかったため、マッチングが成り立たず……。岩崎氏は「すごく焦って、知り合いの起業家に無料でもいいから使ってくれと頼んだのですがあまり使ってくれず、無料でばら撒くのは失敗だと学びました」と当時を振り返る。

キャリアSNSヘ転換。アクティブ率は30%超に

その後、ノンプロモーションながら、リリースから約半年でインターネット業界を中心に利用社数は120社を突破。さらには、TLMと中川氏から数千万円の資金調達を実施するなど、順調に成長曲線をを辿っていたYOUTRUSTだが、途中で大きな変更を下す。それがマッチングプラットフォームから、キャリアSNSへの方針転換だ。

リリースから1年ほどは「友人の友人まで」という信頼できるコミュニティの中で、副業・転職をしたい人と企業がつながるプラットフォームとして歩みを進めていたが、その後に「友人の友人」までの副業・転職意欲が見られるキャリアSNSというげんざいのかたちに落ち着いた。

友人の友人までの副業・転職意向をしることができる「YOUTRUST」のイメージ 提供:YOUTRUST
友人の友人までの副業・転職意向をしることができる「YOUTRUST」のイメージ 提供:YOUTRUST

サービス上に「タイムライン(時系列で友人の投稿が見られる欄)」を導入した結果、アクティブ率も向上した。採用媒体のアクティブ率は平均約3〜5%だが、YOUTRUSTのアクティブ率は30%を超える。

「一般的な転職・副業ののマッチングプラットフォームは転職意欲が高まったときに登録し、転職が決まったら使われなくなるのですが、YOUTRUSTはSNSなのでタイムラインがあり、『友だち申請が届きました』『友だちがタイムラインに投稿しました』という通知をフックに定期的にユーザーがログインしてくれます。それが今、大きな強みになっています」

リリースから約2年。2020年5月時点で登録ユーザー数は1万人を超え、採用目的でYOUTRUSTを活用する企業も累計200社を超えるほどの規模に成長。そのタイミングで、サービスのロゴデザインもリニューアルしている。

リリースから2年を迎え、刷新したロゴ(下) 提供:YOUTRUST

冒頭で触れたように、コロナ禍でも右肩上がりで成長しているという。なぜ、YOUTRUSTは独自の立ち位置を築けたのか。岩崎氏は人材業界の変遷を振り返りながら、こう語る。

「ビジネスSNSの『Wantedly(ウォンテッドリー)』がリリースされた2012年頃は、そもそも“求職者にスカウトが届く”という概念がなく、基本的には求職者がエントリーしにいく世界観が当たり前だった。それを『話を聞きに行ってみる』という形でライトにしたのがWantedlyの発明だったんです。その後、『ビズリーチ』が登場してスカウトが当たり前の世界になりました」

「スカウトが当たり前になった結果、今度は登録してすぐにテンプレート(定型)の長文スカウトメールが届くことに、多くの人がうんざりし始めているんです。それに対して、YOUTRUSTはあなたのことを知っている、もしくはあなたの噂を聞いている人から、仕事の依頼やオファーが来る形にしています。今はお金がだけが重要ではなく、近いコミュニティで自分が役に立ちそうな案件を何となく見たり、友達から声がかかったら喜んで話は聞いたりする時代なのかな、と思っています」(岩崎氏)

令和の女性のロールモデルになりたい

トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言したり、経団連の中西宏明会長が「終身雇用を見直す必要がある」と主張したり。さらには大企業が副業を解禁するなど、働き方は今後より一層、多様化していくだろう。

「これからは正社員か、業務委託か、アルバイトかという雇用ステータスをあまり気にしない時代になると思っています。プロジェクトが立ち上がり、そこに“信頼関係”をもとに人が集合し、プロジェクトが終わったら解散する。信頼関係で集合と解散を繰り返す世界になると想像しているので、そのためにYOUTRUSTはキャリアに寄り添えるSNSになりたいと思っています。転職を考えたときだけログインするのではなく、普段から“ゆるいつながり”を持っておくためのサービス。直近5年で『キャリアSNSといえば、YOUTRUST』というポジションを築けるようになっていたいですね」(岩崎氏)

また、無知の状態から始まった経営者としてのキャリアも、今年で3年目。今年は出産も経験した。ひとりの女性として、今後何を目指すのか。岩崎氏に聞くと、力強い目線でこう言葉が返ってきた。

「経営者として、とにかくイケてる人間になりたいと思っています。その理由は、令和の女性のロールモデルになりたいと思っているからです。やっぱり、スタートアップ界隈の男女比率を見ていても起業する女性が少ないですし、VCの女性も少ない。それはロールモデルが少なかったことが原因でもあると思うんですよね」

「今も“女性起業家”と呼ばれることもありますが、次の世代に対しては女性が起業することも普通だということを発信していかないといけないと思います。起業家と言われたときに、女性という単語が頭につかないような世界になって欲しいですし、私たちの子供の世代では女性が起業したり、VCになったりするのは当然という社会であって欲しい。そのためには私が子どもを産んで、女性としての人生を全うしつつ、会社も大成功している経営者にならないといけないので、それが今後の人生の目標ですね」(岩崎氏)