Luupが想像する電動マイクロモビリティが普及した将来の街のイメージ
  • ENEOS・大林組と目指す未来都市
  • シェアサイクルは設置ポート・自転車の台数拡大へ
  • 今秋には公道での電動キックボードの実証実験を予定

英国では“非三密”で社会的距離を確保できる移動手段として注目を浴び、合法化・解禁された電動キックボードのシェアリングサービス。ここ日本でも、スタートアップ企業Luupが「LUUP」の名称でサービス提供を目指して奮闘中だ。今は規制がネックとなり電動アシスト自転車を用いたシェアサイクルを展開しているが、緩和され次第、電動キックボードに置き換えていく。

現行法では電動キックボードは原付バイクとみなされ、公道を走行するには国土交通省が定める保安部品を取り付け、原動付自転車登録をし、免許証を携帯する必要がある。Luupでは安全・快適な電動キックボード・シェアを目指す上で規制緩和が不可欠だと考え、安全性を証明するために実証実験を重ねているところだ。

Luupは7月30日、既存株主でベンチャーキャピタルのANRI、そしてENEOSグループのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)であるENEOSイノベーションパートナーズ、総合建設会社の大林組から約4.5億円の資金調達を実施したことを発表した。

Luupは5月に提供開始したシェアサイクルを第1ステップ、電動キックボードの提供を第2ステップとしてサービスを展開するよう検討している。第3ステップでは「(高齢者を含む)より多くの人々の移動課題を解決できるような新しい電動マイクロモビリティ」の導入を目指している。

Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏はDIAMOND SIGNALの取材で「調達した資金をもとに、新しい電動マイクロモビリティを開発し、 ENEOSグループならびに大林組との将来的な協業に向けて取り組みを進めていきます」と説明した。

「ENEOSと大林組は(LUUPを)5〜10年後に街の交通インフラにするという視点を持っています。僕たちは交通インフラを目指しているただのベンチャーですが、同じ視点を持つ強力な協業パートナーと手を組むことができました」(岡井氏)

ENEOS・大林組と目指す未来都市

ENEOS・大林組とLuupの協業では、生活全般をスマート化した、いわゆるスマートシティの一部となる電動の交通インフラを目指し、中長期的な視野で連携する。5〜10年後の未来に向けインフラを構築していくには、今すぐにでも準備を開始する必要があるからだ。

岡井氏はENEOSとの協業に関して、「電動モビリティシェアのインフラと最適なエネルギー供給の体制構築を一緒に行い、みんなが自由に移動できる社会を2023年までに作る」ことが目標だと話す。

7月1日にはテスラの時価総額はトヨタ自動車を上回り、EV需要が大きいことを印象付けた。ENEOSが運営するガソリンスタンドの役割も変わり、将来的にはEVや多様な電動モビリティに対するエネルギー供給スポットとなっていくことは想像に難くない。

本記事のトップに掲載した画像は、Luup提供の「電動マイクロモビリティが普及した将来の街のイメージ」のイラストだが、このイラストの中でも、ガソリンスタンドのような施設には、自動運転EVが停車し、電動の自転車やキックボードが設置されている。

「まちづくり」の領域で建築・土木・開発の事業を行なっている大林組とは、スマートシティの実現に向け協業する。

新しく作られる各物件とのコラボレーションや、研究施設への導入も視野にあるが、岡井氏は「スマートシティを土台から作っていく上で一緒に協議する会社として選んでいただいた」と話す。

「どんどん安全になっている電動モビリティが2025年に走っていないわけがないという前提で、2025年、遅くとも2030年には必要となる、高齢者が人口の3分の1を占める時代の新しい街に必要な移動手段を、一緒に考えていきます」(岡井氏)

シェアサイクルは設置ポート・自転車の台数拡大へ

Luupは5月よりシェアサイクルサービスを提供している。自社開発した小型の電動アシスト自転車を約50台用意し、都内約50カ所に設置されたポートに配置した。ユーザーはアプリをダウンロードし、自転車のQRコードを読み込むことでロックを解除し、利用する。

提供エリアは、渋谷区、目黒区、港区、世田谷区、品川区、そして新宿区だ。提供エリアの拡大は「まだ先の話」(岡井氏)。利用者回数やアプリのダウンロード数などの情報は開示しなかったが、「供給が需要に全く追いついていない状態」だと岡井氏は言う。提供開始から約3カ月が経過した現在、ポート数は約100カ所となった。当面はポート数、そして設置自転車数を増やすことに注力する。

「ユーザーに満足していただける台数を早急に配置していきたいと考えています。電車から降りた人全員が『近場だから歩くか、もしくは少し遠いからLUUPを使うか』、と考えるようになるのがLuupの狙いです。そうなった際の規模感を考えると、街全体で数百台の自転車を置くべきだと考えます」(岡井氏)

今秋には公道での電動キックボードの実証実験を予定

ENEOSや大林組との協業が発表されたものの、Luupが第一に目指すのは電動キックボードの公道走行を可能にするための規制緩和だ。緩和へ向けた進捗状況について、岡井氏は、電動キックボード・シェアは日本政府からも英国と同様に「非三密で社会的距離を保てる移動手段」として評価されており、追い風を受けている状態だと話す。

6月に開催された自由民主党のMaaS議員連盟による「マイクロモビリティプロジェクトチーム」では、電動キックボードの普及に向けた規制の緩和などについての提言案が議論され、最終的には座長一任で取りまとめられることとなった。

提言案には以下のように書かれていた。

「日本では、電動キックボードが、道路交通法及び道路運送車両法において『原動機付自転車』と位置付けられるため、道路運送車両法に基づく保安基準を満たした上で、道路交通法上、運転免許証を携帯し、かつ、ヘルメットを着用する場合に限り、公道走行が認められることとなっており、また、走行箇所も車道に限定されている」

「こうした現行規制が新たな交通手段にそぐわないものとなり、電動キックボードのようなこれからのモビリティの普及を妨げているような場合は、安全性と利便性のバランスを十分考慮した上で、規制を緩和することが必要である」

提言では、2020年秋頃より電動キックボード事業者が自転車レーンを含めた公道で実証実験を実施できるよう、関係省庁に要望している。Luupを含む電動キックボードの各事業者は、政府の「新事業特例制度」を利用した実証実験が実施できることを期待している。場所・期間共に未定の状態だが、Luupでは公道での実証実験を行う際には既存のシェアサイクルサービスとは別軸で行うことを想定している。