• レバレッジをかければ大きく成長する
  • ユーザーの5人に1人が“配信者”
  • 配信のハードルを下げるアバター機能
  • 35億円、大型資金調達の勝算
  • アバターはオタク文化ではない

ゲームをプレイしながらリアルタイムにその様子を配信する「ゲーム実況」が人気だ。米国で先行する米Twitchは、2014年にAmazonが約1000億円で買収。中国の虎牙(Huya)は2018年にニューヨーク証券取引所に上場し、現在5000億円近い時価総額となっている。YouTubeでも、ゲーム実況は1つのジャンルとして確立している。この領域に日本から挑戦して急成長しているのが、スマートフォン向けゲーム実況アプリ「Mirrativ(ミラティブ)」を開発するミラティブだ。(ダイヤモンド・オンライン副編集長 岩本有平)

ミラティブ代表取締役の赤川隼一氏ミラティブ代表取締役の赤川隼一氏

 ミラティブはスマートフォンでゲームをプレイする様子を、音声とともにリアルタイムで実況配信できるアプリだ。もともとディー・エヌ・エー(DeNA)の新規事業として2015年8月にスタートしたが、2018年3月に、開発を指揮していた赤川隼一氏が実質的なMBOを実施。新会社ミラティブの代表取締役に就任して、開発・運営を継続している。

レバレッジをかければ大きく成長する

 赤川氏は2006年に新卒としてDeNAに入社。広告営業、PR、ゲームプラットフォームの「Mobage」、海外事業などを経験し、20代で執行役員になった人物。同氏がDeNAの新規事業として立ち上げたのがミラティブだ。

 サービス開始当初から、夜中までのリアルタイムのカスタマーサポート、遅延の改善など、地道な努力で徐々にユーザーを拡大してきた。だがサービス開始から2年が経過し、会社が求める早さでの成長が難しい状況になっていた。

「僕自身も経営メンバーだったので、当時の全社での新規事業への考え方として、『(成長が早いとは言えないミラティブのような事業への投資は)慎重にすべき』と理解していました。ですが同時に、事業責任者として『レバレッジをかければ大きく成長する』という思いもありました」

「ミラティブは、ゲーム実況の配信数と配信者数を成長の指標として追っていました。極論を言えば、実況を見る人は(広告で)集めることはできます。ですが、同じように配信者を集めるのは難しい。ですから、配信者さえ積み上げればサービスは成長すると思っていました」

 成長を確信したのは、ミラティブがiPhoneでの配信に対応したタイミングだ。ミラティブのすべての機能を利用したければ、スマホ画面の共有機能は必須だ。当時、Androidではその機能が利用できたが、iPhoneでは利用できなかった。

だが2017年に入ってiPhoneでも画面共有が可能になり、9月から配信機能に対応。これで配信者数が一気に伸びはじめた。覚悟を決めた赤川氏は自ら会社を立ち上げ、ベンチャーキャピタル(VC)のグロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーズベンチャーズ、ANRIのほか、個人投資家から10億円以上の資金を調達。その資金でミラティブの事業を譲受した。

ユーザーの5人に1人が“配信者”

 現在のミラティブの配信者数は月間100万人を超える。自社調べでは、国内最大の配信者数を誇る。配信者の比率は全ユーザーの20%ほどだ。5人に1人のユーザーが自らのゲームプレイを配信をする理由について、赤川氏は「『楽しい』という気持ちをユーザーが共有しているから」だと分析する。

ミラティブの配信者数ミラティブの配信者数

「いいか悪いかという話ではなく、(動画配信サービスの)SHOWROOMなどが立ち上がり、『配信は稼げる』という認識が広がりました。その結果、芸能人やアイドルなどが参入し、視聴者からギフトを受け取るという、ビジネスとしての配信が多くなっていきました」

「一方でミラティブのユーザーは『ただ楽しいから』と配信をします。たとえば遊園地に行ったとき、みんなで写真を撮ってそれをSNSにアップしますよね。『楽しいことがあったらソーシャルメディアで報告』という考えはゲームでも同じです。ガチャを回して、レアキャラが出たらTwitterにそのスクリーンショットをアップします。そういう人は、ミラティブでガチャを回すところを実況して、視聴者と気持ちを共有しています。よく『友達の家でドラクエやってる感じ』と説明するのですが、心理的な配信のしやすさを考えています」

配信のハードルを下げるアバター機能

 赤川氏が言う配信のしやすさに一役買っているのが、「エモモ」と呼ぶアバター機能だ。配信者は自らの顔を出すことなく、VTuber(バーチャルYouTuber)のようなアバターを操作して、視聴者とやりとりができる。この機能はベータ版を公開してからまだ半年ほどだが、すでに数十万人の配信者が利用している。

「現在のVTuberは約7000人と言われていますが、それよりはるかに多くの人がエモモを使っています。VTuberもいろいろなキャラクターがいますが、一般の人がただ話すだけではコンテンツとして成立しにくい。ですが好きなゲームをプレイして、実況するというのは、コンテンツとしても十分成立しています」

35億円、大型資金調達の勝算

 ミラティブは2月13日、JAFCO、グローバル・ブレイン、YJキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、ANRIを引受先とする合計31億円の第三者割当増資の実施を発表した。今回の資金調達ラウンドでは35億円までの調達を予定する。ミラティブは、今回調達した資金をもとに人材採用やマーケティングを強化していく。

 直近では、Gunosyの上場を支えた元取締役CFOの伊藤光茂氏やゲームポット創業者の植田修平氏を招聘(しょうへい)。植田氏は韓国事業責任者となり、ミラティブの韓国展開を進める。また2月からはテレビCMも開始し、大々的なマーケティングも行っている。

「たとえばメッセンジャーアプリの『Whatsapp』は40人で10億人以上のユーザーを抱えています。プロダクトアウトでミラティブを広げていきたい。エンジニア採用も積極的にやっていきます」

アバターはオタク文化ではない

 ミラティブのビジネスモデルは広告とユーザー課金の2つ。売上高は開示していないがいずれも好調だという。ゲーム会社とタイアップした広告や、視聴者が配信者にデジタルアイテムを贈るギフティング機能を提供している。

 配信者の割合が多いミラティブでは、配信者同士でお互いにギフティングを行いあうような文化もできつつある。既存の配信サービスのように「配信者が大きく稼げる」という打ち出し方はしないが、「将来的には、『配信を楽しんでいたら、誰でも毎月のお小遣いにはなる』くらいの還元の仕組みを整えたい」としている。

 すでに韓国での事業展開は進めているが、今後は中国や台湾をはじめとしてアジア圏から世界進出をねらう。

「中国のライブ配信サービスの動向を見ると、ゲーム配信以外のジャンルは頭打ちになっている状況です。スマホゲーム市場を見ても、『インスタ映え』ならぬ『配信映え』することは、成功の1つのカギになっています。『PUBG(PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS)』や『荒野行動』、『FORTNITE』といった人気タイトルはその例だと思います」

「エモモというアバターを『オタク文化の延長線上の機能』ととらえれば、ビジネスでの上限はあります。ですがそうではない。『ここではないどこかへ行って活躍したい』というユーザーの変身欲求の現れだと思っています。musical.ly、TikTokのようなユーザーがマネしたくなるサービス、SNOWのような『盛る』といった流行もアジア発です。チャンスがあると思っています」