写真前列左から:マネーフォワード代表取締役社長CEO 辻庸介氏、マネーフォワードベンチャーパートナーズ代表パートナー 古橋智史氏、同代表パートナー 金坂直哉氏
写真前列左から:マネーフォワード代表取締役社長CEO 辻庸介氏、マネーフォワードベンチャーパートナーズ代表パートナー 古橋智史氏、同代表パートナー 金坂直哉氏 すべての画像提供:マネーフォワード
  • 起業家の新たな可能性の扉を「開く」ファンド
  • LP出資者がファンドのコミュニティにも参加
  • 1000社超のIPOを支援したジャフコと業務提携
  • フィンテック、SaaSに限らずスタートアップを支援

マネーフォワードグループ傘下のマネーフォワードベンチャーパートナーズは、7月29日「HIRAC FUND(ヒラクファンド)」の設立を発表した。発表時点では、ファーストクローズで総額12.3億円を獲得済み。年内をめどに上限30.4億円のファンド組成を目指す。投資対象は、テクノロジーで社会課題解決を図る、シード・アーリーステージのスタートアップだ。

同日、ファンドからの第1弾出資として、シードステージのスタートアップ3社への出資決定も発表されている。

起業家の新たな可能性の扉を「開く」ファンド

マネーフォワードベンチャーパートナーズは、マネーフォワードの100%子会社として、5月25日に設立された。「BOXIL SaaS」などSaaSマーケティングプラットフォームを展開し、M&Aにより2019年11月にマネーフォワードグループにジョインしたスマートキャンプ創業者の古橋智史氏と、マネーフォワード取締役執行役員CFOで、ファイナンシャルアドバイザリーを中心に企業を支援するマネーフォワードシンカの代表も務める金坂直哉氏の2名が、代表パートナーを務める。またマネーフォワード代表取締役社長CEOの辻庸介氏が取締役に就き、3名でファンドの投資委員会を構成している。

ファンドの代表者ら
ファンドの代表者ら

「起業家の新たな可能性の扉を開く」との意味から命名されたHIRAC FUND。古橋氏はその強みを「起業家・スタートアップ経営経験者がファンドをリードしていること」「25名以上の起業家や経営陣がファンドにLP投資家として参画し、コミュニティを形成していること」「日本最大のVCであるジャフコと業務提携したこと」と説明する。

「マネーフォワードグループにジョインして1年弱、優秀な会社だということを見てきた。私自身も起業家としてスタートアップを経営してきている。グループの持つ知見と、起業家、経営者としての知見や経験を還元し、スタートアップ業界に貢献したいということで、起業家による起業家のためのファンド設立について年初に経営陣と話しました」(古橋氏)

LP出資者がファンドのコミュニティにも参加

ファンドに賛同し、LP出資を行う起業家・経営陣らは、HIRAC FUANDの起業家コミュニティ形成にも協力する。顔ぶれの一部が紹介されているが、メルカリ取締役President 会長の小泉文明氏、ラクスル代表取締役社長CEOの松本恭攝氏、BASE代表取締役CEOの鶴岡裕太氏、エンジェル投資家の有安伸宏氏や千葉道場ファンド代表パートナーの千葉功太郎氏などが並ぶ。

ファンドのLP出資者ら
ファンドのLP出資者ら

金坂氏は「日本のスタートアップコミュニティはこの5〜10年で大きくなってきていると思うが、アメリカなどに比べればまだまだ発展途上。我々は日本のスタートアップコミュニティが大きくなる一助として、力となればと思っています」と語る。

コミュニティには、上記LP出資者のほか、シード・アーリーステージの起業家やVC、スタートアップ人材などが参加。勉強会や合宿、ミートアップなどのイベントを起業家向けに定期的に開催していく予定だ。

コミュニティの活動内容
コミュニティの活動内容

「ほかにもLPとして参画していただいているアントレプレナーの方々から、アイデアをいただいています。どうすれば日本のDXはもっと進むのか、スタートアップにチャレンジする人を増やすにはどうすればいいのか。そういった議論の中から出てくるアイデアを、HIRAC FUNDを通じて形にして、日本のスタートアップエコシステムをより大きくしていけるよう挑戦していきたいと思います」(金坂氏)

1000社超のIPOを支援したジャフコと業務提携

HIRAC FUNDからスタートアップへの支援内容について、金坂氏は「スタートアップには、いろんなことが起こり、起業家はいろいろな悩みに直面する。スタートアップが成長する中で出てくる課題に対して、あらゆる点でソリューションを提供すべく、マネーフォワードグループから必要なメンバーを集めた」と話す。

HIRAC FUNDのチームには、マネーフォワードグループ内で人事、営業、広報、R&D領域の責任者を務めてきたメンバーが参画し、スタートアップをハンズオンで支援する体制が取られている。

ファンドでの支援内容
ファンドでの支援内容

またジャフコとの提携では、ジャフコからHIRAC FUNDへのLP出資のほか、ファンド運営に関するノウハウの提供、HIRAC FUNDとジャフコによる協調投資の検討、投資先支援リソースの相互提供や共同メニューの開発を行い、志高い起業家のサポートを行っていくという。

ジャフコは、マネーフォワード創業2年目の2013年、社員15人体制の時点で5億円のを出資を実施したVCだ。その後もIPOまで、資金だけでなく営業や事業提携、金融機関の紹介など、さまざまな形で支援してきた。今回、HIRAC FUNDのスタートアップへのノウハウ継承やコミュニティ構築の考え方に共感し、業務提携に至ったという。

ジャフコ ビジネスディベロップメント部の坂祐太郎氏は「日本のスタートアップ業界のエコシステムは成熟化してきた。資金供給だけでなく、投資先支援へとVCにも変化が求められる中で、HIRAC FUNDが行おうとしているのは意義のある活動。ジャフコ自身も1000社超の出資先をIPOまで支援した知見がある。そうした知見やノウハウをスタートアップ業界に還元することで、チャレンジする起業家やスタートアップを増やしたい」と述べている。

フィンテック、SaaSに限らずスタートアップを支援

ファンド設立発表と同時に出資先として発表されたのは、WRAY(レイ)、ワークサイド、TENTIAL(テンシャル)の3社だ。出資額はいずれも非公開だが、数千万円規模とのことだ。

WRAYは4月に創業したばかり。女性の体調変化に注目したヘルスケアD2Cブランドだ。第1弾として、PMS(月経前症候群)にアプローチするサプリメントなどを8月中旬から展開予定だ。

2018年9月創業のワークサイドは、オンボーディング(入社した人材の受け入れ・定着のための施策)を支援するプラットフォーム「Onn(オン)」を提供する。現在はクローズドベータ版の利用登録を受け付けているところだ。

TENTIALは、スポーツメディアを運営しながら、メディアを経由した購買情報などを元に商品開発を行い、D2Cブランドを展開する。第1弾として発売したインソールに加え、今後ラインアップを増やして、スポーツビジネスのブランドとしてグローバル展開を目指している。

HIRAC FUNDからの出資額は1社当たり3000万円〜1億円ほどを想定しているという。投資領域は特に絞らず、シード・アーリーステージのスタートアップ全般を対象とする。フィンテックやSaaSだけではなく、それ以外の領域、いわゆるDXが必要とされる伝統的な産業などにも積極的に投資していきたい、と古橋氏。「ヒト・モノ・カネの部分でマネーフォワードグループが培ってきたノウハウと、LPとして参加する投資家の協力も得ながら、起業家のグロースに寄与できれば」と語っている。