
- 食事とドリンクが入った「専用フードボックス」が自宅に届く
- 年間約8000件を提供するケータリング事業の知見を活用
- 2.1億円の資金調達を実施し、オン飲みBOXに積極投資へ
新型コロナウイルスの影響で多くの企業がリモートワークを取り入れたことに伴い、働き方や社内イベントのあり方も大きく変化した。「飲み会のオンライン化」も代表的な事例の1つと言えるだろう。
「Zoom飲み」が様々なメディアでも取り上げられ話題になったように、ビデオ会議システムを活用して各自が自宅からオンライン上の飲み会に参加するスタイルが急速に広がった。
8月3日にフードテック企業のノンピが開始した「オン飲みBOX」は、このオンライン飲み会の体験をさらに向上させることを狙ったものだ。
食事とドリンクが入った「専用フードボックス」が自宅に届く

オン飲みBOXは社内で開催するオンライン飲み会に合わせて、各社員の自宅(もしくは希望する住所)に食事とドリンクの入った専用のフードボックスを届ける。
中身はオンライン飲み会に最適化した「4種類のピンチョス」「9種類のおつまみ」「お茶漬け」に加えて、ビール・酎ハイ・ソフトドリンクなど自由に選べる飲み物が3本。そこにオンライン飲み会のマナーや盛り上がる方法を記載したオリジナル手引書も付いてくる。
基本となるフルボックスプランは1人あたり5000円(人数を限定して半額トライアルも実施しているとのこと)。カスタマイズを加えた上位プランやライトな価格帯のプランもある。
オン飲みBOXではノンピが法人向けのケータリング事業を約5年間運営してきた中で培ったノウハウを活用。菌検査やラベル貼りを始めとした一連の配送オペレーションを仕組み化した。これによって現時点では1日に最大400人まで対応できるという。
配送はヤマト運輸のクール便を用いて、飲み会当日か前日に各住所へ届ける。クール便が使えるエリアであれば都内などに限らずどこでも利用が可能だ。
使い方しては幹事担当者がサイトから申し込みを行う。すると送り先や配送希望時間を記入する参加者フォームが発行されるので、参加予定のメンバーへリンクを共有する。あとは各参加者がフォームに記入すればOKだ。
参加人数に応じた見積もり発注書が幹事宛に届くので、承認すれば申し込みが完了。開催日翌日に請求書が届く。

年間約8000件を提供するケータリング事業の知見を活用
アイデア自体がものすごく尖っている訳ではないようが、ノンピで取締役副社長を務める上形秀一郎氏は同社の資産を十分に活かせる事業だと話す。
「バックグラウンドがケータリング会社であることが特徴です。社内では『コミュニケーションフード』という表現をしていますが、ケータリングは基本的に人と会話をしながら食べる食事で(そのシーンに)合う合わないがある。オンライン飲み会も同様です。たとえば色々なパターンを検討する中でお弁当なども試してみたのですが、『箸を使ってがっつりご飯を食べる』タイプの食事はオンライン飲み会時には抵抗がある人もいました。自分たちはケータリングが土台にあるからこそ、会話を邪魔しない食事を提供できると考えています」(上形氏)
メニューを考えるにあたっては実際に社内でオンライン飲み会を繰り返しながら改善を重ねた。たとえばパソコンやスマホを手で触りながら食事をすることになるため、おつまみの定番である「枝豆」をメニューから除外した。一方でオンライン飲み会は終わるタイミングがわかりづらいという声をもとに「締めのお茶漬け」を加えた。
最終的には「美味しいのかどうか」も重要なポイントになるが、そこにも自信を持っているという。ノンピの総料理長は以前Googleの社員食堂で7年間に渡り総料理⾧を担っていた飯野直樹氏。ケータリングと同様、飯野氏がオンライン飲み会用のメニューもプロデュースしている。
「自分たち自身が試す中でも、食事が美味しい方が参加者のテンションが上がって飲み会が盛り上がるというのは体感しています。内容や味についてはこだわりました」(上形氏)

ケータリングサービスをさまざまな法人に提供してきた経験も大きい。ノンピでは官公庁から日系大手企業、外資系企業、スタートアップなど年間約8000件のケータリング提供実績がある。これまでも決済方法や請求書対応、スケジューリング変更といった細かいニーズに対応してきたため「そこの経験とナレッジがある」(上形氏)。また販路の観点でもすでに接点のある企業に対してオン飲みBOXを紹介できるのが利点だ。
上形氏は今回のオン飲みBOXは「オンライン飲み会の良さを残しつつ、そこにリアルな飲み会の特徴も取り入れられるようなサービス」だと言う。
オンラインならではの良さは三密を回避できることや情報漏洩リスク・ハラスメントリスクを軽減できること、自宅参加のため手軽なことなどが挙げられる。一方で食事が出来たてで美味しい、皆で同じものを食べる一体感がある、皆と話せて盛り上がる、幹事の集金や会計が楽といった点はオフラインのリアル飲み会に軍配が上がる。
オン飲みBOXではケータリングのノウハウをフル活用して出来立てでなくても美味しいものを食べられる仕組みを構築。400人までであれば同じものを食べられる体制を整え、幹事の負担が増えないように一括請求書・クレジットカード決済に対応する。
また同社ではZoomに搭載されている「ブレイクアウトルーム機能」(Zoomミーティングを最大で50の小部屋に分けられるような仕組み)の利用を推奨している。これを活用することで大人数のオンライン飲み会であっても、少人数のグループに分かれて全員がしゃべれる環境を十分に作れるという。
2.1億円の資金調達を実施し、オン飲みBOXに積極投資へ
ノンピはこれまで藤子・F・不二雄ミュージアム内の「ミュージアムカフェ」や埼玉スタジアム2002の「VIEW BOX」、三菱地所本社内カフェテリアの「SPARKLE」など8カ所のフードプロデュースを担当してきた。
並行して従来は赤字となっていた社員食堂の受託を運営。ランチタイムは通常の社食として運営しつつ、夕方以降の「社食の遊休資産」を使って完全内製のケータリング用メニューを作り、自社ECを通じて法人や個人に届けている。
従来は夜間のケータリングがメインだったが、昨年からは法人向けのランチケータリングにも着手。⾷事の配送から配膳、⽚付けまでを全てノンピ側が担い、企業の会議室などを「美味しい食事が食べられる臨時の社食スペース」へと変える体験づくりにも取り組む。
このように事業の大部分が法人向けで、なおかつオフィスへ提供するサービスのためコロナの影響は売り上げにも大きく響いた。先日プロデュースした社内カフェがオープンしたほか、今期も数社でオープンが確定しているなど需要がなくなった訳ではないが、今までと同じペースで拡大するのは難しい。
「コロナによるリモートワークなどの影響はしばらく続くと考えていますが、その一方で『オンライン飲み会』のような新しいニーズも生まれてきています。そこに対応した新たな仕組みを作る必要があると考えて、数ヶ月かけて急ピッチで準備を進めてきました」(上形氏)
外食産業全体は約25兆円規模の市場だと言われている。そのうちコロナの影響で縮小される部分については「オンライン飲み会の潜在市場とも捉えられる」というのが上形氏の見解だ。
社内でのテストに加えて、数社にオン飲みBOXを実験的に試してもらった限りでは反響も良いそう。今後はユーザーの反応を見ながらにはなるが、対応できる人数を増やすための生産設備の拡充やメニューの拡張なども検討する。
今回ノンピでは複数の個人投資家から2.1億円の資金調達を実施したことも明らかにしていて、既存事業だけでなくオン飲みBOXにも積極的に投資していく考えだ。
「リモートワークになると従業員が働きやすい環境を整えるためのオンボーディングやウェルビーイングをどのように進めていくのかも課題になります。食事のないZoomの会話だけだと、どうしてもビジネスライクになってしまいがちです。そこに食事があるだけでも雰囲気が和むと考えているので、オンボーディングやウェルビーイングの一助を担えるようなサービスにしていければと思っています」(上形氏)
※追記:2020年12月10日にはリリースから約4カ月の反響を取材した。同社によると1000社以上に活用され、120回利用するようなヘビーユーザーも生まれているそう。オンライン忘年会や新年会に対応した新プランの拡充にも力を入れているという。