株主と食べチョクメンバーら。中央手前がビビッドガーデン代表取締役CEOの秋元里奈氏 すべての画像提供:ビビッドガーデン
株主とビビッドガーデン代表取締役CEOの秋元里奈氏(中央手前) すべての画像提供:ビビッドガーデン
  • 総額6億円の資金調達で事業を加速
  • 90代の生産者も出品するオンラインマルシェ
  • 「プラットフォームだけどプラットフォームっぽくない」
  • ヤマトと連携、物流への投資で生産者の“出品体験”の向上を目指す

生産者と消費者を繋ぐ産直通販サイトの「食べチョク」が急拡大している。実数非公開ながら2月から5月までの3カ月間で流通総額が35倍に増加。登録ユーザー数も2月末から7月末までの半年間で13.8倍に伸びたほか、生産者数も2200軒を超えている。

飲食店が新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けたことに伴って、レストランやホテル向けに食品を卸していた生産者も苦境に立たされた。

食べチョクを運営するビビッドガーデン代表取締役CEOの秋元里奈氏によると「かなり良いものを作ってる方や、今まで販売開拓を頑張ってきた方ほど苦しい状況に陥ってしまっていた」とのこと。そういった生産者たちの“インフラ”として食べチョクが機能し、オンライン上でさまざまな消費者への販路を繋げた。

3月からは全商品を対象に送料500円を負担する取り組みを実施して双方のサポートをしていたため、流通総額はものすごい勢いで増えていたものの「赤字なので体力を削りながらやれるところまでやっていたのが実情」(秋元氏)だという。

ただこの1年で明確に成果が数字に現れてきたのは同社にとっても大きな変化だ。サイト全体のトラクションだけでなく、生産者の成功事例も増えている。水産物のカテゴリでは、月間の最高売上高が1479万円を記録した生産者が出た。野菜で671万円、果物で763万円、畜産物954万円と領域ごとにスター選手が生まれている。

総額6億円の資金調達で事業を加速

そんな食べチョクがさらなる進化を見据えて事業を加速させる。運営元のビビッドガーデンは8月4日、ジャフコ、マネックスベンチャーズ、VOYAGE VENTURES、デライト・ベンチャーズ、NOWを引受先とした第三者割当増資により総額6億円を調達したことを明らかにした。

ビビッドガーデンでは2018年2月に複数の個人投資家から4000万円、2019年10月にVCなどから2億円を調達済み。今回はそれに続くシリーズBラウンドという位置付けで、ジャフコ以外の4社は全て既存投資家だ。

調達した資金は主に人材採用とマーケティング、物流体制の強化に用いる。領域としては特に生産者のサポート体制をアップデートしていく計画。その取り組みの一環として、。9月をめどにヤマト運輸とシステム連携を開始予定だという。

90代の生産者も出品するオンラインマルシェ

野菜や果物をはじめ、さまざまな生産物が並ぶ「食べチョク」
野菜や果物をはじめ、さまざまな生産物が並ぶ「食べチョク」

ビビッドガーデンは2016年11月創業のスタートアップ。秋元氏は前職のDeNAでソーシャルゲームのマーケティングやチラシ情報アプリの事業開発などに携わった後、ビビッドガーデンを立ち上げた。

秋元氏の実家は以前から農業を営んでいたものの、市場出荷のみで経営を維持することが難しくなり、やがて遊休農地へ。他の農家にも話を聞く中で収益面や販路を始めとした生産者の課題を知ったことが、食べチョクを始めるきっかけになった。

通常の流通方法では多くの中間業者が存在するため生産者の粗利が少なくなる構造になっているほか、価格が一律で決まってしまいこだわりが反映されないという課題がある。食べチョクの場合は生産者自ら価格を決定することで、こだわりの食材を適正に販売できるのが特徴。同サービスが生産者と消費者を直接繋ぐため、手数料も明確で、膨れ上がる心配もない。

食べチョクのビジネスモデル
食べチョクのビジネスモデル

2017年8月のローンチ当初はオーガニック農作物の生産者と消費者をマッチングする比較的シンプルなマーケットプレイスだったが、この3年で商品の「幅」も「買い方(売り方)」もかなり拡張した。

昨年9月に肉と魚の取り扱いを開始。今では乳製品や加工品、お酒、調味料、花など約8000品が食べチョク上に並ぶ。

「後付けではなく、ゆくゆくは商品の幅を広げていく構想でした。最初に野菜を選んだのは購入頻度が高くて、お客さんとの接点を持ちやすい『良い商材』だからです。野菜で成功事例が出てきたので、この1年で多角化を進めながら1人のお客さんに少しでもたくさんの商品を買ってもらうことを目指してきました」(秋元氏)

各ユーザーの購入方法にもいくつかの選択肢を設けている。通常の単発購入に加えて、18年2月からはユーザーの好みに合わせて農家を提案する「食べチョクコンシェルジュ」を開始した。

選ぶ手間を省きつつ、個々に合った野菜セットを定期宅配するこのサービスはユーザーからも人気のサービスなのだそう。全体の登録ユーザー数が拡大しているのは冒頭で触れた通りだが、コンシェルジュ単体のユーザー数もこの半年間で13.1倍に増えているという。

友達と分けあえる「共同購入」の機能や、販売前に商品を取り置きできる「予約」機能なども新たに追加された仕組みだ。現在はストップしているものの飲食店と生産者を繋ぐ「食べチョクPro」も手がける。また7月にはiOSアプリをローンチしたほか、関東エリアにて初のテレビCMも実施した。

生産者向けの取り組みとしては8月から佐賀県と連携して、県内の生産者の販路拡大を支援する取り組みを開始。生産者側から要望の多かったという「ご近所出品」機能も先月リリースしたところだ。

「ご近所出品」のイメージ
「ご近所出品」のイメージ

この機能は複数の生産者がグループを作って1つの商品として出品できるというもの。面白いのはこれによってネットに不慣れな高齢の生産者も出品が可能になることだ。

実際に近所の生産者の助けを借りながら90歳の生産者がつくった食材が出品され、近々98歳の方も出品を始める予定があるのだそう。年齢に限らず「ユニークで美味しい食材を作っているけど、今まではネットで売ってこなかった生産者」が食べチョクに出品するきっかけになれば、ここでしか手に入らない食材などが増えていくかもしれない。

「サービスを運営する中で、高齢者の人が出品しづらい、C2Cだと売れにくい商材があるといったことも見えてきました。たとえば白菜などのように、箱で大量に送られてきても困ってしまうような野菜は、トマトや玉ねぎなどに比べると相性がよくない。そこでそういった人たちが協力しながら商品を作れる仕組みがあればいいのではと考えました。『隣のおじいちゃんがすごく美味しいみかんを作ってるから一緒に売りたい』といった声も寄せられてて、農家の方からのニーズが強い機能です」(秋元氏)

「プラットフォームだけどプラットフォームっぽくない」

生産者と消費者を直接繋ぐC2C型の産直マーケットプレイスは、アイデア自体は比較的思いつきそうなものの、ビジネスとしてしっかりスケールさせるのは簡単ではない領域だ。

食べチョク以外では「ポケットマルシェ」などが代表的なサービスとして知られるが、その一方でこの領域に参入したもののピボットや撤退を判断した企業も複数存在する。

秋元氏も今回のラウンドではトラクションが出ており、既存投資家からの追加投資が中心だったためスムーズに進んだというが、前回の調達時はかなり苦戦したそう。数カ月にわたって延べ80人の投資家と話をするも「この領域は圧倒的に難しいよね」と言われることが多く、出資が得られない期間も続いた。

「ビジネスとしてスケールさせるのが難しい領域ということは、サービスを運営する中でも実感していました。ただ同時に、間違いなくニーズがあることも感じていたし、逆にこの領域で突き抜けることができたら大きな可能性があることもわかっていたので。もちろん続けてこれたのは、そこに自分自身の原体験やこの事業にかける思いがあることも大きかったです」(秋元氏)

近しいプロダクトも存在する中で、食べチョクはトラクションを積み上げるためにどこに注力してきたのか。改めてその特徴を聞いてみたところ「プラットフォームではあるけれど、プラットフォームぽくないところが自分たちの特徴かもしれません」という言葉が返ってきた。

「場所だけを提供します、というよりは商品企画などにがっつり入って生産者の方と一緒に商品を作っています。たとえば食べチョク福袋という取り組みを今やっているのですが、これも自分たちから企画して、生産者の人に商品を作ってもらっているんです。生産者の方々はプロダクトアウトの発想に近くて、自ら作ったものをベースに考えることが多い。そこに自分たちがお客さんよりの視点も踏まえて『こういうニーズがあるから、こんな商品を作ってみませんか』と提案をして一緒に進めていくことで、より魅力的な商品を作りやすくなる部分もあると思っています」(秋元氏)


ヤマトと連携、物流への投資で生産者の“出品体験”の向上を目指す


今回調達した6億円は主に組織体制の拡充や広告宣伝費に投資する計画だが、中でも今後生産者側の体験向上により多くのリソースを投じていくという。

「今後自分たちにとって重要なのは、いかに早く独自の価値を築き上げることができるかということです。この市場に新たなプレイヤーが参入してくることも十分に考えられる中で、ビジネスモデルを真似されたとしても負けない、本質的な価値を高めていく必要があります。それがこのビジネスにおいては生産者になると思うんです。いかに生産者が出品しやすくなる環境を整えるか、全く経験のない生産者でも迷わず登録できてそこから成長していけるようになっているか。商品企画もその1つですが、それを後押しする仕組みを作ることに力を入れていく計画です」(秋元氏)

具体的な領域として秋元氏が挙げるのが物流だ。ビビッドガーデンでは「食べチョク物流構想」の第1弾として9月頃からヤマト運輸と連携を開始する方針。送料を抑えることができれば消費者にも大きなメリットがあるが、どちらかというとそれ以上に生産者の出品体験を変える意味合いの方が強いという。

物流関連ではこのほかにもいくつかの施策を準備しているが、これに加えて、生産者のノウハウを横展開する試みや、ご近所出品をはじめとする“地域巻き込み型”の施策通じて生産者をサポートしていく。

「ホームページやECサイトを作るハードルが下がってきているからこそ、自分たちだけでも売れるスキルを持っている人たちは(ネットショップ構築サービスの)『BASE』などを使って売れる時代です。もちろんそういった生産者の方々もサポートはしていきたいですが、単純にネットで売ることをサポートするというだけでなく、今までネットで売ってなかった人や売れなかった人たちをいかに巻き込んでいけるかが大事になると考えています」

「感覚的にはコロナの影響で1年ぐらい事業計画を前倒しにしながら進めてきました。ここからはある程度見えてきた勝ち筋を伸ばしながら、他のプレイヤーの追随を許さないようにもっとスピードを上げて取り組んでいきます」(秋元氏)

食べチョクのメンバーら
食べチョクのメンバーら