
- スタートアップの株主総会電子化をサポート
- 事前準備における「紙をなくしたい」に応える
- 株主総会の電子化をスタンダードにする
新型コロナウイルスの影響を受け「株主総会」にもデジタル化の波が押し寄せている。
総会そのものをオンラインでも配信し、遠隔地からも参加できるようにすることももちろんだが、事前の招集通知の発送や委任状の回収、開催後の情報管理など、デジタル化でさらに効率化できる業務もまだまだ多い。
8月6日にケップルが正式版をローンチした「株主総会クラウド」は、非上場企業が開催する株主総会の手続きをオンラインで完結させるプロダクトだ。特にスタートアップにおける招集通知の発送・委任状の回収を中心に、これまで紙を使って進められてきた業務をオンライン上で効率的に実施できる仕組みを作った。
ケップルでは同サービスのベータ版を6月1日に公開していたが、これまでに100社以上の登録があり、実務で使われたケースも生まれ始めている。ケップル代表取締役社長の神先孝裕氏によると、スタートアップにヒアリングを進める中でも良い感触を得られたため、新機能を加えた上で正式版の提供に踏み切ったという。
スタートアップの株主総会電子化をサポート
株主総会クラウドの主な機能は「招集通知の発送と委任状の回収を電子化すること」だ。

スタートアップを含む非上場企業の多くは、株主総会の招集通知を発送する際に紙で印刷して製本し、レターパックなどを利用して各株主に送付することが多い。神先氏の話では「メールに委任状を添付して送り、株主側が印刷して捺印する」というやり方をしている企業もあるそうだが、それでも企業・株主双方の手間は大きく、履歴管理の課題も残る。
これらの業務を全てクラウド上で実施できるようにするのが株主総会クラウドだ。
企業側は作成した招集通知をPDFでアップロードし、参加する株主や開催日時、開催場所といった基本的な情報を入力すれば準備は完了。ワンクリックで招集通知と委任状が株主にメールで一括送信される。
メールを受け取った株主は、参加方法や各議案事項の賛否をブラウザ上でクリックして回答していくだけ。回答内容は委任状として企業側に送信され、委任状の控えが株主側に送信される。回答状況や各議案への賛否はリアルタイムで更新されるため、企業側はその進捗をオンライン上でチェックできる。終了した株主総会の開催履歴についても、いつでも閲覧可能だ。
軸となる機能に加えて、今回の正式版では新たにいくつかの機能が追加された。特に大きいのが「(株主側が)PDFをアップロードすると委任状回答ができる機能」だという。
「ベータ版を使ってもらう中で、株主が事業会社の場合に委任状の捺印にも取締役会の承認が必要になるということが複数件ありました。つまりスタートアップ側から招集通知をオンラインで送るのは問題ないけれど、事業会社側では紙での捺印作業が発生するということです。そういった際にも招集通知の発送と委任状の回収が効率的にできるように、株主総会クラウド上にPDFをアップロードするだけで、委任状回答ができる仕組みを追加しました」(神先氏)
そのほかにも開催企業側が紙やPDFで委任状を受け取った場合に、自分たちで回答を代理入力して履歴管理ができる「回答代理入力機能」や、委任状の回答画面に遷移する際にパスワード入力を必須とする「パスワード機能」などを追加。株主向けの機能としては、参加した株主総会の履歴一覧と詳細へアクセスできる「株主マイページ」の提供を始めた。
利用料金は株主総会開催ごとに課金。株主1人につき980円で、15人を超える場合には1万4800円の基本料金が追加される。なお株主側は無料でサービスを利用できる。

事前準備における「紙をなくしたい」に応える
2カ月間ベータ版を運用する中で、神先氏が特にニーズが大きいと感じたのが「シリーズA以降のフェーズのスタートアップ」だ。
社員数はまだ少ないものの外部投資家の数が増えてくるタイミングで、招集通知の発送と委任状の回収にかかる負担やコストが一気に拡大する。通常業務にプラスしてこれらの業務をしなければいけないので、少人数で本業に集中したいスタートアップにおいては効率化が求められるところだ。
ケップルではベータ版公開中に約40社へヒアリングを実施したそうだが、株主が10人を超えた企業ではかなり反応が良かったそう。株主15人を超えた企業では明確にペインを抱えていて、「お金を払ってでもツールを使って効率化したいというニーズが強くなる」(神先氏)という。現在100社を超える登録企業も、この段階のスタートアップが中心だ。
「共通するニーズとしては、シンプルですが『紙をなくしたい』ということ。特にコロナの影響で在宅勤務にしているスタートアップも多く、書類の印刷や紙ベースのやり取りをなくしたいという声が多いです。クラウドサインなど、既存の電子契約ツールでもできないことはないのですが、それだと他の契約と混ざってしまって管理の部分に課題があります。実際に株主総会だけを別に分けたいということで導入に至ったユーザーもいます」(神先氏)
冒頭で触れた通り、株主総会のオンライン化を支援するプロダクトはここ数カ月で盛り上がってきている。
神先氏によるとまず「上場企業向け」と「非上場企業向け」の2つに分類でき、その上で「事前準備」「当日運営」「事後の情報管理」といった株主総会の商流ごとに機能が分かれる。既存のプロダクトは上場企業向けのものが多い一方で、非上場企業のペインを直接的に解決できるものはほとんど出ていないというのが神先氏の見解だ。
「今注目を集めているのは、来場してしまうと密になるので当日の運営をオンライン化するというもの。上場企業にとってはやはり当日運営の課題が特に大きいです。一方でスタートアップは前段階である招集通知の発送に悩みを抱えています。上場企業は発送代行をしてくれる企業がいるので、その業務を委託できるのですが、スタートアップは自分たちでやらざるを得ない。株主総会クラウドは上場企業向けの代行事業を、スタートアップに対してクラウド型のツールという形で提供するようなイメージです」(神先氏)
株主総会の電子化をスタンダードにする
ケップルではこれまでベンチャーキャピタルや事業会社など、投資家向けの非上場株管理ツール「FUNDBOARD」を主力サービスとして展開してきた。
かねてからスタートアップ向けのプロダクトを検討してきた中で、スタートアップのペインとなっていることを考えた結果、頭に浮かんだのが、周囲の起業家だけでなく神先氏自身も負担に感じていた「株主総会の招集業務」だったという。
「さまざまなものがオンライン化されていく中で、株主総会の招集は未だに紙が多いというのは自分自身も課題に感じたし、みんなも困っているのではないかと思いました。結局のところ、それに対応したツールが出てきていないことが大きいと考えたんです。法律では電子で良いと認められていても、あまり認知が進んでいないために、電子化することに不安があるという声も耳にします。株主総会クラウドを通じて『株主総会の招集も電子でやっていいんだ』という認知を広げることで、スタートアップや投資家の業務効率化に繋げていきたいです」(神先氏)
ゆくゆくはFUNDBOARDとの連携を進め、FUNDBOARDユーザーが同サービス上で株主総会クラウドの機能を使えるようにもしていく考え。また今後は資本政策ツールなど、スタートアップ向けのプロダクトも拡充させていく計画だという。