
- 5つのAIソリューションを順次提供
- 目指すのは“優しいAI”
- 日本語やアジア言語の精度でGAFAに優位性
- エンジニア以外でもAIを調整可能に
- パートナー企業も募集、スカパーJSATが名乗り
LINEが法人向けのAIソリューション事業「LINE BRAIN」を開始する。メッセージアプリの印象が強いながら、すでにAIアシスタント「Clova」などを通じてAI開発にも注力してきたLINE。GAFAという巨人が先行する領域で戦う武器は、日本語の認識精度の高さと、導入障壁の低さだという。(編集・ライター 野口直希)
5つのAIソリューションを順次提供
LINE BRAINは、LINEが法人向けに販売するAI技術の総称だ。現状ではチャットボット、音声認識、OCR(文字認識)、音声合成、画像認識の5つを展開すると発表している。同社は過去にはAIアシスタント「Clova」の開発や、アプリの画像認識機能にAIを導入してきた。これらで培った技術を外販するのがLINE BRAINだ。6月27日開催の自社イベント「LINE CONFERENCE 2019」で概要を発表したが、サービスの具体的な内容や販売時期は、7月23日に開かれた会見で明かされた。
LINE取締役CSMOの舛田淳氏は、発表にあたってAI分野への更なる注力を宣言。「これからAIが世界にもたらすインパクトは、インターネットやスマホの比ではありません。LINEはAIアシスタントの開発からデバイス設計、販売まで手がける日本で数少ない会社です。LINE BRAINを軸に、LINEはAIソリューションカンパニーへと進化します」と語る。
チャットボットはすでに販売可能で、OCRは2019年12月期の第3四半期、音声認識と音声合成は第4四半期中の販売を見込んでいる。2020年には全てのプロダクトが展開される予定だ。いずれもサービスの形態はSaaSとなる。最も安価なプランで、3ヵ月で100万円からとなる。
目指すのは“優しいAI”
LINEは6月の自社イベントで、音声認識とチャットボット、音声合成を組み合わせた飲食店向けの電話予約対応サービス「DUET」を発表している。今回の会見では、飲食店向け予約管理システム「ebica予約台帳」運営のエビソル、飲食店即時予約サービス「ビスポ!」運営のビスポとの提携を発表した。
DUETの開発を通じて、どうすればAIで飲食業界の課題を解決することができるのかを考えてきたという舛田氏。飲食店の電話予約受付に注目したのは、予約の変更、キャンセルという繁忙時間に多いやり取りを自動化することで、店員が目の前の接客に専念できるからだと説明する。
「『人々の働き先がなくなる』『支配される』など、AIの発展に悪いイメージを持つ人は少なくありません。しかし、LINE BRAINが目指すのは“優しいAI”です。店員がやりたいことに集中し、それ以外の仕事を引き受けることこそがAIの役割だと考えています」(舛田氏)
日本語やアジア言語の精度でGAFAに優位性
同じ音声AIによる予約サービスで先行するのがGoogleだ。同社が米国で提供する音声AIの電話予約代行サービス「Duplex」が2018年11月からサービスを開始して話題を呼んだ。これに限らず、AIのグローバル市場ではGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)の躍進が目立つ。
そんな巨人たちに対して、LINEは国内マーケットにフォーカスする。LINE BRAIN室室長の砂金信一郎氏は、「LINEは日本語の教師データを非常に集めやすいポジションにいます。日本語やアジア言語の精度をいち早く高めれば、GAFAに対しても優位性を獲得できるはず」と語った。具体的なデータの集め方については、今回の発表では触れられなかった。
また舛田氏はLINE BRAINの戦略について、何らかの分野でナンバーワンになる優れたプロダクトを開発すること、BtoBサービスであってもユーザー目線を忘れないこと、パートナー企業と協力していくことを挙げた。
エンジニア以外でもAIを調整可能に
LINE BRAINの大きな特徴は、導入後のメンテナンスを簡単に行える「ビルダー」と呼ばれるツールを用意する点にある。AIの継続的なチューニングは、導入企業にとっての大きな障壁になっていた。例えばチャットボットなら正しく受け答えできていなかった質問内容を調査し、新たな教師データを与えなければ、回答は正確にならない。
だがビルダーを使えば、複雑な操作なしにAIの挙動を確認したり、教師データを追加したりできるという。熟練のAIエンジニアでなくてもチューニングできるという触れ込みで、企業の導入障壁を下げるのが狙いだ。
それでは各プロダクトを概観しよう。チャットボットでは、一問一答式の受け答えをするFAQ機能と、質問の答えを絞り込むことで購入したい商品を選択させるシナリオ機能、飲食店の予約に対して来店時間や人数など、必要な情報を漏れなく入手するための質問を返すスロットフィリング機能を用意する。カスタマーサポートや自社内でのFAQへの使用を想定しており、LINEが実施した日本語での精度実験では、グローバル企業(具体名は非公開)のチャットボットよりも高い正答率を記録したという。

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OCRはレシートやPDFファイルの文字を認識するほか、あらかじめ書式を登録した請求書については、金額や取引先情報を認識した上でデータ化できる。将来的には手書き文字にも対応する予定だ。LINEが実施した日本語の認識精度をはかる実験では、Googleの画像解析API「Cloud Vision API」の認識精度が約10%だったのに対して、LINE BRAINは約70%の精度を記録した。
音声認識では、数分程度を想定したリアルタイム認識機能と、録音した音源などを文字化する一括認識機能を用意する。電話オペレーターの支援や議事録の文字起こし、動画メディアの字幕作成などに使うことができる。
音声合成は、キャラクターなどに自然な発声で言葉を喋らせる機能だ。会見では活用例として、ホログラムとして現れるバーチャルホームロボットを開発するGateboxのオリジナルキャラクター「逢妻ヒカリ」が、Clovaの天気予報に合わせて「傘を忘れないでくださいね」と呼びかける姿が披露された。

画像認識は、静止画や動画から特定の商品や人相などを判別する技術だ。メディアに登場する人物や商品へのタグ付け、防犯カメラによる不審者の発見などでの使用が想定されている。
パートナー企業も募集、スカパーJSATが名乗り
性能よりも、高い技術力を持つ人材がいない企業でもAIプロダクトを導入できる「敷居の低さ」と、GAFA以上の「日本語対応」を強く打ち出していたLINE。現在開発中のプロダクトも多く、実際の性能や操作感など明らかになっていない点も多いが、この2つの強みで国内企業の導入を狙う。
またLINEでは、これら5つのAIソリューションを利用したい「ユーザー企業」のほかに、協業を前提とした「パートナー企業」も募集している。すでに、スカパーJSATがAIアシスタント技術を活用した次世代型テレビ開発に取り組むことを発表している。