ファンファーレのメンバーと投資家陣。中央が代表取締役の近藤志人氏  画像提供:ファンファーレ
ファンファーレのメンバーと投資家陣。中央が代表取締役の近藤志人氏 すべての画像提供:ファンファーレ
  • 属人的で業務量が多く、精神的な負担も大きい配車係
  • 7時間かけて作っていた配車計画を3分で自動作成
  • 美大出身の起業家が産廃領域でプロダクトを立ち上げた理由
  • ゆくゆくは受発注のオンライン化や処理の効率化にも対応

多くの産業においては、事業活動を回していく上で程度の差はあれど「産業廃棄物」が生じる。こうした廃棄物を回収・処理する産廃事業者は、さまざまな産業を裏側で支えるインフラのような存在と言えるかもしれない。

現在この産廃業界は深刻な人手不足に悩まされている。もともと人気業界とは言えない上に、世代交代に伴いベテランの人材が減少。次から次へと新しい人材が入ってくるわけでもないため、既存のリソースを有効活用しながら「いかに効率良く事業を運営していくか」が業界における重要課題となりつつある。

2019年創業のファンファーレは、まさにこの課題に挑むスタートアップだ。9月にも産廃の収集運搬に特化した配車管理サービスを正式にローンチし、業界の省力化・効率化に取り組むという。

属人的で業務量が多く、精神的な負担も大きい配車係

ファンファーレが9月にローンチを予定している「配車頭」
ファンファーレが9月にローンチを予定している「配車頭」

ファンファーレが開発を進めている「配車頭(ハイシャガシラ)」ではテクノロジーを活用することで、属人的かつ手間の多かった配車計画の作成時間を100分の1以下に減らすことを目指している。

代表取締役の近藤志人氏が収集運搬業務の効率化を図る上でキーマンに挙げるのが、1日の配車計画を作る「配車係」と呼ばれるスタッフだ。配車計画の内容次第でドライバー1人あたりの生産性も変わるため非常に重要なポジションになるが、実はこの配車係の負担がかなり大きいという。

通常配車係は電話で注文を受け、前日のうちに配車表を完成させてドライバーに伝える。大枠としては車庫でドライバーと車をマッチングさせ、効率よく排出場と処分場を回れるように最低な組み合わせを考えるのだけれど、産廃の収集運搬では頭に入れておくべき「変数」が多いのがポイントだ。

産業廃棄物回収の流れ
産業廃棄物回収の流れ

具体例としてドライバーが60人所属する事業者の話を紹介したい。まず各ドライバーごとに保有している免許が異なり、それによって乗れる車種や行ける場所も違うことをしっかりと押さえておかなければならない。

コンテナと車種も複数種類があり、車種によっても載せれるコンテナ・載せれないコンテナが変わる。それらを考慮しながら約300カ所の排出場を誰が、どのような順番で回るかを決めていくのだが、300カ所の中にも作業種別が5パターンほどあるので、それぞれどのくらいの時間がかかるのかを見積もっておくことも必要だ。

最後は複数の処理場の中から品目にあった場所へ車を迎わせるようにルートを組む。1人のドライバーはだいたい4〜6往復するので、そのルートを60人分作っていくようなイメージだ。これを主に紙やホワイトボード、Excelなどを駆使しながら、手作業で作成する。

産廃の回収に関しては、考慮すべき変数が多いのが特徴
産廃の回収に関しては、考慮すべき変数が多いのが特徴。配車係はこれらを踏まえて、手作業で人数分のルートを作って行く

この例はある程度規模の大きい産廃事業者にはなるが、ファンファーレがターゲットにしている中規模の事業者であっても1日に100カ所ほどの排出場を回るのは珍しくないという。

これだけでも十分複雑なのに、さらに細かい事情が絡んでくることもある。たとえば中小規模の産廃事業者では日雇いのドライバーも多く、人によって「今月はしっかり稼ぎたい」などモチベーションが異なる。また作業所の中には特定のドライバーを出禁指定している場合もあり、配車係はこういった個別の要素も覚えておきながら毎日計画を組むのだそうだ。

前日に綿密に計画を作っても、当日イレギュラーが発生することも日常差万事。1日の作業時間の70%が当日の配車組み替えに使わることもある。

配車係の業務の様子。紙やホワイトボード、Excelとにらめっこしながら毎日配車計画を立てる

単純な業務量に加えて、配車係は「排出業者とドライバーの間で板挟みになる」が故に精神的な負担も大きい。結果として非常に退職率が高い一方で、新しい担当者を採用するのも難しい状態になっているという。

まずはその現状を変え、配車係が働きやすい環境を整備することがファンファーレの直近の目標だ。

7時間かけて作っていた配車計画を3分で自動作成

配車頭は乗務員情報やコンテナ情報、案件情報といった「配車データ」を入力すればアルゴリズムが瞬時に最適なルートを計算し、自動で配車表を作成する。近藤氏の話ではこれまで配車係が7時間かけて作っていたようなものが、3分ほどでできあがるという。

配車頭の画面イメージ
配車頭の画面イメージ。ドライバーごとに1日のルートが作成される

特徴は大きく3つ、「ユニック車のルート回収に対応していること」「産廃業界特有の配車要件に対応していること」「月額制で安価な料金からスタートできること」だ。

そもそも産廃事業者が保有する車には大きくユニック車とコンテナ車の2種類がある。ユニック車とは背中にカゴを何個か分けて積めるタイプで、8トントラックであれば2トンのカゴを4つ積めたりするそうだ。

このユニック車が配車システムを作る上では非常に厄介な存在になる。「どの順番でカゴを降ろすと効率良く回れるのか」といった要素を追加で考えなければならないため、技術的な難易度が高く既存の配車システムでもユニック車には対応できないものが多いのだという。

配車頭ではユニック車にもしっかり対応できるため、事業者から選ばれる1つの理由になりえるとのことだった。

車種の違いや出禁ドライバーなどの話だけでなく、産廃業界には特有の配車要件が少なくない。たとえば「コンテナ洗浄」はその代表例で、汚れた土や焼却灰を運んだ後には一度コンテナを洗浄する必要があり、ルートを組む際にも影響を与える。

そこで配車頭はコンテナ洗浄できる場所や洗浄時間も加味した上で最適なルートを計算できる仕組みを構築。細かい要件を1つ1つ丁寧に数式化することで「(コンテナ洗浄に限らず)人間が普段組むような、現場の実情を踏まえた配車表を自動で作成できる」(近藤氏)という。

ファンファーレではこれらの機能を月額5万円から使えるSaaSとして提供する方針だ。

近藤氏によると業界内ではSIerに依頼して配車システムを開発してもらうのが主流で、数千万円規模の開発コストと数ヶ月〜1年に及ぶ開発時間がかかることも多い。汎用的なパッケージも存在するが、初期費用が高く大手事業者を中心とした一部の企業のみがITを活用できている状況だ。

ファンファーレの初期のターゲットは従業員規模が10〜99名ほどの中小事業者。全体の50%近くを占めるという

数万円から利用できるSaaSにすることで、今まではITの恩恵を受けられなかった中小規模の事業者のデジタルシフトを支援するのがファンファーレの狙い。具体的には従業員規模が10〜99名ほどの企業を初期のターゲットに据えているという。

なお許認可を受けている約12万社のうち、アクティブに運営している事業者は約半数の6万社ほど。その50%弱が配車頭のターゲットになる中小事業者にあたり、3万社近くになる。ゆくゆくは大規模な事業者にもアプローチしていく方針だ。


美大出身の起業家が産廃領域でプロダクトを立ち上げた理由

ファンファーレ創業者の近藤氏は美術大学出身の起業家だ。専門領域のグラフィックデザインのスキルなどを活かし、学生時代から社会課題の解決に繋がるソーシャルビジネスに携わってきた。

当時は特に2つのビジネスに注力していたものの「1つ目はそもそも商品が売れず、2つ目は商品は売れたもののビジネスとしてなかなかスケールしませんでした」(近藤氏)。それまではデザインの力でなんとかなると思っていたが、この経験を機にビジネスを学ぶべく、デザイナー職の内定を辞退して新しい道に進むことを決めた。

近藤氏が最初に選んだのはスタートアップ支援や大手企業の新規事業開発のサポートに取り組むcreww。同社で経験を積んだ後にリクルートに転職し、全社の組織開発や大規模プロダクトのUX改善などに取り組んだ。

転機となったのは、リクルート時代に副業で「産廃大手の基幹システムの改善」を支援したこと。その際にIT化が遅れている業界で労働環境の面でも改善の余地があること、またITを活用することで解決できる課題がたくさんあることを実感したという。

業界全体が同じような課題を抱えているのかを調べるため、1年間に渡って全国の事業者をリサーチ。時には作業着を着てゴミ回収業務にも関わるなど、自身で現場を体験しながら業界の解像度を高めていった。

「もともと自分で事業を立ち上げようと考えていて、いくつかアイデアも試していたんです。その中でも廃棄物の問題は解決できれば社会的にものすごくインパクトが大きい上に、(ITを上手く活用することで)解決できそうな自信も持てたので、この課題解決にフルコミットすることを決めました」(近藤氏)

プロダクト開発においては、ITに慣れていないスタッフでも使いこなせるようにUIUXにこだわった。極力タイピングをしなくても済むように、プルダウン形式で入力が進む設計を採用。ドライバーへの気遣いなど、細かい配慮ができるようにAIが出力した配車計画を配車係が修正できる仕組みも作った。

配車アルゴリズムは、NECの研究所にて機械学習や数理最適化に関する理論研究と最適化を使った複数の新規事業開発に携わっていたCTOの矢部顕大氏が主導。ビジネス面でも産廃業界で16年に渡ってシステム導入のセールスをやってきたメンバーのサポートを受けながら体制づくりを進めている。

ゆくゆくは受発注のオンライン化や処理の効率化にも対応

従来の課題とそれに対するファンファーレのアプローチ
従来の課題とそれに対するファンファーレのアプローチ

今年9月に予定している正式ローンチに先立ち、ファンファーレでは3社に対して配車頭のPoC(実証実験)版を提供しながらプロダクトの検証を行ってきた。

ある事業者ではベテランから新人の配車担当に変わって配車効率が落ちていたところ、配車頭を用いることで慣れていないスタッフでも効率的な計画を作れるようになった。別の所ではAIによる配車計画をもとに業務を進められる環境が整ったことで、担当者の負担が減って退職の懸念がなくなった。同時に新たなスタッフの採用ハードルも下がり、経営基盤の安定化にも繋がったという。

配車計画の最適化によって機会損失の削減や受注数の拡大を実現した例もあるが、導入企業からは「人が辞めてしまうのをどうにかしたい」「今付き合いのある顧客にちゃんと価値提供をしたい」というニーズが特に強く、それに応えられるプロダクトとして良い反応を得られたそうだ。

ファンファーレでは正式版のローンチや事業拡大に向けて今後体制を強化していく計画で、今回Coral Capitalを引受先とする3000万円の資金調達を実施したことも明かしている。まずは配車計画の作成に特化してプロダクト開発を進めるが、ゆくゆくは「受発注のオンライン化」や収集運搬をした後の「処理業務の効率化」にも対応していく予定だ。

「産廃の収集運搬のデータを取れるということは、循環型社会を実現するための入り口になりうると考えています。持続可能な社会を作るため上で欠かせない、インパクトの大きい領域として、まずは産廃業界の省力化・効率化を推進できるような事業を作っていきます」(近藤氏)