
- 在宅情報を得ることで配達効率は88.9%向上
- コロナ禍で提供開始したスキマ便
- 調達した資金で既存サービスに有料機能を追加
- 物流自動化の時代に向けてデータを蓄積
宅配便の増加はコロナ禍の巣ごもり需要で加速度的に増加している。ヤマト運輸の発表によると、6月の取扱個数は約1億7000万個で、前年同月比で18.7%の増加となっている。
宅配便の取扱個数の増加で影響を受けるのは、荷物を届ける配達員だ。財務省が2018年10月に公表した「宅配・郵便業界における人手不足について」によると、取扱個数は大幅に増加しているものの、就業者は近年横ばいの動きをしており、「結果として配達ドライバー1人あたりの取扱数が急増している」という。
宅配便ドライバー、配達員の負荷が高まる物流業界。この業界をDX(デジタルトランスフォーメーション)し、配達業務の効率化を目指すのが、スタートアップの207(ニーマルナナ)だ。同社は物流のラストワンマイル(配達業者と荷物を受け取る消費者を結ぶ最後の区間)に特化したサービスを開発し、提供する。
207は8月24日、総額8000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。第三者割当増資の引受先は、環境エネルギー投資と、通販事業を手がけるベガコーポレーションだ。
207は2018年1月設立のスタートアップ。配達員向けの業務効率化アプリ「TODOCU(トドク)サポーター」と、荷物の受取人向けの配達通知アプリ「TODOCU」を展開する。5月からはコロナ禍で急増した飲食店のデリバリーのニーズに合わせて、ギグワーカーを活用したシェアリング型の配達サービス、「スキマ便」の提供も開始した。
在宅情報を得ることで配達効率は88.9%向上
実は都市圏外における配達員の多くは、物流業者のスタッフではなく、彼らと委託契約を結んだ個人事業主(個人配達員)だ。高柳氏によると、「業界の構造上、約7割(の配達員)が個人事業主」だという。
個人配達員の給料は届けた荷物の個数に応じた成果報酬となっていることがほとんど。そのため、受取人が不在で再配達が発生したとしても、時給は発生しない。これを解決するのが207のTODOCUだ。個人配達員と荷物の受取人それぞれに専用のアプリを提供することで再配達の発生を抑え、配達業務の効率化を図る。
配達員は各配達会社のサービスセンターで荷物を受け取り、TODOCUサポーターアプリで伝票を撮影する。データはすぐにOCRを介してデータ化され、アプリ内に配達先住所などが登録される。その後、配達員は受取人にアプリのプッシュ通知、またはSMSで配達時の在宅確認を依頼できる。
受取人はアプリを利用している場合、配達の通知が来たタイミングで「在宅中」、「不在中」、もしくは「置き配を依頼」の3つの選択肢から回答できる。「不在中」を選択した場合は、帰宅予定時間を入力して、受け取りのタイミングを指定できる。アプリで位置情報の利用を許可している場合には、「在宅中」か「不在中」かをアプリが自動で判定してくれる。
アプリを利用していなくても、在宅情報を回答することは可能だ。その場合、配達員はアプリへの通知ではなくSMSを送信する。受取人はSMSで送られてきたリンクから、回答を行う。

2019年9〜12月に実施した実証実験では、配達業者がTODOCUサポーターを活用し、東京都の品川区・大田区・目黒区で約3万件の配達を行った。結果として、40%の受取人から在宅に関する回答が得られ、再配達が減り、これまでのほぼ半分の時間(厳密には、配達効率が88.9%上昇)で配達が完了したという。
コロナ禍で提供開始したスキマ便
5月に提供開始したスキマ便は、配達業者、飲食店や小売店に、配達の足を提供するサービスだ。同社はスキマ便のサービスページや、空き時間を活用した単発バイトアプリの「タイミー」上で、数時間単位での勤務を希望するギグワーカーを募集し、「配達パートナー」として登用する。配達パートナーはTODOCUサポーターを活用し、効率的に業務を行える。

高柳氏によると、スキマ便はもともと、数年後の提供開始を目指していたサービスだった。だがコロナで物流がひっ迫していたため、開発を前倒しした。3月から実証実験を行い、5月に提供を開始した。
高柳氏いわく、スキマ便のユーザーの約半分は配達業者、残りの半分はネットスーパー、飲食店や小売店によるものだ。配達業者はスキマ便を利用し、不足している人員を確保できる。飲食店にはUber Eatsや出前館などデリバリーサービスを活用する手段があるが、手数料が高いというデメリットがある。スキマ便では顧客を自ら獲得できる飲食店に「配達の足」だけを提供することで、デリバリーサービスと比較して低い手数料でのサービス提供を実現しているという。
調達した資金で既存サービスに有料機能を追加
207では調達した資金をもとに、採用を強化し、各サービスの開発を進める。
個人配達員向けのTODOCUサポーターは現在無料で提供しているが、今後は有料機能を追加する。地図情報会社・ゼンリンが提供する「住宅地図」のデータを組み込むことで、マップ上に表示される建物に住む住民の苗字を表示できるようにする。
TODOCUサポーターは累計で約2000人の個人配達員が利用してきた。今後は個人配達員だけでなく、大手配達業者への導入も視野に入れる。
荷物の受取人はTODOCUアプリを使わなくてもSMSで在宅確認に対応できる。そのため利便性は低いのが現状だ。207では今後、TODOCUの顧客体験の向上に努める。
資金調達の引受先であるベガコーポレーションとは協業を進める。ベガコーポレーションは家具・インテリアの通信販売「LOWYA(ロウヤ)」を展開している。
高柳氏によると、家具の通信販売業者にとって、配達の非効率は大きな課題となっているという。家具の配達料が高額なのは、単に配達物が大きいからというだけではなく、再配達にかかるコストが大きいからだ。ベガコーポレーションとの協業では、207の持つ知見を活かし、配達オペレーションの最適化を目指す。
スキマ便は現在、渋谷区・目黒区など、東京都内を中心に展開している。調達した資金をもとに、今後は全国展開を目指して開発を進める。
物流自動化の時代に向けてデータを蓄積
現在は配達業務の効率化に専念している207だが、今後は配達業務で得たデータを用いたビジネスの展開も視野に入れる。個人配達員が多い配達業界では、配達ルートや、受取人の在宅時間などといったデータが属人的に管理されている。今後はTODOCUサポーターとTODOCUで蓄積したデータを活用して、更なるサービスの開発を目指す。
207では10年後、物流のラストワンマイルがロボットやドローンによって自動化されると予測している。物流が自動化される時代に向けて、各サービスの提供を通じて、必要なデータを用意している段階だ。
「物流のラストワンマイルは10年後、自動運転、ロボットやドローンによる配達が当たり前になってきます。ですが現状、データは整備されていません。僕たちが目指しているのは、物流をアップデートする際に必要なデータセットを用意することです」(高柳氏)